こんなはずじゃなかった? 人生を捻じ曲げた本

こんなはずじゃなかった? 人生を捻じ曲げた本

更新:2021.12.15

一体何がどうしてこうなったのか。何か原因があったのではないか。あの時読んだ本、聴いた音楽、観た映画……。というわけで今回は、思い描いていた生き方を捻じ曲げてしまった気がするステキな4冊を紹介しようと思う。品行方正に生きたい方はくれぐれも真似せぬよう。

2013年夏、西千葉駅前整骨院でバンド結成。Dinosaur Jr.とThe Strokesが恋人同士になったような、そこから紆余曲折を経てThe LibertinesとHappy Mondaysが飲み友になってしまったかのような、まるで、ビバリーヒルズ青春白書的な、なんでもありなニューオルタナティブサウンドを特徴とする。 シャンプーをしながら無意識で口ずさむぐらい、曲がポップ。そして、正統派ソングライターの橋本の歌詞はぐっとくるばかりか、歌詞内のさりげない小ネタにも知的センスを感じてしまう。 2014年上旬から数々のオーディションに入賞し、UK.PROJECT主催のオーディションにて、応募総数約1000組の中から見事最優秀アーティストに選出され、同年12月10日にUK.PROJECTから2曲入り8cmシングルをリリース。2015年3月18日にファーストミニアルバム『olutta』をリリースし、FX2015、VIVA LA ROCK2015、MUSIC CITY TENJIN2015への出演を果たす。同年12月18日にはシングル『TVHBD/メリールウ』をライブ会場と通販のみ限定500枚でリリースしたが、3ヶ月ですべて完売。2016年6月8日にファーストマキシシングル『友達にもどろう』をリリース。同年10月26日にファーストアルバム『ME to ME』をリリースする。 Helsinki Lambda Club HP http://www.helsinkilambdaclub.com
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一体何がどうしてこうなったのか

歳を取るごとに1年経つのが早くなっていくように感じる。幼い頃にはどんなものにもなれる気がした。漫画家、サッカー選手、ホテルマン……色んな大人に憧れて、そんなカッコいい大人になれると思っていた。身長は178㎝、サラツヤなストレートヘアーに端正なスマイル、週末はスポーツタイプの車で軽やかにレインボーブリッジを走っていると思っていた。小学5年生の時に担任の先生から「あんたの目は死んでいる」と暴言を吐かれても、まだ大丈夫だと信じていた。

時は流れて2017年、今年で27歳。同級生たちは社会人としての脂が乗ってきたり結婚したりしている。私はというと、毎日昼前にもぞもぞと起き上がり安いパスタを茹で(この時間だけは村上春樹的だと思っている)、ライブがあれば煙草臭い地下室で昨日まで存在したはずの無料動画がウェブサイトから消えてしまった悲しみを爆音に乗せて歌ったり、ライブが無ければ髪もひげも整えずに寝巻のままでインドネシアのバンドの曲をネットでディグったりしている。税金のことも保険のことも為替のこともよくわからないし、社会を憂う以前に公共料金の支払いを忘れて水道を止められそうになったりしている。

一体何がどうしてこうなったのか。何か原因があったのではないか。あの時読んだ本、聴いた音楽、観た映画……。というわけで今回は、思い描いていた生き方を捻じ曲げてしまった気がするステキな4冊を紹介しようと思う。品行方正に生きたい方はくれぐれも真似せぬよう。

健全な精神は早くも死んだ

著者
古谷 実
出版日
2011-04-12
稲中に出会ったのは遡ること20余年。自慢じゃないが平成生まれで稲中をリアルタイムで読んでいた人間は私の他には極めて少ないはずだ。同じマンションに住む幼馴染の友人には歳の離れた兄がいて、その兄の部屋に忍び込んだ時に無造作に転がっている稲中を拾って読んだのが始まり、そして運の尽き。

子供が見てはいけないものであることはなんとなくわかった。エッチな場面が沢山出てくるから(初めて女性の裸を見たのもこれかもしれない)。ドキドキしたし下ネタの意味やものまねの元ネタなども全然わからなかったけれど、勢いのある絵(キクちゃんとか)やナンセンスなギャグなどで意味を超えて面白かった。

