あなたの知らない艦船の世界 ~『艦これ』に安心してハマれるまでの5冊!

更新:2021.12.12

 今の世の中、『艦船コレクション(艦これ)』が流行ってます。小学校低学年以来の艦船好きとしては慶賀慶賀奉祝奉祝であります。  ほんと、艦船が好き、って言うチャンスなんか、これまでそうそうありませんでした。  というわけで、ここから本を5冊紹介紹介します。『艦これ』にゲームやイラスト・コスプレ方面から興味を持ったけれど、そもそも『艦これ』って、なんでこんな前からアツくハマって萌えを感じている人がいるのか、いまいちピンとこない方向けになりそうな本5冊を紹介します。

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苛烈! 駆逐艦たちの生涯!

 特に駆逐艦って何?みたいな今あんまり知識ない方でも、、これから安心して『艦これ』にハマれるような本5冊を選んでみます。そのうち1冊め。これはほんとうに一押し。私はこれで人生キマリました(いいのか?)。

 そもそも男の子なら、ウォーターラインという、艦底が省略されてあって、置くだけで海の上に浮かぶ船みたいに見える艦艇のプラモデルに手を出した子は多いはずです。

 あれがほんと、細かくて作りにくい上に(パーツがすごく小さいので作業中はくしゃみ厳禁。したらパーツはほぼ必ず紛失します)、さらに細くて繊細なマストとか作って、おおー、できたー、と思って喜んで飾ってると、お母さんに掃除の時ハタキかけられて全滅してで泣く、みたいな。そんな少年時代を経てる人は結構いるはず。

 艦これにハマってる人たちのはるか昔、幼少期に出会ったそのプラモデルでの萌えポイントは、その箱に書いてある、その艦の一生を書いた文章。これが字数が限られてるからテンプレみたいなあっさりしたものなんだけど、実にいい。

「駆逐艦***(ここに艦名が入る)
 **型駆逐艦の*番艦として****年に就役、***海戦などで活躍しましたが、***海戦の後に日本への帰路で**海峡で米潜水艦****の雷撃を受け、*月*日、**年の生涯を閉じました。」

 こんなのが書いてある。これでもともとメカ好き属性持ってる少年は興味を持っちゃうわけですよ。だって「生涯」ですよ。艦、メカなのに生涯。すでにここで(´;ω;`)ブワッと来ます。

 ここで同じようにしっかりこういう物語のあるガンダムのガンプラに行く少年もいるけど、ここでうっかりこんな本に出会ったら? 人生変わっちゃうよ、という本。事実私は人生変わりました。
 

著者
倉橋 友二郎
出版日
1987-12-01

 というのがこの本です。これがものすごい。

 現在このシリーズの他の本が再刊されているのにこの本だけ現在中古のみ、入手困難なのは、再刊のために原著作者さんに連絡を取ろうに当たろうにも、もう時間が経過してて原著作者が訪ね当たらないとかで再刊できないなのかな。調べるたびに、いつも不思議に思ってるんですが。

 このシリーズ、本当に旧海軍の方が書いてたので、迫真感のレベルがぜんぜん違う。

 なかでも、この本は特に何が凄いかというと、冒頭がいきなり負け戦、空母〈赤城〉の沈没シーンから(´;ω;`)ブワッ。

 いや、沈まないんですよ〈赤城〉は。ミッドウェイ海戦で爆撃受けて炎上して、もう復旧できないところなんだけど、沈まない。だってもと戦艦だもん。もともと戦艦だったのを空母にしたのもあって、めちゃめちゃ頑丈で、米軍にひどく爆撃され直撃受けて大破しても沈まない。

 でも、沈まないといっても、連れて帰れない。

 だからどうするかというと、味方の駆逐艦が魚雷を撃ち込んで「処分」するんです。そのまま漂流させたらいろんな軍事機密の塊ですから、日本海軍は困るのです。

 ああ、なんと可哀想な〈赤城〉。当時の日本海軍の主力大型空母6隻のうち、この海戦で4隻沈んじゃうわけです。ゲームだったらもう、心が折れて即リセットしてしまいたいほどの悲劇。でもそうはいかなかった。

 空母って攻撃力がすごいけど、逆に攻撃うけるとすごく打たれ弱いんですよ。だから戦闘機とか防空艦、対空砲をいっぱい積んだ艦艇の弾幕で守るわけです。そう考えると、空母は被弾して穴あけられると沈みますが、離島の飛行場は穴あけられても埋めればなんともないです。そこが戦争の勝敗を決めることもあります。ガダルカナル島の争奪戦になるのはそういうところもあり。

 でも、空母を守る艦を強くするのも有効な方法です。、そこで日本海軍もそれは戦前からわかってて、秋月型という駆逐艦を作ってるわけです。日本海軍で他になかった上空1万メートルまで弾の届く高性能砲・長10センチ砲搭載! 

