ボカロ小説おすすめ作品5選!

更新:2021.12.15

サンプリングされた音声ライブラリーで歌を歌わせることの出来るソフト、ボーカロイド。今やパソコンで作成した音楽、DTMの一大ジャンルに成長し、物語性ある楽曲が多数生み出されています。そんなボカロを題材とした小説を5作おすすめします。

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暑い夏の8月15日に儚い陽炎が揺れる。異能系ボカロ小説!

主人公如月シンタローはいわゆる引き籠もりです。重度のネット依存症なのに入力器機が壊れてしまい、やむなく2年ぶりの外出を決断します。それもこれもエネの悪戯が原因です。その少女エネとはシンタローを「ご主人」と呼び、自律思考するように振る舞う謎のプログラム。1年程前にシンタローのPCに住み着き、以来何度消しても復元する厄介な存在です。 

カゲロウデイズ -in a daze-

じん(自然の敵P) (著), しづ (イラスト)
エンターブレイン

シンタローと自身をスマホに移したエネは、デパートの家電売り場を訪れます。そこで不運にも、強盗の犯行現場に居合わせてしまいます。重装備を相手に為す術もなく捕まりますが、シンタローはエネを使って窮地を切り抜ける方法を思い付きます……。

同じ頃、シンタローの妹モモは、ひょんな経緯で知り合った男女と行動を共にしていました。彼らはそれぞれが「注目を集める」「認識をなくす」といった能力の持ち主です。たまたまシンタローと同じデパートに来ていた彼らも、やはり強盗に居合わせます。シンタローの意図を察した彼らは、協力して強盗を撃退し、無事逃げ去ることが出来ました。

「ようこそ新入りさん!我らがメカクシ団へ!」(『カゲロウデイズ -in a daze-』より引用)

本作は一連のボカロ楽曲『カゲロウプロジェクト』を汲む作品です。1巻は特に『カゲロウデイズ』、『人造エネミー』、『如月アテンション』、『メカクシコード』がベースとなっています。

メカクシ団は「目」にまつわる特殊能力を持った少年少女の集団です。例えば団長のキドは「目を隠す」力があり、自分の周囲にある物体を他人から見えなくすることが出来ます。モモは「目を奪う」力で人目を惹き付けるアイドルで、「目を欺く」カノは自身の姿を他の何かに擬態出来るのです。他にも「目」に関係したユニークな能力が登場します。

また、軽妙な掛け合いも本作の魅力です。エネが軽口を叩けば、シンタローのツッコミが冴えます。引っ込み思案なマリーをいじるキドとカノ、そして二人を抑えるモモ。発言の強さからキャラの上下関係を推し量る、という楽しみも出来ます。

メカクシ団は偶然か必然か、例外なく「目」にまつわる能力を持っています。その特徴から相互に関連があることを匂わせますが、この能力は何に由来するのでしょうか。また、シンタローとエネは強盗の一件からメカクシ団に入ることになりますが、果たして物語はどう展開してくのでしょうか……。


漫画版『カゲロウデイズ』について紹介した<漫画『カゲロウデイズ』の魅力を全巻ネタバレ紹介!>の記事もおすすめです。

試されるのは友情か、機転か。デスゲームボカロ小説!

市位ハナは聖アルテミス女学院に通う16歳の少女です。女学院は格式の高さから人気も偏差値も高いお嬢様学校です。ハナは猛勉強をしてその憧れの学校に入学しました。しかし、理想化された学校と、そこに補欠合格で入った自分というギャップで、現実が色褪せて見えます。

著者
吉田 恵里香
出版日
2013-11-30


そんなハナにも学校で気になる人がいます。担任の田篠先生です。柔和な雰囲気と、年齢にそぐわない風格が魅力です。そして学校一番の美人でハナと同じ名前を持った稲沢はな。はなは、ハナと同じくクラスメイトとは一線を引いていますが、ハナには彼女が孤独ではなく孤高の生き方をしているように見えます。同性ながらハナの憧れの人がはななのです。

