『それでも町は廻っている』完結16巻&公式ガイドブック廻覧板を紹介!

更新:2021.12.16

主人公の女子高生、嵐山歩鳥を中心に、クラスメートやバイト先、家族や町の人たちの日常に、毎回様々な謎解きを絡めて繰り広げるサスペンス(?)コメディ『それでも町は廻っている』(石黒正数)の最終巻となる第16巻が発売されました。

ブックカルテ リンク

『それでも町は廻っている』とは

2005年の連載開始から早10年以上。2017年2月14日に最終巻が刊行された『それでも町は廻っている』は、連載開始時にはまだ多少の目新しさのあった「メイド喫茶」を、当時すこしずつ社会問題として注目され始めていた商店街のシャッター街化に絡めて描く、高品質な日常系ギャグ漫画です。

連載を読み進めていくと、時系列がシャッフルされていたり、パラレルワールドやタイムスリップものが混ざっていたり、巻ごとにテーマが設定されていたりするなど、主人公たちが生きている世界のなかだけではなく、作者がいろんな遊び心を込めた作品だということがわかります。

終わらない日常の終わり

著者
石黒 正数
出版日
2017-02-14

主人公の歩鳥の髪型がボブだったりショートだったりするのは、本作で描かれる時間が主に歩鳥の高校生活の3年間という長いスパンにわたっており、その期間の出来事をシャッフルして並べているため。基本的に一話完結で描かれているので、どこから読んでも時間軸がシャッフルされていることにストレスは感じません。

もっとも最終巻が近付き、その時間軸の錯綜の果てには、歩鳥の身近にいた紺先輩が歩鳥のいる高校を卒業することに。紺先輩は、何人かいる歩鳥の「お姉さん」的なポジションの人物の1人。また、歩鳥に想いを寄せる真田くん(歩鳥の幼馴染)がいて、歩鳥のバイト仲間で親友の辰野さんことタッツンがその真田くんのことが好き、という「ラブコメ三角関係」の王道構図も、最終巻では崩壊しそうになります。タッツンが真田くんに告白する!と歩鳥に宣言するのです。とうとう歩鳥が維持したかった「日常」が、終わりに向けて動き始めてしまう…のですが、さてどうなることやら。

「終わらない日常」などは本来は存在せず、世の中は刻々と変化をし、人は成長したり老いたりしていくものです。本来は存在しない筈の「終わらない日常」は、ある種の蜃気楼のように錯覚されるものだ、と言ってもいいでしょう。本作は時間軸をシャッフルすることで、この蜃気楼のような「終わらない日常」の感じが、所詮は時限式で消えてしまう錯覚に過ぎないということを読者に意識させないようにしたのかも知れません。

トゥルーエンドは第何話?

著者
石黒 正数
出版日
2017-02-14

なお、最終巻と同時に発売された公式のガイドブック『廻覧板』には、各話を時間軸の進行に沿って順番に並べた表(タイムテーブル)が載っています。歩鳥と同じくミステリ好きの読者ならば、ご自身で並び替えを試したりしているかも知れませんが、そういう方には「答えあわせ」として手にとってみて欲しいところ。

「答え合わせ」という意味では、最終巻に収録されている、雑誌掲載順で言えば最後に掲載された「少女A」は物語世界の「最終話」ではないことが作者自身によってハッキリと語られています。「タイムテーブル」を確認すると、時間軸でいうと「少女A」よりもあとに位置するエピソードがいくつかあることがわかります。

タイムテーブルに沿って正しい時間軸で読んでみると、単行本掲載順のバージョンが「終わらない日常」だったのに対して、むしろ「終わりゆく日常」の感じを味わえるかも知れません。「お姉さん」的なポジションにいるもう1人の人物で、歩鳥の師匠でもある亀井堂の静や、もう1人の「お姉さん」室伏涼、そして紺先輩のように、「その先の日常」を生きているキャラクターもいます。

歩鳥には歩鳥の未来がこれからも続いていくのだと思えば、寂しい気持ちというか、「それ町ロス」とでも言うべき感情も、少しは和らぐのではないでしょうか。個人的には、エピローグのそのまた「その先」、大人になった歩鳥の「日常」を読んでみたいと思うんですけど、叶うかな。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る