岡崎京子のおすすめ作品ランキングトップ5!『ヘルタースケルター』の作者

更新:2017.2.19

一度、その世界に迷い込んだら簡単には抜け出せないような吸引力を持つ漫画家岡崎京子。今回はそんな彼女の代表作、おすすめ5作をランキング形式でご紹介します。

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唯一無二の岡崎京子という存在

主に1980年代から1990年代にかけて、日本を代表する漫画家として一世を風靡した岡崎京子は、東京下北沢にある理髪店の娘として生を受けました。高校時代から、橘川幸夫編集の投稿雑誌『ポンプ』に、文章やイラストを投稿し始めます。当時、まだデビュー前の普通の高校生だったにも関わらず、読者の間でファンクラブが結成され、読者による「岡崎京子論」というものが誌面に掲載されるほどの人気を誇りました。

1983年、短大生時代に同人誌に投稿した作品が、メジャーミニコミ誌『東京おとな倶楽部』に転載されます。同作は雑誌『漫画ブリッコ』編集者大塚英志の目に止まり、鮮烈なデビューを果たすことになりました。

その後は漫画家の枠を超え、文筆活動等も行い、数々のメディアでその名が大きく取り上げられました。1990年代には、時代の寵児といっても過言ではないほどの活躍を続けます。しかし人気絶頂の1996年、交通事故により、執筆活動を休止しました。

代表作のひとつ『ヘルタースケルター』は、2003年度文化庁メディア芸術祭・マンガ部門優秀賞、2004年手塚治文化賞・マンガ大賞を受賞しました。

岡崎京子の作風を一言で表すとするならば、過激といえるでしょう。漫画に、夢や希望、現実逃避を求めるタイプの人には、あまり合わないかもしれません。なぜなら、岡崎京子の描く作品はいつも、嫉妬や執着、他人への依存や無関心、強い自己愛や自己嫌悪、孤独、絶望などの人に知られたくない感情を心の奥に潜めながら、表面的には軽い発言や外見の派手さで「本当の自分」を隠して生きている女性たちを、リアルに描いているからです。

なんでこんなに私の気持ちがわかるの!と心の中で絶叫した読者も、少なくなかったのではないでしょうか。岡崎京子は活動を休止した後でも、「岡崎京子展」が全国各地で開催されるなど、根強い人気を誇っています。

5位: 2人が辿りつく世界の果てとは?『エンド・オブ・ザ・ワールド』

表題作の舞台は、アメリカ中西部。親同士が再婚して兄妹となった2人が、両親を殺して逃避行するという衝撃的なストーリーです。

「ねえねえねえ 世界の果てまでつれてって
ねえねえねえ でも世界の果てってどこどこなのよ」(『エンド・オブ・ザ・ワールド』より引用)

マンガを読み始めようとページを捲ると、1ページ目から真っ白な背景にこの文字だけが浮かんでいます。贅沢にも1ページをこの文字だけで埋め尽くすことにより、ぐっと読者は岡崎京子ワールドへ引き込まれます。これは岡崎京子作品の中で頻繁に使われる手法です。

どの作品も、最初の1ページ目から読者のハートを掴む。それは作品によって、絵であったり、言葉であったりと、表現は様々ですが、凡人には到底真似できないような岡崎京子の表現力がなせる技といえるでしょう。

本作も例外ではありません。先にご紹介した、たった2行の文章を読んだだけで、次のページを早く捲りたくてたまらない衝動に駆られませんか。「ねえねえねえ」と何回も同じ言葉を使うことによって、主人公の焦燥感が伝わってきて、一体何があったんだろうと興味を引かれるのです。

著者
岡崎 京子
出版日
2012-04-20

「もう黙っててよ!!
もうだめだ
もういやだ
ねむたいんだ
ねむたいんだよ
もう運転するのは飽きた
ゆっくりねむりたいんだよ」(『エンド・オブ・ザ・ワールド』より引用)

