漫画『クジマ歌えば家ほろろ』は「ゲッサン」で連載されていたホームコメディです。不思議な生物クジマが居候する鴻田家のちょっと不思議でシュール、でも温かい日常が魅力の作品。 数々の賞で高く評価される本作は第5巻で完結しましたが、ファン待望のアニメ化が発表されました。この記事ではそんな漫画『クジマ歌えば家ほろろ』のあらすじや内容を解説しつつ、魅力についてご紹介していきます。
漫画『クジマ歌えば家ほろろ』は小学館の月刊誌「ゲッサン」で連載されていたシュール系ホームコメディです。2021年9月から連載がスタートして2024年4月に完結、最終巻である第5巻が同年5月に発売されました。
二足歩行して言葉をしゃべる自称・鳥の謎生物クジマ。ひょんなことから彼(?)は鴻田(こうだ)家に居候することになり、日本の一般家庭での日常生活をエンジョイしつつ、家族の一員として交流を深めていきます。
クジマの奇妙なキャラクター性と不思議なおかしさが評判を呼び、「次にくるマンガ大賞2022」コミックス部門でU-NEXT賞受賞、「全国書店員が選んだおすすめコミック2023」第9位に選ばれるなど業界内外から注目されるようになりました。
- 著者
- 紺野 アキラ
- 出版日
そんな『クジマ歌えば家ほろろ』は第5巻の発売と同時に、アニメ化が発表されました。今のところキャスト・スタッフ、制作スタジオや公開時期については不明。おそらく2025年か、遅くとも2026年には公開されるでしょう。
この記事では漫画『クジマ歌えば家ほろろ』のあらすじや魅力、おすすめのエピソードなどをご紹介していきます。アニメ化のニュースで気になった方は予習、元々ファンだった方は軽く復習するつもりでお楽しみください。
中学生の鴻田新(アラタ)は学校の帰り道、人間ではない奇妙な生き物「クジマ」と出会いました。はるばるロシアからやってきたと語るクジマは、日本に妙な憧れを持っており、特に日本食に大きな関心を持っていました。
宇宙人か何かとしか思えない背格好のクジマですが、本人曰く未発見の鳥の一種。渡り鳥に近い習性があり、春になれば故郷に帰ると言います。
季節は秋。頼るあてもなく、アラタと両親は野宿するしかないクジマを不憫に思い、彼を鴻田家に迎え入れます。ところが、鴻田家にはアラタの他に、受験を控えてナーバスになっている浪人生の長男・スグルがいました。
スグルの存在で常にピリピリしているアラタの一家。そこへ奇想天外なクジマが転がり込んだことで、家族の関係や空気がちょっとずつ変わっていきます。
『クジマ歌えば家ほろろ』はとても狭い範囲、家庭内かせいぜい隣近所レベルでの出来事しかないため、話に関係する登場人物はある程度限られています。
鴻田父母は善良な一般人。最初こそ居候に反対していたようですが(劇中での描写はなくモノローグで書かれていただけ)、何かとクジマを気にかけてくれます。
主人公は中学1年生のアラタ。物わかりの良い大人しい少年で、クジマには友人のように接します。ツッコミ役ではありますが、ごくまれに年齢相応の反抗期らしい反応をするのが微笑ましいです。
もう一人(?)の主人公がクジマ。丸い目と極細のくちばし、ペンギンのように白黒で二足歩行するのが特徴です。本人は鳥類と言い張っていますが、長い手足のシルエットだけ見れば宇宙人にしか見えません。ロシア出身なため、取り乱すとロシア語をまくし立てます。年齢3歳。
そしてクジマともアラタとも微妙な距離を取る長兄・英(スグル)。受験に失敗して以来、勉強のために自室で半ば引きこもっています。神経質な性格なため、無遠慮なクジマとは何かと衝突しがち。お互い嫌っているのかと思えばそういうわけでもなく、悪友に近いポジションです。
準レギュラーと言えるのが三ツ木真琴(みつきまこと)。長い髪をお下げにしたメガネ女子で、アラタとは幼馴染です。クジマを初めて見た時、すんなり受け入れられなかった常識人。成長して疎遠になっていたアラタを気にしており、クジマのおかげでまた接点が出来たことを内心喜んでいます。
からかったり口論したりする場面はあるものの、本作に登場するキャラクターは全員善人です。後述する魅力にも関わってきますが、誰にも悪意がなくて安心して読めるのは本作のいいところでしょう。
