ヒロインは生首!人外×異能な特殊設定ミステリー 青崎有吾「アンデッドガール・マーダーファルス」ネタバレレビュー

更新:2023.10.16

2023年にアニメ化され好評の内に終了した青崎有吾のミステリー小説「アンデッドガール・マーダーファルス」。 軽佻浮薄な鳥籠使い・真打津軽、不老不死の美少女・輪堂鴉夜、鴉夜に仕える武闘派メイド・馳井静句が、鴉夜の胴体を奪った謎の教授一味を追い、欧州を旅して回る本作は、19世紀末に怪物が存在するファンタジー設定とロジカルな本格ミステリーを融合させ、ライトノベルのような読みやすさで多くの支持を獲得しました。 今回はそんな「アンデッドガール・マーダーファルス」のあらすじや魅力をご紹介していきます。

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「アンデッドガール・マーダーファルス」の簡単なあらすじと登場人物紹介(ネタバレあり)

本作は見世物小屋で怪異と立ち回りを演じる青年・真打津軽と、彼を勧誘に来た輪堂鴉夜、ならびに馳井静句の出会いから幕を開けます。

19世紀末、日本は文明開化の時代を迎えていました。この世界には人魚・吸血鬼・人狼などの怪物が存在し、人類と争いが絶えません。故に明治政府は「怪異一掃」御布令を出し、日本全国津々浦々に生息する人外を駆逐していました。

津軽の体には日本の固有種である怪物・鬼の血が流れており、怪力を発揮できます。鴉夜は「不死」と呼ばれる日本に一匹のみの怪物で、鬼にしか殺せません。

ある時鴉夜が暮らす屋敷を異邦人の一味が襲撃。住み込みで働いていた静句の係累を殺戮したのち、鴉夜の首から下を奪って逃亡します。現在の鴉夜は生首だけの姿となり、静句が携帯する鳥籠で運ばれていました。

鴉夜たちと話し合いを持った津軽は、彼女の体を奪った「教授」と呼ばれる老人が、自分に人体実験を施し、半人半鬼の異形に変えた男と同一人物と確信。

鴉夜たちの旅に付き添い、欧州へ飛びました。

平安時代から生き続けてきた鴉夜は、卓越した洞察力と明晰な頭脳を誇り、怪物絡みの様々な事件を解決していきます。宿敵の情報を求め欧州諸国を探訪するうち、怪物専門の探偵の活躍は噂を呼び、「鳥籠使い」の異名が広まりました。

フランスのブルゴーニュ地方・ジーヴルでは、人狼の領主ジャン・ドゥーシュ・ゴダールに妻を殺した犯人を見付けてくれと頼まれ、次に立ち寄ったベルギーでは、生みの親にあたる科学者殺しを疑われた人造人間、ヴィクター・フランケンシュタインの無実を証明します。ノルウェーでは法廷に殴り込み、人魚の冤罪を晴らしました。

不可解な事件に首を突っ込む過程で、ベルギーの名物警部やイギリスの探偵シャーロック・ホームズ、およびその助手のジョン・H・ワトソンと親しくなった鳥籠使い一行は、遂に黒幕の教授……ジェームズ・モリアーティーと再会を果たしました。

モリアーティーの傍らには津軽と同じく半人半鬼の青年・切り裂きジャック他、「黄金の夜明け団」を破門された魔術師アレイスター・クロウリー、媚薬と化した体液で敵を虜にするレズビアンの女吸血鬼カーミラ、教授に拾われたヴィクター・フランケンシュタインが付き従っていました。

彼等は「夜宴(バンケット)」と名乗り、怪物たちの国の樹立を望んでいました。

八十日間世界一周を成し遂げた偉大なる冒険家、フィリアス・フォッグの邸宅に集った敵味方。そこに怪盗アルセーヌ・ルパンとオペラ座の怪人・ファントム、怪異討伐を目的に少数精鋭を組織した保険会社「ロイズ」の面々も居合わせ、事態は混迷の一途を辿ります。

鳥籠使い一行は教授を捕まえ、鴉夜の体を取り戻すことができるのでしょうか?

