#アニラン2024 ノミネート『訳アリ心霊マンション』担当編集インタビュー|霊を説得し、家賃徴収!? 新感覚の”ハートフル”ホラーとは

更新:2024.4.11

Anime Japan主催の「アニメ化してほしいマンガランキング」。 一般応募であるノミネート作品の選定から、本投票が2024年2月1日(木)20:00よりスタートしています。第7回目となる今企画では、50作品のマンガ作品が選出されました。 本記事では、ノミネートした作品の担当編集者様へお話を伺い、作品の魅力・良さをたっぷりと語っていただきます。 第4回目にご紹介する作品は、「くらげバンチ」にて連載中の『訳アリ心霊マンション』です。

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『訳アリ心霊マンション』のあらすじはこちらから。

<作品 公式X><ネブクロ先生 公式X

著者
ネブクロ
出版日

【担当編集・担当ペンギン氏 プロフィール】

くらげバンチ編集部所属。

連載中の担当作は、『訳アリ心霊マンション』、『間違った子を魔法少女にしてしまった』、『推し殺す』、『蜜を追う』、『終活勇者』。


 

霊を説得し、家賃徴収!? 新感覚の”ハートフル”ホラーとは

―― 他の作品にはない、この作品の魅力を教えてください。

担当ペンギン氏(以下、担当ペンギン) 『訳アリ心霊マンション』(以下、『訳アリ』)はホラーマンガですが、ホラーが苦手な方でも読めるし、むしろホラーが苦手な方にこそ読んでほしいという思いがあります。

1巻発売時に書店員さんにもゲラ(見本本)を送ったのですが、ホラーとコメディが混在している内容に、どういうジャンルなのか一言で表しにくいという話がありました。

そんな中、ある書店員さんが「(この作品は)ハートフルホラー」だと仰っていて、それがすごくいいなと思ったんです。

ホラーマンガの作りは、キャラクターよりも、1話1話の怖い事件や霊に注視することも多いと思います。ですが『訳アリ』では、キャラクターの関係性の変化や成長も楽しめます。

ネブクロ先生は、もともと少年漫画志望だったことも影響しているのだと思いますが、ホラーの怖さだけでなく、キャラクター自体を好きになってもらえるのも(この作品の)魅力の1つです。

「ハートフルホラー」というジャンルが成立しているかは分からないのですが、言い得て妙だなと思いましたし、『訳アリ』の紹介にぴったりな言葉だと思います。

―― お化け・霊が苦手な方の中には、まだ手に取りづらい方もいらっしゃるかもしれません。そのような方々におすすめポイントをお伝えするとしたら、何がありますか?

担当ペンギン バトル漫画では霊や悪霊を戦って祓う、倒す話はよくあると思います。

それもホラーが苦手な人にとっては、1つの安心要素だと思うのですが、『訳アリ』は霊と対話し、説得する物語です。

人は、理不尽なもの、話の通じない人、自身の理解を超えてくる対象に対して、恐怖を抱くことがあると思うんです。その理解のできない対象を、祓ったり戦って消滅させると、その人の中では怖い存在のママです。

ですが、『訳アリ』の大家さんように対話をすれば、理解できなかった恐怖の対象が、理解できる存在に変化する。だから怖くなくなる。そこがすごく斬新なポイントで、ホラーが苦手な人でも読みやすいポイントだと思います。

―― キャラクターの魅力についてもお伺いしたいです。

担当ペンギン やはり主人公の大家さんは、この作品の軸だと思います。

ダイアグラム

自動的に生成された説明

人に対しても、霊に対しても、すごくフラットに対応する。ある種異常で、読者の皆様には超人のような存在に見えるのかなと思います。

霊の造形やデザインは、怖くて気持ち悪さを感じるデザインにこだわっています。その霊が、大家さんと出会うことで、親近感のある存在に変化する、切り替わる感じがすごく面白いし、作品の魅力につながっています。

それこそ「カミキリ様」というキャラクターがその良さ・魅力を1番体現してくれていますね。

ちょうど先日、最新話も公開されたのですが、もう完全に別キャラクターというか、可愛らしい造形になっていて、担当編集としても驚きました(笑)。

自分は最初、霊の怖さはある程度維持した方がいいのかなと思っていたんですが、ネブクロ先生は、大胆にキャラのデザインをアップデートしてくれる。めちゃくちゃ可愛く描いてくれるんです。

その振り切った感じが魅力に繋がっていて、どのキャラクターもネブクロ先生のフェチや好みがでていて、「このキャラ良いでしょ!」という強い思いが紙面からも非常に伝わってくる作品だと思います。

カミキリ様のほかには、女の子の恰好をする男の子・日下部スズというキャラクターがいるのですが、このキャラクターも良いキャラクターだなと……。

 

よくネブクロ先生が「読んだ人の性癖をねじ曲げたい」という話をしているのですが、その熱量はひしひしと感じますね(笑)。

―― 編集者からみたここを推したい!ポイント、シーンはありますか?

担当ペンギン ネブクロ先生は、こっそり仕掛けを作っておくことが多いです。

例えば、3話目の冒頭で3体の霊が出てくるシーンがあるのですが、実は(この霊は)連載前にXで公開していたエピソードに出てきた霊で、本編のエピソードには出てこないんです。

ゲスト出演というか、気づく人は気づく、という仕掛けですね。

 

こういう細かな仕掛けは、ネームの段階では描いていないことが多いので、自分も原稿が上がってきた時に「あ!いる!」って気づく感じで。

あとは同じく1巻で、しりとりをするシーンがあるのですが、しりとりの中に出てきたワードが、次の話のサブタイトルになっていたり。

 

「今回はこれをやってきたか!」という仕掛けを、担当編集としても毎回楽しみにしています。

―― 他の作家さんに比べて、プロットをしっかり立てられているイメージはありますか?

