巧みな文章によって、いつも私たちを物語の世界へと引き込んでくれる人気作家たち。ここでは、魅力的な男性作家にスポットをあて、素顔を垣間見ることができる、興味深いエッセイをご紹介していきましょう。
- 著者
- 朝井 リョウ
- 出版日
- 2014-12-04
映画化もされた『何者』で、2013年に若くして直木賞作家となった朝井リョウ。戦後最年少となる23歳での受賞となり、史上初の平成生まれの受賞者が誕生したとあって脚光を浴びました。デビュー作の『桐島、部活やめるってよ』が映画化され、数々の映画賞を受賞したことでも注目された、期待の若手作家です。
そんな話題の作家朝井リョウによる脱力エッセイ『時をかけるゆとり』。著者の大学生活の話題を中心に、上京してからの日々を綴った本作は、軽妙で知的な文章によって爆笑を誘う、世代を超えて楽しめる傑作エッセイになっています。
「お腹が弱い」という朝井リョウ。絶対に著者略歴に加えるべきだと力説し、冒頭から笑いのこみ上げる文集を展開しています。好奇心旺盛に、様々なことにチャレンジしてきた大学生活が披露され、『直木賞を受賞しスカしたエッセイを書く』では、小学校6年生にして、100枚にも及ぶ小説を執筆し、担任の先生が便箋3枚に感想を書いてくれたという、驚きとともに微笑ましさを感じられるエピソードが語られます。
作品通して、自虐をふんだんに織り交ぜたコミカルな綴りが目を引き、小説の印象とはまた違った、親近感の湧く姿を見せてくれています。大学時代のテンションの高いエピソードに、自分の学生時代を思い出す方もいるのではないでしょうか。ページをめくるたびに、吹き出してしまうような面白おかしい逸話が次々と登場し、読む手が止まらなくなってしまいます。
気軽に読めるエッセイですから、本の苦手な方でも楽しんで読むことができるでしょう。心が明るくなる、おすすめのエッセイです。軽快でリズミカルに描かれた、直木賞作家による極上の笑いを、堪能してみてはいかがでしょうか。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
直木賞や江戸川乱歩賞をはじめ、様々な文学賞に輝き、幾つもの傑作ミステリーを生み出し続ける作家東野圭吾。読みやすい文体と、読者の虚をつく巧みなストーリーや、重厚な人間ドラマに魅了されてしまいます。映像化された作品も非常に多く、ファンが多いことでも知られる人気作家です。
大学では電気工学科を専攻し、エンジニアとして活躍していた過去のある理系の東野が、科学をテーマに独自の考えを綴るエッセイ『さいえんす?』。多彩な知識が散りばめられ、リアリティーのある物語を紡ぎ出す東野圭吾が、どのような考えを下地に執筆しているのかがわかる、興味深い内容となっています。
急速なスピードで日々進化を遂げている科学技術。その発展は、ミステリー小説にも多大な影響を与えていると言います。作品内では、インターネットの普及や科学捜査、数学の重要性などについて、わかりやすく丁寧に説明され、理系の方でなくてもすらすらと読むことができるでしょう。頭の中にある考えを、誰もが理解できるよう難無く伝えてしまう、著者の頭の良さに脱帽するばかりです。
ダイエットや血液型、プロ野球分析から出版業界の裏事情にまで話は及び、どの話にも思わず頷きながら読んでしまう説得力があります。東野圭吾のあの小説は、この考えを元に執筆されたのではないか、あのキャラクターはこうして誕生したのでは、と感じられるような文章が多々あり、いろいろな発見ができるとても面白いエッセイです。
東野圭吾の小説が好きな方には、ぜひとも読んでいただきたいこのエッセイ。様々な問題について、論理的な見解を展開させているので、ファンの方だけでなく、あまり小説を読まない方でも楽しんで読むことができるでしょう。
- 著者
- 村上 春樹
- 出版日
リズミカルな文体により、読者の心を揺さぶる物語を描き出す作家村上春樹。日本を代表する作家の1人として、海外でも高い評価を受けています。小説家としてだけでなく、翻訳家としても活躍する村上春樹ですが、エッセイでも大変味わい深い、素敵なエピソードを読むことができます。
雑誌『anan』に連載されたエッセイを、1冊にまとめた『村上ラヂオ』。食べ物や旅、映画や音楽についてなどのエピソードが、村上春樹らしい、心地よく静かな世界観の中で綴られています。2017年現在までに、『村上ラヂオ』『おおきなかぶ、むずかしいアボカド 村上ラヂオ2』『サラダ好きのライオン 村上ラヂオ3』の3冊が発表されています。
「ドーナツの穴はいつ誰が発明したかご存知ですか?知らないでしょう。僕は知っています」と、語りかけるように綴る村上春樹。ドーナツの穴が、いつどこで誰の手によって誕生したのかが、可笑しみのある文体で説明されています。その他にも、「レコード」や「猫」についてなど、たわいのない話題が続きますが、着眼点がとても独創的で、面白いのです。
