『おんなのいえ』で人気の鳥飼茜。その作品は性をテーマに扱った考えさせられるものばかりです。そんなテーマを重く感じてしまう人もいるかもしれないと、憂鬱度が高い順にランキングにしてみました!鳥飼茜の魅力をあなた好みの重さで楽しんでみてください。
鳥飼茜は1981年生まれ、大阪府出身の漫画家です。彼女は2004年「別冊少女フレンドDXジュリエット」で漫画家としての道を歩み始めました。それ以降、代表作である『おはようおかえり』や人気作『おんなのいえ』、『先生の白い嘘』など、性というテーマで読者に疑問を投げかけるような作品を次々を発表しています。
彼女がそんな性というものを意識し始めたのはその家庭環境にあったそうです。彼女の生まれ育った環境は、自身の作品『おんなのいえ』の主人公たちの家のように父親が不在がちで、親戚もほぼ女性しかいない女系家族でした。母親が家事も経済面でも一家の支えであった家で、母親の影響力はたやすく想像できます。
母親はいわゆる「女性らしい」振る舞いを嫌い、髪を長く伸ばすことも禁止していたのだとか。その反動で鳥飼茜は『聖闘士星矢』の城戸沙織や『キャッツ・アイ』の来生瞳などの長髪の女性に憧れていました。
また、父親がアダルト関連の書籍やビデオをぞんざいに家族の共有スペースに置くような人でその頃から売り物としての女「性」についての認識はあったそうです。そしてその認識に対する疑問は彼女の中から無くならず、思春期に初めて彼氏ができた時も「性的な目」が自分に向けられることに不快感を感じたと語っています。
そんな原体験から得た作品の着想は、読むものの心を静かにざわつかせます。それはまさにだれしも一度は感じたことのある、性というものにつきまとうイメージ、生々しさや不快感です。
今回はそんな鳥飼茜の心がプチ鬱になるような考えさせられる漫画をご紹介します!
『おはようおかえり』は京都が舞台です。一保は社会人3年目の営業マン。会社は創業80年の「福寿堂香舗」という線香やお香を販売する老舗。料理や生活の知恵など、暮らしのエキスパートです。そんな彼には美人なふたりの姉、奈保子と理保子がいます。彼女たちは烏丸五条にある、彼がつくりあげた住み心地のいい家に入り浸っているのでした。
本作はそんな「今、求める男キャラ」(「ダ・ヴィンチ」の小特集)で「方言男子」として取り上げられた、一家にひとりいてほしい青年、一保と、だらしないところもあるけれど弟をなんだかんだで可愛がる美人姉妹の京都での生活を描いたコメディ作品。
1巻では一保が、2巻では長女の奈保子が、3巻では次女の理保子が主にメインで描かれ、その後4、5巻とそれぞれのストーリーが収束していく、全5巻の作品です。
- 著者
- 鳥飼 茜
- 出版日
- 2011-04-22
本作は鳥飼茜の作品の中では比較的軽めで、京都の趣ある風景とともにそれぞれのちょっとビターな物語が展開されていきます。作品には京都の実際の風景が数多く登場。その柔らかな景色がこの作品をどこか優しいものとしてまとめているのです。
しかしやはりそこは鳥飼茜作品。物語の始まりが鴨川四条大橋四条大橋で一保と彼女が佇むシーンから爽やかに始まったかと思うと、もう次の見開きでは23時、川端にあるラブホテルでのシーンが描かれているのです。物語は実際の風景でも心情でも、終始そのような優しさと、だらしなく、汚くも思えるようなリアルな一面を織り交ぜて進みます。
ただのほのぼのとした物語で終わらせるのではなく、時にリアルな男女のシーンや行き場のない想いなどを描くことで、綺麗なシーンがより美しく心に沁みいるのです。だらしないけれどやはり愛すべきものが日常なのではないかと思えるような苦くて優しい物語となっています。
『おんなのいえ』の主人公あり香は29歳。友人の家族写真を見て「こんな醜態さらすなんて」と言いながらも、内心では3年めになる彼氏、圭佑しかいない、なんて考えています。しかしその押し付けるような優しさに息苦さを感じると振られてしまいます。傷心の中実家に帰り、あり香の弱った様子を見て、母親がある命令を下すのです。それは妹のすみ香と一瞬に暮らすこと。イラストレーターになるという夢も、圭佑のためにとやめた仕事も、そしてもちろんパートナーの圭佑も何もない状態のアラサー女子の行方はいかに。
