面白そうな本を探すなら・・・? “ブックガイド本”5選

更新:2021.12.12

皆さんは「これは面白そうだな」、「これは読んでみたい」という本にどのように出合っているだろうか。 書店でたまたま見つけることもあれば、友人の紹介、新聞の書評、SNSなどさまざまなケースがあるだろう。かくいうこのサイトもそういう趣旨で運営されている。 ご存じかもしれないが、読書家や大学教授が推薦する本や書評をまとめた “ブックガイド本”という本が数多くある。そこで今回は、面白そうな本を探すときに役に立つ、そしてホンシェルジュの原稿を書くときにも参考になる? 本を5冊紹介する。

ブックカルテ リンク

HONZ主宰が選ぶ100冊のノンフィクション

ホンシェルジュのように、あるひとつのお題の元に何冊かの本をまとめる際、どのようにしてテーマを選び、本を選んでいるのだろうか。

おそらく、そのパターンは、(1)紹介したい本ありきの場合と、(2)テーマを先に設定してそこにあう本を選ぶ場合、そして(3)その融合、だろう。

かくいう自分の場合は、どちらかというとテーマありき(2)で考えているのだが、テーマを決める際には「この本紹介したいな」という思いつきや、「この本とこの本を一緒に紹介したら面白い切り口になるんじゃないか」など、"文脈棚"もどきのことを書店や自分の本棚を見ながら妄想している。

このとき、一つだけ言えるのは、テーマの立て方が肝だということだろう。いくら面白い本を紹介してもテーマ設定が上手くないと読者に伝わる魅力は半減してしまう。これは、雑誌の企画の切り口と同じなのだろうと思う。 さて、テーマを立てる際と、立てたテーマのもとでどうやって本の紹介をまとめ、整えていくかという点で自分が参考にしたのが、最初に紹介する2冊だ。

 

著者
成毛 眞
出版日
2013-01-23

1冊目の『面白い本』は書評サイトHONZを主宰する成毛眞氏が厳選して選んだ「自称、究極のブックガイド」。歴史、生き方、サイエンス、シチュエーション別読書法、金と仕事、鉄板本などに分け、そのなかで100冊のノンフィクションを紹介していく。

テーマ設定自体は比較的オーソドックスなのだが、紹介されているものが緩難交えた本揃いなのが特徴だ。

例えば、「国家という悪魔」と題した節では『毛沢東の大飢饉』や『731―石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く』など硬派なものを取り上げる一方、「脱力しすぎて学べない」と題した節では、『なぜ人妻はそそるのか?』を紹介したり、はたまたトイレットライブラリーとして『ゲームシナリオのためのSF事典』を紹介したりするなど。ノンフィクション中心だが幅広い。

1冊あたり2ページ程度の紹介ではあるが、その軽妙な語り口もあって、どの本も気になってしまう。そういう意味で、冒頭に述べたパターンで言えば、本ありきの選書とも言える。
 

ホンシェルジュ読者なら一度は読むべき(もう読んでる?)ブックガイド

著者
出版日

毎週、新聞や雑誌には書評が掲載されるが、そこで紹介される本の多くが直近に出された本(いわゆる新刊本)。つまり「フロー」の本紹介だとも言え、「ストック」として既刊本のなかから紹介するものではない。

そんななか、新刊にとらわれずにテーマ重視で本を紹介してくれるのが、2冊目に紹介する『大人力がさりげなく身につくR25的ブックナビ』。 今でこそ雑誌で企画として新刊・既刊の分け隔てなくブックリストを挙げるものが増えてきているが、当初は新鮮だった(フリーマガジン真っ盛りでR25はその先導的立場だったと言える)。

この本の面白さは、そのテーマ設定にある。

「あまり本を読まない社会人に、週に1冊は本を読んでみない?」というコンセプトで、お題ごとに5冊の本を取り上げているのだが、そのお題が、「会議でモジモジしないための自己プレゼン術」「男の株が上がるカンタン料理本」「暑い。だるい。そんな夜は、本で旅して現実逃避だ!」など具体的で、ちょっとゆるーいタイトルなのだ。