両親を殺した直後の兄妹は、車を運転し、まるで何事もなかったかのように、目的もなくひたすら放蕩を続けます。しかしやがて、彼らに襲いかかる現実。人を殺しておいて、何も感じないわけがありません。兄イースは、あてもない逃避行に疲れ果て、もうこの世に生きているはずがない親の声が幻聴として聞こえてくるようになります。「殺人」という常軌を逸した行動をしている最中、直後は躁状態にあり、その実感が持てず平然としていられるのかもしれません。しかし徐々に、「自分が犯したとんでもない罪の意識」に苛まれることになるでしょう。

果たして両親殺しという重罪を犯した兄妹は、どんな「世界の果て」に辿りつくのでしょうか。

本作のように殺人という重いテーマを描かせたら、岡崎京子の右に出るものはいません。そんな彼女の世界観がぎゅっと凝縮された作品を、ぜひお楽しみくださいね。

4位: 岡崎京子が描いた、東京で生きる女子たちの本音!『くちびるから散弾銃』

第4位は、『Me Twin』にて1987年から1990年まで連載されていた本作。主人公は、東京で暮らす23歳の女性3人組です。

主人公金田サカエは、雑貨屋でアルバイトをしています。美人でセクシーですが、金遣いが荒く、常に貧乏だと嘆きます。彼女は洋服に目がなく、身の丈に合わないものを次から次へと買い漁り、暇さえあれば海外旅行に出かけてしまう、己の欲望のままに生きる女性なのです。

もう一人の主人公島野夏美は、デパート勤務。実家住まいで大学生の彼氏がいたり、きちんと貯金をしているなど、主人公3人の中では一番堅実といえます。小学生に間違えられてしまうほどの童顔で、ロリータファッションをこよなく愛しています。

3人目のの主人公である高田美夜子は、雑誌編集者です。母と二人暮らしであるという環境のせいか、3人の中では一番のしっかりものでキャリアウーマン。しかし高校時代には、ポエムとマンガをミックスさせた同人誌を作っていたという、意外な過去も持っています。

物語は、この3人娘の会話劇に終始します。まるで3人だけが出演している舞台を観劇しているかのようです。

著者
岡崎 京子
出版日
2012-06-06

「でねでね、あたしが総理大臣になったらねー、国歌を『スーダラ節』にしてねー、国旗のヒノマルをハート型にしちゃうんだー。色はショッキングピンク!」(『くちびるから散弾銃』より引用)

こちらはいつものように3人で集まって、とめどないお喋りに花を咲かせているときのサカエの発言です。それに対し、他の2人は適当にあしらったりしています。10代から20代前半の女の子はこういう意味のない、ありえない妄想の会話を延々と続けられるのです。まさに『くちびるから散弾銃』ですね。

この発言からわかるように、サカエは結構ぶっとんだバカな子です。でもそれこそが彼女の魅力なのでしょう。欲望のままに生きる彼女の若さをバカにしつつ、羨ましく思う読者の方も多いかもしれません。

「それはとてもワクワクしてドキドキして新鮮で胃が痛いくらい、頭痛がするくらいカッコ良くて楽しいことよ。それはすっげえカッコイイ音楽を聞いたときのような感じ、そういうことがやりたいの。でもむつかしいのは……それが具体的にどういうことで、どうしたら自分で出来るかがかいもくわかんないことだわ」(『くちびるから散弾銃』より引用)

若いとき、こういう得体の知れない気持ちを、抱いたことはありませんか。ここで言っている「それ」の正体は、わかりません。ただ、はち切れるようなパワーを持て余して、刺激だけを求めて、とにかく新しい何かが欲しくて、でも何をしたらいいのかわからないから日々悶々とするような、自分ではどうしようもできない気持ちのことを指しているのだと推測できます。仲間との馬鹿騒ぎと、泣きたくなるような孤独を繰り返す日々。まさに青春という感じです。

