職場はダンジョン!異色のファンタジーお仕事漫画『ダンジョンの中のひと』の魅力を紹介

更新:2025.2.17

『ダンジョンの中のひと』は「webアクション」で連載されている冒険ファンタジー漫画です。ダンジョンを攻略するのではなく、裏方として管理・運営するという設定が非常にユニークな作品となっています。 知る人ぞ知る良作でしたが、2024年のTVアニメ化でにわかに注目が集まっています。この記事ではそんな『ダンジョンの中のひと』のあらすじや設定、魅力についてご紹介していきます。

小説も漫画も映画も基本雑食な、しがない物書き。温故知新で古典作品にもよく触れるようにしています。
泡の子

3行でわかる記事の内容

ダンジョンを管理・運営する一風変わったお仕事漫画

可愛らしい主要人物とモンスターの日常がゆるくて面白い

2024年7月にTVアニメ化された

舞台はダンジョン!でも攻略ではなく管理していく漫画『ダンジョンの中のひと』

漫画『ダンジョンの中のひと』とは、2020年6月からWebコミックサイト「webアクション」で連載されているファンタジー作品です。既刊5巻で最新の第5巻は2024年6月に発売されました。作者は双見酔(ふたみすい)。

今やファンタジー作品でお馴染みとなったダンジョンが舞台。ただし、主人公たちがダンジョンを攻略するのではなく、ダンジョンの中の人――つまり迷宮運営側になって冒険者たちを相手に滞りなく運営していく、という一風変わったお話です。

本作はジャンル的には冒険ファンタジーコメディですが、職場正常に管理・運営するという点ではお仕事モノの要素が多分に含まれています。ファンタジー系のRPG(ロールプレイングゲーム)などでよくあるお約束、疑問点が上手く解消されており、ゲーム好きが読んでも楽しめるでしょう。

そんな『ダンジョンの中のひと』は2023年8月にTVアニメ化が発表され、2024年7月から9月にかけて毎日放送・TBS系で放送されました。2024年はファンタジーアニメの当たり年で、上半期の『葬送のフリーレン』と『ダンジョン飯』で出来た流れに『ダンジョンの中のひと』も続くかどうか注目したいところです。

ちなみに『ダンジョンの中のひと』は双見酔の完全オリジナル作品。小説投稿サイト「小説家になろう」に似たタイトルの小説がありますが、特に関係はありません。

探索者がダンジョン運営にスカウト!?漫画『ダンジョンの中のひと』のあらすじ

凄腕シーフのクレイは、父であり師匠でもあるブランスの消息を追って、アントムルグのダンジョンに潜る日々を送っていました。公的記録では地下7階が限度とされている中、彼女はたった1人で地下8階を踏破してしまいます。

クレイは体力と装備に余裕があったことから、そのままさらに奥深くへ向かいました。未踏の地下9階。早々と階層の主「フロアガーディアン」のミノタウロスと遭遇、死闘を演じていると――不慮の事故でダンジョンの壁が壊れ、“外”に通じた穴から「ダンジョンの管理人」を名乗る少女が現れました。

少女の名前はベル。ダンジョンは彼女によって運営され、モンスターは雇用されている働き手だったのです。ベルはアントムルグのダンジョンの秘密の一端を知ってしまったクレイに、管理を手伝わないかと持ちかけました。クレイはダンジョン最深部へ向かった父ブランスの手がかりが見つかるかも知れない、と考えてその提案を受けるのでした。

そして、そこからクレイの世にも奇妙な裏方の戦いが始まります。

可愛いけど可愛いだけじゃない!漫画『ダンジョンの中のひと』登場人物紹介

主人公はまだ若い少女のクレイ。ダンジョン運営にスカウトされるまでは、シーフギルドに所属する一匹狼のシーフでした。幼少期から父ブランスに鍛えられており、1人になってからも鍛錬を続けた結果、単独での戦闘力や探索のセンスは作中屈指です。

