『ザ・ワールド・イズ・マイン』以外の新井英樹おすすめランキングベスト6!

更新:2017.2.14

新井英樹と言えば『ザ・ワールド・イズ・マイン』でカルト的な人気のある漫画家です。タブーをものともしない、その先鋭的な切り口の新井作品の中から選りすぐりの6作品をご紹介したいと思います。

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アナーキズムの体現者、新井英樹

新井英樹は1963年生まれの漫画家です。明治大学を卒業後、一時期文具会社に勤務しますが、漫画家になるため退職。配偶者は同じく漫画家の入江喜和。

『8月の光』で1989年にアフタヌーン四季賞夏のコンテストにおいて四季大賞を受賞、同作品がアフタヌーン誌に掲載されてデビューしました。

新井英樹は当初、荒削りながらソフトなタッチで、青春を回顧させる作品を発表します。初連載作品『宮本から君へ』から徐々に反社会的要素を含む表現に取り組み始め、『ザ・ワールド・イズ・マイン』でカルト的な人気を博します。

以後、新井英樹はアナーキーな作風を特徴とする漫画家として知られるようになりました。

6位:すべての働く男たちに送りたい!『宮本から君へ』

過激な作風で知られる新井英樹ですが、彼の熱い気持ちが程よく表現されたのが本作です。ぜひ新井英樹初心者におすすめしたい作品となっています。

主人公は今年から文具メーカーの営業マンとして働く新卒の宮本。彼は主人公なのですが、いかんせんパッとしない。

女性にモテる訳でもなし、仕事ができる訳でもなし、それなのに一丁前に持論だけはしっかり持っているという典型的な新卒社員です。

著者
新井 英樹
出版日
2009-01-17

正直、この作品は最初の方は宮本のそんな青臭さやかっこ悪さが鼻につく人もいるかもしれません。初めて社会人としてデビューしたひよっこなのでそれも仕方ないのですが、その様子がリアルすぎてイライラさせられることもしばしば。

しかし宮本が自分の殻を破り、成長していく様子は胸が熱くなるものがあります。成長したといってもスマートさはまったく無く、むしろ泥くささがパワーアップしているようにも見えます。

でもそのがむしゃらなパワーが読む者を圧倒するのです。ふっきれて自分らしく生きる宮本の姿には、かっこ悪くても自分のできることを一生懸命する、という基本的な、そして重要なことを気付かされます。

働く男なら誰しも感銘を受けること間違いなしの名作です。

5位:愛は国境を越えるか?『愛しのアイリーン』

主人公の宍戸岩男は高齢の両親と実家で同居しています。42歳にもなって未だ独身。

母のツルは息子の岩男を案じて何度もお見合いを薦めます。さらに勤め先の社長からも身を固めるよう言われ、フィリピン人との国際結婚を持ちかけられますが、純情な岩男はどちらも断ります。彼には、惹かれる女性がいました。

それは岩男の勤めるパチンコ店の同僚、吉岡愛子です。彼女は23歳にして離婚歴のある一児の母でした。いわゆる出戻りで、田舎ではやや浮いていますが、それでも優しく接してくれる愛子に岩男は惚れ込みました。

ところが愛子は、複数の男性と関係を持っており、それを知った岩男は愕然とします。そんな時、岩男は社長の国際結婚話を思い出しました。斡旋会社の紹介でフィリピンへ飛んだ岩男は、そこで半ば自暴自棄にアイリーン・ゴンザレスとの結婚を決めたのです。

 

著者
新井 英樹
出版日
2010-12-15


本作は1995年に発表されました。今でこそ日本の少子高齢化、農村の嫁不足、後継者問題などが声高に叫ばれるようになりましたが、なんと20年以上も前にそれらに切り込んでいたというから驚きです。当時はまだ問題が表面化し始めたばかりでしょうから、新井英樹という作家の先見の明が窺えます。

話は岩男とアイリーンの国際結婚を主軸にして、人種差別問題まで踏み込みます。18歳のアイリーンは言葉もろくに通じないため、村社会特有の偏見と無理解に苛まれます。昔気質で体面を重視するツルは、特にアイリーンとの結婚に猛反発。決して認めようとはしません。

本作は岩男とアイリーンが、「愛」で障害を乗り越える物語ではありません。まず恋愛不信から結婚を決めた岩男は「愛」の実存を疑っていて、人買い同然のアイリーンも結婚は打算的なものでした。そんな結婚でも、閉鎖社会で生き抜くには2人の協力が必要になっていきます。果たしてその関係から2人に芽生えるものは「愛」なのでしょうか。

