漫画『サバエとヤッたら終わる』は主人公の男子大学生が、意中の人とは違う女子大生に心揺れる青春作品……ではありません。がさつで下ネタを連発する女友達に振り回され、主人公が鋭いツッコミを入れつつも性欲に負けそうになるエロコメディです。 キツい下ネタもあるのでメディアミックスは難しいかと思われていましたが、2024年8月にはTOKYO MXで実写ドラマが放映されました。 この記事では『サバエとヤッたら終わる』の原作漫画について、未読の方向けにあらすじや魅力、原作読者にドラマの内容と評価をご紹介していきます。
『サバエとヤッたら終わる』はWebコミックサイト「くらげバンチ」にて、2019年9月から連載されている青年漫画です。作者は早坂啓吾。2024年9月の時点で既刊15巻、最新第15巻は同年7月24日に発売されました。
本作は悶々としがちな主人公の男子大学生・宇治が、所属するフットサルサークル内のアイドル桜井美波(さくらいみなみ)に思いを寄せつつ、同じサークル仲間で気安い間柄の鯖江レイカ(さばえれいか。以下、サバエ)についフラフラ~……といってしまうのを自制心で堪えるエロコメディとなっています。
サバエはラッキースケベ的な要素があるものの、それをだいなしにして印象を上書きするくらい、がさつで下ネタを連発するめちゃくちゃなキャラクターなのが面白いです。セクシー要素の強いエロコメディというよりは、学生事情を交えた下ネタのあるギャグ漫画といった感じ。
友情と恋愛感情で揺れるラブコメテイストもあり、そういった意味でも「ヤッたら終わる」物語から目が離せません。
漫画のはちゃめちゃな内容が好評で、2024年4月にはTOKYO MX制作の実写ドラマが発表、同年8月から9月にかけて放送されました。キャストは濱田龍臣と沢口愛華のW主演で、それぞれ宇治役とサバエ役、桜井役はギリギリまで伏せられていましたが進藤あまねでした。
宇治と鯖江レイカは経済学部の2年生。宇治はサークル仲間の美女・桜井美波に片思いしているのですが、ごくごく平凡な大学生の自分にはチャンスがないと思っており、桜井の親友であるサバエに恋愛相談を持ちかけます。
幸いサバエとの仲は良好なので、気楽に相談出来るのですが……サバエは無類の酒好き、というかことあるごとに飲もうとする酒クズ。結局酒の席のくだらないやりとりに終始して、一向に進展しません。それどころか、宇治は健全な男子学生のさがでサバエ(の巨乳)が気になってしまう始末。
宇治の恋愛はどうなるのか、サバエはわざとやってるのか。くっつきそうでくっつかない、健全なのか不健全なのかよくわからないキャンパスライフが続きます。
主人公は男子大学生の宇治。本作の男性キャラクターは名字だけで名前が明かされておらず、宇治も例外ではありません。20歳で東京に近い某大学経済学部2年生。
宇治はこれといった特徴のない、安アパートで暮らしでコンビニバイトに勤務する平々凡々な学生です。巨乳好きで人並みに性欲を持て余していますが、頭の中で何かを想像することはあっても、口に出さなければ行動にも移さない程度には理性的。本作では希少なツッコミ要員です。
サバエこと鯖江レイカは学部も学年もサークルも宇治と同じ、20歳の女子大生です。コミュ強ではあるものの、サバサバ……というよりはがさつを絵に描いたような豪快なキャラクター。アル中の心配をしてしまうほどの酒好きですが、しらふか酔っているかにあまり関係なく、下ネタやデリカシーのない発言を飛ばします。
髪は肩にかかる程度、パッツンの前髪とアホ毛が特徴です。ファッションにはあまり興味がないようで、作中では中性的な服やパンツルックが目立ちます。ただし、スタイルの良さが半端じゃありません。Hカップを自称するだけあってとんでもないボリュームがあり、意識的にか無意識的にか、薄着の季節には深い谷間で宇治の視線を奪っていきます。
宇治の意中の人なのと同時に、サバエの親友でもあるのが桜井美波。誰でも分け隔てなく接するゆるふわな雰囲気の優しい女性です。しかもかなり美人でスタイルがいいため、サークル内での人気はトップ。性格がサバエとはまったく違うため、なぜ仲がいいのかは謎です。宇治のことは同学年のサークル仲間としか思っていない節があります。
お話によってはたまにサークル仲間が絡んできますが、基本的にはこの3人がレギュラー。他にはサークル代表の男子学生で女子にモテモテの吉良、思い込みの激しい女子大生・勝木凛(かちきりん)、サバエの親馬鹿の実母・遥といったキャラクターも登場します。
