5分で分かるタレスの哲学|井戸に落ちた天才の驚くべき発想力|元教員が解説

更新:2026.5.27

「万物の根源は水である」 この有名な言葉を残した古代ギリシアの哲学者タレスは、西洋哲学の始祖として知られています。 しかし、その思想や功績については、多くの誤解が存在するのも事実です。 今回の記事では、タレスの生涯や哲学、そして彼が後世に与えた影響について詳しく解説していきます。 古代ギリシア哲学の流れを踏まえながら、タレスが開いた「イオニア哲学」の真髄に迫っていきましょう なぜタレスは「最初の哲学者」と呼ばれるのか。 彼の「知を愛する」生き方とは何だったのか。 哲学入門者から西洋思想のルーツを知りたい方まで、タレスの哲学を通じて、古代ギリシア哲学の魅力を存分に味わえるはずです。 プラトンやアリストテレスが伝える逸話から、タレスの弟子たちが築いた思想の系譜まで、西洋哲学の源流を辿る旅にご案内します。

大学院のときは、ハイデガーを少し。 その後、高校の社会科教員を10年ほど。 身長が高いので、あだ名は“巨人”。 今はライターとして色々と。
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古代ギリシア哲学の流れ

タレスを理解するために、まずは古代ギリシア哲学の流れを簡単に確認していきましょう。

①初期ギリシア哲学:自然と世界の根本を探求

古代ギリシア哲学は、ミレトスやサモス島といった都市でソクラテス以前の時代に始まりました。当時の哲学者は、自然の仕組みや世界の成り立ちといった、自然哲学のテーマを探求しました。

タレスやアナクシマンドロスは、自然界の観察を通して、万物の根源となる物質について考えます。またピュタゴラスは、数や調和といった目に見えない原理が世界を支配していると考える形而上学を提唱しました。

②古典期:論理的な思考で哲学が発展

ソクラテス、プラトン、アリストテレスが活躍した時代、哲学の中心地はアテナイに移りました。古典期の哲学は、厳密な論理に基づいて思考を深める「論理的な哲学」へと発展します。

ソクラテスとプラトンは「形而上学」の探求をさらに深め、イデア論や魂論といった重要な概念を提唱しました。

形而上学とは、目に見える物質世界を超えた、世界の根本原理や存在の根源を、理性や論理を使って探求する学問です。「宇宙はどうして存在するのか」「人間とは何か」といった、目には見えないけれど、私たちが根本的に問い続けるような問題を考える学問です。

一方のアリストテレスは、師匠であるプラトンとは異なる立場を取り、形而上学を批判的に継承します。自然科学の知識を哲学に取り入れ、独自の哲学を構築しました。

③ヘレニズム期:多様な考え方が登場

ヘレニズム文化が栄えた時代には「ストア派」「エピクロス派」「懐疑派」という3つの主要な学派が登場しました。

ストア派は、自然の原理を「ロゴス」と呼び、理性に従って生きることを重視する形而上学的な立場を取りました。

エピクロス派は、自然の原理を「原子」とし、快楽を追求することを重視する自然哲学的な立場を取ります。

懐疑派は、全てを疑い、絶対的な真理の存在を否定する立場を取りました。

④ローマ期:ギリシア哲学の継承と発展

ローマ帝国時代には、ギリシア哲学がローマに伝えられ、キケロなどのローマ人哲学者によって受容されました。

また古代哲学の最後には「新プラトン主義」と呼ばれる哲学が登場しました。新プラトン主義は、プラトンの思想を継承しつつ、神秘的な要素を加えた形而上学です。代表的な哲学者であるプロティノスは、言葉では表現できない超越的な存在について、体系的な理論で説明しようと試みました。

今回紹介するタレスは「①初期ギリシア哲学」に当てはまります。

このように古代ギリシア哲学は、西洋哲学の基礎を築き、このあとに続く思想にも大きな影響を与えました。現代においても、古代ギリシア哲学の思想は、倫理、政治、科学など、様々な分野で重要な役割を果たしています。

タレス:最初の哲学者に関するよくある誤解

西洋哲学史において、最初の哲学者と呼ばれるタレス。

その理由として、アリストテレスの著作にそのような記述があるからだと説明されていますが、これは誤解かもしれません。

アリストテレスの著作には、タレスが万物の根源(アルケー)は「水」であると主張したとされています。

しかしタレスの主張は、現代の私たちが考えるような科学的・合理的な説明に基づいたものではありません。なぜならタレスは「水」が万物の根源であることの根拠を示していないからです。なぜ「水」なのかについての説明がない以上、この主張は、神話よりも不合理だと言えるでしょう。