本作は基本的にクジマの鴻田での日常にフォーカスを当てて、毎回何かが起こるホームコメディの形式で進みます。
まず単純なところで言うと、クジマが謎に可愛いです。冷静になって全身を見ると、ひょろ長い着ぐるみのようなデザインはちょっと不気味。目が血走った状態は怖さもありますし、良く言ってもキモカワ。どことなく一時人気だったアニメ『ウサビッチ』を思わせます。あちらもロシアがモチーフですし、作者が影響されているのかも知れません。
ところがそんなクジマが話の中で生き生きと動いてると、なぜかマスコットっぽく見えて、親しみまで湧いてくるから不思議です。
クジマはちょっとたどたどしい日本語とやや偏見の入った日本観から、ホームステイ中の留学生をイメージするとかなり近いです。加えて人外らしい珍妙な言動がそこかしこに描かれます。
秋や冬でも平気で川に入って水浴びし、朝イチで奇声を発する。外国人特有の無遠慮さと妙に硬い言い回しでずけずけと正論を言う。変なタイミングでキレる上に、罵倒の語彙がロシア語。クジマの予測不能な一挙手一投足がシュールで笑わされます。
この破天荒さがある種の救い。ギクシャクした家族関係がなんとなく修復され、ピリピリしていた鴻田家の空気が変わっていくのを見ると、温かい気持ちになります。「子はかすがい」と言いますが、クジマが結果的に緩衝材かつ接着剤になるのが見事。のちに実年齢が3歳と明かされて、妙に納得感がありました。
クジマの設定こそ突飛ですが、この無邪気なホームコメディ感は『よつばと!』のよつばに似ていると言えるかも知れません。『よつばと!』好きな方にはおそらく刺さるでしょう。
ちなみに『クジマ歌えば家ほろろ』各話のサブタイトルは、すべてことわざとなっています。中には馴染みのないものも混じっていますが、それらは日本のことわざではなくロシアのことわざです。クジマが話すロシア語も適当ではなく、ほぼちゃんと意味の通るロシア語だとか。ロシア語に基づく不思議な言い回しに注目して読むのも面白いです。
クジマが鴻田家にやってきて数日。父母やアラタとの関係は良好な一方、兄スグルとは反りが合いませんでした。クジマとアラタが2人で遊んでいても、うるさいと怒鳴り込んでくるほど。スグルは受験を控えて神経質になっているため、多少仕方ないのですが……。
鴻田家でのクジマはただもてなされるだけでなく、晩御飯を担当してロシア料理を披露することがしばしばありました。クジマが鴻田家に来て初めての日曜日、家族全員が家にいるのにスグルに遠慮して静まり返る雰囲気の中、彼は突然昼食作りを買って出ます。
- 著者
- 紺野 アキラ
- 出版日
ノコギリを持ち出して何事か画策するクジマ。なんとどこからか切ってきた竹を組んで、家の2階にまで達する巨大な流しそうめんを制作したのです。そしてあろうことか、流しそうめんのスタート地点を2階のスグルの部屋の窓に設置し、驚くスグルを説き伏せて巻き込んでしまいました。
ギクシャクする鴻田家を見かねて、みんなで参加する食事をあえてチョイスしたのがグッと来るエピソードです。スグルが部屋から出なくてもいいように、一応配慮しているのが面白いところ。
ちゃんと計算していると見せかけて、一般常識の欠落がオチになっているのも本作らしい味わいがあって印象的。
クジマが家に馴染んでしばらく経ったある日の朝……彼はホームシックになり泣いてしまいました。ロシアの恩人マクシムの夢を見て、故郷が恋しくなったのです。普通の友達以上に仲良くなったアラタはうろたえるものの、クジマがまだ3歳なのを思い出して彼を後押ししました。
そして急に訪れた別れの朝。アラタは笑顔で見送る気分になれず、いつも通りに学校へ……。1人で鴻田家の居間に残って出発時間を待つクジマに、たまたま2階から降りてきたスグルが声をかけます。クジマが帰りたがるのは意外で、むしろ春になってもごねるものだと思っていたと。そしてアラタの相手になってくれていたことの感謝を告げました。
- 著者
- 紺野 アキラ
- 出版日