 まあ実際には届いたところで届くまで大砲の弾って時間かかりますし、しかもレーダーとかと組み合わせるの遅れてたからなかなか効果が出ないんですが、でもこの本ではもそこらへんもしっかり描かれてます。対空戦闘の切り札であったのです。

 この本の主人公は、〈赤城〉の処分を見て、その後ガダルカナルで戦って、さらにその後日本海軍のほぼ最期の海戦、〈大和〉沖縄洋上特攻に秋月型駆逐艦〈冬月〉に乗り換えて同行するのです。

 太平洋戦争のはじまりから終わりまでみっちり。もうそのそれぞれの戦いのすごい迫力。映画「プライベートライアン」冒頭の艦船版か、ってほど。その苛烈な戦闘シーンと、途中の艦船乗組の日々の描写との緩急もすばらしい。でも日本でこの本をこういう迫力で映画化なんか絶対できないだろうなあ……。

 という、十分に少年の人生をばっちり艦船好きに染め、人生を変えてしまう力のある本です。不利でなおかつ負けの続く戦いの中でも立ち向かった駆逐艦乗りの魂もまた、心弱った時の現代の我々の心にも響きます。
 

空母の戦いと、それを支える健気な駆逐艦たち。

 で、その旧海軍の空母がどういう戦いをしたかということについ興味が向くと、この本が実に渋い。
 

著者
滝沢 聖峰
出版日

 この本も変化球な始まり方。なんと太平洋戦争のはじまり、ハワイ攻撃に行ったのに、なんと攻撃に出られない攻撃機のチームの話なのね。他のチームがばんばん戦果上げて帰ってくるのに、何もできなかった……それもチームの一人が盲腸で飛べなくて(´;ω;`)ブワッ。

 でも仕方ないんです。当時の攻撃機は3人一組でないと飛べない。レーダーも当初はない、あったとしても逆探知されるわけにはいかないので使えない。当然今みたいなGPSもない。じゃあどうやって洋上にぽつーんといる母艦にもどったか? 

 偏流っていう気流の流れを調べて、飛んでいる位置を航空地図上で推測する図を作って、それで母艦の位置にむけて進路を決めて飛んでいく。天測と言って太陽や星の位置と時計を使いもする。今でもできなくはないけど……しんどいよねえ。

 でもそれでみんな戦ってたんです。しかもそれではるか遠くの相手の空母の位置も調べて、攻撃して、戻ってくるわけですよ。なんという難易度の戦い! 戦う前に迷子になってしまう! しかも洋上で迷子になったら、もうその時点で生きて帰れないんですよ!

 でもそういう戦いを太平洋で日米はやったんですよ。ガチで。そりゃ米海軍は日本海軍をバカにはできませんよね。ほかにこんな空母対空母で戦うようなライバルいなかったんですから。だから今でも米海軍と、日本海軍をつぐ海上自衛隊は深くリスペクトしあってるんです。

 そんな攻撃機が発艦するときに、発艦失敗したら不時着した搭乗員を救助するのは駆逐艦。戻ってくるまで待ちながら空母を守るのも駆逐艦。いきなり不意打ちしてくる潜水艦から空母を守るのも駆逐艦。そのうえ敵艦に向かって戦いを挑み、さらにはその俊足を活かして離島に物資輸送までする。

 とにかく駆逐艦は働きものでなくちゃダメなんですよ。空母機動部隊の雑用関係全部やるわけです。しかも消耗品扱いなので、艦首には戦艦や巡洋艦・空母みたいな菊花の飾りがないんです。うう、駆逐艦って健気だ……。そこらへんも萌えポイントです。

 この本は、戦記物というとつい「出撃しましたー、攻撃しましたー、勝ちましたー」となりがちなところを、そうはならないストーリーがまた秀逸。搭乗員の生活感もありながら、勝つ時もあれば負ける時もある。むしろ、ビターな味わいのエピソードが多い。そのなかで葛藤、苦悩、迷い、人間関係、しかしそのなかで見出すもの。実に渋い。

 それがほんと、すべて最後のシーンに集約されるのは実に見事。圧巻。ドラマティックとはこのことです。
 

健気な駆逐艦の生活を図解で!