ある日、ハナはスマホを忘れてしまいます。携帯依存症のハナは慌てて教室へ取りに戻り、ある衝撃の場面を目撃してしまいます。次に気が付いた時、ハナと40人程の女子生徒が教室で個別に檻に捕らわれていました。そしてそこに現れた田篠が告げます。「ゲームを始めましょう」

原作となるボカロ曲『脳漿炸裂ガール』は、アイドルの女の子が現実の不条理を歌い上げるような歌詞です。本作、小説版『脳漿炸裂ガール』は不条理部分をフィーチャーして大胆にアレンジしています。高見広春の『バトル・ロワイヤル』を源流とする、不条理デス・ゲーム作品。苦手な方はご注意ください。

主人公ハナは少々ネガティブ思考で、地味な自分が華やかであるべき女学院に通っていることに劣等感を覚えています。しかしながら彼女は鈍い女の子ではなく、努力や機転に優れています。何よりも、自分を友達だと言ってくれたハナを信頼しています。

もう一人の主人公というべきはな。美人で気立てが良く、家柄も完璧と学院中の憧れの的です。ある事情でゲーム開始直後に失格になりかけましたが、ハナの機転で助かります。以来、彼女はハナと一心同体と思い定めます。他にも何か事情があるようですが……。

田代の言うゲーム、生き残る人間を見定める『黄金卵の就職活動』の真意とは? はなとハナの運命やいかに……。

悪に身をやつしてでも叶えたい願い。謎×絆のボカロ小説。

おとぎ話は語ります。昔々、「悪ノ娘」と呼ばれる王女様がいました。王女様はわがままの限りを尽くし、民衆を困らせました。飢饉が起きても王女様が省みることはありませんでした。王女様は義憤に駆られた赤の女剣士によって断罪されます。それから世の中は平和になったと言います……。

著者
悪ノP
出版日
2010-08-10


「黄ノ国」ルシフェニアの事実上の指導者、王女リリアンヌ。その日は王女の14歳の誕生日でした。召使いのアレンは、海岸で寂しげに夕日を見つめて、ひとりぼっちだと呟く彼女を目撃します。そのリリアンヌは誕生日の宴会では贅を尽くし、また別の日には気に入らないという理由で容易く処刑を言い放ちます。アレンだけが知っている彼女の二面性。

王女を知るアレンは、彼女に付き従います。正しいことでないとわかっていても、彼女の願いを叶えるのです。アレンは煩悶します。優しかったリリアンヌはどこへ行ってしまったのか、一体どこで歯車が狂ってしまったのかと。

本作はボーカロイド曲『悪ノ娘』と『悪ノ召使』を底本にした物語です。鏡音リンの歌う『悪ノ娘』に対して、鏡音レンの歌う『悪ノ召使』がアンサーソングになっています。本作の「悪ノ娘」とその真実という二面性と同じく、ちょうど表と裏の関係になっています。

王国の頂点に立ち、権勢を振るうリリアンヌ。彼女には幼い頃の記憶がなく、唯一の肉親・前女王が没して以来孤独です。彼女に一途に従うアレンは、実は生き別れた双子。幼少時に政争で死んだことになった彼は、リリアンヌを影から守り抜こうと誓っています。

MEIKOをモチーフとしたジェルメイヌも重要なキャラです。三英雄の一人を義父に持つ、屈強な女剣士である彼女。アレンの生い立ちこそ知りませんが、彼とは姉弟同然に育ちました。アレンを大事に思う反面、国民を蔑ろにするリリアンヌを恨んでいます。

後に「悪ノ娘」と蔑まれる王女はどうして生まれたのか。これは誰の仕組んだ思惑なのか。アレンとジェルメイヌの行く末はいかに……。

心に生じた想いは時空を越える!「感情」のボカロ小説

2012年、千葉。国際展示場第8ホールで、平田製作所第二研究室の開発したロボットがデモンストレーションを行っていました。黄色いショートヘアの髪に白いリボンが特徴の少女型ロボット。第二研が開発した二台目のロボットということで、通称・二号機と呼ばれています。