お母さんに作ってもらったおにぎりを持って、いよいよ帰ろうとするクジマ。ところがスグルの言葉が引っかかって、彼の決心は揺らいでしまいます。そんな時、マクシムが「どうしてもつらかったら帰ってこい」と送り出してくれたことを思い出しました。
アラタや鴻田家と過ごす毎日はすべて楽しい! だから帰るのをやめた、とたどたどしい日本語でアラタに心境を語るクジマ。11月の夕焼けの中、川縁でやりとりするシーンがちょっと感動的です。直後のしょうもないオチで笑わされますが、そんなところも含めて『クジマ歌えば家ほろろ』らしいエピソード。
クジマが家に来て以来、アラタはついつい遊んでしまって、期末テストでとても酷い点数を取ってしまいます。反省した彼は真琴を招き、真剣な勉強会を開きました。クジマも一緒になって日本語の勉強をするのですが、いつもの癖で逐一声に出してしまいます……。
意図せず2人の邪魔をしてしまうも、なかなかめげないクジマ。そんな時に彼がお母さんからおやつに呼ばれて下へ降りると、偶然にも真琴とスグルが対面する場面に出くわしました。そこでショッキングなものを見てしまいます。
自分との記念写真でニコリともしなかったスグルが、真琴に対して笑いかけていたのです。というか、クジマが機嫌の悪くないスグルの様子を見たのは、これが初めてのことでした。
写真撮影で笑わなかったのに、真琴に笑顔を見せたのは彼女が面白いからなのか? とズレた主張でスグルを問い詰めるクジマ。するとスグルは「家族には気を遣わない」と声を荒げて言ったのです。
父母やアラタはもちろん、言外にクジマも家族だと認める発言。直後スグルは刺々しい台詞を重ねますが、照れ隠しなのは間違いないでしょう。スグルがクジマを上手くかわしたり、アラタとスグルの距離感がちょっと縮まったり、1話の中に心温まるシーンがとても多いエピソードとなっています。
『クジマ歌えば家ほろろ』は2024年4月に連載終了しましたが、最終第5巻の発売と同時にアニメ化が発表されました。
詳細情報は未公開ですが、原作の各エピソードが1話完結の短編形式で短く、さらに全5巻と巻数も少ないため今回のアニメ化で最終話まで映像化される可能性はかなり高いはずです。少なくともおすすめに挙げた3エピソードに関しては、すべてアニメになるでしょう。
ストーリーはそのままとして、アニメではクジマの独特のノリがどこまで再現されているかがポイントになります。動きや声、シュールな数々の掛け合い……特にロシア語の勢いがアニメでどうなるか非常に気になるところ。
個人的な希望としてはクジマの配役でロシア語を喋れる声優を起用するか、ロシア語パートだけロシア人に吹き返してもらう、といった形でこだわってもらいたいです。
紺野アキラは福岡県出身の漫画家です。デビュー時の年齢が20歳だったので、単純計算して現在は27歳前後。詳しいプロフィールは非公開となっています。
2017年6月に『知らない海の底』が第80回「小学館新人コミック大賞」少年部門に入選し、同作が「ゲッサン」に掲載されて商業デビューしました。その後、数本の読み切り短編を経て『クジマ歌えば家ほろろ』を連載開始。
作画はあっさりしていますが、線が少ないだけでデビュー前からかなり画力は高いです。連載作は『クジマ歌えば家ほろろ』だけですが、発表済みの短編も含めて俯瞰すると、現代日本の日常に不思議な生き物を絡めることを好んでいるのがわかります。作風としてはSF風味のシュールな内容が多く、少しホロリと来るオチが多いですね。
読み切り作品はネット上で公開されているため、気になる方は作者のXアカウント(@conno_33)から閲覧できるので、そちらからどうぞ。
『クジマ歌えば家ほろろ』はとてもすっきり終わったので、漫画家・紺野アキラの実力は本物。今後発表されるであろう新作にも期待がかかります。
漫画『クジマ歌えば家ほろろ』は惜しまれつつも2024年4月に完結。もっと続いて欲しかったというのが正直なところですが、当初から期間の区切られていた物語が無事に幕引きを迎えられたことは歓迎すべきかも知れません。
全5巻と今からでも集めやすいのは利点ですし、アニメ化で気になった人はぜひこの機会に作品に触れてみてください。