本作の面白さは宇治とサバエの絶妙な距離感だからこそ出来る、勢いのあるギャグ(下ネタ)とほんのり感じるラブコメテイストにあります。ただし、ラブコメはギャグの延長で匂わせがある程度なので、比率としてはかなり低め。
宇治とサバエは男女を感じさせない友人関係です。酒飲みのサバエの絡み方がおっさんすぎて、感覚的にはほとんど男性同士の悪友。そう思わせておきながら、急に女性っぽさを感じさせて狼狽えさせる罠もあるのですが。
サバエのボケに対して宇治がツッコミを入れるのが基本形ですが、サバエがボケっぽくない真面目なトーンや思わせぶりな仕草を混ぜてくることがあり、そんな時にはちょっとその気になった宇治をサバエがイジる(ツッコミを入れる)というパターンもあります。いずれにしてもかけ合いの歯切れが良く、テンポ良く進むの本作の魅力。
ちなみに下ネタは軽いものが中心で、引くほどの下ネタはありません。宇治がサークル仲間と話している時に判明しますが、サバエが悪ノリするのは彼が相手の時のみ(宴会だと多少出ますが)。サバエはめちゃくちゃしているように見えて、信頼している相手を選んでやっているわけです。
そんな一面を踏まえた上で、たまに差し挟まれるいい雰囲気の場面を見ると……こう、読者としては「もう早く付き合っちゃえよ」と思ってしまいます。
サバエはどんな真剣な悩みも酒の肴にするのが常。酔った勢いで色々からかったり、自身のスタイルの良さを無意識に強調したり、宇治が協力を取り付けても毎回有耶無耶にします。はた目には宇治とサバエの方が気が合うお似合いの2人に見えますが、はたしてサバエが宇治をどう思っているのか。都合のいい飲み友か、はたまた……。
ちなみにタイトルの『サバエとヤッたら終わる』とは、「常識的に考えてサバエと関係を持てば、桜井と結ばれることはなくなる」という意味です。
男子メンバーでの他愛のない雑談中、宇治と同学年でサークル代表を務める吉良が、彼とサバエとの関係について話題を振ってきました。女友達だと思っているのは宇治だけで、周囲は当然2人が付き合っていることがわかります。
宇治は普段の飲みのノリを思い返し、サバエのがさつな部分を挙げてみんなに否定しますが、元気な普通の女の子だろうと返されるだけでした。恋愛マスターを自認する吉良は「灯台もと暗し」や「近すぎて見えてない」、「恋愛老眼」と知った風な口調で宇治をこけにします。
その後、サバエの合流で話は終わりますが……。男子の雑談を知ってか知らずか、サバエはイケメンの吉良と比較しながら、珍味を例にして宇治の顔が好きなやつもいるとからかいます。
罵倒ギリギリの遠慮のないやりとりと、宇治のツッコミが冴え渡る愉快なエピソードです。ところで酒の肴と言えば珍味がつきものなので、つまり……。
ファミレスで課題に取り組んでいた宇治。ちょうど一息ついたころ、彼は後からやってきたサバエと桜井、勝木らの女子会に気付きました。女子とはいえ全員顔見知りなこともあり、桜井目当てで声をかけようかと思った矢先、おしゃべりの中で宇治の話題が出てきます。
最初に話し始めたのは勝木です。先日あったサークルの飲み会での出来事を勘違いし、自分が宇治に口説かれていたのではと言い出します。完全に誤解なのですが、急に宇治本人が割って入っても状況がおかしくなるだけ……。
桜井狙いの事情を知っているサバエが上手くフォローしたものの、流れるように酒の席での失態を宇治のせいにする畜生ぶりを見せます。
その後も女子会はそんな調子で宇治をいじり続けますが、サバエは内心で彼を悪く思ってないのが判明。一緒にいると楽しいと発言し、宇治は思わずときめいてしまいます。
しかし、上げるだけで終わらないのがこの漫画。オチではしっかり宇治が酷い目に遭います(精神的に)。
なお桜井の宇治への評価は「いい人」。ただどう好意的に解釈しても脈なしで、「(どうでも)いい人」でしかないのが哀れです。
唐突に競馬場へやってきた宇治とサバエ。競馬場といえば、今や家族連れやカップルでのデートが珍しくなくなったアミューズメントスポットですが……もちろん2人の目的は、競馬場本来の姿である賭け事です。
しかもサバエは競馬新聞と赤ペンを握り、来場早々に景気付けでビールと競馬場グルメを堪能する通っぷりを見せます。やってることはほとんど競馬場常連のおっさん。
