TV出演の多いマツコデラックス。過去には雑誌編集者を務めていたことも。今回は、人を、世間を、そして自分をも痛快に斬るマツコデラックスの名言を楽しめる5冊を集めてみました。
マツコデラックスはコラムニスト、タレントです。とだけいうと、実は言葉足らずです。マツコデラックスの本当の姿を表せてはいないように思えます。そこで本人の言葉を借りることにしましょう。
「アタシはオカマだ。それも、見る人を困惑させてしまうような、とても解りづらいオカマだ」
「要は、男性同性愛者で異性装者(女装)ってことなんだけど」
(ともに『うさぎとマツコの往復書簡』より引用)
もう少し丁寧に経歴を詳らかにしますと、マツコデラックスは1972年千葉県生まれ。美容専門学校を経て、ゲイ雑誌の編集部に勤務するようになるも退職。実家で引きこもりをしていたところ、編集者時代の文章に魅力を感じた小説家の中村うさぎから対談集のゲストに抜擢されます。それを機に現在のコラムニスト及びテレビタレント業に就くことになるのでした。
マツコデラックスの芸風は歯に衣着せぬ毒舌。誰に遠慮するでもなく発する言葉の数々。ただその言葉には、厳しい渡世をしてきたからこそできる、絶妙な匙加減と気遣いがあります。自分のことも他人のことも、そこまで言っていいの? でもそうだよね、と思ってしまうマツコデラックスの言葉。
今回はそんな彼女の名言を書籍から紐解いていきましょう。
- 著者
- ["中村 うさぎ", "マツコ・デラックス"]
- 出版日
- 2010-11-06
マツコデラックスの埋もれていた才能を見出し、今では「魂の双子」と呼ぶ小説家中村うさぎ。そんな彼女とマツコデラックスが『サンデー毎日』で2009年から始めた交換日記形式の連載をまとめたものが『うさぎとマツコの往復書簡』です。
買い物依存症・ホスト通いに始まり、美容整形を繰り返したりデリヘルをやってみたりと「業の深い煩悩ババア」* と自身を振り返る中村うさぎ。一方で、マツコデラックスもその性的志向から自身の人生を「アタシのぶざまで愚かな半生」* と称するなど、半ば自傷行為のように魂を吐露する2人。(* いずれも同書より引用)
そんな強烈な個性を持つふたりが、セクシャリティに政治、フェミニズムといった具体的な話から、自意識について、本当の自分について、そして自身の価値についてまで熱く議論。これは名言だ!という話から、なんてことまで言ってしまうんだ……という迷言(?)まで、たくさんの言葉の糸を織り込みながら深まっていく彼女たちのやり取りからは目が離せません。
「本当の自分探しって、しょっぱい思いをすることそのものであって、泣いたりわめいたり怒ったりしている姿そのものが本当の自分で、それ以下でもそれ以上でもないんだと思うわ」(『うさぎとマツコの往復書簡』より)
成熟したはずのオトナ2人が自分とは何だ? と切実に説いた後に、お互いの鋭い質問からまた思考の深みに嵌まっていく……。その彷徨える様は、現代社会で迷える読者をも諸共に惹き込んでくれることでしょう。
本項ではマツコデラックスの名言をピックアップしましたが、ぜひ中村うさぎの言葉もお楽しみいただければと思います。3人目の往復書簡参加者になったつもりで、一緒に魂を震わせてみてください。
- 著者
- マツコ デラックス
- 出版日
- 2014-06-21
怠惰で意地っ張りで日々に迷っているかと思えば、クリアに物事を捉える。そんなマツコデラックスの心根と私生活を見せてもらえるエッセイ集『デラックスじゃない』。研いだ刃の切れ味だけじゃなく、心に染み込む滋味も含んだ1冊となっています。
「アタシの盛った話に、誰が喜ぶんだろう。周りにいる破天荒な人たちと闘うことに何の意味があるんだろう。そう思ったの」(『デラックスじゃない』より)
と語るマツコデラックス。虚飾を排し、「アタシ」の実像で勝負する。そんな自省の一言です。話を盛ることに対して過去の「アタシ」への想いも込めて語る部分は、自分とは? と悩む読者にきっとヒントを授けてくれることでしょう。
上記の名言に代表されるように、本書の大きな根幹テーマは「自省」。過去の「アタシ」を振り返る以外にも、日常生活や趣味についてなど、様々なことを振り返っていきます。そしてそんな本書のもう1つのテーマは「覚悟」。
「周りと口裏を合わせるような発言をして、居場所を確保して安心することは、結果的に自分の安らぎや満足感には直結しないんだよ。もっと抗わなきゃいけなかったり、もっと意地を張らなきゃいけないことがほかにあるんだよ」(『デラックスじゃない』より)
マイノリティである自分と向き合って、それでも迷いながら日々を戦い抜いているマツコデラックスからの「覚悟」へのメッセージ。他者や世間への過激な発言の裏には、常に自分との戦いがあったのですね。
さて、本書を自省と覚悟の名言集と銘打たせていただきましたが、本書のポテンシャルはそれだけではありません。幸せってなんだっけ? 生きるってなんだっけ? 迷ってもいいじゃない、と語りかけてくれる本書。斬るだけではございません。優しく包んでもくれる暖かい1冊ですよ。
- 著者
- マツコ・デラックス
- 出版日
- 2011-01-29
