5分で分かるシェリングの哲学|SDGs社会へのヒント! シェリングが導く持続可能な未来とは?|元教員が解説

更新:2025.2.18

「自然」と「人間」の関係について深く考えたことはありますか? 私たちの日常生活と自然界はどのようにつながっているのでしょうか? 今回の記事では「自然」について深遠な問いに挑んだ偉大な思想家、フリードリヒ・シェリングをご紹介します。 18世紀後半から19世紀にかけて活躍したシェリングは「自然哲学」という、新しい考え方を生み出し、自然界の神秘に迫ろうとしました。 彼の思想は、現代の環境問題や生命倫理にも通じる重要な示唆を含んでいます。 有名な作家ゲーテとも交流があったシェリング。 彼が探求した自然と人間の関係性は、私たちの生活にどのような影響を与えているのでしょうか? 今回はシェリングの生涯と思想、そして現代における彼の理論の重要性について詳しく解説していきます。 「自然哲学って何?」「シェリングの考え方は現代にどう関係しているの?」 そんな疑問にお答えしながら、この偉大な哲学者の魅力に迫ります。

大学院のときは、ハイデガーを少し。 その後、高校の社会科教員を10年ほど。 身長が高いので、あだ名は“巨人”。 今はライターとして色々と。
泡の子

シェリングの自然哲学:生命の本質を探る新たな視点

自然哲学とは、自然や生命の本質を哲学的な観点から探究する学問です。このアプローチは、一般的な自然科学とは異なる独特の視点を持っています。

一般的な生物学や医学は、具体的な現象や構造を研究します。それに対して「なぜ生き物は存在するのか」「生命とは何か」といった、根本的で大きな問いに取り組むのが「自然哲学」です。

この自然哲学の分野において、シェリングは革新的な考え方を展開しました。

彼が主張する理論の中に「自然の中の対立」という概念があります。

シェリングは「自然界や生命の中に相反する力が存在し、それらが互いに作用し合っている」と考えました。この「対立」の例として、シェリングは生命現象のいくつかを挙げています。

例えば細胞分裂では、1つの細胞が2つに分かれるという対立的な動きがあります。また栄養摂取においては、生物が外部から物質を取り入れるという、内部と外部の対立も存在します。

さらに進化の過程では、生物が環境に適応して変化していくという「現状維持と変化の対立」が見られます。 これらの対立を生み出す根本的な原理を、シェリングは「力」と呼びました。この「力」こそが自然界や生命の本質であり、あらゆる現象の背後にある原動力だと考えたのです。

このようにシェリングの自然哲学は、目に見える現象の背後にある原理を探ろうとする試みでした。単なる観察や分析を超えて、自然界の根本的な仕組みを理解しようとする壮大な哲学的探究だったのです。

シェリングの自然哲学:対立、自由、そして自然の歴史

シェリングの自然哲学は、自然界の本質を理解するための独特な視点を提供しています。彼の思想は主に三つの重要な概念を中心に展開されています。

「自然の中の対立」「自由の概念の拡大」そして「自然の歴史とゴール」です。

まずシェリングは、自然や生命の中に「対立」が存在すると考えました。この対立は、互いに相反する力や現象として現れます。

先ほども説明しましたが、細胞分裂や栄養摂取に見られる対立、そして進化の過程における現状維持と変化の対立です。

シェリングは、これらの対立を生み出す根本的な原理を「力」と呼びました。

次にシェリングは「自由」の概念を、人間だけでなく自然全体に拡大しました。

「自然と人間の違いは、単に自由を意識しているかどうかだけだ」と彼は考えました。例えば、木は意識していなくても自由に成長しており、人間は意識的に自由に行動しています。

この考え方は、自然と人間を分離せず、統一的に理解しようとする試みです。

最後にシェリングは、自然には歴史とゴールがあると考えました。

彼によれば「自然の歴史とは、自然が自由という自分の本質に気づくまでの過程」です。そして歴史のゴールは、人間が自然の一部であることを理解することだとしました。

例えば、昔の人々は自然と人間を別のものと考えていましたが、現代では環境問題などを通じて、私たちが自然の一部であることを徐々に理解し始めています。

これらの考え方を通じてシェリングは、自然と人間の関係性を新たな視点から捉え直そうと試みました。自然を単なる物質的な存在としてではなく、動的で自由な過程として理解することを提案したのです。

