#アニラン2024 ノミネート『みなと商事コインランドリー』担当編集インタビュー|“ゆるきゅんBL”が織り成す、やわらかな世界観の魅力とは

更新:2024.4.11

Anime Japan主催の「アニメ化してほしいマンガランキング」。 一般応募であるノミネート作品の選定から、本投票が2024年2月1日(木)20:00よりスタートしています。第7回目となる今企画では、50作品のマンガ作品が選出されました。 本記事では、ノミネートした作品の担当編集者様へお話を伺い、作品の魅力・良さをたっぷりと語っていただきます。 第1回目にご紹介する作品は、「ジーンピクシブ」にて連載中の『みなと商事コインランドリー』です。

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『みなと商事コインランドリー』のあらすじはこちら

著者
["缶爪さわ", "椿 ゆず"]
出版日

【担当編集・あざらし氏 プロフィール】

2020年より月刊コミックジーン編集長を務める。

担当作は、『みなと商事コインランドリー』、『ガイコツ書店員 本田さん』、『恋するシロクマ』、『あかやあかしやあやかしの』など。


 

“ゆるきゅんBL”が織り成す、やわらかな世界観の魅力とは

―― 他の作品にはない、この作品の魅力を教えてください。

あざらし氏(以下、あざらし) 過去に「ゆるきゅんBL(ボーイズライフ)マンガ原作コンテスト」と題したコンテストを開催いたしました。

多数の応募をいただいた中で、椿ゆず先生の『Wash my heart!』が優秀賞を受賞され、コミカライズに至った経緯があります。

その際、私が手を上げて担当を立候補し、コミカライズさせていただいた……という形です。

このコンテストの目的としては、「ゆるっと楽しめる、BLだけれども性的描写をメインには据えない、でもラブはある」というジャンルを作ろうと思い、原作の募集をしたんです。

いただいた椿先生の作品(『Wash my heart!』)は、この作品ならではの雰囲気をすごく感じられるものでした。コミカライズを進めるにあたって、その雰囲気が読者にちゃんと伝わるような作家さんを探し、何度かお仕事をご一緒していた缶爪さわ先生にお声がけをさせていただきました。

無事にコミックスが発売し、人気を博すことができ、狙い通りに香月慎太郎(以下、シン)と湊晃(以下、湊さん)というキャラクターのあたたかい雰囲気を、読者の皆様に愛してもらえているのを感じます。

また、しっかり軸に据えた「ラブの攻防戦」も楽しんでいただけていると思いますね。

具体的に「ラブの攻防戦」というのは、アラサーのコインランドリー管理人を、10歳以上年下の男子高校生が押して押して押しまくる!というやりとりです。

この攻防戦をきちんと作品に盛りこみ、しっかりとしたラブコメディ作品にすることができました。

―― 編集者からみたここを推したい!ポイント、シーンはありますか?

あざらし 漫画担当の缶爪先生の描かれる絵で、とっても好きなポイントがあるのでお伝えしますね。

基本的にBLという作品は、受け役と攻め役というキャラクター設定があります。

攻めが「好き」という気持ちを受けに伝えるのが基本的なBLの様式なのですが、この作品では、攻め役のシンが押せ押せのときに、鷹の目をするんです。目の中の黒い点が細まるんですよ。

それがすごくかっこいいです。読者の中でも最初は高校生のシンを可愛いなと思って読んでいる人もいると思うんですが、いざ「攻め」になった際の、そのギャップにときめきを感じること間違いなしです。

また、受け役の湊さんは、いわゆるわかりやすい可愛い要素……、「童顔で目が大きい」などはないのですが、読んでいるうちに、とっても魅力的な表情だな、というのが出てきます。

缶爪先生がふとした時に描いてくださる、これぞ可愛い受け!という魅力的な表情が私は大好きです。

それは原作にも言えることで、椿先生は、20代後半という年齢の「かわいげ」をとてもうまく描かれています。私からすれば若者、10代からしたらおじさんとも思われる年代の湊さんを、より魅力的に感じさせている理由のひとつだと思います。

最初は読者の皆様も、シンの押せ押せのかっこよさに惹かれて作品を手に取ってくださる方が多いと思うんですが、最終的には湊さんのかわいさがたまらなくなるという方も多いです。

また、缶爪先生と椿先生と私は「年下攻め」という関係性の萌えが一致していますので、大変幸せな環境で、作品作りがうまくまわっている気がします。

―― 原稿を受け取ったとき、思わず唸ってしまったシーンはありますか?