4位:不条理と戦え。世界に立ち向かえ『キーチ!!』

染谷輝一、通称・キーチはあまり感情を出しません。彼は生まれる前に母親の故郷の霊媒師に「強い男になる」と予言されました。その片鱗か、キーチは幼稚園でいじめられてもやり返して相手を泣かせる乱暴者として恐れられています。そんなキーチを染谷夫妻は温かく見守り、幸せに暮らしていました。しかし、その幸福は唐突に終わります。

キーチの両親は通り魔に刺殺されてしまったのです。キーチは3歳にして世の中の理不尽を味わいます。

祖父母に引き取られたキーチは、ある日ふらりと姿を消しました。約1年後、山奥で発見されるまでに、キーチは人間の生死や裏切りに直面して鍛えられます。

両親を亡くして蒸発した幼児が、山奥で生きていた。ニュースが日本中を駆け巡り、それを見た甲斐慶一郎は同い年のキーチに心酔します。友人を理不尽に失って無気力になった慶一郎は、独力で生き抜いたキーチに世の中の理不尽に打ち勝つ希望を見出しました。

キーチと慶一郎が小学5年生になった時、2人は出会います。2人はクラスでいじめられていた佐治みさとを救いますが、その結果思わぬことが明るみに出ます。みさとは父親に児童売春を強制された被害者で、しかも彼女の客には大物政治家が多数いたことがわかります。現社会の暗部を見た2人は、汚い大人を打倒するために立ち上がります。

 

著者
新井 英樹
出版日


新井英樹は終始、キーチの特異性を強調します。幼い頃は乱暴者としか思えなかったキーチが、様々な経験を積んで成長するにつれて、その特異性が判明します。彼を特異たらしめるもの、それはある意味で社会に反する、キーチの確固とした自我です。彼は決して己を曲げず、また己の規範に反しません。その自我の強さはカリスマ性として滲み出します。

神道では荒ぶる神の側面を荒魂(あらみたま)と呼びますが、キーチが社会に反発し、抵抗する続ける姿に重なります。荒魂で有名なのはスサノオですが、かの神は荒ぶる神と英雄の二面性を持っています。キーチが歪んだ体制を破壊する荒魂ならば、彼は体制に馴染まない人々にとってスサノオと同じような英雄=救世主となっていくのでしょうか。

キーチのシンパにしてサポート役、甲斐の存在も重要です。みさとのいじめをやめさせたのも、そのせいでキーチが窮地に陥ったところを救ったのも、甲斐の機転があればこそ。甲斐は児童売春に政治家が絡んでいるため、訴えが揉み消されることを察知します。そこで甲斐は、キーチを利用して社会が絶対に無視出来ない奇策に打って出ます。

そして劇中時間で10年後、21歳になったキーチの活躍が『キーチVS』で描かれます。「強い男になる」と予言されたキーチは、一体何者と、どのように対決(VS)する運命にあるのでしょうか。

3位:種(しゅ)のために種(たね)を撒く『SCATTER あなたがここにいてほしい』

はじめに、本作は性交渉や強姦をモチーフとした作品です。その点をご留意ください。

現代によく似た日本。社会は人知れず、密かに侵略されています。また、時を同じくして連続婦女暴行事件が相次いでいました。

東京都八王子在住の久保ヒカルは、23歳の無職。B4Mというグループのメンバーで、女性経験のない童貞です。B4Mは女性に縁のない4人組が、自分達の現実から目を逸らすため、セックスの根絶を掲げたグループ。彼らはネットを中心に活動していました。

久保は異常性欲の持ち主です。極度の早漏で、ほとんど無尽蔵とも思える精力を有しています。ある夜、性欲を発散するため公園で露出していたところ、取材中の女編集者・沢田和美と出くわします。久保は沢田の紹介で漫画家のアシスタントになり、紆余曲折を経て遊佐虹人主催のAV男優オーディションを受けることになります。

実は連続婦女暴行の犯人は遊佐でした。しかし、これには深い事情があって、被害者の女性は宇宙人に寄生されていたのです。そして宇宙人の弱点は人間の精液。これまで密かに宇宙人を対峙していた遊佐は性的不能に陥り、自分の後継者を探していたのでした。

 

著者
新井 英樹
出版日
2010-03-09


人知れず人間を守る孤独なヒーロー。あるいは、主義思想自体は正しくても、社会に受け入れられないヴィジランテ(自警団)。こうして要素だけを取り出せば、本作も正統派ヒーロー漫画と言えなくはありません。それだけに、人に害をなす宇宙人が女性器に取り憑き、それを排除するために強姦、射精するという特徴的な細部の異常性が際立ちます。

本作をしてアナーキーと評価される所以です。新井英樹はタブーを打ち破る作品が多い作家ですが、ある意味で本作が一番突き抜けているのではないでしょうか。

一歩間違えれば社会の鼻つまみ者となる登場人物達が、精一杯目的意識を持って婦女暴行に勤しむ。やっていることだけを見れば単なる強姦魔なのですが、大真面目な語り口がシュールな笑いを誘います。