またタレスは、神話や神々を否定していたわけではありませんでした。むしろ、タレス自身も神々を敬っていたと考えられています。

そのためタレスが最初の哲学者と呼ばれる理由を、アリストテレスの記述だけで説明するのは誤りでしょう。タレスの思想や功績を正しく理解するためには、彼の主張にある背景や、当時の思想状況などを詳しく調べる必要があります。

プラトンの逸話に見るタレスの哲学に対する情熱

プラトンは、タレスが井戸に落ちたというエピソードを伝えています。タレスが夜空の星を観察することに夢中になり、足元の井戸に気づかずに落ちてしまったという話です。

しかし別の解釈も可能かもしれません。タレスは天体観測をするために、あえて井戸に入ったとも考えられます。井戸の中は、外からの光が遮られ、星の観察に適しているからです。

このエピソードは、タレスが実用的なことよりも、知識や真理の探求により大きな関心を持っていたことを示唆しています。周囲の人々から「足元が見えていない」と揶揄されることも気にせず、自らの知的好奇心を満たすために、熱心に天体観測を行っていたのでしょう。

プラトンは、哲学者を「星を見つめる船乗り」と表現しました。目先の利益や権力闘争に惑わされず、真理を探求し続ける哲学者という存在を象徴的に表しています。プラトンはタレスの逸話を通して、知識を愛し、探求し続けることの重要性を強調し、タレスのような姿勢を高く評価したのです。

哲学とは「知を愛する」生き方

アリストテレスは、タレスが天文学の知識を応用してオリーブの豊作を予測し、莫大な利益を得たというエピソードを伝えています。しかしタレスは富を築くことよりも、知識の探求に価値を見出していました。

この逸話はタレスが富や名声といった世俗的な価値観にとらわれず、知的な探求を優先する生き方を選んだことを示しています。

タレスは知ることそのものに喜びを感じ、知識を愛する生き方を体現した人物でした。古代ギリシアにおいて、タレスの生き方は新しい価値観であり、従来の社会の常識にとらわれない生き方でした。哲学とは単なる知識の体系ではなく「知を愛する」という生き方そのものであることを示したと言えるでしょう。

タレスが開いた哲学への道:イオニア哲学の誕生

タレスの思想を受け継いだ弟子たちは、自然の根源や原理を探求する「イオニア哲学」と呼ばれる哲学の流れを築きます。

タレスの弟子であったアナクシマンドロスは、万物の根源を「無限(アペイロン)」であると考えました。アペイロンとは、形がなく、限定されない無限のものを意味します。

アナクシマンドロスは、この「アペイロン」から、様々なものが生み出され、そしてまた「アペイロン」へと戻っていくという循環的な宇宙観を提唱しました。

またアナクシマンドロスの弟子であるアナクシメネスは、万物の根源を「空気」であると考えました。空気の濃縮や希薄化によって、火や水、土といった様々な物質が生成されると説明したのです。

これらのイオニア哲学の哲学者たちは、神話に頼ることなく、観察や理性に基づいて自然現象を説明しようと試みました。彼らの合理的な探求は、古代ギリシア哲学の発展に大きく貢献し、西洋哲学の基礎を築く上で重要な役割を果たしたのです。

知を愛する生き方から生まれた古代ギリシア哲学

万物の根源を「水」だとする説を唱えたタレスですが、その主張は必ずしも科学的な根拠に基づいたものではありませんでした。しかしながら、自然現象を神話ではなく物質的な原理で説明しようとする、新しい哲学の扉を開きました。

タレスは知識そのものを愛し、探求する生き方を選び、富や名声よりも知的な探求を優先しました。古代ギリシアにおいては革新的な生き方であり、後世の哲学者たちに大きな影響を与えます。

タレスの思想は弟子たちによって受け継がれ、自然の根源や原理を探求する「イオニア哲学」へと発展しました。

アナクシマンドロスやアナクシメネスといった弟子たちは、それぞれ「無限」や「空気」を万物の根源として捉え、自然現象を合理的に説明しようと試みます。彼らの探求は、古代ギリシア哲学の発展に大きく貢献し、西洋哲学全体の基礎を築く上で重要な役割を果たしたのです。