現代の環境問題や生命倫理の議論にも、シェリングの視点は影響を与え続けています。

悪の起源とは? 神の「根底」から世界の創造へ

シェリングを理解する上で『人間的自由の本質』はとても重要な著作です。

この著作の中では、人間の自由という複雑な概念を深く掘り下げ、人間が自然との関係において示す特異な振る舞いの理由が探究されています。

シェリングは人間が持つ特殊な自由、すなわち自然を改変したり、場合によっては破壊したりする能力の起源を問いかけます。

「なぜ人間は森を切り開いて都市を作るのか?」「このような行為を可能にする、自由はどこから来るのか?」

シェリングの問いは人間と自然の関係性、そして人間の本質に迫る重要な視点を提供してくれます。

シェリングに従えば、人間の存在自体を「善である」あるいは「悪である」として、単純に断定することはできません。むしろシェリングは、人間の存在を「善悪二元論」ではなく、より複雑な存在として捉えています。

・人間は自由な存在です。この自由には善を行う可能性、その一方で悪を行う可能性も含まれています。

・人間の存在は神の創造過程の一部です。神の「根底」から生まれた世界には、善の可能性も悪の可能性も内在しています。

・人間は自然の一部でありながら、自然を超越する能力を持っています。この能力は創造的にも破壊的にも働く可能性があります。

・人間の自由意志によって、善悪の選択が可能になります。つまり、人間は善悪の可能性を両方持っている存在です。

シェリングによれば、人間の存在自体は善でも悪でもなく、むしろ善悪の可能性を内包した複雑な存在だと言えます。人間は自由意志によって善悪を選択できる存在であり、その選択と行動によって善にも悪にもなりうるのです。

さらに「悪が存在する理由」という根本的な問題にも取り組んでいます。そして人間や悪が存在する理由を神の本質に求めるという、大胆な主張をしたのです。

シェリングは神の中に「根底」という概念を提案しました。この「根底」は神の本質の一部でありながら、神自身とは異なる存在として考えられています。「根底」は、自己を生み出したいという原初的な欲求や衝動のようなものとして描写されます。

シェリングによれば、創造のプロセスは次のように進みます。

まず神の知性が「根底」をとらえます。そして、この「根底」が神の意志となり、そこから世界の創造が始まるのです。

正直なところ、ちょっと意味が分かりません。

この複雑な概念を理解するために、シェリングは比喩を用いて説明しています。

神を大きな意識として想像してみましょう。その意識の中に「何かを作りたい」という漠然とした欲求や衝動があります。これが「根底」に相当します。そして、この漠然とした欲求が具体的な考えや計画に変わっていく過程が、世界の創造につながるのです。

この考え方によれば、悪の存在は神が世界を創造する過程の一部として理解されます。「根底」から生まれる世界には、善だけでなく悪も含まれているのです。

そのため神が意図的に悪を作り出したということではありません。むしろ創造の過程そのものに内在する可能性として、悪が存在するものと考えられます。

シェリングの理論は「善悪の二元論」を超えて、世界の複雑性や多様性を説明しようとする試みだと言えるでしょう。

また同時に「人間の自由意志」と「神の全能性」という、一見矛盾する概念を調和させようとする哲学的な挑戦でもありました。

この「根底」の概念は、シェリングの哲学の中で最も難解かつ革新的な部分の一つです。それは、神学と哲学の境界を曖昧にし、存在の本質に新たな光を当てる試みでもありました。

この考え方は現代においても、神の本質や世界の起源、そして悪の問題を考える上で重要な視点を提供し続けています。

シェリング哲学の現代的意義とは? 神・自然・自由の統合的理解

シェリングの哲学は、その深遠な思考と革新的なアプローチにより、現代にも大きな影響を与え続けています。

彼の哲学の意義は、主に4つの側面から考えることができるでしょう。

第一に「自然や生命の存在理由」を探求したことです。

彼は「なぜ自然や生命が今のような形で存在しているのか」という根本的な問いに取り組みました。単なる科学的観察を超えて、存在の本質に迫ろうとする哲学的な試みでした。

第二に、神のあり方を具体的に分析したことです。

神を人間に近い存在として捉え、その「心の中」を探ろうとしたのです。

神の中に「根底」という概念を提案し、神の創造活動を人間の心理に類似したプロセスとして描写しました。従来の神学的アプローチとは異なる、大胆かつ革新的な試みでした。

第三に「神・自然・自由」という、別々にみえる概念をひとつに統合する、大きな思想体系を構築しました。これらの概念は互いに密接に関連し合い、統合的に理解される、という今までにはない哲学です。