その出会い以来バイブルとして何度も読み返しているが、思春期に入って下ネタの意味などがわかるようになった時には妙な感動があった。後期は哲学的な問いなども散りばめられており深みも出てくるので、漫画に面白さプラスアルファの要素を求めている人にもオススメだ。ただ、1巻はトラウマ級に絵が下手なことと、古谷実氏特有のギャグセンスがまだしっかりと打ち出されていないことなどから、3巻以降くらいから読むのもオススメ。

読んだが最後、呪縛のように

著者
芥川 龍之介
出版日
1991-03-20
バンドをやりたいと思っていたものの、まだ自分で曲を書いたこともなかった中学2年生くらいの頃に読んだ地獄変。鬼気迫る本物の地獄を描くためには本物の地獄を見る必要があると考え、自分の最愛の娘が乗った車が燃えるのを恍惚と眺める絵師の話。芸術至上主義の是非は置いておいて、人の心に強く訴えるものを作るうえでの真理がこの物語にはあると妙に腑に落ちたことを覚えている。

創造物である以上は想像力が不可欠なことも真理であるし、夢を見させるようなものはあふれんばかりの想像力の賜物だと思う。ただ、私の創作のテーマの1つに”グッとくる”という感覚があるのだが、そのグッとくるもの人の心に訴えるものを作るには痛みや悲しみといった自己の経験も大切だ。おふざけの曲も沢山作るけれど、とりわけグッとくるものを作ろうとする時に、自分の痛みや感情にどれだけ肉薄できているだろうか ?と、少し後ろめたい気持ちでこの物語が脳裏をよぎる。呪縛のような一冊。

自分と重ね合わせて、落ち込んだり励まされたり

著者
志村 正彦
出版日
日本のロック史の宝、フジファブリックの志村さんによる、メジャーデビューから彼の死の直前までの全日記集。ロックバンドの人間とは思えない些細な日常に共感したり(意外と地味な生活が強いられることも今ならよくわかる)、これだけの努力をしないとあんな唯一無二の曲の数々は作れないんだと反省したり、今の自分と同じ歳の時はあの作品を作ってあの場所でライブをしていたのかと焦ったり、私のバンド人生に常に寄り添ってくれている1冊。

〇〇になりたい! と思って頑張っても完全にその人になり切ることはできないし、意味がないし、それでは超えることもできないけれど、憧れを持つことってとても大事だなとよく思う。世代から世代への憧れの繰り返しがロックの歴史だとも思うし。そんな風に誰かに憧れつつも自分のやり方で肩を並べ、いずれは超えていけるようになりたい。『地獄変』ではないけれど、この人も音楽に全てを捧げていたんだなと読んで改めて痛感する。この人のせいで私もロックにバカ正直に生きる羽目になってしまったのであった。

不安タスティックな生き方

著者
["みうらじゅん", "リリー・フランキー"]
出版日
2011-11-23
タイトルの通り、どうやら私たちはいずれ死ぬのである。どうせいつかはみんな死ぬし、死んだら富も名声も持っていくことはできないのに、何をみんな不安に思って足並みそろえて真面目に生きようとしてしまうのか。

この本はみうらじゅん氏とリリー・フランキー氏というダメな大人(すみません)二大巨頭が、「人生」「仕事」「生と死」などの大きなテーマについて時に真剣に、時に溜息が出るくらい脱線しながら語りつくした対談集である。両氏共に本業が何なのか自分にも世間にもわからないくらい色んなことに手を出し、よくわからないことで手にしたお金でいつの間にか生活していたという”不安タスティック”な生き方を実践し続けているので、社会とか組織とかよくわからないまま何でどれくらい収入を得たのか見てもよくわからない明細をもらう音楽稼業を続ける私としては、いっそう両氏の言葉や考え方に勇気をもらう。

ここには挙げ切れないくらいの名言の数々が飛び出すのだが、それと同じくらいもしくはそれ以上に繰り出される下ネタの数々によって、高尚さが完全に削ぎ落された至高の便所の読み物のように仕上がっている(本当にすみません)。人生をあれやこれやと考えすぎて疲れてしまった人にも、考えなさすぎて逆に不安な人にもオススメ。みんながアウトサイダーになってしまえば、誰もアウトサイダーじゃなくなるのではないかしら。

この記事が含まれる特集

  • 本と音楽

    バンドマンやソロ・アーティスト、民族楽器奏者や音楽雑誌編集者など音楽に関連するひとびとが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、写真集にビジネス書、自然科学書やスピリチュアル本も。幅広い本と出会えます。インタビューも。

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