東京に住む若い女の子たちの日常を描いた本作は、重いテーマを描いているものが多い岡崎京子作品の中では、かなり珍しい作風といえます。しかしそんな中にも、ときどきはっとさせられるような発言が、彼女たち3人の会話の中には盛り込まれているのです。そしてこの点こそが、本作品の最大の魅力。肩に力を入れることなく読める、他作品にはない岡崎京子の面白さが詰まった作品です。

3位: 打ち明けられた同級生の黒い秘密『リバーズ・エッジ』

第3位は、『CUTiE』にて、1993年から1994年まで連載されていた本作。主人公は、どこにでもいる普通の女子高生若草ハルナ。物語は、ハルナの元彼氏である観音崎にいじめられている同級生山田一郎を助けたことから始まります。

「ボクの秘密の宝もの教えてあげる。誰にもまだ教えてないやつ。見て欲しいんだ」(『リバース・エッジ』より引用)

いじめから助けてもらった一郎はハルナにこう言って、自分が今までたった1人で抱え込んでいた秘密——河川敷にある一体の白骨化した死体——を打ち明けるのでした。

著者
岡崎 京子
出版日

本作の面白さはどこにでもある日常の風景の中に、心が凍りつくような恐ろしさが隠されている点にあるといえます。一郎は、なぜ死体を自分の秘密として隠していたのか。そしてその秘密を、なぜハルナにだけ打ち明けようと思ったのか……。

登場人物は、皆普通の高校生たち。しかしこの一体の死体を軸にして、それぞれの価値観や考え方、10代特有の狂気が交差していくのです。

「あたしはね『ザマアミロ』って思った。」
「『ザマアミロ』って?」
「そのとおりよ。『ザマアミロ』って。世の中みんなキレイぶってステキぶって楽しぶってるけど、ざけんじゃねえよって。ざけんじゃねえよ。いいかげんにしろ。あたしにもないけど、あんたらにも逃げ道ないぞ、ザマアミロって。なーんてね」(『リバース・エッジ』より引用)

これは「秘密」を共有するもう一人吉川こずえが、ハルナに河川敷にある死体を見つけたときの感想について、問いかけ、語るシーンでの会話です。この会話から、こずえの心に潜む闇が想像できます。こずえは、現役女子高生モデル。スレンダーな身体に、美人にしか決して似合わないベリーショートの黒髪。テレビや雑誌などでも活躍する、同年代女子から見たら憧れの存在です。周りから見たら一見悩みなどなさそうな華やかな彼女が抱える心の闇が、一体何なのか気になってきませんか。

「TVや映画で何回も死体はみたことはある。でもそれは生きている人間が『フリ』をしているだけだ。本物の死体をみるのははじめてだった。でも実感がわかない」(『リバース・エッジ』より引用)

ハルナは初めて死体をみたとき、このような感想を抱いていました。「実感がわかない」。10代後半である登場人物たち。戦争時代からは考えられなかったような「満たされた環境」。生まれた頃から「用意された贅沢な生活」。

明日食う米がなくて困った経験などしたことがないから、わからなかったのでしょう。生きるって何なのか。死ぬって何なのか。ただ目の前にあって、見て、触って、自分で感じることが、すべてであるという感覚。それが10代であるハルナたちのリアルなのではないでしょうか。

10代の頃の純粋ゆえに残酷な、危なっかしいあの頃の毎日が、これでもかというほどリアルに描かれた傑作を、ぜひお手に取ってみてくださいね。

2位: 岡崎京子が描く、愛と資本主義『pink』

第2位に輝いた作品は、1989年より『Newパンチザウルス』で連載された本作。「愛と資本主義」をテーマにして描かれています。

主人公ユミは昼はOLとして働きながら、夜は売春婦として働く女の子。彼女はペットとしてワニを飼っています。

「いいっていいって気にしなくて
オマエは私のスリルとサスペンスなんだから」(『Pink』より引用)

食欲旺盛なワニに向かって、ユミが餌を与えながら言う台詞です。彼女はワニの餌代を稼ぐために、売春婦をしていたのです。一見、ワニを愛しているように思えるその言動。ユミは「愛しているものの為なら身体も売れる」という感覚の持ち主なのでしょう。