自然の中にも自由があると考えたり、神の創造活動を自由の実現過程として捉えたのです。

この新しい視点は、世界を全体として理解しようとする哲学的試みの先駆けとなりました。個別の現象や概念を単独で捉えるのではなく、それら相互の関連性や全体性に注目するアプローチを意味します。「神、自然、人間、自由」といった概念を別々のものとしてではなく、ひとつの大きなシステムの中で互いに影響し合い、統合された全体として理解しようとする試みです

最後にシェリングの思想は、現代の環境問題を考える上でも重要な示唆を与えています。彼の哲学に基づけば、人間と自然は対立するものではなく、本質的につながっているという考え方が導き出されます。

現代の環境倫理や持続可能性の議論において、新たな洞察を提供する可能性があります。

シェリングの哲学は、その深遠さゆえに理解が難しい面もありますが、彼が提唱する統合的な世界観は、現代社会が直面する様々な問題に対して新たな視点を提供しています。

「神秘的」とも言える彼の思想は「科学と哲学」「理性と感性」「人間と自然」といった二項対立を超えて、世界を全体として捉えようとする試みであり、その意義は今日でも色褪せていません。

シェリング哲学の源流と現代への影響

シェリングの哲学は、過去の偉大な思想家たちの影響を受けつつ、それらを独自の視点で発展させたものです。

また同時に、その斬新な考え方は後世の様々な学問分野に大きな影響を与えました。

シェリングと他の哲学者との関係性について見てみましょう。

哲学者フィヒテは、人間の自由について深く考察したとして知られています。

シェリングはフィヒテの自由概念を出発点としつつ、それを人間だけでなく自然全体に適用するという大胆な発想を行いました。これによってシェリングは、自然哲学という新しい領域を切り開いたのです。

また16世紀後半に活躍したジョルダーノ・ブルーノは、宇宙について革新的な考えを持った哲学者でした。

シェリングはブルーノの思想を再評価し、その宇宙観を自身の自然哲学の中に取り入れています。

ブルーノの「宇宙に中心も境界もない」という考えを、自然の無限性と統一性を表現するものとして解釈し、自然を階層的ではなく有機的な存在として捉え、自然哲学の基礎としました。

当時の科学革命によって機械論的に理解されがちだった自然観に対して、より生命的で全体論的な視点を提供する試みでもあったのです。

そしてシェリングはカントの道徳哲学を基礎としつつ、それを更に発展させています。

カントが示した自由と必然性の二元論を克服しようとしたシェリングの試みは、彼の哲学の重要な側面となっています。

シェリングの思想は、現代の様々な学問分野にも大きな影響を与えています。

先ほども触れましたが環境思想の分野では、シェリングの自然哲学が重要な基盤となっています。人間を自然の一部として捉えて両者の調和を求めるシェリングの思想は、持続可能性や生態系保護など、現代のSDGsの考え方にも通じるものがあります。

心理学の分野においても、シェリングの「無意識」の概念が大きな影響を与えました。その中でもフロイトやユングなどの深層心理学者たちは、シェリングの思想から多くのインスピレーションを得たと言われています。

科学哲学の分野でも、シェリングの影響は無視できません。

彼の自然哲学は、自然科学の基礎にある考え方に新たな視点をもたらしました。シェリングの全体論的な自然観は、20世紀の科学に大きな影響を与えました。

生態学の父と呼ばれるエルンスト・ヘッケルは、生物とその環境を一つのシステムとして捉える「生態系」の概念を提唱しましたが、この概念はシェリングの思想と通じるものがあります。

