妖怪漫画化として誰もが名前を知っている水木しげる。代表作である「ゲゲゲの鬼太郎」は何度もアニメ化や実写化もされるほど有名ですが、他にも名作がたくさんあります。ここでは、水木しげるの名作ベスト5をご紹介します。
『ゲゲゲの鬼太朗』で有名な漫画家の水木しげる。彼は妖怪漫画の第一人者とも言われ、2015年に亡くなるまで、世界妖怪研究会の会長や民族芸術学会評議員などを務めた他、1991年にはその功績が称えられ、紫綬褒章を受章しました。
幼少期を過ごした鳥取県の境港市には、妖怪達のオブジェが並ぶ水木しげるロードがあり、観光スポットになっています。また、妻の武良布枝が書いた「ゲゲゲの女房」は、朝の連続ドラマ小説でテレビドラマ化され、その夫婦での前向きな人柄が共感を呼びました。そんな、漫画作品でも、生み出したキャラクターでも、そしてドラマでも多くの人に親しまれた漫画家のひとりです。
歴史上最も強大な独裁者とも言えるアドルフ・ヒットラー。その人生を描いた伝記作品です。ヒットラーはもともと画家志望の青年でした。そんな彼がどのように画家の道から政治の道へと移り、そして歴史に名を残す独裁者へと向かって行ったのかが描かれています。
- 著者
- 水木 しげる
- 出版日
ヒットラー作品には必ず出てくると言っても良いほど、ヒットラーと切っても切り離せないホロコーストにはほとんど触れられておらず、作品は全体を通してヒットラーが独裁者になり破滅するまで転落を主に描いています。
今でこそアドルフ・ヒットラーは独裁者として知られていますが、当時のドイツ人がヒットラーに熱狂していたことは事実でした。どうして人々はヒットラーに熱狂したのか……。
独裁者としてのヒットラーではなく、人間としてヒットラーについて考え直させられる作品です。浮浪者生活を経験したり、女性にモテたり、そのくせ自意識が強いヒットラーは、多くの作品で描かれる独裁者とはまた違う人間像を読み解くことができます。
絵柄も当時の写真資料などを参考に描かれています。自らも戦争体験者である水木しげるの描くヒットラーは重みがある一方で、どこかコミカルさがあり、読みやすくなっています。ヒットラーの歴史についての新しい入門書とも言える1冊です。
本作の主人公は幼い少年。おじいさんと一緒に茅葺屋根の家に暮らす河原三平は、小学校へ入学することになります。しかし河童に似たその容貌から、学校の仲間からはクスクス笑われたりからかわれたりしてしまいます。
三平は、みんながあまりにも自分のことを「カッパ、カッパ」と言うので、河童というものはきっとどこかにいるのだろうと思いますが、おじいさんには「そんなものはいない」と言われます。自分は河童に似ているだけ……そんなものなのだろうか、と思いながら三平は魚釣りに出かけ、そのまま船の中で眠りこけてしまい……。
- 著者
- 水木 しげる
- 出版日
どこかすっとぼけたような間が抜けたような、のんびりした雰囲気のまま淡々と進んでいく物語。読み進めていくうちに自然と心の中に染み込んできます。三平やその他のキャラクターが何気なく言っている言葉も、考えさせられます。
小学校に入学した三平は、周りの子が自分を見て笑うことに気が付きます。先生もそのことに気が付き、生徒達に注意をします。
「ははァ、三平くんが河童に似てるというので笑ってるんだな。皆さん、三平くんは立派な人間です」
「ソウなんだ。僕は立派な河原家十三代目です」
「だから皆さん、あまり笑わないで下さい」(『河童の三平』より引用)
何気ない会話ですが、現代に置き換えて考えた時、ふとこんなまっすぐなことを今の時代では言えるのだろうかと考えさせられる言葉です。
また、この作品にはたくさんの「死」が出てくるのですが、それすらもどこか淡々としていて、のんびりとしています。生きることや死ぬことを特別なものとしてではなく、自然の流れの中に感じることのできる作品です。
日本三大電気メーカーに勤める佐藤は、社長から自分の息子の家庭教師をやってくれないかという相談を受けます。しかしその家庭教師というのは、教育はもちろんのこと、「その他一切に責任を持つ」という条件がありました。
- 著者
- 水木 しげる
- 出版日
家庭教師の仕事をしっかりとやり遂げた後には会社の重役の椅子も用意してくれるという待遇に、佐藤は家庭教師を引き受けることにします。そして、息子がいるという奥軽井沢の別荘へ向かうのですが、その息子は、頭が良すぎて小学校を退学させられたというのです。
