「天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず」という有名な言葉を残し、近代教育の父と言われる福沢諭吉。現在の1万円札の肖像にも印刷されています。慶応義塾大学の創設者でもあり、日本が近代化に向かうための書籍や論文を数多く発表しました。この記事では、そんな彼の生涯や功績、名言、『学問のすすめ』も含めおすすめの関連本を紹介していきます。
福沢諭吉は1835年生まれの教育者。幕末から明治にかけて活躍しました。慶應義塾大学の創設者としても有名です。
彼が生まれた中津藩は身分制度が特に厳しく、たとえ能力のある人でも位の低い人は重要な役職に登用されることはありませんでした。この時の経験が、封建制度に疑問を抱く彼の思想の原点になっているといえます。
5歳ころから漢学に触れ、その後も『論語』や『史記』など多くの書物をくり返し読み、暗記するものもあったそうです。そのほか、儒学や蘭学も学びました。
1853年、ペリー率いる黒船が来航したことで、徳川幕府は混沌としていきます。勝海舟など身分の高くない者からも広く意見を募るようになり、諭吉もそれまで学んでいた外国語や化学などの知識を用いて、幕府重臣の通訳をするようになりました。
1859年、前年に締結された「日米修好通商条約」の批准のために使節団が渡米することになると、諭吉も「咸臨丸(かんりんまる)」船長の従者として参加。アメリカで見聞を広げます。近代教育、病院、保険、銀行などの考え方を学び、日本に伝えました。
帰国後は通訳、翻訳家として欧米の書物を研究。日本の近代化への提言を進めていきます。このころから幕府内でも一目置かれるようになり、彼がまとめた砲術書や欧米の書物は、他の藩でも学ばれました。
明治維新後は新政府からの出仕を断り、教育活動に専念していきます。自らが運営していた蘭学塾を「慶應義塾」と名付け、旧幕臣を受け入れるなど身分に捕らわれない教育をおこない、自由で平等な教育論を推し進めていきました。
1:近代教育の礎を作り上げた
諭吉は、その生涯を教育に捧げ、近代教育の礎を作り上げました。慶応義塾大学以外にも、一橋大学や早稲田大学、専修大学などの創立に関わり、『学問のすすめ』など多くの本を残しました。
2:洋書の翻訳をした
彼が生きた幕末~明治初期、特に幕末は江戸時代の鎖国のせいで、外国語ができる人が多くありませんでした。諭吉は20代前半の適塾時代から洋書の翻訳を行っています。「speech」を「演説」、「society」を「社会」と訳したのは諭吉と言われています。
3:銀行の考え方を伝えた
江戸時代に欧米を回っていた福沢諭吉は帰国後、中央銀行という考え方を日本に伝えました。複式簿記を日本に伝えたのも諭吉の功績です。
4:保険制度を紹介した
江戸時代までは、有事の際は親族間でなんとかするという考えが多数をしめていましたが、諭吉が『西洋旅案内』でヨーロッパの保険制度を紹介したことがきっかけで保険という考えが広まりました。
5:さまざまな提言をおこなった
新聞に「国会論」を掲載し、国会開設や憲法制定に向けた提言を行いました。また、木戸孝允と協力して近代学校制度「学制」を制定したのも福沢諭吉です。
他にも新聞社や病院など、日本の近代化に大きな足跡を残した人物です。ちなみに、初めて新聞に天気予報を載せたのも彼だと言われています。
「賢人と愚人との別は、学ぶと学ばざるとによって出来るものなり。」
こちらは『学問のすすめ』の初編に載っている言葉です。「賢い人と愚かな人との違いは、学ぶか学ばないかによってできるものなのだ。」という意味。
明治維新直後の国民へ、主権者としての自覚を促す強い訴えを感じることができます。
「見込みあればこれを試みざるべからず。未だ試みずして先ずその成否を疑う者はこれを勇者というべからず。」
