幸田露伴おすすめ傑作6選!読む勇気は、あなた次第。

更新:2017.1.30

少々難解なイメージのある幸田露伴の小説。しかし一度読み進めてみると、練りこまれた物語の面白さや登場人物の魅力にのめり込んでしまいます。熱心なファンが多いことも納得でしょう。代表作『五重塔』をはじめとする、おすすめ作品を紹介します。

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幸田露伴とは

小説だけに留まらず紀行や戯曲、さらには史伝など数々の名作を生み出した明治の文豪、幸田露伴。1867年に東京で生まれ、幼少期から文学に深く関わり、生涯にわたって研究熱心な人物であったと言われています。また、作家であり学者でもあったと言われるほど、真面目で勤勉な印象の強い露伴ですが、お酒や釣りが大好きだったというような人間味あふれるエピソードもあるようです。このことは、露伴の娘で自身も作家である幸田文の作品からもうかがえます。

そして1947年、満80歳でこの世を去るまでの間、多くの素晴らしい功績を残し続けました。一人の人物が書いたとは信じられないほどに、バラエティに富んだ数々の作品たち。それを可能にしたのは、彼のもつ圧倒的な知識と文学にかける凄まじいほどの情熱だったのではないでしょうか。露伴の作品を読み終えたとき、確かな充足感を味わうことができるはずです。

塔の建設に賭けた男

著者
幸田 露伴
出版日
1994-12-16

幸田露伴の名を確固たるものとした代表作。五重塔を建てることに恐ろしいほどの執着を見せた男が、周囲とぶつかり合いながらも塔を完成させていく物語です。また、後半部に嵐が吹き荒れる場面があるのですが、その描写が非常に素晴らしいことでも知られています。

主人公は、のっそり十兵衛と呼ばれる男。大工としての腕は一流であるにも関わらず、愚鈍な性格のせいで世間に認めてもらうことができません。ある日、五重塔建設の計画を聞きつけた十兵衛。既に先輩の源太が棟梁に選ばれているにもかかわらず、どうしても自分に担当させてほしいと頼み込みます。周囲からの反感を買いながらも、最終的に棟梁に任命される十兵衛。そんな中、源太の弟子に大怪我を負わされる事件が起こりますが、それでも仕事を休まない十兵衛を見て、周りの人間も少しずつ変わり始めます。十兵衛の熱意は、もはや仕事の域を超えたものとなっていたのです……。

仕事にはまっすぐだけれど空気を読まない十兵衛と、後輩想いで周りをよく見ている源太。とても対照的な二人が中心人物となっています。立派な塔を建てた十兵衛ですが、周囲の人間を振り回してきたことも事実でしょう。何かに打ち込むとはどういうことであるのか、この物語を読んでいると色々と考えさせられます。

そしてもう一つ、注目すべきは後半部の有名な嵐のシーンです。ついに塔が完成したところで、十兵衛たちの町に嵐が襲い掛かります。読んでいるだけで鼓動が高まる、激しく迫力のある描写。それを味わえただけでも、読んで良かったと思わせるほどの作品です。

 

一瞬にして奪い取られた幸せ

著者
幸田 露伴
出版日

『風流仏』は、彫刻家の悲恋を描いた、露伴の出世作です。

主人公は修行のため旅をしている彫刻家の珠運という男。途中で泊まった宿で、お辰という花漬け売りの女性に一目惚れしてしまいます。ある日珠運は、叔父により人買いに売り飛ばされる寸前のお辰を助け出します。その後、彼女に看病してもらったことをきっかけに、2人は結婚の約束を交わすのでした。しかし珠運の恋が成就したのはほんの一瞬のこと。突然現れた岩沼子爵の執事という男が、お辰のことを連れていってしまいます。悲しみに打ちひしがれた珠運は、部屋にこもって、お辰の彫刻をつくり始め……。

珠運から絶えず流れ出る、お辰への凄まじいほどの感情。その激しさに圧倒され、思わず見入ってしまいます。お辰と出会ってからというもの、彼女のことを考えずにはいられない珠運の苦悩がありありと伝わってくるのです。そして最後に珠運が作り上げた彫刻作品の描写には、ハッとさせるほどの美しさがあります。

たとえ少しの間でも、確かに二人の心は通じ合っていたはず。しかし、珠運の気持ちを置き去りにして、運命は残酷に動き出してしまうのです。恋に惑わされてしまった彫刻家の、あまりに切ない物語。最後に珠運のもとを現れたのは、本物のお辰だったのでしょうか。

どこか妖しげな世界観

著者
幸田 露伴
出版日
1990-11-16

『観画談』。苦学生である、通称「大器晩成先生」が主人公の物語。明らかに異色な存在でありながらも、その勤勉で立派な性格から、同級生たちに一目置かれている存在です。ところがある日、医者にも判断がつかない不明の病に襲われてしまいます。しばらく東京を離れることとなった大器晩成先生が各地を転々とし、たどり着いたお寺。しかし川の決壊の恐れから、高台にある草庵へ避難させられることになります。大器晩成先生はそこで、なぜか飾られている絵に引き付けられていくのでした。

