センター試験に出てきた「ゴーレム」って何?ゴーレムが登場する小説3選

更新:2021.12.15

ここ数年、ネット上で国語の試験で扱われた評論や小説が話題になることが多いですが、個人的に今年の評論に「ゴーレム」が登場したことに驚きました。今回は、そんな「ゴーレム」が登場する作品をご紹介したいと思います。

ブックカルテ リンク

2017年のセンター試験も終了しました。受験生の皆さま、お疲れ様でした!私事ですが、6年間某予備校のスタッフとして受験生をサポートする側にいました。この時期になると、興味本位で試験問題を解いてみたりしたものです。ここ数年、ネット上で国語の試験で扱われた評論や小説が話題になることが多いですが、個人的に今年の評論に「ゴーレム」が登場したことに驚きました(なぜならゴーレム周辺の研究をしているので)。今回は、そんな「ゴーレム」が登場する作品をご紹介したいと思います。

ゴーレムは救世主?それともドッペルゲンガー?:グスタフ・マイリンク『ゴーレム』

そもそもゴーレムとはなんぞや、という方に少しだけご説明します。ゴーレムとは、ユダヤ教に伝わる泥人形のことを指します。魔術的な手続きによって魂を吹き込まれ、主人の命令だけを忠実に実行する召使となりますが、使い手が厳格な制約を守らないと制御不能となって凶暴化してしまいます。ゴーレムの額には護符によって動き、その護符の最初の文字を消す(「真理」を意味する単語から「死」を意味する単語に変化する)ことによって動きが止められ、土に戻ってしまうのです。

ゴーレム伝説は、主にルドルフ二世の頃のポグロム(ユダヤ人迫害)の頃にユダヤ人の救世主としてゴーレムが創造された、という話が一般的に知られているものですが、チェコの歴史的背景とも重なる部分が多くあります。

著者
グスタフ マイリンク
出版日
2014-03-12

グスタフ・マイリンクの『ゴーレム』は、そんなゴーレムの伝説を下敷きにした幻想小説です。

チェコ、プラハのユダヤ人街・ゲットーに住む宝石細工師の「ぼく」は、ある日、謎の人物の訪問を受け、古い神秘書の補修を依頼されます。しかし、客の帰ったあと、その客について何も思い出せないことに気づいて愕然とします。どうやらその男は33年ごとにこの街に出現するゴーレムらしい、ということだけはわかったのですが、その後「ぼく」の周囲で次々に奇怪な出来事が起こり始めます。

物語に散りばめられた神秘的要素(カバラやタロットカード、錬金術など)の強さや、夢と現実の境界が曖昧になっていく眩暈に近い感覚に慣れるまで、読むのに少し苦労するかもしれません。しかし、不思議と何度も読み直したくなる作品です。

「(ロボットはまるで)ゴーレムではないか!」:カレル・チャペック『ロボット(R.U.R.)』

人間の代わりに働く人型を「ロボット」と言いますが、これはチェコの劇作家カレル・チャペックが1920年に発表した戯曲『R.U.R.』(正式には「ロッサムのユニヴァーサル・ロボット Rossum’s Universal Robots」)で初めて使われた言葉で、チェコ語で「賦役」を意味する“robota”の語末の“a”をとったものです。簡単に言ってしまうと人工のたんぱく質による人造人間のことであり、いわゆる今一般的に知られている「ロボット」とは少し意味合いが異なります。なぜゴーレム関連本の紹介でこの作品を出したかというと、彼自身、これを「(ロボットはまるで)ゴーレムではないか!」と発言していたからです。

著者
カレル・チャペック
出版日
2003-03-14

人間にとってふさわしくない仕事を、作り出された人間―ロボット―に代行させていくというのが大筋なのですが、ロボットのほうが優勢になって人間は一人を残して滅亡するも、そのロボットたちも滅亡の危機に脅かされます。この作品自体、来るべきファシズムの到来の予言、ロボットが優勢になるなかで人間の女性が不妊に陥るといった問題など、人類の生命に対する無頓着さを浮き彫りにしているという点で非常に興味深いものです。戯曲形式で書かれているのでサクサク読むことができます。

さまざまなSF作品における主題として、人間とロボットの境界(ロボットは意識/思考・知能/感情/記憶/生命・魂を持つことが可能なのか)というものが取りあげられることが多いのですが、『R.U.R.』はシンプルにその主題を考えることができます。

生命創造には裁きが必要?:ハリー・ムリシュ『過程』

今回のセンターの問題は、小林傳司氏の「科学コミュニケーション」だったのですが、簡単にいってしまえば科学と社会の関係性について述べられたものでした。「科学とゴーレム?」と思う方もいるかもしれませんが、《創造》と《制御》と《暴走》というキーワードを挙げるとなんとなく繋がりが見えてくるかもしれません。

著者
ハリー ムリシュ
出版日

この作品は、最初に聖書の「創世記」が引用され、次に中世のゴーレムをつくる物語、最後に現代社会で無機物から生命体の創造に成功した科学者・ヴィクトルの数奇な運命が語られています。この3つは生命創造の物語です。それぞれの創造「過程」が幾重にも重なって展開されていきますが、イヴの誕生の前にはリリスという失敗、ゴーレムは殺人を犯して消滅、ヴィクトルの娘は生まれる前にすでに死亡…。創造には失敗や制御不能な何かがつきものであるということがわかります。

マイリンクの『ゴーレム』よりも複雑で、もしかしたら冒頭で挫折してしまう人もいるかもしれません。しかし、この著者は中盤から最後にかけての物語の進め方が絶妙で、バラバラに語られた3つの物語が実は絡み合っており、途中から一気に読み進めてしまいます。カフカの『審判』のオマージュが散りばめられているので、カフカが好きな方はきっとお気に召すかと思います。

今回ご紹介した作品は、偶然にも全てチェコが舞台でした。チェコは国そのものが歴史的に諸外国の支配を受けることが多く、チェコ語を禁じられることもありました。ただし、人形劇だけはチェコ語を用いることが許され、それゆえに人形劇はいまなお民族文化のアイデンティティとなっています。そういった歴史もあってか、人間の形をした人間ではないものへの執着があるのかもしれません。

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