担当ペンギン 何巻目までにこういう話をやろうという話はしますが、仕掛けに関しては多分ノリなんじゃないかなという気はします(笑)。

はじめての連載で新人離れしているというか、余裕があるなとすごく感じます。

―― ネブクロ先生は初めての連載作ですが、話の構成力が非常に高く感じています。意識したアプローチ・手法があるのでしょうか?

担当ペンギン 『訳アリ』の話の流れは、怖い霊に出会って、絶対絶命の状況に陥ったところに大家さんが来て、人も霊も救われる、という構成が基本になっています。

この設計が強いため、逆に言うと同じことの繰り返しになったり、味に慣れてしまう懸念もあると思います。

なので、基本の型の話はしつつ、キャラクターの変化に焦点をあてたエピソードを入れたり、バトル漫画のような展開にしたり、隙あらば、基本の型を壊していくことは意識しています。

今は1話完結の話を読みたい方もいれば、ちょっと長めの話を読みたい方、あるいは怖くない日常の話を見たい方もいらっしゃると思います。

その辺りは、皆様の反応やバランスをみつつ、次はこうするか……という話はしますね。

―― 「話の流れを壊していく」ことについて、もう少し詳しく伺いたいです。

担当ペンギン 学生の時に『BLEACH』を読んでいて、尸魂界(ソウルソサエティ)編に入った瞬間、一気に世界が広がったように感じたんです。

尸魂界編の前では、主人公・黒崎一護が住む町の虚(ホロウ)を倒して身の回りでおきた事件を解決する、もう少し身近な話だったと思うんです。

その段階で十分面白いのに、その型を壊して死神の世界(尸魂界)に行く。あの瞬間に、自分の想像を超えて作品の世界観が大きく広がり、ワクワクしました。

『訳アリ』は「くらツイ漫画賞」(※現在は「くらポス漫画賞」)で大賞を受賞したこともあり、基本の型が面白いことに疑いはありませんでした。

だからこそ、その型におさまらない作品にしたいと思っています。今は“物語を壊すための土台作り”をしている面もあるかもしれません。

これからどのように話を広げ、壊すのか、挑戦を見守って頂けると嬉しいです。

――「くらツイ漫画賞」で受賞後、連載を開始する際に修正した部分はありますか?

担当ペンギン 基本の作りに関する修正はほぼほぼないですね。

元々ネブクロ先生の描かれる漫画が面白くてTwitterでフォローしていて、『訳アリ』の元となるエピソードが投稿されたときもすぐに声をかけたんです。

その段階で作品のフォーマットは完成していたので、ネブクロ先生に「この企画でくらツイ漫画賞用にマンガを作り、大賞を狙いましょう」とお伝えしました。

大家さんのキャラもほぼほぼ変わっていないと思います。

―― 原稿を受け取ったとき、思わず唸ってしまったシーンはありますか?

担当ペンギン やはり1話ですかね。

実は皆様にお届けしている1話目の形とは、全く違う1話目が幾つかあるんです。ストーリーは勿論、キャラクターのデザインも違ったり、いろんなパターンがあってどれがいいんだろうと悩みました。

今でもたまに「あの時間なんだったんですか?」とネブクロ先生には言われるんですが……(笑)。

『訳アリ』はどうしても、話のオチ的にコメディ要素が強いので、その分ホラー要素からは絶対に逃げないようにしましょうという話はしていました。

霊のデザインは勿論、ホラー漫画としてちゃんと怖いかに関しては連載が始まる前は特にこだわっていたと思います。

その流れで、カミキリ様の顔のアップがどんと出てくる今の1話目のネームが出てきたんです。

ページをめくった瞬間、怖くて気持ち悪くて鳥肌が立って……。それで「これで行こう!」と決まったので印象深いですね。

それが今や、『訳アリ』のキャラの中でも一番可愛いと言われるキャラになり、初期の頃に思っていた方向とは違う伸び方をしていて面白いです。

自分の中では“怖いカミキリ様”の印象が強いので、今の可愛いカミキリ様が出てくるシーンはギャップがあり、毎回唸っています。

―― もしもアニメ化をするとすれば、編集者の視点としてここだけは大事にしていきたいなど、作品の守りたい部分・ 芯になる部分には何がありますか?

担当ペンギン 『訳アリ』の面白さの根幹は、ホラーとしてもちゃんと怖い部分にあります。

恐怖がひっくり返る瞬間が面白いので、その緩急をゆるめたり、ホラーの部分をマイルドにしてしまうと、急に面白くなくなると思っています。

もしもアニメ化や、映像化のチャンスがあった場合には、ホラーの部分を見たくもないくらい怖くできるかどうか、というのが1番大事なんじゃないかなという気がします。

怖ければ怖いほどひっくり返したときの落差がでかくなると思うので、映像の表現の幅を活かした演出に期待しています。

――本作の先の展開を楽しみしてくださるファンの方も多いかと思います。今後話が展開していく中で、押さえてほしいポイントはありますか?

担当ペンギン 1話ずつ楽しんでいただくのも勿論ありがたいのですが、コミックスを買っていただくとより楽しめるのかなと思います。

先ほどの小さな仕掛けの話もありましたが、(既刊の中でも)その先の展開に対する“振り”みたいなものが、いくつか仕込まれているんです。

ただ本当にさりげないシーンだったりするので、皆さんに覚えていただいているかな……という担当編集としての不安が多少あり(笑)。

もちろん、購入していない方にも伝わるように発信できたらなと思っていますが、意外な展開があった時に読み返せたり、「こんな仕掛けが!」と楽しんでいただけると嬉しいです。

 

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