オーパ!
「か」開高健先生。初めて読んだ自伝小説『耳の物語』で大ファンになった。
他にもたくさん読んだけれど、この紀行文の大名作とされる『オーパ!』を読んでいないことを地元のバーのマスター(開高健狂い)に馬鹿にされて腹が立ったので読んでみた。すみませんでした。馬鹿でした。めちゃくちゃ面白い。
ブラジルでは驚いたときに「オーパ」という。釣り狂いの開高先生が、大魚と「オーパ」を求めアマゾンを旅する。釣って釣って釣りまくる。広大で豊潤な大河・アマゾンを、躍動感のある筆致で描き切る。単なる紀行文たらしめないのはその第一級のセンス。その文章。文学との見事な融合を魅せる作品。
本書の三分の一ほどは、篠山紀信氏の門下であった高橋昇さんが撮影したアマゾンや周辺の人々の暮らしの写真などで占められているのだが、広告業界で名を馳せた開高先生しかできないキャッチコピー的な文章のリズム感と相まって、読む人を陶酔させる。羨望させる。アマゾンの水は甘いらしい。飲んだら確実に腹下すだろうけど。嗚呼。アマゾン行ってみたい。旅に出たいけど出れない方にオススメの一冊。
どくとるマンボウ航海記
「き」北杜夫。
以前読んだ芥川賞受賞作『夜と霧の隅で』は、その文章の冷徹さ、類い稀な色気と不思議な脱力感などを感じて、SF的な印象までもあった作品だったが、この『どくとるマンボウ航海記』はまったく真逆の、同じ人が書いたのか?と思わせるくらい、軽快なユーモアが散りばめられた作品。とはいえ稀に『夜と~』で感じさせた色気や冷徹さを見つけることがあった。それもまた良いスパイスとなって、頁を捲る手が止まらなくなる。自然にクスリと笑わせられる。
「外国に行きたい」というだけで水産庁の義業調査船に船医として乗り込んだ著者。寄港した各国でぶつぶつ文句を言いながら足が棒になるまで歩き回ったり、航海中荒波に揉まれて船中がぐちゃぐちゃになったり、時に感動。時に憤慨。時に泥酔。と、なかなか忙しい航海記だが、出版するなりたちまちベストセラーになった名作。
日本人特有の海外コンプレックスのない自由な雰囲気の(一見してふざけてみえる)この紀行文は、上に紹介した開高健著『オーパ!』などの輩出にも重要な役割を果たしている。これまた旅に出たくなる一冊。
灘の男
「く」車谷長吉。
直木賞受賞作『赤目四十八瀧心中未遂』を読んで虜になった俺は「く」が来たら違う作品を読んでやろうというので、今回『灘の男』を選んだ。打ち抜かれた。
所謂聞き書き小説の短編集。「粋で、いなせで、権太くれ」な二人の男の逸話を本人、親類、知人から聞き、そのままの語り口、物語を、見事に文学として昇華してた表題作は、生々しい香りを放つ小説の新境地だ。昨今の過剰な偽善的人権擁護に一太刀入れたこの作品に、ただ単に聞いて書いただけだなんて口が裂けても言えない。
「最後の文士」といわれた車谷長吉。その血と鼓動を感じさせる文章のリズム感。「灘の男」の力強い息吹を間近に感じられる作品だった。カッコいいんだ、灘の男は。是非体験して欲しい一冊。ますますハマりそうだ。