父の教えもあってかなりしっかりした性格。冷静沈着な思考から基本的にツッコミ役ではあるものの、戦闘外のことになると(たとえ一般常識でも)途端にポンコツとなり、魔法などの小難しい理論を前にすると思考停止することもしばしばあります。

パーティ攻略が原則のダンジョンで好んで単独行動していたため、運営に回ってからモンスターたちが密かに「友達いないさん」と呼んでいたことが発覚。会話があまり得意ではないせいか、実際に友達はないようですが……。

「ベル」ことベイルヘイラ・ラングダスは、作中の舞台であるアントムルグのダンジョンの管理人です。他にも裏方はいるものの、管理する立場としてはクレイが来るまでは1人でした。

普段はローブを着たおっとり系の少女でしかありませんが、秘めた能力はクレイを遙かにしのぎます。強大な魔法使いでありながら、体術でもクレイと互角以上。

管理人と同時に最下層の10階を統べる階層ボス「フロアガーディアン」も兼任していて、早い話がベルこそがダンジョンのラスボスです。物語が進むと、ダンジョンのルールを逸脱した者を葬る「処刑人」としての姿も見せます。

広い視野を持っていて管理者や上司としては優秀な一方、選択肢が多いと翻弄されがち……要するに優柔不断で、物を捨てるのが非常に苦手。クレイが来るまでは制御室や倉庫がゴミで溢れかえる汚部屋と化していました。

そんなクレイの下で長年働いているのが、ドワーフのランガドです。本来は鍛冶師なので武器・防具の制作を得意としていますが、アイテム作りにも長けていることからダンジョン内の宝箱および中身のアイテムの作成、管理を任されています。頑固オヤジ然として口は悪いものの、実は仲間思いです。クレイ以前の先代管理者の時代から働いているとか。

本編にはほとんど出てきませんが、クレイの父ブランスも重要な人物。今のクレイでもかなわないほどの腕前でしたが、3年前にアントムルグのダンジョンへ挑戦して以来、行方不明のままです。モンスターたちには「風切り」の異名で恐れられていたようですが……。彼の生死、足取りを見つけるのがクレイの目標。

ダンジョンを裏側を描くのがユニーク!漫画『ダンジョンの中のひと』の魅力

漫画『ダンジョンの中のひと』はファンタジー世界のゆるめな日常作品であると同時に、ダンジョン運営に焦点を当てたお仕事漫画になっているのが面白いです。

本作のゆるさの要因となっているのが、主要キャラであるクレイとベルの外見の可愛さでしょう。2人とも「まんがタイムきらら」系の4コマ漫画に通じる、ほのぼの萌え作品っぽいビジュアルなのです。それでいて百戦錬磨の手練れなため、緊迫した戦闘シーンで見せる強者の一面とのギャップがたまりません。

そしてもう1つの魅力であるダンジョン運営の設定は、結構練り込まれています。天然ダンジョンと人工ダンジョンの2種類があり、アントムルグのダンジョンは後者です。内部施設の保守点検に適切なモンスターの配置、冒険者がゲットするお宝の製作・補充・再配置……などなど。

RPGでよくある繰り返しダンジョンに潜った時、モンスターやお宝が復活している理由がちゃんと考えられています。

ちなみに適切な配置とは、低階層には雑魚モンスターや価値の低いお宝を設置して、下に行くほど難易度と報酬のレア度が上がっていくバランス調整のこと。冒険者を完全シャットアウトしたり(ルールに沿っていればお客様)、戦力を強化してダンジョン外を侵略するといった目的はありません。

裏側ではモンスター(と運営)同士の交流もあり、見た目が凶悪なのに意外と理性的で、愛嬌のある種類もいるのが笑いを誘います。彼らは大半が雇用された存在。宝石を触媒として魔法の複製体に意識を宿して本体は安全な場所から遠隔操作、倒されれば適宜、次の複製体に乗り移って復活する……というサイクルで働いて(戦って)いる設定が興味深いです。

