205年11月よりNetflixで岡田准一主演のドラマの独占配信が決定し、ますます盛り上がりを見せている今村翔吾のベストセラー『イクサガミ』。原作小説は『イクサガミ 天』『イクサガミ 地』『イクサガミ 人』が刊行され、完結間近となっています。今回は時代小説とデスゲームを掛け合わせた令和の伝奇アクション、『イクサガミ』シリーズの魅力をネタバレありでご紹介していきます。
時代は明治11年、日本全国の都市で突如として奇妙な新聞がばら撒かれました。豊国新聞と題されたその新聞には「武勇に優れたものに十万円を得る権利を与える」と書かれており、腕に覚えのある武芸者が、天龍寺の境内に続々と集まってきます。
その一人・嵯峨愁二郎にはどうしても大金を手に入れねばならぬ事情がありました。最愛の妻子が病に倒れ、治療費を求めていたのです。他にも大小様々な理由で十万円を欲する者共のべ292人が、夜の帳が降りた境内に溢れ返っていました。
告知された刻限に姿を現したのは槐と名乗る胡乱な男と彼が率いる黒子たち。槐は一から二百まで番号がふられた木札を参加者に配り、東海道を渡り江戸を目指しながら、この札を奪って殺し合えと命じました。
俄かに札争奪戦の火蓋が切って落とされ、方々で乱闘騒ぎが巻き起こる中、愁二郎の目に付いたのは齢十二になる華奢な少女・双葉。病床の母の治療費の為、「蠱毒」への参加を決めた健気な娘です。
幼い双葉を見殺しにできず助けてしまった愁二郎は、彼女を守って東海道を行くことになります。のちに忍の響陣が仲間に加わり、愁二郎たちは道々凄まじい死闘を演じながら、終点の江戸を目指すのですが……。
2025年11月より岡田准一主演のドラマがNetflixで独占配信が決定した『イクサガミ』。作者の今村翔吾は今一番脂がのっている時代小説作家で、第10回角川春樹小説賞、︎第41回吉川英治文学新人賞、︎第11回山田風太郎賞などを受賞しています。
代表作は『くらまし屋稼業シリーズ』『羽州ぼろ鳶組シリーズ』他。今村翔吾公式サイトにて作者の近況や最新刊の告知を行っています。『羽州ぼろ鳶組シリーズ』は『火喰鳥』のタイトルでアニメ化が決定し、先日PVが発表されました。
インタビューにて執筆背景を聞かれた今村翔吾は「山田風太郎を意識した」と発言。山田風太郎とは言わずと知れた伝奇小説の大家で、『バジリスク~甲賀忍法帖~』の原作となった『忍法帖シリーズ』や、ドラマ化もされた『警視庁草紙シリーズ』で一世を風靡しました。
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本作『イクサガミ』もまた、随所に山田風太郎リスペクトを感じさせる傑作に仕上がっています。当初は『イクサガミ 天』『イクサガミ 地』『イクサガミ 人』の三部作の予定でしたが、話の尺が足りず、四部作に変更されました。『モーニング』(講談社)で立沢克美が作画を担当するコミカライズも連載中。ドラマの主演兼プロデューサーを務める岡田准一は以前から今村翔吾のファンで、著作を愛読していたでそうです。
文庫のイラストは『東京喰種』『超人X』がヒットした漫画家・石田スイが手掛けています。
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時代小説は読みにくい、難しいと敬遠している若い世代から絶大な支持を獲得したのも特徴。テンポ感抜群の殺陣は迫力満点。地の文はサクサク進行し、リーダビリティが非常に高いのが長所となっています。
これまで時代小説に馴染みがなく、明治初期の貨幣価値がわからない読者への配慮も行き届いており、「蠱毒」の賞金十万円を「警察官の給料二千年分」と実にダイナミックにたとえています。
個性的なキャラクターの活躍も大きな見所。
伝説の流派を継承した剣客・嵯峨愁二郎を筆頭に、彼と旅を共にする心優しい少女・双葉や元伊賀同心の暗器使い・響陣、「乱切りの無骨」の異名をとる戦闘狂・貫地谷無骨や愁二郎に復讐を企む兄弟弟子など、敵味方問わず魅力的な登場人物たちが波乱万丈なストーリーを盛り上げてくれます。
日本を代表する街道、東海道を舞台にしているのも面白い点。「蠱毒」の参加者は天龍寺からスタートし、木札を奪い合いながら東海道を遡り、期限までに江戸に辿り着かねばなりません。各関所ごとに通れる人数が制限されている為、愁二郎と双葉は後発組の標的となり、行く先々で襲撃を受けます。
