書評家の永田希が過去2ヶ月の新刊の中から気になった書籍を紹介していくシリーズ。今回は「革命」再考、「雲」の楽しみ方、アブサンの文化史です。
- 著者
- 的場 昭弘
- 出版日
- 2017-01-10
トランプ大統領誕生を始め、一般にポピュリズムと呼ばれる現象を「人民参加型政治」として捉え、現行の社会秩序に対する転覆の意思の表れだと解釈する著者が、社会秩序の転覆=「革命」の歴史を簡潔に振り返る1冊。
取り上げられるのは、主に
フランス革命
パリ・コミューン
ロシア革命
であり、多くの読者にとっては「終わった話の蒸し返し」に思われるかもしれません。
そう思われて多くの人にかえりみられなくなった思想でありながら、多くの人に世界中で当たり前と見なされ、そして多くの人が「現代の閉塞感」を抱く根拠になっている社会構造を根本的に変革する、そのような思想として、著者は革命思想を辿りなおします。
- 著者
- ギャヴィン プレイター=ピニー
- 出版日
- 2017-01-09
「鍵っ子」だった僕は、小学生の頃に鍵を忘れて家を出てしまい、ある土曜日の午後、親が帰宅するまでの数時間をずっと空の雲が流れる様子を眺めて過ごしたことがあります。そんな経験を共有する人なら誰でも、本書を楽しめるでしょう。
本書は、「雲を愛でる会」をオンラインで結成し、世界中から会員を集めた著者が、
低い空の雲
中間の空の雲
高い空の雲
に大別され、更に10種に分類される様々な雲と、飛行機雲などのその他の雲について、その見分け方と楽しみ方を多くの図版を紹介しながら案内する1冊。
単なる分類ではなく、「雲がどうやってできるのか、なぜあんな姿をしているのか、どうして姿を変化させるのか、どのやうに形成され、発達するのか、どのようにして崩れて消えていくのか」をも紹介しているので、著者が提唱する「クラウドウォッチング」の手引きとして大いに役立ちます。また、雲や気象に関する蘊蓄がこれでもかと詰め込まれており、きわめてすぐれた読み物でもあります。2007年に翻訳されたものが文庫化されたので、本書をポケットに忍ばせて、気ままにクラウドウォッチングに出かけるなんてのも素敵ですね。
- 著者
- バーナビー・コンラッド三世
- 出版日
- 2016-12-28
芸術や文学にちょっとでも詳しい人ならば、憧れとともに思い浮かべるに違いないお酒「アブサン」。多くの芸術家に霊感を与え、常飲・濫用されてきたニガヨモギの蒸留酒。その幻覚作用により危険視され、一時は生産が禁止され、幻の酒とも言われましたが、現代ではその麻薬的な成分を調整したものをお店で飲むことができます。「昔とは違うんだけどね」という決まり文句とともに、昔日に想いを馳せながら一杯傾けたことのある読者は是非、本書を紐解いてみてください。
本書の中心は、死や狂気、幻覚に憧れた多くの人々のエピソードの紹介で、それはそれでもちろん読みごたえがあるのですが、個人的に惹かれたのは「本物」のアブサンを手に入れようと思い立った著者が、現代のアブサン生産者やゆかりの土地を経巡る最後尾の章。
著者はほかに『葉巻の文化史』、『マティーニの文化史』も書いているということなので、そっちも読んでみたくなりました。