12月の街に起こる、やさしい奇跡
まずは犬が出てくる、江國香織さんの初期の短編からご紹介です。高校の入試問題にも使われたことがあり、受験生みんなが泣いてしまったと言われているお話が絵本になりました。江國香織さんの、冷静でいてどこかあたたかい文体が、優しく包み込んでくれるような一冊です。
“デュークが死んで、悲しくて、悲しくて、息もできないほどだったのに、知らない男の子とお茶を飲んで、(中略)わたしはいったい何をしているのだろう”
きっとみんな、こんな気持ちになったことはあるはず。大切な人が亡くなって、とか、失恋して、とか、すごく悲しいはずなのに、自分はなんで普通に日常を送っているんだろう…? 人間は、誰しも立ち直る力を持っているのです。主人公も、その悲しみから解放されるように、だけどまたふとしたことで思い出して…。そしてその背中を静かに押してくれたのが、ひとりの少年…。続きはぜひ読んでみてください。
舞台になる季節もちょうど12月で、今の気分にぴったり!(だと、思っています)山本容子さんの銅版画で、デュークの毛の流れや、布の質感、表情―…あらゆるものが繊細に表現され、物語は一層優しく、あたたかいものになっています。
ちなみにこの作品は短編集『つめたいよるに』にも収録されており、こちらの短編もどれも秀逸でおすすめです。
新しい世界を開くのは…猫?
わんこもかわいいけど、やっぱりにゃんこの気まぐれさもかわいい! ということで、次にご紹介するのは猫が登場するこの作品。ミステリー作家の朏 素晴(みかづき すばる)は、自分の想像の世界を邪魔する他人が苦手。そんな素晴が、1匹の子猫と出会って変わっていく…! クールでちょっと不器用な素晴と、やんちゃでおてんばな猫の陽(ハル)。正反対のふたり(一人と一匹)が出会って、小さいけれども日々起こる事件に、気持ちもほっこりあたたかくなるはず。人間視点と猫視点で物語が展開していくところも、ユニークな一冊です。
擬人化された猫からも、目が離せない!
猫を愛し、生涯猫を描き続けた画家、ルイス・ウェイン。彼の人生を、その絵と共に紐解いていく一冊です。彼の絵は日本でも以前、薬のポスターに使用され、そのインパクトから「あの絵の猫は、誰の絵?」と、密かに話題になりました。ウェインの描く猫は、ちょこんとお座りしたもの、じゃれあうもの、服を着て紅茶を嗜むなど擬人化されたもの、思わずカワイイ! と言ってしまうものからちょっとダークなものまで、様々です。
晩年は統合失調症を患い、そのイメージばかりが強調されることが多いウェインですが、この一冊を読めば、もっと彼を深く知ることができるかも。穏やかで優しい人柄、妻を心から愛していたこと、ナショナル・キャットクラブの会長を務め、今日の愛猫家たちにも大きな影響を与えたこと…。
時に愛らしく、時に斬新で挑戦的なタッチで描かれる彼の猫たち。絵の中の猫だけでなく、ウェインの人生そのものに、きっと魅了されるはずです。