レディースコミックという成人向け、ある種、人間の本質を赤裸々に描き出す雑誌。そんな雑誌に連載された人生相談コーナーをまとめた本書『あまから人生相談』。なかなかに一筋縄ではいかない、幅広い年齢層の女性の人生相談が収載されています。
女友達とも、旦那・彼氏とも違う性を生きるマツコデラックス相手だからこそできる相談。真摯に答えるマツコデラックスの優しくも厳しい名言を、今回は少しご紹介します。
「ただ人の成功をねたんでいるだけでは、生きている価値がありません。そして、成功イコール幸せでもないもんよ。人生とは、えらく厄介なものですね。そう、自分が幸せかどうかは、自分で決めるしかないのよ」 (『あまから人生相談』より)
人生相談も色々あります。そうした人生相談に共通するのは、今より幸せになりたいという切実な願い。幸せになるには? 幸せの定義って? そう聞かれ、マツコデラックスは上記のように答えます。明確に、幸せはこうであると答えをくれる訳ではありません。
マツコデラックスが本書で斬るのは、人生相談で明確な答えがもらえるんじゃないかという甘え。他人からもらった答えを何も考えずに受け容れて、それが正解だと信じて終わりにしてるんじゃないわよ、という声が聞こえてくるようです。自分の幸せを他人の手に委ねないこと。マツコデラックスは本書でそれを繰り返し説きます。
もちろん、甘えからではなく、深刻な状況で相談を持ち掛ける相談者もおります。そんな彼女たちには丁寧に、人生を考えるヒントをくれるマツコデラックス。その切り返しの濃淡によって読者ごとの名言を見つけられることでしょう。
- 著者
- マツコ・デラックス
- 出版日
- 2012-04-12
どこまで他人のことを分析しているのか、このマツコデラックスという人間は……。そう思わせられる、マツコデラックスによる、気になったオンナたちの研究エッセイ集『世迷いごと』。虚栄心や羞恥心が強く、プライドで生きる男たちではなく、人間の本質的なところをうかがわせてくれる女たちを題材にしています。登場するのは広末涼子や黒木瞳といった女優から、女子アナやスポーツ選手まで様々です。
彼女たちへの鋭い批評や少し捻くれた応援の言葉を中心としたこの本の底流にあるのは、メディアや発信者からもたらされる情報(パフォーマンスやメッセージ)をどう受け取るのか、そして、受け取った上できちんと考えましょうよ、というメッセージ。マツコデラックスは、男にも女にも警笛を鳴らします。
「毎日、部屋でエロ動画見ているような男たちからとったデータなんか当てにならないってこと。女子アナのパンチラばかり見ていたら、審美眼が衰えますってことね」
「一時、『CanCam』の部数が伸びていたのは、ブスが買っていたからなのよ。見てくれだけじゃなく、与えられたものを『ああ、そうですか』って素直に受け取ってくれるような精神的ブス」(ともに『世迷いごと』より)
何も考えずただ男性として生きているだけの男たちを強烈に皮肉る一方で、女性に媚びを売る訳でもありません。このように、今の社会に何も考えずに生きていることを批判するマツコデラックスが、気になる存在として書き記したオンナたちはどんな人たちなのか。オンナたちの生き様とその研究成果をどうぞご覧ください。
- 著者
- ["マツコ・デラックス", "池田 清彦"]
- 出版日
「何、この対談?『女装したい』『女装したい』とかを活字にしていて、頭、大丈夫か!?(笑)」(『マツ☆キヨ』より)
マツコデラックス自身がそう言ってしまうのは、早稲田大学教授で生物学が専門の池田清彦とのこちらの対談集『マツ☆キヨ』。単なる専門家との難しい対談ではなく、その進行は穏やか。自然体とも言えるでしょう。だからこそ、マツコデラックスは「女装したい」と本音を出してしまった、いや連呼してしまったんでしょうね。
今までご紹介したマツコデラックスの著作はどちらかというと、その人ひとりひとりの人生に向き合って、人はどう生きるか、を話すものが多かったと思います。本書は対談相手がいわゆる先生ということもあり、社会のあり方に焦点を当てながら、人はどう生きるかを2人で模索していきます。
池田清彦が称賛するマツコデラックスの過激であるものの、配慮が行き届いた発言。そんな過激発言で警告するのは「ものを考えない社会」「リアルを見ようとしない社会」です。
「アタシのようなものも含めて、社会の規範から外れた、底辺で生きている人間を、国民としてカウントしていないんだよ。だから、『家族の理想形』というような絵空事の世界を掲げて、『みんながこうなったら幸せになる』とのたまう」(『マツ☆キヨ』より)
「震災後の社会」「情報化社会とは」という話題から、現代社会でどう仕事をするか、生きていくかを自然体トークで話していくマツコデラックスと池田清彦。この対談の末に見えてくるものとは何なのでしょう。自身をアウトサイダーとマイノリティと語る2人の対談ですから、自然体といっても切れ味もございます。ええ、それもしっかり。
名言を多数引用する形でマツコデラックスの書籍を5冊、ご紹介しました。プライベートエッセイも共著も、人生について考えさせられる名言を数々載せています。男でも女でもない部外者だからこそ語れる言葉もあると言うマツコデラックス。あなたの人生に共鳴してくれる言葉がそこにはあるはずです。