SFミステリー小説おすすめ16選!ワンダーランドで謎解きを。

更新:2021.12.16

「SF」とはサイエンス・フィクションの略語であり、科学的な空想世界を指します。そんな未来的な世界で起きる、不思議な事件の数々。どの作品も、謎が謎を呼び、SFならではの不可解な事件で読者の予想を鮮やかに裏切ってくれるおすすめの作品です。

ブックカルテ リンク

愛する人のために犯した罪を追うSFミステリー

この物語は、世界大戦が一度しかなかった世界が舞台。この世界に生きるレスリー・モーニングは父が残した遺品の中に、タイム・ライフ版「第二次世界大戦史」という書を見つけます。そこには沈没したと記されている客船、ノルマンディ号や、戦場、崩壊した都市の写真がありました。この世界には第二次世界大戦は存在しないのになぜ……?

著者
ジェリー ユルスマン
出版日


同時に解き明かされていくのは、祖母エリアンダーの犯した殺人事件の真相。彼女はなぜ殺人を犯したのでしょうか。この殺人事件の被害者は実は、ユダヤ人を憎悪していたアドルフ・ヒトラーだったのです……。

もう物語の繋がりはお気づきでしょうか?愛する人を失った祖母エリアンダーのタイムトラベル。彼女が愛する人たちの死という未来を変えるため行動し、世界を変えていくところからこの物語が動き出すのです。

過去と現在が複雑に交わっており、読み進めていくと、すべては祖母エリアンダーの事件は愛ゆえの行動なのだと気づかされます。夫と息子の運命を、自分を犠牲にしてまで変えようとした彼女の愛の深さ。読み終えた後は切なくて、胸がぎゅっと締め付けられるようなSFミステリーです。

目まぐるしく事実が変わる世界。探偵はどう謎解きする?

「ワンダーマシンが作動しはじめてから、世の中は、以前の世界とは似ても似つかぬものになってしまった。確実なもの、絶対的なものなど存在しないということを、現実に経験することになったからだ。」(『不確定世界の探偵物語』から引用)

主人公の名前は、ノーマン・T・ギブスン。ギブスンはこの変わった世界で探偵をしています。エドワード・ブライスという大富豪が世界でただ一つのタイムマシンを作り出してからは、過去に起こったことが現在の認識と異なることが当たり前になりました。

著者
鏡 明
出版日


目の前にいた人間が突然見知らぬ人になったり、いきなりテレビの形が変わったりする不思議な世界なのです。ギブスンはある日その大富豪から依頼を受けることとなるのですが、全てを有する彼の依頼とはいったい……?

タイムマシンがあったらあなたは何をしたいですか?過去をやり直したい、未来を見に行きたいと想像が膨らみますね。大体のSF作品では歴史を変えることはタブーのようになっていることが多かったのですが、この物語ではそんなことおかまいなしに過去がどんどん塗り替えられていきます。

この移り変わりの激しい世界で探偵という仕事は不向きかと思いますが、彼は一体どうやって依頼を解決していくのでしょうか。ギブソンになったつもりであなたも一緒に依頼を解決していってみてくださいね。

謎が謎を呼ぶハードSF

月面調査員がある不思議な死体を発見するところから物語は動き出します。その死体はチャーリーと名付けられ、研究の結果その死体はなんと死後5万年も経過していたことがわかりました。更に死体はどの月面基地の所属ではなく世界のいかなる人間でもないことも判明し、研究者たちを悩ませます。彼は何者なのでしょうか……。

著者
ジェイムズ・P・ホーガン
出版日
1980-05-23


「どこか深いところからゆっくりと浮かび上がるように、彼は意識を取り戻しかけていた。」(『星を継ぐもの』から引用)

こんな冒頭から始まるこの作品はすべてにおいて描写が美しいと思います。読めば、あたりに広がる景色が知らぬうちに頭の中に浮かんくるでしょう。また、研究者たちのチャーリーに対する仮説の議論も淡々と描かれているのではないので、読んでいて自分もこの議論に参加しているような楽しさがあります。