4編に収録されている言葉です。「見込みがあるならば、それを試さないでいるべきではない。試してみることもしないでできるかできないかを考える人は、勇者ではない。」という意味。
とにかくやってみなければはじまらない!ということですね。
「進まざる者は必ず退き、退かざる者は必ず進む。」
『学問のすすめ』の5編にある言葉です。「進歩しない者は必ず退歩する。退歩しない者は、必ず進歩する。」という意味。つまり、「我々は止まってることはなく、前進しているか後退しているかのどちらかしかない」ということです。
進歩をしていないということは停滞ではなく、後退しているのと一緒なので、前進し続けるべきだということですね。
「読書は学問の術なり、学問は事をなすの術なり。」
こちらも5編の言葉。当時の読書といえば、情報収集の大部分を担っていました。しかし諭吉は、本を読んでインプットするだけでは学問とは言えず、何か行動を起こすことに役立ててこそ学問だと言っています。
ただこれは読書を否定しているわけではなく、インプットのベースとして同時に本を読むことの大切さも説いているのではないでしょうか。
「人にして人を毛嫌ひするなかれ。」
『学問のすすめ』最終17編、最後の一文がこの言葉です。
冒頭に載っている「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずと言えり」は非常に有名ですが、人間のくせに人間を毛嫌いするのはよくないというこの言葉も、忘れずに胸に留めておきたいフレーズです。
近代教育の礎を築いた諭吉の教育論をまとめた名著『学問のすすめ』を現代語でわかりやすく編集した作品です。諭吉の教育者としての偉大さに触れ、現代にも生き続ける、学ぶことの重要性を再認識する本です。
彼の有名な言葉「天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず」の本当の意味は「人は生まれた時には、貴賎や貧富の区別はない。ただ、しっかり学問をして物事をよく知っているものは、社会的地位が高く、豊かな人になり、学ばない人は貧乏で地位の低い人となる、ということだ。」と、説くところから本作は始まります。
有名な言葉ですが、その真意までは理解していた人は少ないのではないでしょうか。福沢諭吉が説く学問の意味が綴られていきます。
- 著者
- 福澤 諭吉
- 出版日
- 2009-02-09
「役にたつ学問とは何か」、「自由とはわがままのことではない」などと題して、その真意を丁寧に説き表している文章は、教育に携わる人はもちろんのこと、学ぶ側にも有意義な教育論です。人生いくつになっても学ぶものはいくらでもあるといいます。何かを始める前に読んでみてはいかがでしょうか。
幕末から明治へと、日本が近代化に進む激動の時代を学問によって生き抜いた啓蒙思想家、福沢諭吉の自叙伝です。
慶應義塾大学の創始者で、近代日本教育の父とも言われる諭吉。晩年、その半生を自ら作った新聞社、時事新報の記者に語り記録します。時代は幕末から明治にかけての動乱期。本作は諭吉からみた時代考証としても貴重な史料で、学問の道を駆け抜けた彼の人柄にも触れることができます。
- 著者
- 福沢 諭吉
- 出版日
現在でも、慶応義塾大学に入学すると配られている本で、彼の軽い口調で語られる本作は読みやすく、そこに語られる諭吉は、勉強の仕方も行動も破天荒で読み物としてもおもしろい本です。
有名な「門閥制度は親の敵」の言葉も、この本から生まれました。
「中津では身分がすべてを決める封建制度で物をきちんと箱の中に詰めたように秩序が立っていて、何百年経ってもちょいとも動かない。」(『新訂 福翁自伝』より引用)
福沢諭吉が封建制度の撤廃や、晩年の自由運動、男女平等などに尽力する思想は、この幼少の頃の体験に基づいていると思われます。教育者の原点から近代化の歴史に思い巡らすのも楽しい作品です。