宇治も多少競馬の経験はありましたが、2人の賭け方はまるで違いました。事前評価の高い馬を複勝(3着以内に入ればOK)で買う手堅い宇治に対して、サバエは人気薄の高配当馬券を買う穴党。馬券の買い方まで競馬狂いのおっさんで笑ってしまいます。
当然、大穴狙いのギャンブルが当たるわけがありません。進退窮まったサバエはパドックで馬を観察し、一際「ビンビン」な馬に目をつけました。詳しくは説明しませんが、競馬用語で「馬っ気」と呼ばれる状態。
サバエは男気の単勝一点賭け。勢いに押された宇治も同じ馬券を買い、2人の応援と展開が白熱したレースは「ビンビン」な馬の勝利で終わります。「ビンビン」連呼で大喜びしますが、それは馬名ではなく勝手につけたあだ名なので、周りからすると謎の下ネタワードを叫んでるだけという……。最後はサバエのワードセンスが光るオチ。
酒飲みのぐだぐだとくだらない下ネタのオンパレードで、とても『サバエとヤッたら終わる』らしいエピソードです。
『サバエとヤッたら終わる』は2024年8月から9月にかけて、全8話の実写ドラマがTOKYO MXで放送されました。ネット配信はNetflix独占。
原作漫画は勢いのある下ネタと宇治たちの絶妙な関係が魅力ですが、ドラマ版でどういった形の映像化がされているのか、読者としては非常に気になるところでしょう。結論から言ってしまうと、ドラマ版『サバエとヤッたら終わる』は恋愛コメディに重点が置かれていました。
ストーリーは独立した原作の各エピソードを、通して見て違和感がないようにオリジナル要素で補完する形でした。「宇治やサバエが現実に生きる大学生だったら」をコンセプトにして練り込まれており、キャラクターの深掘りや関係性が描かれたのは良かったです。
ちょっと面白かったのは、桜井の顔が終盤まで見られない演出。宇治の心理を反映して、ある種神格化してまともに見られないという表現でしょう。
一方で下ネタやお色気要素はあったものの、原作のギャグ漫画としての勢いが再現出来てませんでした。漫画のかけあいのペースを実際にやるのが難しいのと、ドラマ性に重点を置いているために仕方ない部分ではあります。
まとめるとドラマ『サバエとヤッたら終わる』はかなり恋愛ドラマ寄りの内容になっており、すべての原作漫画ファンにはちょっとおすすめしづらいです。ただ、原作未読の視聴者なら問題ないですし、ギャグパートではなく宇治とサバエの微妙な関係に注目してるファンは楽しめるでしょう。
漫画『サバエとヤッたら終わる』の作者は男性漫画家の早坂啓吾(以前は早坂ケイゴ名義でも活動)です。1981年生まれ、誕生月が不明ですが現在はおそらく43歳。
主にギャグ作品を発表している漫画家で、2006年「ゴー!ゴー!ジャンプ」に短編『スローイン!ペガサシーズ』が掲載されて商業デビューしました。
早坂啓吾は作画が綺麗な方ではありませんが、手がけているのはすべてギャグ漫画なのでほとんど気になりません。むしろ整っていない線に味があって、作風であるノリで押し切る会話の面白さを増しています。
『ファンタジスタ アヤちゃん』はいつもは理想的な彼女なのに、サッカー熱が高まるとおかしくなるアヤちゃんを相手に、彼氏のタケルが猛烈にツッコミを入れるギャグ漫画でした。『ゆとりやくざ』はタイトル通りゆとり教育世代の若者がヤクザになって、ゆとりらしい価値観で昔気質のヤクザを翻弄するハチャメチャな作品。
いずれも会話の勢いとツッコミの鋭さが、『サバエとヤッたら終わる』に通じるものがありました。
下ネタに関しては商業作品で抑えていたようですが、ネット上で公開されているアンドロイド漫画『家性婦とシタ』では『サバエとヤッたら終わる』以上のストレートな下ネタが繰り広げられています。
早坂啓吾は現在、『サバエとヤッたら終わる』と平行して、2024年3月から雑誌「電撃だいおうじ」とWebコミック配信サイト「カドコミ」で『ヒメ様にイジられ遊ばれ』を連載中。こちらは早坂啓吾らしい勢いとボケツッコミはそのままに、ツンデレとラブコメと健全な遊びが入り交じるカオスな内容となっています。
『サバエとヤッたら終わる』の下ネタがちょっとしんどい方は、『ヒメ様にイジられ遊ばれ』の方がマッチするかも知れません。
漫画『サバエとヤッたら終わる』は現在も連載中です。Webコミックサイト「くらげバンチ」では最初の第1話~3話までと、最新無料公開の2話分が読めます。原作が気になった方は、まずそちらで試し読みしてみるのがおすすめです。