特にこのごろ、女性作家の小説ばかりを読み漁っています。今回は「噛み合わない心をもどかしく見守る三冊」をご紹介します。
3つの短編が収録された作品です。感覚的な言語表現とザクザクした簡潔さで語られており、3話とも面白い。今回のテーマ「噛み合わない」に焦点を当てるとすれば3話めの「ジェシーの背骨」が特におすすめです。恋人の連れ子である10歳のジェシー少年と「私」の日々が綴られています。いくら猛烈に恋人を愛していると言っても、連れ子という絶妙な立ち位置の人間を受け入れることはそう簡単ではありません。なんとかジェシーとの距離を縮めようとする私ですが、彼からの執拗な嫌がらせや、時折垣間見える実の母親への思いに阻まれて苦戦する様子が描かれています。ジェシーと私が最終的にお互いをどういうポジションに落とし込むかというのを見届けなければ本を閉じる事が出来ません。
- 著者
- 山田 詠美
- 出版日
- 1996-10-30
仙吉と妻のたみ、それから仙吉の親友である門倉によって繰り広げられる三角関係の物語です。昭和初期を舞台としており、慎ましいながらも丁寧な生活ぶりが読んでいて懐かしい気持ちにさせてくれます。
- 著者
- 向田 邦子
- 出版日
子供のいない夫婦、日和子と逍三の物語。この話を読んでいると、すごくリアルに会話が想像できるというか「うわー、いるいる!」と言いたくなるようなズレの典型が描かれています。話を聞いていない旦那、それに対し日中のこまごまとした出来事をひたすら話し続ける妻。結婚十年目、端から見ればおしどり夫婦のように見える彼らですが、呼応できていないという寂しさを抱えています。話の中で日和子はしょっちゅう「くすくす」笑うのですが、それが単純な可笑しさからではないことに気付くと、少し怖くなったり。また逍三の鈍感さも、「周囲と自分の間に膜があるような気がする」と感じている彼の心中を覗くことによって共感できたりと、2人の傍観者である読者にとっては楽しめる一冊です。
- 著者
- 江國 香織
- 出版日
- 2008-03-07
本と音楽
バンドマンやソロ・アーティスト、民族楽器奏者や音楽雑誌編集者など音楽に関連するひとびとが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、写真集にビジネス書、自然科学書やスピリチュアル本も。幅広い本と出会えます。インタビューも。