全編通して、イラストレーターの大橋歩による挿絵が、素敵に世界観とマッチして作品を彩っています。あまりにも内容がすっと入ってくるため、本を読んでいるということを忘れてしまいそうになるような、不思議な気分を味わいます。肩の力が抜けた、親近感の湧く村上春樹の姿に、ほのぼのとした魅力を感じるこの1冊。なんとも穏やかな時間を提供してくれることでしょう。
一つひとつのエピソードがとても短いので、ちょっとした空き時間に、少しずつ読んでいくのも楽しいかもしれません。読みやすく暖かい文章で、疲れた心を癒してくれるおすすめのエッセイです。
- 著者
- 石田 衣良
- 出版日
- 2011-11-18
クールでスタイリッシュな文体により、個性豊かな登場人物たちを描き出す人気作家石田衣良。代表作の1つ『池袋ウエストゲートパーク』は、オール讀物推理小説新人賞を受賞し、テレビドラマ化もされ、若い世代から絶大な支持を受けました。2003年には『4TEEN』で直木賞も受賞しています。
フリーマガジン『R-25』に連載されたエッセイが収録されている『傷つきやすくなった世界で』。『空は、今日も、青いか?』に続くエッセイ集第2弾となる本作は、格差社会を生きる若者たちに向けて、石田衣良が優しいメッセージを送る1冊になっています。
格差が広がっていく現代社会。自分以外の他者に対して厳しい態度を取り、険しい顔で街中を歩く人々が増えたのかもしれません。社会に格差があるからといって、心の中までその格差に奪われるなんて悔しいじゃないか、と石田は綴ります。他にも取り上げる話題は多岐にわたり、恋愛、仕事、年金問題など、私たちの身近な問題について、どう向き合っていくべきかが、親しみやすい文章で語られています。
流されることなく、自分の意見を持つことの大事さや、迷うことや寄り道することの素晴らしさを教えてくれる内容は、年代問わず共感できるものがあり、『恋したくない男たちの攻略法』など、草食系男子の生態についても書かれ、女性でも興味深く読むことができる内容です。
やわらかく暖かい感性と、語りかけるような文章で、勇気と元気を与えてくれるなんとも素敵なこの一冊。現代社会の問題について、様々なことに気づくことができるでしょう。日常にふと疲れを感じた時に、一読してみていただきたいエッセイです。
- 著者
- 池波正太郎
- 出版日
- 2011-10-18
日々の様々な出来事を豊富な人生経験をもって「男の常識」で語るエッセイです。たとえば、てんぷら屋には腹を空かしてかぶりつくように食べるべき、知ったかぶりや通ぶるのはカッコ悪い、などという話が書かれています。面白い話題が並んでいますが、人間性を磨く必要性を感じさせる一冊です。
時代の都合で、今とはまったく違うこともあるでしょう。しかし時が進んでも、人の心根は簡単には変わりません。マナーや作法はなぜ必要になるのか、作者の考えがよくわかります。ちょっと口うるさい爺さんに諭される気分になる一冊ですが、その口うるさい話に耳を傾けてみようかな、という気分で読んでみてはいかがでしょう。胸に響くなにかが、きっと見つかるはずです。
- 著者
- 市川 拓司
- 出版日
- 2009-01-21
美しく繊細な文章で、愛と死を物語る作家市川拓司。2003年に発表された『いま、会いにゆきます』は、映画化もされ大ベストセラーとなりました。その後も『恋愛写真―もうひとつの物語』や『そのときは彼によろしく』が続々と映像化され、恋愛小説の旗手として活躍する人気作家です。
そんな市川拓司が、自身の半生を綴るエッセイ『きみはぼくの』。青年期に経験した困難や、妻との結婚までの道のり、ベストセラー『いま、会いにゆきます』の誕生秘話などが、素直で温かみのある文章で綴られています。
発達障害の1つである「アスペルガー症候群」を患っていることを公表している著者。この作品でも、自身の長所と短所を包み隠さず語り、非常に好感の持てるエッセイになっています。感動的なのは、奥さんへ向けるストレートな愛情。『いま、会いにゆきます』の登場人物を彷彿とさせ、読んでいて心が温かくなるのを感じます。
市川拓司の記憶や想い、感取が1つとなって、あの独特な美しい物語が紡ぎ出されている、ということに気づくことができ、本作によって、市川作品がより魅力的なものに感じられることでしょう。
「偶然の積み重ね」によって今の自分がある、という言葉がとても印象的で、偶然訪れる出会いや出来事、1つ1つを大事にしていこうと思える素敵なエッセイです。市川拓司という作家に興味のある方は、ぜひ読んでみてくださいね。
人気男性作家のおすすめエッセイを選んでご紹介しました。作家の意外な一面を知ることができ、小説とは一味違った魅力を楽しむことができます。これまであまり読んでこなかったという方も、ぜひエッセイに目を向けてみてくださいね。