幕末から明治にかけて活躍した教育家にして啓蒙思想家、福沢諭吉が書いた文明論を説いた本です。西洋文明と日本の文化とを比較しなどから、日本が近代化を進めるために何が必要か。西洋文明とどう向き合うべきかなどを研究した名著です。
作中では、欧米文明の歴史や、東アジアの歴史にも触れ、日本が歩まなければいけない道を書き示しています。本書の初版は明治8年。明治政府ができて間もないこの時期に、これだけの知識、意見を言える人物がいたことに驚かされます。改めて彼の英知に感服することでしょう。
- 著者
- 福沢 諭吉
- 出版日
「願わくば後世の学者が大いに学んで徹底的に西洋のさまざまな書籍を読み、徹底的に日本の事情を詳しくして一層所見を広くし議論を密に行って、真に『文明の全大論(大文明論)』を書いて、日本の面目を一新することを希望する」(『文明論之概略』より引用)
このように作者が願い記した本作は、意向通り現在でも研究され続けています。今の日本を福沢諭吉がみたらどう思うか。想像しながら読むのもおもしろいかもしれません。
「国の独立は目的である。今の我が国の文明はその目的に達する手段である」(『文明論之概略』より引用)
そう結論付け、西洋列国に屈しない独立国としての日本を願った諭吉。学ぶことの大切さと国を思う強い意志を感じることができます。
近代教育の礎を作ったと称される諭吉が、晩年書き残し批判される侵略思想は、別人のものだという説を論じたノンフィクション作品です。
明治維新後、慶応義塾などの私学設立や、新聞の創刊などに尽力し、数々の論文や本を発表した彼ですが、晩年、一部の著書にアジア民族の軽視や東アジアへの侵略戦争を推進するものが存在します。これらは第二次世界大戦後、帝国日本国の侵略戦争の思想に繋がったと、世界的に非難を浴びてきました。侵略主義者で拝金主義だと言われる諭吉の陰の部分とも言えます。
- 著者
- 平山 洋
- 出版日
著者は、これら非難を浴びている文章は、諭吉の死後に書き加えられたものであるとし、その根拠、推理過程を積み上げていきます。著者の仮説を作中で証明していく手法は説得力があり、歴史の陰に隠れた真実を暴き出していきます。
福沢諭吉を取り上げた本はたくさんありますが、そのほとんどは彼の功績を称えるものです。今作はタブー視されていた彼の影の部分をクローズアップして、なおかつ、その批判を覆す趣向で書かれています。
偉大な人物の別の顔を垣間見る貴重な体験が出来る本ですし、謎ときのように書かれている本作は、ミステリーを読み解く醍醐味も感じられる作品です。スピンオフのような読み物としても面白いでしょう。
近代日本に多大な貢献をした教育者、福沢諭吉の人物伝。彼の残した言葉や教えには現代社会の問題へも通じる思想が語られており、今を生きる我々がもう一度考えなければいけないと感じさせる作品です。
彼は身分の低い家で生まれ、その反骨精神から学問の力で世に出ていきます。激動の幕末から明治にかけて、その類い稀な才能と努力により、近代日本の基礎を作り上げることになります。作者は諭吉の生涯から教育の力が持つ可能性に焦点をあて、現代の諸問題への取り組みへも通じる思想を描いていきます。
- 著者
- 北 康利
- 出版日
- 2010-02-13
「彼はこれほど国家に貢献しながら、国家に依存することを潔しとしなかった。『立国は私なり、公に非ざるなり』『一身の独立なくして一国の独立なし』そう説いて、彼は『民』であること『私立』であることに、誇りを持ち続けた。福沢の『独立自尊』の精神が今ほど必要とされる時代はない。」(『福沢諭吉 国を支えて国を頼らず』より引用)
彼の生涯を知ることで、その教育者として偉大さを知ることはもちろんのこと、自分自身の生き方を見直すきっかけになるかもしれません。
日本の紙幣に印刷された人物で、初めての文化人が福沢諭吉です。学問の世界では神仏化されるほど日本人の心に刻まれた教育家でもあります。彼の生涯を読み、その思想と言葉を触れることで、現代人に必要な学ぶ心に気付かされるかもしれません。