無職で童貞で早漏で性欲魔人と四拍子揃ったどうしようもない主人公、久保。しかし彼だけが、いや彼だからこそ世界を救えるという皮肉。自警団活動と、バツイチ子持ちの沢田との交流を通して、久保は自分の役目を認識していきます。日夜宇宙人と暗闘をくり広げる彼は、人類という種を絶やさず、種を未来に撒き続けることが出来るのでしょうか。

2位:天才の軌跡は甘くない『シュガー』

16歳の主人公・石川凜はいい加減でお調子者の少年です。時にハチャメチャな行動をして周りを困惑させます。8年間勤めた新聞配達やストリートダンスチームの活動で顔は広く、地元では幅広い年代層に親しまれていました。

凜は高校1年の冬、卒業を待たず出身地の北海道を離れて上京します。東京の親戚を頼って板前の修業をするためです。これはいつもの軽いノリで「手に職をつける」と言い出したことが原因ですが、一度決めたことは曲げないのが凜の信条です。

出発前に地元の因縁を清算する中、凜はかつての兄貴分・玉置欣二と再会します。さらに凜は欣二の同棲相手・レイラと出会ったことで、運命的にボクシングの道を歩き始めます。

 

著者
新井 英樹
出版日
2002-04-09


「拳聖」と呼ばれるボクサーがいました。その華麗な立ち回りを「Sweet(素晴らしい)」と賞賛されたトレーナーは、「Sweet as SUGAR(まさに砂糖のようにね)」と応えたそうです。ボクサーの名前はシュガー・レイ・ロビンソン。本作のタイトルは彼に由来します。

凜は上京してからは板前修業とジム通いを両立させます。「シュガー」な凜ですが、根は真面目。ボクシング漫画としては珍しく、本編では凜の周辺の人間ドラマに重点を置いて描かれます。

凜はよく笑います。あまりにもひょうきんに振る舞いすぎて、彼の本心を計れません。彼は何を感じ、何を思っているのでしょうか。玉置欣二は本編でこんなことを言っています。

「ゆるくねえ時に泣く奴は3流、歯……食いしばる奴ぁ2流。笑え……果てしなく。そいつが……1番だ」(『SUGAR』より引用)

1位:新井英樹の最高傑作!『RIN』

石川凜19歳、プロボクサー。12戦連続KO勝ちの戦績を引っ提げてWBC世界タイトルに挑みます。そんな凜は日本ボクシングファンに「石川負けろ」「くたばれ」と数々の罵声を浴びせられ、逆にアウェーのはずの外国人チャンピオンが「頑張れ」と声援を送られます。

そのパフォーマンスや言動から、凜はヒール(悪役)になっていました。

チャンピオンを下し、あっさりスーパーフェザー級王者となった凜はますます増長します。スポーツ番組で同じ世界王者として紹介されたライト級王者・立石譲司に、凜はこう言い放ちました。

「チャンピオンだし、あんたならわかるよね?(中略)オレとあんたじゃ、格が違うってこと」(『RIN』より引用)

この他、数々の暴言を受け、立石は凜に挑戦状を叩きつけました。石川凜と立石譲司、階級を超えたタイトルマッチが始まります。

 

著者
新井 英樹
出版日
2006-06-06


本作『RIN』では、前作『SUGAR』から数年後、プロボクサーとして成功する石川凜の姿が描かれます。

作中で凜は煽る煽る、とにかく煽ります。彼は「ボクシングの天才」として目覚めました。凜の言動は「天才の目線」で描かれ、読者も含めた作中の登場人物にまったく受け入れられないものになっています。あの陽気でよく笑う少年の姿は見当たりません。

いや、正確にはその片鱗はあったのです。笑うばかりで本心の読めなかった凜の姿、あれこそは周囲に馴染めない、天才ゆえに凡人を理解出来ない自分を「ノリ」と「空気を読んで」誤魔化した姿だったのでしょう。

もう一人の主人公といえる立石譲司。どん底から這い上がってチャンピオンになった彼は、努力型のボクサーです。語られる立石の生い立ちは凄まじく、凡人たる観客、そして読者から共感されるキャラです。

主人公とライバル、天才と努力家、ヒーローとヒールの立場が逆転している異色のボクシング漫画。パウンド・フォー・パウンドを制するのは果たしてどちらでしょうか……。孤高の天才を描いた力作、『RIN』を新井作品ランキングベスト1に選びたいと思います。

いかがでしたか。新井英樹の漫画に登場するキャラクターは、良くも悪くも人間的です。食って、寝て、笑って、泣いて、怒って、愛し合う。清濁併せ持った奇才・新井英樹ワールド、一度手に取ってみてはいかがでしょうか。

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