この後の展開はどうなるのだろう。次に次にと内容が気になり後半にかけての加速度がさらに気持ちを高ぶらせてくれる作品です。

独特な世界観に翻弄される、言わずと知れた名作奇書

中井英夫の「虚無への供物」、小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」と並んで日本探偵小説の「三大奇書」に選ばれている作品です。この作品の角川文書の裏表紙を見てみると 「これを読む者は、一度は精神に異常をきたすと伝えられる」と書かれており、かなり興味が湧いてきます。

著者
夢野 久作
出版日


物語は主人公が目が覚めると見たことのない部屋にいるところから始まります。自分が誰かもわからず、なぜここにいるかもわからない状態……。自分のことを知っているのは治療を担当しているらしい博士のみ。彼は博士からさまざまなヒントをもらい自分を思い出そうとします。果たして彼は記憶を取り戻すことができるのでしょうか。

一度は精神に異常をきたすと言われるくらいの本だからかなり難しいのだろうと思う方は多いのではないでしょうか?しかし読めばその文章力で頭にすらすらと内容が入ってきます。

しかし、主人公の目線から物語を読み進めるとなんとも真実が見えがたい。記憶がない状態なので何が真実で何が嘘なのかがわからないのです。ころころと変わっていく真実に読者は混乱するかと思います。でもそこがまた魅力的なところで、この独特な作風こそが奇書と呼ばれるに相応しいもの。ぜひあなたもこの独特な世界観にのまれてみませんか?

涙なしでは見られない温かなミステリーSF小説

『消えた少年たち』は1989年に短編小説として雑誌に掲載され1989年にSF、ファンタジー作品を対象としたローカス賞を受賞しました。そしてその後の1992年に長編化された物語です。

アメリカ・ノースカロライナ州に引っ越してきた五人家族のフレッチャー家。長男のスティーヴィは繊細な心の持ち主で転校した小学校でなかなかなじめずにふさぎ込んでしまいます。いつもひとりの彼ですが、友達と遊んでいるというのです。

著者
オースン・スコット カード
出版日
2003-08-08


しかしそれは誰にも見えない空想の友達でした。そのころからフレッチャー家の周りで奇妙なことが起こり始めます。さらには連続少年失踪事件も起こり……。フレッチャー家はどうなるのでしょうか。

長男スティーヴィの学校でのいじめ問題はお子様をお持ちの方ならば苦しいほどに感情移入するのではないでしょうか。また、夫ステップの会社での上司問題など、こちらも共感しやすい様々な困難が降りかかってきます。家族の愛や絆を中心とした物語構成で、涙なしでは見られない作品です。

異質な空間で起こるミステリー

この物語の作者は『すべてがF になる』で有名なメフィスト賞を受賞し作家デビューした、森博嗣の作品です。「犠牲になるものを笑ったけれど犠牲になるものは幸いだった」(『女王の百年密室GOD SAVE THE QUEEN』から引用)こんなプロローグから物語は綴られていきます。

著者
森 博嗣
出版日
2017-01-13


時は2113年、主人公ミチルと同行者ロイディが意図せず着いたのは、見知らぬ不思議な都市でした。その女王デボウが統治する資源も豊かな都市は百年もの間外の世界から閉ざされています。「死」という概念がなく、眠りにつくだけだと信じられている都市で、ある日殺人事件が起きるのです。その事件を機に、このデボウが創り上げた完璧な楽園に隠された秘密とミチルの過去がつながっていき……?