そんなユミの実母は自殺しており、この世にはもう存在しません。父親は再婚していますが、継母の結婚は父親の財産目当て。ユミは優しくてきれいだった実母が大好きでした。だから継母の愛人である大学生のハルヲに自ら近づき、ハルヲと付き合い始めるのです。それをきっかけに、物語は良からぬ方向へと進んでいきます。

著者
岡崎 京子
出版日
2010-07-29

「あたしは悪いけど立ち直りが早い
それは頭が悪いせいと
目の前の事しか考えないから」(『Pink』より引用)

ある衝撃的な事件が起きた後のユミの心情です。この表現には驚かされます。ユミはなぜ、このような思考回路になったのだろうと考えさせられることでしょう。ユミのワニへの愛は、果たして本物だったのでしょうか。しかしそもそも愛とは何なのか。ここに本作が描く最大のテーマが隠されています。

「愛と資本主義」というテーマを、岡崎京子流に描いたらこんなにも面白くなるのかと感心せざるを得ない作品を、満喫してください。

1位: 究極の美を追求した先に、あるもの『ヘルタースケルター』

第1位には、『FEEL YOUNG』で1996年まで連載されていた本作がランクインです。

主人公はCMや雑誌に引っ張りだこのミステリアスな人気モデルりりこ。彼女には誰にも言えないある重大な秘密がありました。

「化粧品なんてシャブみたいなもんよ
使えば使うほどキクやつが必要になってくる
どんどん強いもんが欲しくなる」(『ヘルタースケルター』より引用)

全国の女子の憧れの的である、りりこの秘密。それは彼女が全身整形で完全に「作られた」美人であるということでした。全身整形という不自然な形で存在しているりりこの美は、そのままにしておくと少しずつ崩れていってしまいます。常に痛みと莫大な金が伴う、メンテナンスが必要だったのです。そしてそんなりりこの全身整形を手掛けた医師、病院は、連続するある事件に関わっていて……。

著者
岡崎 京子
出版日
2003-04-08

本作の面白さは、表面的なりりこと内面的なりりこのギャップにあります。彼女は嘘をつきまくって芸能界という荒波を生きているのです。全然幸せではないのに、幸せであるフリをしています。それは現実社会に生きる私たちにも共感できる部分ではないでしょうか。

たとえば、SNSで「リア充アピール」をすればするほど、「まわりの人からこう思われたい自分」と「本来の自分」にギャップが生まれたという経験をしたことはありませんか。そういうことをすればするほど自分を苦しめるのに、「自分は、人より幸せで、充実した人生を送っている」というアピールがやめられない。その根底には、本当は満たされていない思いがあるからかもしれません。そして本作の主人公であるりりこもまた、決して満たされることのない心を抱えているのです。

「カメラがシャッターを押すたびに空っぽになってゆく気がする
いつも 叫びだしたくなるのを必死でおさえているのよ
いつかあたしは叫び出すだろう
その前に……ああ…なんとかしなくては…」(『ヘルタースケルター』より引用)

本作で描かれる、想像がつかないほど壮絶な彼女の苦しみ。こんなに苦しい思いまでして、りりこは一体何を手に入れたいのでしょうか。

映画化もされた本作品は、岡崎京子の真骨頂といっても過言ではありません。りりこが抱える心の叫びは、現代社会を生きるために作った自らの虚像に自らが苦しめられているという、現代人が抱える心の闇を見事に投影しているように思います。全1巻、一気読みしてしまうこと間違いなしです。

岡崎作品は、好き嫌いのはっきり別れる作品といえます。過激な表現多く、子どまには読ませられないような表現も頻出します。しかしただ過激なだけでは、ここまで時代を越えて愛される漫画家にはなっていなかったでしょう。岡崎京子だけが持つ唯一無二の魅力、誰にも真似することのできない彼女の世界観を、ぜひ覗いてみてはいかがでしょうか。