 そういう旧海軍駆逐艦、実際どんな艦だったのかというと、この図解が楽しい。

著者
森 恒英
出版日

 現代の駆逐艦って7000トン(排水量。艦艇の大きさはこの数字で示されます)超えたりします。米軍が中国の揉めてる海域に派遣した駆逐艦〈ラッセン〉は9468トン、全長155メートル。最新鋭の米海軍ズムウォルト級に至っては1万トンを超えます。

 ところが、当時の駆逐艦はたったの2000トン前後。全長も130メートルぐらい。
 幅に至っては11メートルちょっと。なんと、山手線の電車1両の長さの半分しかない!

 狭い! とにかく狭い! 

 そのなかにどでかいボイラーとかのエンジンがあって、対航空機、対艦船、対潜水艦の武装を積み、その武装の整備をする所あり、乗り組む人たちの食事作るキッチン(烹炊所)があり、服を洗濯するとこあり。

 この図解を見ると、なんとも生活感があるんですよね。そこに生活する乗組員の息吹が感じられる。

 ここで、ふと思う。これ、『天空の城ラピュタ』の海賊飛行船「タイガーモス号」と似てるなあ、と。

 たしかにそうなんですよ。あのタイガーモス号の好ましいコンパクトな機能性と意匠、あれがすごく旧海軍の駆逐艦に似てる。まあ、宮崎駿監督もこういうの密かに好きらしいから(少なくともミリタリーマニアであることは知られている)、この本のもとになったいろんな資料を参考にしたんじゃないのかなあと思うのです。

 とにかくこの図解見てると、この駆逐艦でどういう生活があり、戦いがあり、喜怒哀楽があるかの妄想がすごく捗ります。パズーとシータのあの素敵な見張り台そっくりなのも旧海軍の駆逐艦にある!

 そんななか、日本海軍の最後のあたりにでてきた秋月型駆逐艦がどれだけ期待されてたかも、考えるだけで興奮します。その後建造されたの松型駆逐艦はダウンスペックというよりは性格が変わっちゃうんですが、史実ではあんまり一斉に揃わなかった高価な秋月型駆逐艦がバンバンそろって空母を守って進撃する姿の幻を思うと……ああああ、さらに妄想が捗ってしまう!

 あとこの本、ぶっちゃけ、艦これコスプレの資料にもいいかもと思う。詳細な図解は見ているだけで、なるほどこういう仕組みなのかとメカ好き、ガジェット好きの心にも響く。一冊持ってればかなり長く楽しめる本です。

現代の駆逐艦! ~その魂は不滅!

 そしてその秋月型駆逐艦ですが、太平洋戦争で活躍したのは二代目。もっと昔にも〈秋月〉っていう艦船があったんですよ。で、じゃあ三代目はというと、あるんです! しかも現在、海上自衛隊の新鋭護衛艦〈あきづき〉として。

著者
出版日
2015-04-11

 防空能力はテポドンを撃ち落とせるほどのイージス艦に次ぐものですが、なんといっても純国産対空ミサイル管制システム搭載! ほんと、海上自衛隊期待の艦なんです。この本にはいかにそれが凄いかが載ってます。(いや、原稿書いてるときはいい本なかったけど、公開直前にこの本が出てくれたので私としては嬉しい限り)。

 これはもはや和製イージス艦と言っていい艦です。もともとのイージス艦はほぼ宇宙を飛んでる弾道ミサイルに使い、航空機にはこの〈あきづき〉が立ち向かう! まさに鉄壁防御! まさに神の盾!

 なにしろ駆逐艦は、駆逐といいながら、潜水艦には狙い撃ちされるし航空機には圧倒され駆逐されるしかなかったのがこれまでだったんですよ。それがイージス艦が海上自衛隊に配備された時、航空自衛隊の支援戦闘機(一般的には攻撃機ですね)とはじめて訓練で対決したところ、なんと一回の訓練で一個航空隊を全滅させた結果になってしまったという伝説が。そりゃ、当時の航空自衛隊が真っ青になったのも当然です。もうやられっぱなしじゃない! と海上自衛隊が意気盛んになったのもまた当然。

 そこからいまや海上自衛隊はヘリコプター護衛艦といいながら実態はヘリコプター(だけの)空母も持ってる、潜水艦も優秀艦揃い、航空機も高くてなかなか揃えられる国の少ないP-3哨戒機(1基100億円!)をどっさりにその国産強化型の最新鋭P-1哨戒機まで持ってます。