本書は世界観が素晴らしい作品です。生と死、価値観、完璧なまでの楽園。森の中にひっそりとたたずむこの異質な空間。主人公ミチルの過去と、この都市の意外な関係が絡み合い、物語が進んでいきます。その世界観を伝える描写も綺麗で、思わずこの楽園に自分も足を踏み入れてしまったかのような感覚に陥ります。異世界の死生観の違いを考えつつ読んでいただきたい作品です。

超能力刑事VS犯人のスピード感ある攻防戦

『分解された男』はアメリカの2大SF賞と呼ばれるヒューゴー賞が贈られた作品です。時は24世紀。人類は心を透視する能力を持つ超能力者たちを生み出していました。犯罪を企む者たちの考えを読み取り、事件を未然に防ぐためです。

そんな犯罪計画を練ることこそ難しいこの世界で、一大産業王国の樹立を目指し、ベンは宿命相手の殺害を企みます。計画は成功したかに思えたのですが、第一級超感覚者の刑事リンカンによって、ベンとの攻防戦が始まるのです。

著者
アルフレッド・ベスター
出版日


果たして、超能力者は犯人を断定することができるのでしょうか。さらに、のちに明らかになるタイトルが示す「分解」の意味とは……?

初めてSFを読む方も、そうでない方も筋書きがはっきりしているので、とても読みやすい本ではないでしょうか。この物語、超能力さえあれば、すぐに解決しそうではあるのですが、なかなかそうは上手くいきません。

そんな警察と、主人公ベンとの攻防戦はスピード感があるため、一気に読み進めてしまえる本作。真実まで一気に駆け抜けていくような怒涛の展開が、読者の心をあっという間に物語に引き込んでいきます。ぜひ作品でその疾走感を味わってください。

進化した技術、伴う犠牲

この作品は作者ラリー・ニーヴン氏が手掛けた数々の「ノウン・スペース・シリーズ」の物語のひとつです。各作品の登場人物たちが呼ぶ「ノウンスペース」とは、既知空域のことで、約60光年の探索済みの恒星や惑星、その他の集団のことを指す用語です。彼の多くのSF作品に共通する舞台設定で、『不完全な死体』もまたこの世界観をベースに描かれています。 

不完全な死体 (1984年) (創元推理文庫)

ラリー・ニーヴン (著), 冬川 亘 (翻訳)
東京創元社


時は22世紀。技術進歩した臓器移植によって人類の長寿が得られるようになっていました。しかし臓器移植をするための臓器が大幅に不足。そのため22世紀以前には軽犯罪とされていた罪でも重罪となってしまい、臓器提供者とするためにすぐさま死刑が言い渡されるような世界。臓器密売人たちが増え、そこかしこに姿を潜めています。

彼らは俗に「オーガンレッカー」と呼ばれ、罪のない一般人を誘拐し、国際連合警察を悩ませていました。そのオーガンレッカーを追っているのは右腕に超能力を宿したギル・ハミルトン。次々に起こる事件を、彼は解決することができるのでしょうか……?

「快楽による死」、「不完全な死体」、「腕」の3篇が収録されている作品です。この作品のタイトルにもなっている「不完全な死体」に収録されている作品で出てくるのは、冷凍死者。臓器提供のために、生き返っても生活能力がないと判断された彼らは法律で合法化されたために臓器提供者として冷凍されているのです。

技術が進歩するのはいいことですが、いずれ本当にこのようなことが起こり得るのではないだろうかと、読者の背筋を凍らせます。そのくらいにリアリティ溢れる構成、描写力が魅力的な作品にあなたもどっぷりはまってみませんか?

女性優位社会での奇妙な殺人事件

『BG、あるいは死せるカイニス』というタイトルだけを見ると一見難しそうな作品に思われるかもしれませんが、内容は読みやすいもの。ミステリーが苦手という方にもおすすめです。

全人類はみな、生まれたときは女性で、のちに一部の優秀な女性が男性に転換するという不思議な世界が物語の舞台。そのため人口の割合は女性が多く、男性は女性よりも極端に数が少ないのです。

そんな世界である日、主人公ハルの姉であり男性化候補のひとり、優子が何者かによって殺害される事件が起こります。更にはレイプを受けたかもしれないという真相も明らかになります。