あざらし 作品づくりの際に、まず椿先生からプロット(原作)をいただき、椿先生と私で意見交換しています。

そこで意図を確認したり、「ここは作画時に缶爪先生に考えていただけたら嬉しいなあ」みたいな話をしながら、缶爪先生に(プロットを)お渡ししています。

その後缶爪先生にネームを出していただくのですが、椿先生も私も想像しなかった絵が出る時は毎回感動しております。

例えば私は、1巻で「好きって言って、言ったら本当になるかもしれねぇから」というセリフが1ページまるごとで来るとは思っていなかったので、「ええ! すごい! なんて説得力のあるイケメンだろう!」と当時うち震えました。

缶爪先生もこのページをコミックス時に描き直しされているので、こだわりをもってくださったんだと思います。

また原作の椿先生は、「これからもどうぞごひいきに」の台詞で各話を締めてくださっています。

ご本人は、もうそろそろキツイと思っていらっしゃるかもしれませんが……、現在5巻まで刊行している中で、椿先生のストックがまだまだ枯れていないのに感動しています。

私は、主人公の湊さんのように、一見明るい人が実は深い感情があって……という、キャラクターの深さは、書く人の内面の深さと比例すると思っています。

椿先生の描かれるキャラクターの深さは(椿先生の)内面の深さのあらわれですし、それを受け取り、描かれる缶爪先生もまた、深くて広い内面世界をお持ちなのだと思います。

―― アニメ化に対する期待は?もしアニメ化をするとすれば、編集者の視点としてここだけは大事にしていきたいなど、作品の守りたい部分・ 芯になる部分には何がありますか?

あざらし 原作者である椿先生の書かれたノベルをはじめとして、テレビドラマ、ドラマCD、朗読劇とさまざまな展開をしていただきました。

すべてに共通して言えることは、椿先生の原作があり、そこにキャラクターの肉付けする缶爪先生のキャラクターデザインがあるということです。

もし大変ありがたいことにアニメ化していただけるとしても、そのふたつを大切にしてくださっていたら、世界観が崩れることはおいそれとないと思っています。

ドラマCDを2枚出していただいているので、声優さんが同じであるといいなという妄想もしております。

そして、椿先生、缶爪先生ともに「『みなと商事コインランドリー』はラブコメである」ということを大切に制作してきました。

連載をはじめるにあたり、おふたりには「この作品は“ゆるきゅんラブBL”です」というテーマ軸をしっかりと共有した上で、「コメディ・エロ・シリアスを7:2:1で入れましょう」とお話してきました。

原作ものつきのマンガでよくあるのですが、ずっとキャラクターが喋っていたり、小説の文がそのままモノローグに出てしまうということがありがちなんですね。

そこは担当編集として、「ここは絵で見せられるからカットしましょう」「しゃべっている絵が続くので、もう少しエピソードで見せませんか?」とご相談しながら進めていくことが多いです。

椿先生の原作でおもしろい点は何よりもキャラクター、そしてキャラクターのかけあいです。

物語のいわゆる「ストーリー」が先行して、単調になりそうな際は、「キャラクターのかけあいの台詞のコメディを入れませんか?」とお願いしています。

そこできちんと、オチやツッコミもつけて話を落とすことができるのが椿先生の神業です。

もしアニメになった際は、その点をうまく表現してもらえたら、嬉しい限り……と夢を見ております。

著者
["缶爪さわ", "椿 ゆず"]
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