タレスを理解するためのオススメ書籍

伊勢田哲治(2021)『【ニュートン式】超図解 最強に面白い!! 哲学』ニュートンプレス

著者
伊勢田 哲治
出版日

「哲学」という言葉を聞くと、どうしても難解で近寄りがたいイメージを持ってしまいます。

しかし本書は、そんな固定観念を覆す一冊です。哲学の本質に迫りながら、驚くほど親しみやすい内容となっています。

「知を愛する」という哲学の語源から説き起こし、古代ギリシャの時代から現代に至るまでの哲学の歴史を、科学との深い結びつきを軸に紐解いていきます。

たとえば西洋哲学の祖とされるタレスですが、彼は単なる思想家ではなく、当時の科学的知見を駆使して日食を予言しています。

このように哲学と科学の密接な関係を示す興味深いエピソードが満載です。

本書の魅力は以下の点にあります。

・哲学と科学の歴史的つながりを明確に示し、両者の関係性を新たな視点で捉え直せる

・ガリレオやニュートンといった科学者も哲学者だったという驚きの事実を知ることができる

・「超図解」という特徴を活かし、複雑な概念も視覚的に理解しやすい

・面白いエピソードが豊富で、哲学初心者でも楽しく読み進められる

哲学に興味はあるけれど敷居が高いと感じている方、科学史に関心がある方、そして知的好奇心旺盛な方にオススメの一冊です。

廣川洋一(1997)『ソクラテス以前の哲学者』講談社

著者
廣川 洋一
出版日

西洋哲学の起源を探る旅に導いてくれる、魅力的な書籍です。

最大の魅力は、アリストテレスによって「自然学者」と分類されたソクラテス以前の哲学者たちに対する固定観念を打ち破る点にあります。著者である廣川先生は、彼らが自然現象だけでなく「神的なもの」「自己の内的世界」「国家・社会の問題」にも深い関心を持っていたことを明らかにします。

タレスの「万物の根源は水である」という思想は、一見すると自然現象のみに注目しているように見えます。しかし本書は、タレスの背後にある深遠な哲学的洞察を丁寧に解き明かしていきます。さらにピュタゴラスの魂の神性と転生説、ヘラクレイトスの自己探求の哲学など、西洋哲学の礎となった多様な思想を詳細に解説しています。

本書を通じて、読者は西洋哲学の起源と発展の過程、古代ギリシャ哲学者たちの多面的な思想、そして現代の哲学や科学にも通じる古代の知恵を学ぶことができます。また一次資料を読み解く学術的アプローチの実際を知ることで、哲学研究の方法論についても理解を深められるでしょう。

哲学の初学者から研究者まで、幅広い読者におすすめできる本書は、哲学の歴史に興味がある方、思想の原点を探りたい方にオススメの書籍です。現代の問題に対しても、古代の知恵が新たな視点を提供してくれるかもしれません。

日下部吉信(2018)『ギリシア哲学30講 − 人類の原初の思索から(上)「存在の故郷」を求めて』赤石書店

著者
日下部 吉信
出版日

科学技術が進化し、便利な世の中になった一方で、どこか息苦しさを感じてしまう現代社会。そんな私たちに、古代ギリシア哲学の新鮮な風を吹き込んでくれる一冊です。

本書では、ソクラテスやプラトンといった有名な哲学者ではなく、それ以前の「初期ギリシア哲学」に新たな光を当てているのが最大の特徴です。

万物の根源を「水」だと考えたタレスの思考は、現代の私たちから見ると素朴なものに映るかもしれませんが、世界をあるがままに捉えようとする純粋な驚き、そして哲学の原点が存在します。

著者である日下部先生は「存在と主観性の対立」という視点から、初期ギリシア哲学から現代思想までを貫く壮大な流れを鮮やかに描き出しています。 哲学者の思想を単なる知識として紹介するのではなく「生きた哲学」として現代に蘇らせ、また現代文明に対する鋭い洞察も魅力的です。

古代ギリシアというレンズを通して現代社会を見つめ直すことで、無意識に染み付いている思考の癖や、現代社会の抱える問題の根源が見えてくるかもしれません。 哲学に馴染みのない方でも、古代ギリシアの世界に没頭しながら、思考の旅を楽しめる一冊となっています。

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