誰からも好かれていた優子はなぜ殺害されたのか……。さらに作中に出てくる「BG」の意味とは一体何なのか。誰がなんのために殺人を企てたのか。謎が多いこの事件。物語のラストは予想をはるかに上回る展開で読者を驚かせてくれます。

著者
石持 浅海
出版日
2009-10-10


この作品の魅力はなんといっても特異な世界観や、様々な名言がちりばめられているところ。例えば優子とハルが男になりたいかという話をしているときに、ハルは面倒くさいから男にならなくてもいいと答えるのです。すると優子は思わず吹き出し、その考えは正しいと前置きをした上で話し始めます。

「優れた人間になるには、精進が欠かせないでしょう。それは男も女も同じこと。それなのに世間は、男に関しては、男になったというだけで、優秀さを要求してしまう。生物として優秀なのと、人間として優秀なのは別なのにね。男は男になったというだけで、人間としても優秀にならなければならない。だから面倒くさいの」(『BG、もしくは死せるカイニス』から引用)

なんとも深い言葉ですよね。あなたも、名言を探しつつ現代社会とこの異質な空間とを比べながら謎解きをしてみてください。

独特な世界でのミステリー。八世界シリーズ収録

この作品は全9篇から構成されています。作者ヴァーリイの作品で有名なのが「八世界シリーズ」。この「八世界シリーズ」とは70年代から著された未来史シリーズのことです。2050年に異星人の地球侵略を受け、さまざまな太陽系で生きていく人たちを描いており、宇宙全体が舞台となっています。 

バービーはなぜ殺される (創元SF文庫)

ジョン ヴァーリイ (著), John Varley (原著), 浅倉 久志 (翻訳)
東京創元社; 再版 (1987/12)


表題作「バービーはなぜ殺される」の舞台は、月。この世界では自分の体を自分の好きなように改造できるようになっているのです。そんな世界で、個性を捨てることを布教する宗教団体の一員がある日殺人を犯します。

しかし犯人が映像に映っているのに誰かが断定できません。なぜならここにいる住人は個性を捨てることを選んだために、みんな同じ外見だからです。警察署長バッハは果たして殺人犯を断定することができるのでしょうか……?

また、収録されている中でもうひとつ有名なのが「バガテル」です。こちらも同じく警察署長バッハが登場。町の真ん中で突然男が爆弾予告をし始めるところから物語は動き始めます。彼は爆弾と一体化しており簡単には取り押さえられません。爆弾処理班と爆弾男、そしてバッハの運命は……?

他にも「ピクニック・オン・ニアサイド」、「ブラックホールとロリポップ」などが収録されています。「八世界シリーズ」の世界観はファンタジーが好きな方が特に物語に入り込めそうな気がします。独特な世界観で、予想を見事に裏切られる展開は、一度ハマると癖になる個性が光った短編集です。

時間軸と人軸で変わる視点!あなたはこの緻密なミステリーが解けるか!?

未来から来たという少年と出会った少女が、過去の出来事が変っていく真相を追う甘く切ない物語が描かれています。

中学2年の夏、主人公の美雪の前に300年後の未来からきたという少年が現れます。そして二人のいた旧校舎が突如崩れ下敷きになってしまう少年。しかし、美雪は少年に渡された薬を飲むことで10年後へ行き、携帯電話を持ち帰り少年を救い出すのです。美雪は、過去に経験したこの不思議な出来事を元に小説を書きます。

著者
法条 遥
出版日
2013-07-24


そして10年後の夏、過去の私が部屋に訪れるのを待つ美雪。しかしいつまで待ってもこない過去の自分。確定されたはずの過去なのに、記憶とは異なる今が起きていることに美雪は疑問に感じます。

そして記憶にある過去の出来事が少しずつ変わっていることに気付き、その真相に迫っていくのです。過去と現在の視点で交互に語られていき、読み進めていくたび深まる謎に、読む手が止まらず、物語へ引きこまれていきます。