驚きながらも会ってみると、確かにその子供は子供らしくない頭脳を持っているようでした。これでは家庭教師の仕事などすることがないと思った佐藤ですが、軽井沢にやってきたその夜、佐藤は不気味な蛙のような男とその子供が不思議な話をしているのを目撃して……。
「人間には奇形児というのがあるが、精神的奇形児だってあるはずだ。釋迦やキリストにしても二千年たってもそれ以上のアタマの持主が現れないところをみると、大きな天才とは精神的奇形児でアル、という見方ができるかもしれない」(『悪魔くん』より引用)
冒頭にこんな文章があります。救世主と呼ばれる者も悪魔も根本では同じもの、という水木しげるのメッセージが感じられます。
1万人に1人レベルの天才的な頭脳を持った悪魔くん。彼は人類が平等に、そして平和に暮らせるようにと、悪魔の力を利用するための魔法陣の秘密を解き明かそうとしています。平和のために悪魔の力を使うというのは、どこか寓意的でもあり、思わず考え込んでしまうポイントです。
全体を通して独特な水木しげるワールドが繰り広げられています。その奥深い世界観と、読み返す度に違う解釈をできるテーマ性によって、何度でも読みたくなる飽きない作品に仕上がっていますす。
水木しげる本人が、「90%は事実」と語るように、戦争体験を元にした自伝的な戦記物漫画です。
昭和18年末、丸山二等兵はバイエンへ上陸します。そこは「天国のような場所」と戦友が語っていた場所でした。しかし実際は伝染病や事故、戦死、自決、果てはワニに食われて死ぬものなど、あらゆる「死」で溢れた場所……つまり「天国に行く場所」だったのです。
- 著者
- 水木 しげる
- 出版日
- 1995-06-07
その後、連合軍がバイエンに上陸、丸山達は玉砕覚悟の切り込み作戦を選び、多くの戦死者を出しました。生き残った者は一時撤退をしますが、「敵前逃亡」は「面汚し」とされ、再び出されたのは体裁を保つだけの玉砕命令でした。
戦争は、体験したことのない者から見るとあくまでも非日常であり、ただただ悲惨なものをイメージしますが、ここで描かれているのは戦争という日常です。重々しく、また生々しい内容ですが、それでも水木しげるの絵柄が読みやすい印象を与えてくれます。
戦争における「死」というものは、戦って死ぬ戦死だけではないということを教えてくれる、貴重な1冊です。
血液銀行に勤める水木は、ある日、自身の銀行から提供した血液を輸血された患者に異変が生じたため、その調査を命じられました。さっそくその患者と接触を試みた水木は、その患者がまるで幽霊のようになっていることに驚きます。
原因を探るため、血液の提供者へと会いに行くと、そこにいたのは幽霊族の夫婦。幽霊族というのは遥か昔から存在している一族でしたが、今では夫婦ふたり、それに妻のお腹の中にいる子供が唯一の生き残りでした。
- 著者
- 水木 しげる
- 出版日
夫婦に同情した水木は、妻が子供を産むまで、調査の結果を会社に報告しないことを約束します。しかししばらくしてから様子を見に行くと、夫婦は既に亡くなっていたのでした。
腐敗の進んでしまった夫を動かすことは不可能でしたが、妻だけは何とか墓を作り埋葬しました。しかしその墓から、何と赤ん坊が生まれます。水木は赤ん坊を哀れに思い、育てることを決めたのです。
知らない者はいないと言っていいほど有名な作品『ゲゲゲの鬼太朗』。いちばん始めは『墓場鬼太郎』というタイトルで始まりました。何度もシリーズ化されていることもあり、シリーズ毎に特有の設定がありますが、「幽霊族の生き残りで、人間と妖怪の共存できる平和な世界を作る」という鬼太郎の行動はほとんど共通しています。
悪い妖怪と戦うというストーリーが基本的には多いのですが、場合によっては悪い人間を懲らしめる時もあり、妖怪や人間というくくりで敵と認識しているのではなく、「悪い」という基準で戦っているということがわかります。
日本の妖怪ブームを作りだした作品の1つであり、妖怪好きでもそうでなくても一度は手に取っておきたい作品です。
いかがでしたか? 水木しげるというと、つい妖怪漫画を先に思い浮かべますが、戦争ものも多く描いています。様々な体験をした作者だからこそ描ける漫画をぜひ手に取ってみてください。