あれ、ホンシェルジュとも親和性がありそうだ。

章立てとしては6章構成で、
・ビジネスもモテもばっちり!相手の心をつかむための66冊
・「そんなことも知らないの」とバカにされないための48冊
・ロジカルに判断し、キッパリと決断するための48冊
・何でもきちんとできる社会人になるための54冊
・粋で乙な大人になるための48冊
・生き方に迷ったときに読みたい66冊
と計330冊。

全ての本は書影が掲載されているので、眺めているだけでも楽しめる。

本との出合いのようすを見てみよう!

著者
出版日
2014-11-06

さて、今回はブックガイド本を紹介しているのだが、そうやって出合った本、買った本、きちんと読んでいるだろうか。また、読んだとしても、その本の関連書まで手を出すということがあるだろうか。 あるいは、ある特定の作家さんのファンになって、この本を読むならこの作家さんも合うはずだ、という他の本と出合う機会を逃していないだろうか。(特定の作家さんの追っかけを否定するわけではないが。)

何かしらのテーマに関心をもって本を読んだとしても、そこから別の本へ、簡単な本からより難しい本へ、深い本へ…、と芋づる式に他の本に出合っていかなければ、本を読む楽しさというのは半減してしまうだろう。

最近は新書や難しいことをわかりやすく説明する本が増えてきていて、敷居を低くするための施策は多いのだけれども、そこから次に繋げる本が少ないし、繋げる努力が少ないのではないかと個人的には感じている。

そんな思いを強くしたのが、この『次の本へ』。ブックガイドのその先へ。「次の本」との出会い方を案内している本である。 巻末の「次の本に出合う きっかけ別インデックス」もとてもよいアイディア。

前書きには以下のように書かれている。

”「一冊は読んだ。でも、次にどんな本を読むといいのか、わからない」 何人もの高校生、大学生から聞いた言葉です。いや、学生さんだけじゃないですね。社会人の方からもよく聞きます。 この本は、そんな皆さんのためにつくりました。
「この本を読もう」というブックガイドはたくさんあります。でも、そこに出て来る本が、ほんとうにあなたに合った本なのかは、あなたにしかわからない。 じゃあ、自分に合った本と、どうすれば出合うことができるんだろう?”

そもそも、人がどのようにして本と出合っているか、気になってこないだろうか?

例えば、作家の中野不二男氏はある新聞社の書評のための読書委員会で他の委員から書評欄に取り上げることを薦められて読んだ『ダ・ヴィンチ・コード』から“中毒症状”となり、ダン・ブラウンの前作である『天使と悪魔』に手を出した経緯を書いている。

学者、作家、記者など84人が「次の本との出合い方」を案内しているのだが、それだけではなく、この84人がどうやって本を買っているのかということも垣間見ることができる。

文庫解説でこんなに本が読みたくなるのか!

文庫本の巻末にはたいていの場合、「解説」とよばれるおまけのような文章が挿入されている。

斎藤美奈子による岩波書店のPR誌「図書」での連載「文庫解説を読む」によれば、
1.テキストの書誌、著者の経歴、本が書かれた時代背景などの「基礎情報」
2.本の特徴、要点、魅力など読書の指針となる「アシスト情報」
3.以上を踏まえたうえで、その本をいま読む意義を述べた「効能情報」
が、その役割だという。

意外にその歴史は浅いようで、岡崎 武志著『文庫本雑学ノート』などによると、1947年にリニューアルして再出発した新潮文庫がその一冊目として刊行した川端康成の『雪国』に伊藤整の解説を付けたのが始まりらしい。

さて、ビジネス書などは購書時のセオリーとして「はじめに、あとがき、そして目次を読んで全体像をつかんでから買うべき本かそうでない本か判断するべきだ」というのがよく言われるが、小説を選ぶときにはあまり「解説を読め!」という話は聞かない。