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著者
青崎 有吾
出版日
2015-12-17

ヒロインは生首!特殊設定と本格ミステリーが融合した世界観

「アンデッドガール・マーダーファルス」(青崎有吾)は講談社タイガより、既刊4巻まで発売されています。最新4巻は番外編を集めた短編集であり、津軽たちの過去や旅立ち前のエピソードが収録されていました。

題名の「マーダーファルス」は笑劇、即ち喜劇のこと。アンデッドガール=鴉夜が体験する、喜劇的な事件の数々をさしていると思われます。

略称は「アンファル」、カバーを担当しているのは西尾維新の「物語」シリーズのコミカライズで有名な漫画家・大暮維人。小説とは別に月刊少年シリウス掲載の漫画版もあり、こちらは友山ハルカが作画を担当しています。

著者
["友山 ハルカ", "青崎 有吾"]
出版日

2023年7月~9月にかけてアニメも放映され、アーティスティックな演出や耽美な表現が話題を呼びました。

青崎有吾の代表作には「体育館の殺人」「水族館の殺人」を含む裏染天馬」シリーズドラマ化もされた密室専門バディミステリー「ノッキンオン・ロックドア」シリーズがあります。

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学校という閉ざされた空間で起こる事件や謎を解決する、学園ミステリー小説。学生はもちろん、大人が読んでもほろ苦い青春を感じられる作品が多数発表されています。この記事では、学園ミステリー小説のなかから特におすすめの作品をご紹介します。

著者
青崎 有吾
出版日
2015-03-12
著者
有吾, 青崎
出版日

主要キャラは以下三名。

  • 真打津軽 青髪青瞳の青年。実験体としてモリアーティー教授に拉致監禁され、桁外れの怪力と自然治癒力を秘めた鬼の血を混ぜられた。定期的に鴉夜の体液を摂取することで体の崩壊を遅らせている。落語や駄洒落が好き。
  • 輪堂鴉夜 平安時代から生き続ける不死の少女。推理の天才で名探偵。生首だけの姿になっても饒舌は衰え知らず、普段は津軽や静句が持った鳥籠に入って移動する。性別種族問わず寝る快楽主義者で、使用人の静句と体の関係を持っている。
  • 馳井静句 一族代々鴉夜に仕えてきた使用人の女性。鴉夜に絶対的な忠誠を誓っている。津軽が嫌い。得物はスペンサー騎兵銃に日本刀を仕込んだ「絶影」。

 

ヒロインが生首というだけで掴みはOK、インパクト絶大ですね。しかもこの生首が喋る喋る。体を失ったハンデなど感じさせない程の弁舌を振るい、難解な密室トリックや真犯人を暴いていきます。

文体は大変読みやすく、ライトノベルのようにするする頭に入ってきます。

本作のすごい所は、ファンタジーの王道的な異能バトルと本格ミステリーを見事に両立させている点。怪物と人類が存在する世界観だからといって、魔法や超能力に頼った解決に逃げないので安心してください。

「アンデッドガール・マーダーファルス」は特殊設定ミステリーに属します。

特殊設定ミステリーの定義は「SFやファンタジー、ホラーなどの設定を用い、現実世界とは異なる特殊なルールを導入したミステリー作品」であることで、本作も怪物の生態や習慣を取り入れながら、ロジカルな解答を提示しています。

一番わかりやすいのが一巻、ジャン・ドゥーシュ・ゴダール卿の愛妻ハンナが殺害された事件。

事件の凶器はなんと「聖水を凍らせた杭」。聖水が吸血鬼の弱点なのを逆手にとり、自分から疑いの目をそらすのが犯人の狙いでした。さらに証拠隠滅を企み、聖水で火傷を負った自分の手を切り落としています。

しかしこの行為が裏目に出、「犯人は超回復力を持った吸血鬼」と特定されるのです。

特殊設定ミステリーは何でもありと侮るなかれ。特殊な設定であるからこそ、きちんとその世界のルールに準じ、合理的な解釈を成すのが「アンデッドガール・マーダーファルス」の魅力なのです。

著者
青崎 有吾
出版日

ポワロ、ホームズ、ルパン、ファントム……古典ミステリーをリスペクトしたパスティーシュ

続いて挙げる魅力は古典へのリスペクト溢れるキャラクターたち。「アンデッドガール・マーダーファルス」には、古今東西のホラー・SF・ミステリー小説に登場した奇人変人たちが集合します。

ホームズ&ワトソン、ルパン&ファントムに至っては準レギュラー枠を獲得。「夜宴」のメンバーからしてホームズの宿敵・モリアーティー、切り裂きジャック、女吸血鬼カーミラ、アレイスター・クロウリーと豪華絢爛。保険会社ロイズも実在しています。

一巻で登場したベルギー警察のグリ警部は、左右対称の黒髭がトレードマークの小男。ことあるごとに「灰色(グリ)の脳細胞」を自称するのが異名の由来です。ミステリー好きな方なら、この時点で正体を看破できるはず。