お寺や草庵で出会う人物たちは、誰もがどこか浮世離れしており、不思議な空気が流れています。本当にただの人間なのか、と疑いたくなるほど。しかしそれぞれのキャラクターに独特の魅力があり、大きな事件こそないものの非常に味わい深い作品となっています。

交錯するそれぞれの運命

著者
幸田 露伴
出版日

漢文書き下し調で書かれたこの『運命』は、発表当時の時代の人たちにさえ、難解であったといわれています。中国の古典をもとにして作られたフィクションで、露伴はこれ以降も中国を題材とした作品を書き残しました。圧巻の情報量と内容の濃密さ、さらには文章も美しく、まさに名作といえるでしょう。

明の創始者である洪武帝は、自分の跡継ぎを息子である燕王に任せようと考えていました。しかし、それでは上の兄たちの反感を買うことになると助言を受け、孫である建文帝を皇帝とします。建文帝は心こそ優しいものの、戦いに関して甘いところがある人物。反対に叔父の燕王は、才能があり、威厳に満ちた人物です。建文帝の立場を心配した側近たちは、彼の脅威となりそうな人物を次々と排除していきます。しかし結果として燕王の怒りを買ってしまい、皇帝の地位を奪うべく戦いが始まります。その戦は長期にわたり、多くの犠牲者を出しました。

建文帝と燕王の逃れることのできない運命。壮絶な戦いと惨劇、それに携わった人たちの想いが淡々と記されています。慣れるまでは、決して親しみやすい文体と内容ではないかもしれません。しかし一つ言えるのは、これを書き終えた露伴のエネルギーに脱帽せざるを得ないということです。露伴という人物を知る上でも、一読の価値があるでしょう。

冴えない男の一念発起

著者
幸田 露伴
出版日

『一口剣』。あと少しで立派な刀鍛冶になれると言われていたにも関わらず、現在の妻お蘭と駆け落ちし、今ではパッとしない生活を送っている主人公の正蔵。お蘭とのかつての熱い恋も冷め、毎日喧嘩が絶えません。ある日、お蘭の機嫌を取るために、自分は世界一の刀鍛冶であると豪語した正蔵。それを聞きつけたお殿様に呼び出され、優れた刀を作るように命じられてしまいます。渡されたお金を返して、真実を話そうかと悩む正蔵。彼を優しく慰めるお蘭ですが、なんと彼女はそのお金を盗んで逃げてしまうのでした。その後もなかなか心を決められない正蔵で下が、いざ刀を作り始めると、人が変わったように刀作りに没頭。果たして彼は、納得のいく刀を完成できたのでしょうか……。

前半部は基本的にのどかな日常が描かれているのですが、正蔵とお蘭の喧嘩シーンはさすがの迫力。その後にけろりと仲直りしている様子などは、微笑ましく親しみが持てます。後半部では、どんどんと緊迫した雰囲気が高まり、ラストの刀作りのシーンには鬼気迫るものさえ感じられることでしょう。

平凡であったはずの男の人生が、軽はずみに放った言葉によって変化していく。比較的短いストーリーですが、時が過ぎていく描写があまりにもリアルであり、自分の時間さえ数年経ってしまったような気分になります。

男女間の憎悪や心境の変化の描写、話のリズムが楽しめる1冊です。

幸田露伴の中期代表作

著者
幸田 露伴
出版日
1951-04-10

物語は明治時代の東京の竹芝で、羽勝、山瀬、日方、島木という4人の男が宴会をしているところから始まります。

宇都宮出身の4人には同郷から志を掲げて上京してきた仲間が他に3人おり、いつもはその7人で集まるのですが、その日2人はやむを得ない事情で欠席していました。あと1人は水野という学校の教師ですが、水野の欠席の理由が女のためだということを聞いた日方は怒りだし、水野を諫めに行こうと言い出します。そこで島木は自分の知っている水野と女との事情を皆に語りだすのでした。

水野は同じ学校の五十子という女教師に恋心を抱きますが、五十子は重病に罹ってしまいます。

五十子に宿を貸している老婆は、このまま部屋で死なれでもしたら迷惑だと言って冷酷非情にも重病の五十子を追い出そうとするのです。五十子の義母も薄情で、水野が連絡しても何の音沙汰もありません。水野は五十子を救える者は自分しかいないと思い、五十子の医者代と下宿代のため島木に借金を乞い……。

最初は水野と五十子との恋の行方を描いた物語か、同郷の友人同士の友情物語かと思うのですが、物語は予想外の方向へと進んで行きます。

本作は1903年に発表されたもので、文体はやや古典に近いものです。そのため一見した限りでは読み難いと思われるかもしれません。しかし読み始めれば序盤から物語の面白さに引き込まれてしまいます。現代文に訳しても本作の面白さが損なわれることはありませんが、この文体ならではのリズムや言い回しが物語を一層盛り上げていることに気付く事でしょう。明治時代の風景と人情が鮮やかに描かれた秀作です。

以上、幸田露伴のおすすめ傑作5選でした。小説を読んで彼の作品を好きになった方は、随筆に挑戦してみるのもおすすめです。

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