今回はひとり、身近な漫画を読みながら「社会ネットワーク」について考えてみるのはいかがでしょう。なかでも、今回は個人の関係に焦点を当てた「人間関係」を対象にしたいと思います。 漫画自体は前回に比べてメジャーすぎるピックアップになってしまいましたが、見慣れた漫画の主人公たちであっても、その行動様式や、描写のされ方をもう一度「関係」という観点から見てみると、また別の面白さがあります。また、ここで得た知見を持ち込んで他の漫画を検討すれば、あなたも少しだけ社会を分析する楽しさを感じられるかも……。
今回紹介する漫画の一冊目は、言わずと知れた超有名長寿料理漫画です。多くの方がご存知だと思いますが、あらすじは、山岡士郎と栗田ゆう子というふたりの主人公が、東西新聞社の社運を賭け「究極のメニュー」を作り、父・海原雄山率いるプロジェクト「至高のメニュー」と対決する……というものです。グルメ漫画の金字塔とも言える作品ですが、実は多くのグルメ漫画とはやや異なる点があります。それは、士郎とゆう子がシェフや板前といった料理を生業にする人々ではなく、しかしまるっきり料理と関係のない仕事をしているわけでもない点です。
- 著者
- 雁屋 哲
- 出版日
「人脈」がモノを言う漫画というと、『サラリーマン金太郎』や『総務部総務課 山口六平太』といったサラリーマン漫画を想像する人が多いのではないでしょうか。金太郎や六平太といった主人公たちが、社内外で八面六臂の大活躍を行うさまを見ていると、いかに「人望」が組織で生きていく上で大事なのかとつくづく感じます。
- 著者
- 弘兼 憲史
- 出版日
- 2008-05-16
アニメ化もされたため、知っている方も多いと思いますが、『げんしけん』は東京郊外にある架空の大学・椎応大学のサークル「現代視覚文化研究会」で活動するオタク大学生たちのゆるーい人間ドラマです。漫画『五年生』などで大学生同士の比較的狭い人間関係描写に定評のあった木尾士目ですが、『げんしけん』では広い範囲の人間関係も描かれています。徹頭徹尾オタク活動しかしていない彼らの人間関係は、どこが「広い」のでしょうか?
- 著者
- 木尾 士目
- 出版日
- 2002-12-18
では、誰とでも仲がよく、関係がうまくいっていれば幸せになれるのでしょうか? そうはいかないということを教えてくれるのが日本橋ヨヲコの作品群です。力強いネームが印象的な日本橋ヨヲコ作品は、主要な登場人物に血縁関係や幼馴染の人々が多く含まれているのも特徴でしょう。特に主人公格のキャラクターは、ほぼ全員が偉大な人物の血縁にあったり、強い影響を受けられる環境にいます。偉大なのでお金や名声もあり、何か(本作であればバレー)をするにあたっての環境も整備されています。人間関係によってなにかと特をしている点では、前に挙げた二作の主人公と変わらないわけです。
- 著者
- 日本橋 ヨヲコ
- 出版日
- 2006-07-21
これまでは上述した四作品を通じて、ネットワークが個人にもたらす利益と不利益の話をしましたが、最後はネットワークの見方・描き方について紹介していきます。多くの漫画は主人公を配置し、彼らの人間関係をめぐるドラマを描いていきますが、『潔く柔く』は主人公の「友達」、あるいは「友達の友達」、ときには一見無関係な人々の人間ドラマを描きます。網の目のように広がる関係が収束する「中心」として、主人公のドラマへと帰着するようにストーリーを紡いでいくのです。
- 著者
- いくえみ 綾
- 出版日
- 2004-11-25
今回のおすすめは以上の5冊です。人間関係は私たちの人生でも、漫画のストーリーを展開させる上でも不可欠な要素である分、すこし距離を置いて検討すると色々な要素が見えてきます。今回紹介した概念があなたの読書や生活を豊かなものにする手助けになるなら、とても嬉しいです。次回も新しい視点を提供しようと考えていますので、楽しみにお待ちください!
マンガ社会学
立命館大学産業社会学部准教授富永京子先生による連載。社会学のさまざまなテーマからマンガを見てみると、どのような読み方ができるのか。知っているマンガも、新しいもののように見えてきます。インタビューも。