中学生の美雪と同じような体験をするクラスメイトに、死を遂げるクラスメイト。そして物語の語り手の「私」が次々と入れ替わり、交互に変わる視点に物語の全体像が立体的に浮かび上がり、自分がそこにいるかのような錯覚に陥ります。

タイムリープと複数の語り手、凝った設定によって、ミステリーに慣れている方も容易には推理できないものとなっています。そして予想だにできなかった展開にじっとりとした恐怖感を植え付ける物語です。

淡い恋心を打ち崩す衝撃のラストは、人の残酷すぎる心の闇を浮き上がらせるもの。その不気味さから、全身に震えが走るのではないでしょうか。4部作なので続編の「リビジョン」「リアクト」「リライブ」と読み応えのあるシリーズです。

ドームの外の不可能殺人!心理描写も素晴らしい

未来の地球で繰り広げられる宇宙人と人間の生きていくためのドラマが描かれています。

80億人がひしめき合って暮らしている鋼鉄都市。その遠い未来の地球は、かつて地球から宇宙に移民した人々の子孫、スペーサーと呼ばれる宇宙人が支配していました。そのドームに覆われた鋼鉄都市の外で起きた不可能殺人。

著者
アイザック・アシモフ
出版日


ニューヨーク・シティの刑事イライジャ・ベイリは警視総監のエンダービイに捜査を命じられます。宇宙人の指定により、ベイリは人間そっくりのロボット、オリヴォーと共にこの殺人事件の捜査に乗り出すのです。

ペイリの人間らしさとオリヴォーのロボットの冷静さ対比となっている様子は、「人間とは何か?」という定義を問いかけられているようです。SFとミステリーを組み合わせたことで、よりその問いが強調されているのではないでしょうか。

また、犯人の心理が、あまりにも現在の差別主義のそれと似ていて、この作品が「今の世」を予言していたかのように思え、うっすらとした恐怖が湧き上がります。

そんな大きなテーマが、巧みに張り巡らされた伏線、秀逸な構成、綺麗に綴られた文体によって緻密な作品世界に落とし込まれています。目の前に浮き上がるように描かれた世界には、いつの間にか引きこまれてしまうほど。

誰も犯せない不可能殺人の真相を謎解くその鮮やかさにも感動を覚え、何度も読み返したくなるほどの1冊です。

気の遠くなるような繰り返し。絶対に防げない殺人

時をループする主人公の久太郎。殺害されてしまった祖父を救うべくタイムリープするストーリーです。

主人公の久太郎は、30年間不思議な生活を送っている16歳です。彼は、同じ日を繰り返してしまう時間の檻に閉じ込められてしまう不思議な体質を持っています。

著者
西澤 保彦
出版日
1998-10-07


ある日突然に、同じ日が9回繰り返されてしまうのです。久太郎がその繰り返される日に違いを生み出さない限り、全て同じ事が9回繰り返されるのです…。

久太郎は元旦を家族と共に叔父の家で過ごすため、叔父の家を訪れていました。酒好きの叔父に飲まされ意識も切れ切れに、帰宅する車に乗り込むのですが、目覚めた先は叔父の家でした。久太郎はすぐにまた時の檻に閉じ込められたと理解します。また叔父に飲まされないように叔父を避けて過ごすことにするのですが、これが思わぬ悲劇を生むことに……。叔父が何者かに殺害されてしまうのです。

叔父の殺害を阻止しようと、同じ日を繰り返す度に違う方法を試みるも、結果は同じ。それでも挫けず悪戦苦闘を繰り返す久太郎に、思わず笑ってしまったり応援したくなります。

何処から仕掛けられたトリックに引っかかってしまったのか、全く分からない巧みさで、ラストの衝撃は言葉が出ないほど。9回も繰り返される日に退屈させない心情描写が読者をとらえて放さず、読む手が止まらなくなるでしょう。