それは、得てして文庫解説は著者と解説執筆者との間のエピソードに終始したり、その本や著者をヨイショしている雰囲気がどうも合わないからだろう、と個人的には思っている。

 

著者
児玉 清
出版日
2013-04-09

さて、4冊目に紹介する『ひたすら面白い小説が読みたくて - 文庫解説コレクション』は芸能界屈指の読書人として有名だった児玉清氏が、文庫本小説の解説に執筆した文章をまとめたもの。作家の五十音順に日本のものと海外の翻訳物を計42冊分の解説が収録されている。

先ほど文庫解説は合わないと書いたが、児玉清氏の文庫解説は違う。その書き出しの一段落だけで読者をぐっと惹きつけるのだ。

”まずは、あさのあつこさんの初めての時代小説『弥勒の月』へようこそ。あなたはきっときっと深く深くそして熱く心を揺すられるに違いない。世に面白き時代小説は数々あるが、滅茶面白く、なお且つ読む者の肺腑を鋭い刃物で抉るかのごとく、人間とは、男とは、女とは、人生とは、そして生きるとはなんたるかをズシンと胸に響く言葉で教えてくれる本は、そうざらにはない。”
(あさのあつこ『弥勒の月』、光文社文庫収載)

まるで児玉氏が語りかけてくるようなこんな解説を読んだら、その本が気にならないわけがない。

この『ひたすら面白い小説が読みたくて』の解説にある梯久美子氏はこう言っている。

「工夫されているのは書き出しだけではない。本書を通読して気がつくのは、解説する作品によって、微妙に文体を変えていることだ。作品世界に寄り添って、使う言葉やリズムを選択しているのだ。」

本当に、誠実に作品に向き合い、物語を読者に伝えるにはどうしたらよいのかを考える、児玉氏の本への愛情と作家への敬意がにじみ出ているのだ。
 

やはり、本に出会うのは本屋さん

著者
ミシマ社 編
出版日
2012-08-05

さて、これまでブックガイド本をいくつか紹介してきたが、やはり日頃本に接し、読者に届けている書店員の言葉は重く、本に出会う場所としての本屋の役割は本当に大きい。

そんな、書店員がすすめる「この一冊」をまとめたのが、本書。

365の本屋さんが、おすすめする本を各店1冊ずつ365冊、手書きのPOPとともに紹介している。その365冊をカレンダー形式で1日1冊読むなら、その日に読むといいかも、という提案をしているのも面白い。また、先ほど紹介した『次の本へ』とも同様の、「次の一冊」を紹介しているのもよい試みだ。

本を紹介する書店は全国各地をまんべんなく網羅している。
「直取引」とよばれる取次を通さずに書店に本を届けるスタイルを取っているミシマ社と付き合いのあるという、ある種“意欲的”な書店が載っているので、全国にある書店ガイドとしての裏の使い方もできる。

今回取り上げた5冊以外にもブックガイド本は多数存在する。

大学の先生が新入生向けに紹介したもの(『東大教師が新入生にすすめる本』文春新書など)や、特定の学問に沿って本を紹介するもの(『経済学の名著30』ちくま新書など)など、趣向も多岐にわたる。(個人的にはブックリストで取り上げられている本のリストを作ってみていろいろと統計を取ってみたら面白いのではないかと考えている。)

冒頭でHONZを紹介し、また途中でフローとストックの話をしたが、ほかにもフローに関して定番ではあるが定点観測的な本として、小説であれば本屋大賞をまとめた『本屋大賞』(本の雑誌編集部編、本の雑誌社)、ノンフィクションであれば『ノンフィクションはこれを読め!』(成毛眞編著、中央公論新社)を最後に紹介しておく

これらの本が少しでも「読んで良かった本」に出会うためのきっかけになれば幸いだ。

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