著者
["石沢 克宜", "トラボルタ"]
出版日
2012-04-27


電源の問題で自立行動に難がありますが、挙動や受け答えは人間そのもの。その真髄は言葉や表情を読み取り、独自のアルゴリズムで最適解を出力するAIです。それでも開発者の天本をからかったり、おねだりする様子は人間のようにしか思われませんでした。しかし、かつて第二研と袂を分かった岸田は、デモを見て「この人形には心がない」と断じます。

……そして2501年、某所。崩壊した世界で、武装兵士の一団が廃墟を捜索しています。果たして彼らの目標、少女型ロボットは発見されました。あの平田製作所の二号機です。乙と呼ばれた兵士が二号機の再起動を試みます。「君のココロが必要なんだ」と言って……。

ロボット二号機は、ボーカロイド鏡音リンをモチーフにしています。性格はおてんばで少しわがままですが、記憶の蓄積は数年程度しかないため幼い子供のように甘えることも。自身の開発者である天本を、父か兄のように慕っています。

原作曲『ココロ』は、ロボット開発者のこだわった「心」についてロボット視点で歌い上げる曲です。ロボットが心の概念を持つかどうか、SFでは長らくテーマになってきました。有名な「ロボット工学三原則」で知られるアイザック・アシモフも、60年以上も前の『われはロボット(I, Robot)』で言及しているほどです。

物語は2012年と2501年を交互に挟んで語られます。「心がない」と言われた二号機がどうやって心を持つに至ったのか、なぜ500年後にそれが必要とされるのか。独自の解釈でロボットの心について綴られる『ココロ』の世界をお楽しみください。

明けない夜を繰り返すオールスター!ミステリーボカロ小説

主人公のミクは劇団ビュルレ座の新米女優です。希代の劇作家ビュルレが興した劇団も昔日の栄光を残すのみでした。そんな時、ビュルレの残した幻の脚本「クレイジー・ナイト」が見付かり、ミクは主演に抜擢されます。

著者
ひとしずくP
出版日
2014-11-28


お話は一人の村娘が深い森の館に迷い込むところから始まります。夜更けということもあって、館の主人は娘を迎え入れました。館にいた七人の男女は、娘を加えて、余興として仮面舞踏会の開催を提案します。厳しい練習の成果で、本番は途中まで上手く運びました。

ところが予想外のハプニングで、ミクが舞台にあった時計を誤って壊してしまいました。一同は団結して乗り越え、劇はどうにか成功。しかし不安がよぎります。ビュルレは完璧主義者だったため、脚本を逸脱した者には呪いが降りかかると囁かれていたのです。

上演後、ミクは自分宛ての不思議な手紙を拾います。気が付くと彼女は、パーティの一夜を繰り返す舞台劇「クレイジー・ナイト」の世界に入り込んでいました。

原作は第一幕『Bad ∞ End ∞ Night』、第二幕『Crazy ∞ nighT』、第三幕『Twilight ∞ nighT』、最終幕『EveR ∞ LastinG ∞ NighT』の四部構成の曲です。繰り返しを示唆する構成と謎めいた歌詞で反響を呼びました。

本作の特徴として、8人ものボーカロイドの共演が上げられます。彼らは同名の役者として劇中劇及び劇世界に登場します。村娘を演じる初音ミクのミクを始め、館の主人カイト、奥方のメイコ、養女のルカ、双子人形のリンとレン、メイドのメグ、執事のガクというように。GUMIと神威がくぽは同名だと違和感が出るためか、名前がアレンジされています。

ミクはなぜ「クレイジー・ナイト」の世界に入ってしまったのか? なぜ「クレイジー・ナイト」世界は一夜を繰り返すのか? この仕掛けは誰が仕組んだものなのか? 現実世界へ戻るにはどうすれば良いのか? 原作で提示された謎の答えと、ミクが選択した行動の結末に注目です。

いかがでしたでしょうか。ボカロ小説は原作曲を聞いてから読むも良し、読んでから聞くも良し、聞きながら読むも良しです。是非ボカロ曲をお供に一読してみてください。きっとより深く楽曲、小説の世界を堪能出来ることでしょう。

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