哲学をより実践的に示した一冊
- 著者
- マイケル サンデル
- 出版日
- 2011-11-25
マイケル・サンデルさんのハーバード大学の人気講義「Jusice」をもとにした本です。
哲学をよりプラクティカルなところに落とし込んでいて、実際にあった事件や思考実験をもとに、正義について考えていきます。
第二章ではベンサムやミルの「功利主義」についての議論があります。最大多数の最大幸福を求めることをよしとする功利主義は、一見多くの人を幸せにする最も有効な手段だと思います。直感的にも、それを否定することは難しいと思いませんか? しかしもし文字通り、最大多数の最大幸福を求めることを最適解とするなら、どんな間違いが 起こるのかなど、幾つもの実際に起こった例を交えて解説しています。
また、第九章では「責任」というものについても考えさせられます。我々は先祖の罪を償うべきなのか、という議論は、今の時代でもみんなにとって興味のあることだと思います。
例えば、僕らは日本人が海外で世界遺産に落書きをした、などというニュースを聞くと、まったく知らない日本人の行為であっても、海外の人に申し訳ない気持ちになったりします。そんな風に、責任を感じる境界線は一体何なのか、などは考える価値のあることだと思います。
哲学にリンクする「ミーム」という概念
- 著者
- スーザン ブラックモア
- 出版日
こちらは入門書のように様々な分野を扱ったものではなく、少し専門的な本です。「ミーム」という言葉自体、あまり多くの人に知られていませんが、誰にとっても興味深いと思ってもらえるような内容なので、紹介してみようと思います。
ミームとは、ある概念です。人の脳を住みかとして、人の脳から人の脳へ、ミームは自分をどんどん複製していきます。例えば「スカートを履くこと」や「髪の毛を染めること」もミームの一つです。そうしたミームが人の脳に入りこんで、人の行動に作用し、人の脳の間で複製されているのです。
人が必要以上におしゃべりに進化したのも、ミームが拡散されやすいようにそうしたのかもしれません。何も考えないでおこうと努力しても、考えを止めることができないのは、ミームが湧き上がってくるからかもしれません。
それらは決して空虚な話ではなく、ダーウィンの自然淘汰による進化理論が確立され、科学の力で遺伝子の正体が少しずつ明らかになってきていますが、その遺伝子とミームのアナロジーは強い説得力を持っています。
TEDでも、2002年にダニエル・ダネットが、2009年にこの本の著者であるスーザン・ブラックモアがミームの話をしています。2009年ではミームからさらに進化した、テクノミームであるテームの話をしています。テクノロジーの力で、人の手を介さずとも広がる第三の自己複製子であるテームの、その危険性を指摘しています。コンピューターは、人の力ではなく、自分を増やそうとするミームの力でできたものかもしれませんね。
僕自身、大学では学んだことのない分野でしたが、非常に興味深く、今の時代に考えるべきことでもあると思います。学生の方は、是非卒論のアイデアにしてみてください。
時間のない方は、この本のリチャード・ドーキンスさんによる序文だけでもどうぞ。
ファッションを哲学する
- 著者
- 鷲田 清一
- 出版日
少し趣の違う本を紹介します。
鷲田清一さんによる、ファッションを、そしてモードというものについて、真っ向から向き合った本です。うわべの問題として軽く見られがちのファッションには、様々な役割があるということを改めて考えることができます。
服の役割と聞くと皆さんなら、どのようなことを思い浮かべるでしょうか。身体を保護したり、寒さから守るため、といったものにはとどまらない、服の役割に気づくことができるでしょう。制服一つをとっても、制服を着ることで違う自分になったような気持ちになるように、人格に影響していることがわかります。
時代と服の関係性の考察も、面白いです。著者は、第二の皮膚ともいえる服は、極細の繊維が持つ羽毛のようなやさしい感触や、絹より滑りのいい装飾感にうっとりすることもあれば、80年代に登場したボディ・コンシャスな服は、逆に皮膚への刺激や感触を楽しむ服だったのではないか、と考察しています。
また、今は多くの人にとって、服は個性を楽しむためのものであると思います。著者は、わたしたちの生きている社会は、人々に誰かであることを強要する社会であり、地下鉄のファッション雑誌の吊り広告でも「じぶんらしさ」を強要し、自分が誰かよくわからないままに、自分らしくあることにこだわる、と書いています。
そして、個性を発揮しなければいけない故に、個性のないものが個性になることもあります。それについて著者は、ファッション現象そのものに反抗するためのアンチ・モードでさえ、たちまちモードの一つに飲み込まれる、と考察しています。
他にも山本耀司、川久保玲、三宅一生といった日本人デザイナーについての言及もあったり、ファッションに興味のある方は、読んでみると何か発見があるかもしれません。