 さらにP-1なんか、ついにジェット機に進化! しかもそのP-1は衛星通信装置ももってる。で、他の飛行機もそれぞれ最新鋭の航法機器搭載でもう洋上でも迷子にならない。

 今は空母から発艦する攻撃機はないけど、『対艦番長』なんて呼ばれ、どっさり対艦ミサイルと燃料を積んで、遠くまで敵艦を仕留めに行けるF-2戦闘機が航空自衛隊にある。

 太平洋戦争に負けて、ほとんどの艦船が沈められたところからここまで回復したんですよ。本当に弥栄(いやさか)、まさにバンザイって思えますよ。

(あ、弥栄(いやさか)ってのは共に一層栄えるとか感謝・ねぎらいも含んだ感動詞です。神社の祝詞で『いやさかえ』と読んで使ったりする、とてもいい言葉です。「バンザイ!」なんてときにも使う言葉で、ボーイスカウトだと「弥栄三唱!」なんてやりますね。私はとてもステキな言葉なので積極的に使いたいといつも思ってます。)

 日本の平和を守るぶんには、すでに十分な力です。

 でも、そのために、多くの旧海軍の艦船が沈んだ歴史があるんですよ。

「行ってきます、帰ってくるよ」と出港していって、戻ってこなかった多くの艦艇。そこにはいろんな乗組の人たちの気持ち、生活があったと思うんですよ。そしてそれを包んだ艦船自身の気持ちも。

 船は英語では「it」じゃないんです。「She」と呼ぶのです。彼女と。それにはいろんな気持ちがあるんだと思います。まあ、それは、月なみにいえば、「愛」でしょうね。
 

そして駆逐艦・メカへの愛はここへ。

 で、今回の最後の本はこれ。擬人化といえばこれなんです。私的には。

著者
明貴 美加
出版日
2010-03-24

 「ええー!」かもしれないけど、この本の出た頃には、モビルスーツ擬人化の影で、艦船擬人化というネタもあったんです。模型雑誌にはそんなのが載ってたんです。私も当時中学生、そういうのとても好きでした。いや、大好きでした!

 出港した〈秋月〉や〈赤城〉が、史実の悲劇を回避し、無事任務を終えて笑顔で帰ってくるという夢。それを思うだけで、胸アツなのですよ。だいたい、私なんか、艦の艦橋見てると顔に見えてきますもん(どっかおかしい)。

 だからその気持ちが余って、つい擬人化してしまうのです。それに「かわいいは正義」ですからねえ。

 これがモビルスーツではなく艦船になって、今風のキャラデザになっていくと、『艦これ』に系譜がつながってると思うんです。

 ちなみに私も『艦これ』の前に艦船擬人化で『プリンセス・プラスティック』なんて女性サイズ女性型宇宙戦艦なんてSFを書いて昔発表してますが、しかし『艦これ』ブームのおかげで、こうして艦船好きの話ができるのはすごく嬉しいことです。

 艦船の素敵な世界について、多くの方にすこしでも知ってくれるといいな、と思います。

 艦船が守るのは今も昔も海洋自由に基づく海上交通路の安全ですし、それこそが今でも国際政治学の基本でもあるわけですから。

 第1次世界大戦では大英帝国は海上交通路をドイツのUボートなどに妨害・破壊されてしまい、その対策に日本海軍の駆逐艦が派遣されました。当時、世界に冠たる大英帝国も、当時まだ極東の小さな国だった日本にまで、助けを頼まざるをえないほどのピンチにあったのです。

 そしてつい最近の2015年7月。その海上自衛隊の新鋭護衛艦〈あきづき〉がソマリア沖の海賊退治に佐世保から派遣されました。

 粗末なボートに粗末な武器を持っただけのあのソマリア海賊でも、放置すれば非武装の商船は容易に乗っ取られ、簡単に乗組員の命も積み荷も、そして海運そのものも深刻な状態に陥るのです。すでに世界貿易コストが180億ドル押し上げられているともいいます。ましてそれ以上の脅威が及べば、海上交通に頼る日本は簡単に干上がります。そして日本の他の多くの国もその海運に命脈を託している。

 その海運と海洋自由を守るために、実はこの今も、ソマリア沖の海賊対策に、国際合意もあるなか、様々な国の何隻もの駆逐艦が頑張っている。うう、駆逐艦はやっぱり働き者だ……。

 『萌え』から『国際政治』まで。『艦これ』を入り口としても、艦船ってのも、ハマると面白い世界ですよー!(でも『沼』ともいうかも……)

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