まさに命がけの殺し合い、仁義なき戦い。そこに遊戯を主催した黒幕の政治的思惑、追うものと追われるものがめまぐるしく剣戟の火花を散らす因縁が錯綜し、名前通りに権謀術数渦巻く「蠱毒」の様相を呈してきます。
本作のストーリーラインは大きく分けて三本、同時進行で走っています。一は東海道を舞台にした「蠱毒」の勝敗の行方、二が「京八流」後継者たちの因縁、三が主催者の陰謀。この三本が密に絡み合い、物語を転がします。
特に注目してほしいのが一と二。「蠱毒」参加者の中には愁二郎と共に育った「京八流」の後継者が複数おり、その全員が師の仇として彼を狙っています。理由は少年時代の愁二郎が「京八流」後継者の最終試験として課された仲間内の殺し合いを拒み、掟を破って逃亡したから。早い話が裏切り者です。
愁二郎の逃亡がきっかけで師が非業の最期を遂げたのち、残された仲間たちは山を下り、離散せざるを得ませんでした。なお「京八流」の奥義は八人の後継者に受け継がれるしきたりで、その全てが異なるスタイルを持っています。
愁二郎の「武曲」は軽やかな舞踊の如く手足を捌き、彩八の『文曲』は蜃気楼のような幻を見せて刀の軌道をブレさせ、四蔵の「破軍」はあらゆる物を粉砕する攻撃特化型。当然相性の良し悪しがあり、周囲の地理や状況を利用して巧妙に立ち回れば、力を相殺することが可能です。
愁二郎は「蠱毒」から遡ること四年前に兄弟子の赤池一貫を殺害し、今際の際の彼から奥義「北辰」を譲り受けました。そうです、「京八流」の奥義は仲間から奪えるのです!
既に「武曲」「北辰」を習得済みの愁二郎を倒し、他の仲間にも勝利すれば、「京八流」の真の後継者として奥義の完成に至ることも夢ではありません。
彼等にとって「蠱毒」は裏切り者の兄弟子を葬り、「京八流」の全奥義を修め、さらには十万円も手に出来る絶好の機会なのです。
国士無双の武芸者が入り乱れる東海道の戦いを制し、賞金十万円を手にするのは誰か?
骨肉相食む争いを制し、「京八流」の真の後継者となるのは誰か?
殺し合いの中で殺し合いを仕掛ける入れ子構造のデスゲーム、これぞ『イクサガミ』の面白さを加速させる要因。「蠱毒」を主催した黒幕の正体や真意も読者の興味を引っ張る強烈なフックとなっており、外と内、両方で進行する物語から目が離せません。
今村翔吾のおすすめ作品4選!『童の神』だけじゃない、直木賞候補作家の書籍
京都府出身の作家、今村翔吾。2017年に発表した『火喰鳥』で本格的にデビューをすると、翌2018年には『童の神』で「直木賞」にノミネート。一躍注目を集めている、勢いのある作家です。この記事では、そんな彼の書籍のなかからおすすめのものを紹介していきます。
今村翔吾『イクサガミ』を読んだ人には山田風太郎『甲賀忍法帖』がおすすめです。本作は御大のベストセラーとなった代表作『忍法帖シリーズ』第一弾。『バジリスク~甲賀忍法帖~』のタイトルで漫画化・アニメ化もされています。
伊賀忍VS甲賀忍の壮絶な異能バトルに、甲賀の若き棟梁と伊賀の姫君の悲恋を絡めたデスゲームの行方は、多くの読者を熱狂の坩堝に叩き込みました。
山田風太郎の奇想が炸裂する傑作伝奇小説、未読の方はぜひご覧ください。
続いておすすめするのは青崎有吾『アンデッドガール・マーダーファルス』。2023年にアニメ化されました。
人狼・人魚・吸血鬼など、異形の存在が跋扈する架空の19世紀初頭を舞台に、不老不死の生首探偵・輪堂鴉夜と半人半鬼の助手・真打津軽の異色コンビが名推理を披露する特殊設定ミステリーは、幅広いファンを取り込むことに成功しました。
ヒロインは生首!人外×異能な特殊設定ミステリー 青崎有吾「アンデッドガール・マーダーファルス」ネタバレレビュー
2023年にアニメ化され好評の内に終了した青崎有吾のミステリー小説「アンデッドガール・マーダーファルス」。 軽佻浮薄な鳥籠使い・真打津軽、不老不死の美少女・輪堂鴉夜、鴉夜に仕える武闘派メイド・馳井静句が、鴉夜の胴体を奪った謎の教授一味を追い、欧州を旅して回る本作は、19世紀末に怪物が存在するファンタジー設定とロジカルな本格ミステリーを融合させ、ライトノベルのような読みやすさで多くの支持を獲得しました。 今回はそんな「アンデッドガール・マーダーファルス」のあらすじや魅力をご紹介していきます。