何度倒しても出てきたり、倒したモンスターから価値のあるお宝が出てくるのはRPGのお約束ですが、そこが見事に説明されていてちょっと感動しました。

なお、ほのぼのお仕事ファンタジーが『ダンジョンの中のひと』の魅力ですが、時々シビアなシーンも登場します。ダンジョンの戦闘が命のやりとりであることを強く意識させる展開によって緊張感が生まれ、普段のゆるさがより際立つ仕掛けとなっています。

漫画『ダンジョンの中のひと』おすすめエピソード①【第1巻6話ネタバレ注意】

ベルの話によると――。先代管理人の時代、冒険者パーティのほとんどは前衛職と魔法使いによる火力押しが主流でした。ところが、どれほど優秀なパーティでもトラップのたぐいには無力。死因の8割がトラップといった有様でした。

そこで先代管理人は、アントムルグに本家シーフギルドがなかったのをいいことに、冒険者を密かにバックアップするための独自の「アントムルグのシーフギルド」を設立。先代は探索用の特殊なバッグと帰還用のスクロール(呪文書)をシーフにのみ貸与することで、パーティへのシーフ採用率をアップさせて全体の生存率向上を計ったのです。

運営側に回って初めて聞いたその事実に、クレイはショックを受けました。

アントムルグに限った話ではあるものの、要するにダンジョンとシーフギルドの運営が同一で、ずぶずぶの関係だったわけですから。裏の仕組みとしては面白いですが、攻略の達成感も報酬のありがたみも、結局はベルのさじ加減……と思うと、冒険者の立場で考えると複雑な気分になるのも仕方ありません。

なお、シーフが冒険中のパーティの生存率に関わる、というバランス設定は古典RPG『ウィザードリィ』を彷彿とさせます。ラスボスがダンジョンを管理している点も、同作の影響かも知れません。

漫画『ダンジョンの中のひと』おすすめエピソード②【第2巻11話ネタバレ注意】

ダンジョン内での探索者の食事。それは最低限の水と干し肉程度で、決して恵まれているとは言えませんでした。ところが運営に回っても、クレイの食生活はそのまま。不審に思ったベルが聞いてみると、「料理はプロに任せるべき」という父親の方針を鵜呑みにして、料理のやり方を一切学んでこなかったことが判明します。

残念ながらベルもランガドも、人に教えられるほど得意ではありませんでした。そこで急遽呼び出されたのが、「アントムルグのシーフギルド」のギルドマスター補佐フーリン。フーリンは食材も調理設備も潤沢に揃っているのに、ほぼ宝の持ち腐れ状態なことに半ば呆れつつ、初心者にも出来そうなメニューを披露します。

ダンジョン運営の立場上、裏事情に精通した者しか駄目とはいえ、他愛のない料理教室のためにギルドマスターの補佐を呼びつけるという暴挙。なんでも出来そうなクレイが、意外とポンコツなのも相まってじわじわと笑いの込み上げてくるエピソードです。

どこか父を盲信している節のあるクレイですが、この一件で教育方針に疑問を持つのもポイント。親離れや成長を感じさせました。

漫画『ダンジョンの中のひと』おすすめエピソード③【第3巻16話ネタバレ注意】

アントムルグの街は元々人里離れた僻地でしたが、ダンジョンが発見されたことで人が集まり、宿や露店の集落から発展してきたという歴史があります。そのせいか王国の領地内にあるものの、例外的に自治権を認められていました。

……が、それは表向きの話です。過去にはアントムルグのダンジョンと王国および本家シーフギルドとの間でいざこざがあり、血みどろの暗闘の果てに、ダンジョン側が実力で承認させたというのが真相でした。

そしてその承認には、国王の代替わりごとに決戦の場を設けて、王国側の代表がダンジョン代表に勝利し場合は管理権を譲渡する条件が付けられていたのです。王国はダンジョンを支配下に置いて、貴重な武具やアイテムを独占するチャンスを虎視眈々と狙っていました。