また量子物理学の創始者の一人であるニールス・ボーアが提唱した「相補性原理」も、シェリングの全体論的アプローチと類似性があります。

このようにシェリング哲学は、過去の偉大な思想家たちの影響を受けつつも、それを独自の視点で発展させ、さらに後世の様々な学問分野に大きな影響を与えました。

彼の思想は哲学の枠を超えて、現代の環境問題や心理学、科学哲学など、幅広い分野で重要な示唆を与え続けているのです。

シェリングを理解するためのオススメ書籍

上野 修 , 戸田 剛文他(2024)『哲学史入門(2):デカルトからカント、ヘーゲルまで』NHK出版 

近代哲学の壮大な旅へと読者を誘う、知的冒険の書です。

日本を代表する哲学者たちが結集し、デカルトから始まる近代哲学の流れから、ドイツ観念論の頂点であるヘーゲルまでを丁寧に紐解いていきます。

本書を通じて、デカルトの「我思う、ゆえに我あり」から始まり、スピノザ、ライプニッツといった合理論の巨人たち、そしてロック、バークリー、ヒュームへと続く「経験論」の流れを追体験できます。さらにカントによる「コペルニクス的転回」を経て、フィヒテ、シェリング、ヘーゲルへと至るドイツ観念論の発展を学ぶことができるのです。

特筆すべきは本書が単なる思想の羅列ではなく、各哲学者が直面した時代の課題や、彼らの思索がもたらした影響を丁寧に解説している点です。例えば、シェリングの自然哲学や同一哲学が、当時の自然科学や芸術の発展とどのように関わっていたのか、という興味深い視点も提供されています。

哲学を学ぶ学生はもちろん、知的好奇心旺盛な一般読者にとっても、近代哲学の全体像を把握する上で欠かせない一冊となるでしょう。近代哲学の巨人たちの思索を追体験し、人間が持つ知性の可能性と限界を探求する。そんな知的冒険に誘ってくれる本書を、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

シェリング(2022)「学問論」(西川 富雄 , 藤田 正勝 訳)岩波書店

ドイツ観念論を代表する哲学者の一人であるシェリングが、大学教育と学問研究の本質を鋭く見抜いた古典的名著です。

若干26歳で大学教授となったシェリングが学問の真髄に迫ります。彼は「学問は単なる手段と成り下がってしまえば…直ちに学問であることをやめてしまう」と喝破し、功利主義に傾きがちな当時(そして現代)の学問のあり方に警鐘を鳴らしています。

本書の魅力はシェリングが描く理想的な学問の姿にあります。国家の干渉から自由な学問の場を主張し、哲学を基盤として諸学問が有機的に連関する「普遍的なエンチュクロペディー」を構想しました。

シェリングの視点は、現代の専門分化が進んだ学問世界に一石を投じるものといえるでしょう。読者は本書を通じて「学問とは何か」「大学とは何か」という根本的な問いに向き合えるはずです。シェリングの情熱的な語り口は、学生や研究者はもちろん、教育や知的探求に関心を持つ全ての人々の心を揺さぶるでしょう。

現代の教育や研究のあり方を再考したい方、そして知的探求の本質に触れたい方に、ぜひ一読をおすすめします。シェリングの熱い思索が、あなたの知的好奇心を刺激することでしょう。

平尾昌宏(2010)『哲学するための哲学入門 シェリング「自由論」を読む』萌書房

ドイツ観念論の巨匠シェリングの思想に新たな光を当てる画期的な一冊です。

シェリングの代表作『自由論』刊行200周年を記念して出版されました。

本書で注目すべきは、難解とされる『自由論』の序論部分を中心として、シェリングの「哲学する」過程を丁寧に解き明かしている点です。

著者である平尾先生は『自由論』の内容をただ解説するだけでなく、シェリングがどのように思考を展開し、問題に取り組んでいったのかを鮮やかに描き出しています。

読者は哲学書を読むだけでなく「哲学する」ための方法論を実際に学ぶことができるはずです。シェリングの思索プロセスを追体験することで、読者自身の思考力も鍛えられることでしょう。

哲学を学ぶ学生はもちろん、哲学的思考に関心のある一般読者にとっても、本書は貴重な指針となるはずです。本書を通じて、難解と思われがちな哲学テキストへの新たなアプローチを見出し、真の意味で「哲学する」喜びを体験してみませんか。

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