繰り返すたびに見えてくる登場人物たち真実の姿と、繰り返し失敗するも懸命に事件を紐解いていくその過程がコミカルで楽しめながら、ミステリーも堪能できる作品です。

彼女の一言で、世界は三日分ループの世界に消える

能力者が存在する咲良田という街に住む主人公浅井ケイは見聞きしたことを完全に思い出す「記憶保持」を能力として持っており、ヒロイン春崎美空は世界を最大三日巻き戻すという「リセット」の能力を持っています。

ストーリーは奉仕クラブに所属する二人のもとに届くさまざまな依頼を解決しながら、裏に潜む大きな謎を解いていくという形式になっています。

著者
河野 裕
出版日
2009-05-30

リセットという強力な能力を持ちながら、自分だけでは記憶を保てないためそれを十分には使えないヒロインと、リセットされても記憶を保持できるという二人の主人公です。しかしメインは協力しながらトラブルを解決するというストーリーなので、能力バトルというよりもミステリの要素が近い作品です。

依頼者もふくめ個々の人間について丁寧に描かれており、能力を使って何をするかよりもそういった人間模様を楽しむことに重きが置かれています。二人でないと機能しない能力を使う、ケイと美空の信頼関係にも注目です。

未知の臓器をもつ子供たち

25年前、アメリカで未知の臓器をもった少年が発見され、それをきっかけとして、世界各地で同じ臓器をもつ少年少女が次々と発見されます。いつしか人は彼らを「ギフテッド」と呼びように。

そして国は子供たちが「ギフテッド」かどうかを判別するため、法定検査を受けるよう法律を制定。物語は、検査の結果から「ギフテッド」と認定されてしまった主人公達川颯斗の視点で始まります。「ギフテッド」とそうでない人の対立、軋轢、未知のものに対する恐怖、人類の行く末とは……。

著者
山田 宗樹
出版日
2016-08-05

この作品のテーマは、自分達と異質な者に対して、人類はどのような反応を示すかというものです。作品を読んでいくと分かりますが、ギフテッド達は超能力を使う事ができます。超能力を使えない人にとっては、ギフテッドの能力は、羨望しつつも恐怖に感じることでしょう。自分が危ない目にあうかもしれない、そういった猜疑心からギフテッドを排除しようと思う人達も少なからず現れます。

山田宗樹が社会が異質なものに対してどう接し、どんな仕打ちをするのか、それを超能力者と置き換えてリアルに描いた作品です。

超能力SFミステリー!宮部みゆきの筆力で描かれるドラマ

ある事件をきっかけに、特殊能力を持つ少年と主人公を含む人間模様は複雑になっていきます。深く考えさせられるストーリーが綴られている作品です。

著者
宮部 みゆき
出版日
1995-01-30


嵐の晩に東京に向かう雑誌記者である昭吾と自転車のパンクにより立ち往生していた少年が出会ったことですべてが始まります。二人は走行中に事故に遭遇し、自らを超常能力者と語る少年は、その事故の真相を語り出し、物語は展開していきます。

昭吾はその能力と少年をどう受け止めるか。葛藤しながらも理解しようと歩み寄ります。人の心が読めてしまう主人公の心情描写は心に切なさを生みます。想像もつかないであろう能力者の心情がリアル過ぎて、少年の信じてほしいという悲痛の叫びに心が揺さぶられるほどです。

特殊能力があるために、周りとどう関わっていくか悩み葛藤する主人公の心情に胸にグッとくるものがあります。そして、特殊能力で事故の真相を暴き、様々な登場人物との関りで描かれる人間模様は、「生きる」ということの意味を問いているように感じます。人の心の弱くて醜い部分を繊細に描き出したこの作品は、心を浄化してくれるようです。

特殊能力があるなしに関わらず、人と関わることで相手を理解しようする姿勢を改めて考えさせられる作品です。

いかがでしたか?どの作品もSF要素を含んでいるので類似的なものがなく、それぞれの個性が全面に押し出されている物語ばかりです。日々の生活に刺激が足りない、という方はぜひこの仮想空間に入り込んでみませんか?きっとこの作品たちの不思議な魅力にとりつかれると思います。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る