グリ警部の正体はミステリーの女王アガサ・クリスティーが生み出した名探偵、エルキュール・ポワロその人でした。

アガサ・クリスティー名作おすすめベスト10!【ミステリの女王】

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「ミステリの女王」と呼ばれる、20世紀に活躍したイギリス生まれの推理作家、アガサ・クリスティー。彼女の作品は様々な言語に翻訳され、愛されています。彼女の作品の中から、おすすめの10作をランキング形式で選んでみました。

著者
["アガサ クリスティー", "Agatha Christie"]
出版日
2011-04-05

イギリス編では名探偵シャーロック・ホームズとその助手ワトソンが仲間となり、ジュール・ベルヌ「八十日間世界一周」の主人公、フィリアス・フォッグもゲスト出演します。

そこにモーリス・ルブランが生み出した大泥棒アルセーヌ・ルパン、ガストン・ルルーが生み出したオペラ座の怪人も飛び入りするのですから、19世紀末の奇想天外なフィクションや荒唐無稽な史実が好きな方なら、血沸き肉躍る興奮を味わえること間違いありません。

山田風太郎の伝奇小説を彷彿とさせる、奇跡の共演が実演します。

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ジュール・ヴェルヌはその豊富な知識と想像力から、科学と冒険に満ちた物語で今なお語り継がれている作家です。H・G・ウェルズと共にSF小説の開祖と謳われるヴェルヌは誰もが知っている有名なタイトルを多数残しています。

世界中で大ヒット!ジュール・ヴェルヌの『八十日間世界一周』の連続ドラマが日本上陸!見どころを紹介!

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世界で大ヒット中の英国ドラマ『80日間世界一周』が動画配信サービス「スターチャンネルEX」にていよいよ配信開始!原作は『海底二万里』や『十五少年漂流記』で知られ、“SFの父”と呼ばれるフランスの巨匠、ジュール・ヴェルヌの同名小説『八十日間世界一周』です!今回は配信開始日の9月16日に実際に1話を見て、原作とドラマの見どころをご紹介します!

著者
ジュール ヴェルヌ
出版日
2001-04-16
著者
ガストン ルルー
出版日
2000-02-25

しかもただ登場させるだけにあらず、先駆者へのリスペクトを忘れない姿勢に脱帽。本作は新進気鋭のミステリー作家・青崎有吾が、古今東西の名探偵や怪物への愛を詰め込んだ珠玉のエンタメ小説にして、一流のパスティーシュなのです。

パスティーシュ

先行作品の登場人物を流用して物語を構成した作品のこと

ポワロにしろホームズにしろ使い捨ての噛ませ犬に堕すことはなく、鴉夜に負けず劣らず手強い名探偵として、抜群の推理の冴えを見せているのに注目してください。エキセントリックな言動はそのままに、あるいは当世風にブラッシュアップされ、さらにチャーミングな一面を開花させたといっても過言ではありません。

ホームズに至っては特殊スキル「場律(バリツ)」を習得済み。当て字からして斬新すぎる解釈です。

スパダリルパンとエキゾチック美男なファントムのバディ関係、二巻以降お約束となった女吸血鬼カーミラの乱交シーンなど、推理と戦闘以外にも見せ場はたくさん用意されています。

海外に限らず、小泉八雲や柳田国男、安倍晴明や蘆屋道満が出てくるのもポイント。蘆屋道満に関しては鴉夜の師匠で実は〇〇から来た淫奔な美女、と盛りすぎな設定でした。

上記に挙げたキャラクターの内、一人でも好きな人物がいるならぜひ手に取ってください。極上の燃えと萌えが堪能できます。

著者
["青崎 有吾", "大暮 維人"]
出版日
著者
["青崎 有吾", "大暮 維人"]
出版日

「アンデッドガール・マーダーファルス」を読んだ人におすすめの本

青崎有吾「アンデッドガール・マーダーファルス」を読んだ人には山田風太郎「警視庁草紙」をおすすめします。

本作は警察機構黎明期の明治を舞台に、実在の偉人変人が錯綜する伝奇ミステリー。警視庁のポリスと元同心のライバル関係や、それを経た泥臭い共闘に胸が躍りました。

東直輝のコミカライズもおすすめです。

著者
山田 風太郎
出版日
著者
山田 風太郎
出版日
著者
["山田 風太郎", "東 直輝", "後藤 一信"]
出版日
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