女心の難しさは、しばしば取り上げられる話題ですが(例えば、喧嘩の最後に「もういい! 知らない!」と言って飛び出して行ったくせに、後から男性が追いかけて来なかったことに対して猛烈に怒る、みたいな)小説の世界ならば彼女達が辿った心理的過程が丁寧に描かれていて「なるほどね」と理解することが出来ます。
表層のちぐはぐな遣り取りと、登場人物それぞれの気持ちを同時に見ている私達は「どうしてそこでそんな風に言ってしまうんだ」「ああ、これは彼女の本心じゃないんだから気付いてあげて!」ともどかしい思いをすることも。
噛み合わない歯車の行方を見守る三冊をご紹介しましょう。
恋人の連れ子と「私」のズレ
3つの短編が収録された作品です。感覚的な言語表現とザクザクした簡潔さで語られており、3話とも面白い。今回のテーマ「噛み合わない」に焦点を当てるとすれば3話めの「ジェシーの背骨」が特におすすめです。恋人の連れ子である10歳のジェシー少年と「私」の日々が綴られています。いくら猛烈に恋人を愛していると言っても、連れ子という絶妙な立ち位置の人間を受け入れることはそう簡単ではありません。なんとかジェシーとの距離を縮めようとする私ですが、彼からの執拗な嫌がらせや、時折垣間見える実の母親への思いに阻まれて苦戦する様子が描かれています。ジェシーと私が最終的にお互いをどういうポジションに落とし込むかというのを見届けなければ本を閉じる事が出来ません。
大人の三角関係
仙吉と妻のたみ、それから仙吉の親友である門倉によって繰り広げられる三角関係の物語です。昭和初期を舞台としており、慎ましいながらも丁寧な生活ぶりが読んでいて懐かしい気持ちにさせてくれます。
三角関係と言っても、泥沼不倫のようなものではありません。密やかで清楚な大人のプラトニックラブという感じでしょうか。3人とも自分の本心をさらけ出して自分だけ楽になるようなことはしません。しかし、言葉で交わされないそれぞれの思いが手に取るように伝わってきて切なくなる場面も。大人3人の噛み合ない気持ちを一番冷静に見ていたのは実は仙吉とたみの娘であるさと子なのかも知れません。