クレイが運営に携わるようになったのと前後して、若きルグランド王が新たに即位。王国との契約に従い、ベルは代表者としてクレイを率いて決戦に出向くのですが……。卑怯な手も辞さない王国代表に対して、ベル(と人質にされそうだったクレイ)が手加減して正々堂々とねじ伏せるのが痛快です。

ラスボスとしてのベルの風格をまざまざと見せつけられるエピソードとなっています。

2024年の夏シーズンに放送!アニメ『ダンジョンの中のひと』はどうだった?

アニメ『ダンジョンの中のひと』は2024年7月から9月にかけて、毎日放送・TBS系の深夜アニメ枠「アニメイズム」で放送されました。

アニメ版の制作スタジオは「オー・エル・エム」。主に『ポケットモンスター』をはじめとするキッズアニメを手がける会社ですが、原作が線の少ないデフォルメ調の絵柄なので、特に違和感はありませんでした。

主要キャラクターのクレイ役はアニメ『ダンジョン飯』でマルシルを演じた千本木彩花、ベル役はアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』で伊地知虹夏を演じた鈴代紗弓です。第1巻発売記念PVではそれぞれ花守ゆみりと内田愛美でしたが、アニメ化に際して交代となりました。

肝心の評価ですが大きな改変はなく、やりとりに多少カットはありますがほぼ原作通りに作られており、原作読者からもアニメ視聴者からもおおむね高評価でした。ユニークなお仕事モノ、日常ファンタジーとして受け入れられたようです。

ただアニメ版ならではの特徴に乏しく、淡々と進む印象の原作漫画に対して、ややテンポが悪いような印象もありました。感じ方は個人差があるため一概には言えませんし、雰囲気が損なわれているわけではないので、アニメ『ダンジョンの中のひと』は原作漫画ファンならとりあえず見ておいて損はないでしょう。

アニメの範囲は第1巻から第3巻までで、最終回のラストは原作23話にアニメオリジナルの場面を繋げて締めくくられました。第2期の制作は未発表ですが、あるとすれば第4巻からになります。ただし、現在のところ第5巻が最新なので1クール分やるにはストックが足りていません。

漫画『ダンジョンの中のひと』はだいたい年1冊ペースで単行本が出ているため、第2期のアニメ化にはしばらくかかるでしょう。アニメで知って続きが気になる方は、原作漫画第4巻を読むのがおすすめです。

作者・双見酔

漫画『ダンジョンの中のひと』の作者は漫画家の双見酔です。詳しいプロフィールは非公開。

元々は同人作家として活動しており、2003年『ラグナロクオンラインアンソロジーコミック 7』で短編を発表。2006年、アンソロジー集に掲載した短編漫画を1本にまとめた『ラグナロクオンライン つづく大地』がマジキューコミックスから発売され、これが実質的な商業デビューとなります。

『ダンジョンの中のひと』以外の代表作は、2015年から2018年にかけえ連載された漫画『魔法少女なんてもういいですから。』。こちらは魔法が当たり前に存在する架空の現代日本が舞台のコメディで、2016年に短編アニメ化されて2期にわたって放送されました。

双見酔の作品は、シンプルな作画による可愛らしい女性キャラクターが持ち味。オリジナル作品は基本的にゆったりした世界観のものが多いですが、風刺を効かせたシビアな内容も少なくありません。

もし『ダンジョンの中のひと』が気に入ったのなら、他の作品に手を出してみるのもおすすめです。


漫画『ダンジョンの中のひと』は現在も連載中です。双葉社が運営するマンガアプリ「マンガがうがう」にも掲載されており、最新巻を含む連載最新話まで基本無料で読めます。TVアニメで原作漫画に興味が沸いた方は、そちらから読み始めるのがおすすめです。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る