本作は長女、次女(末っ子)、そして母親それぞれの女の生き様を描いた漫画です。それぞれの役割ならではのキャラクターがリアルに描かれており、つい女性ならではの言動に共感してしまいます。
- 著者
- 鳥飼茜
- 出版日
- 2013-04-12
あり香はまさに「長女」。序盤で友人の結婚を「非常事態」と言って結婚に興味がないと母親に強がったりする様子や、そのあとに泣き顔を見られて、恥ずかしいと思うだけで口に出せない様子はまさに長女らしい強さ、かたくなさがあります。そして同時に自分のことしか見えなくなるような視野の狭さは、作品では純粋さや物事への一途さにも繋がっているのです。
そして妹のすみ香はまさに「末っ子」。自由奔放なようでいて実は周囲をよく見ています。元彼と彼に再び傷つけられた姉を見てパンチをお見舞いするシーンや、嫌な雰囲気の合コンからあり香を連れ出したりとそのしたたかさで、実は傷つきやすい姉を助けることも。
そしてそんなふたりの関係を締めるのが母親。鶴の一声でふたりに影響力を持ち、支え、しかし時にそれは彼女たちを縛る「呪い」のようなものでもあるのです。
女性同士の一筋縄ではいかない距離感を家族という側面から描いた本作。女性に特におすすめですが、男性にもおすすめです。しばらくしてから登場する川谷という男性がうじうじとしている女子を一刀両断するような言葉をあり香に投げつけるシーンが多くあります。普段言われっぱなしで口では勝ちづらい男性ですが、女性の本質を突くような言葉には読んでいてスッキリするのではないでしょうか?
シングルマザーで母親としての役割に悩む31歳の加南と、セカンドバージンのきまじめ会社員で28歳の悠里、そしてそれまで自由奔放に遊んできたけれど本当に好きな男には振られてしまったデザイナーで36歳の奈央。それぞれ訳ありの彼女たちはひょんなことから同居することになって……。『地獄のガールフレンド』は日常の事件を織り交ぜながら進むガールズトーク漫画です。
- 著者
- 鳥飼 茜
- 出版日
- 2015-04-08
本作品はまさにガールズトークのエッセンスを抽出したような本音と女同士の微妙な距離感が魅力。『おんなのいえ』では家族という切っても切れない繋がりがあり、そこがわずらわしくもありましたが、やはり安心感があるものとして物語に効果を与えていました。
しかし今回は他人同士。そして今まで面識があったわけでも、似たような性格の者たちが集まった訳でもありません。それはいい時はそんな違いが多方向の話ができて盛り上がる要因となるのですが、やはりぶつかり合う時は激しい火花を散らせるものとなるのです。
彼女たちのそんな心情はまさに読む者にもつきささるリアルさがあります。誰しもが女同士で感じている気持ちを切れ味のある言葉で言語化したガールズトーク漫画です。
『先生の白い嘘』の主人公、美鈴はどこか冷めた目をした高校教師。24歳という若さでありながら、熱量が低く、生徒たちを教師という立場から観察することを日課としています。しかし彼女の平穏な日々は早藤という男が現れたことによって変わってしまうのです。「性の不平等」をテーマとした社会派漫画となっています。
美鈴は人を恵まれた者、そうでない者に分けると自分は後者だと考えています。「いつも少し取り分の少ない方」にいる彼女。そんな彼女を下に見ているような「親友」美奈子が婚約者として連れてきたのが早藤でした。早藤と関係を持ち、美奈子を見下ろせる椅子を得たと思う美鈴。彼女に一矢報いたいと思う理由は高校時代のある経験からでした。
- 著者
- 鳥飼 茜
- 出版日
- 2014-02-21
美鈴と美奈子、早藤と美奈子、そして生徒たちの間でも不平等さは彼らの関係を危ういものにします。そしてその危うさに揺れながらも「日常」はなかなかバランスを崩しません。
鳥飼茜は物語上でその振り幅を大きくしながら、性というものについて疑問を投げかけてくるのです。彼女はこの作品で男女の格差はあるという前提で、性差による事件や被害を見直したと語っています。「平等」という言葉で性差をならしてきた潮流に危機感を感じたと言う彼女。そんな熱い思いから描かれたのだと伝わってくるようなずしりと思い作品です。
本作品では彼女の真骨頂である性の生々しいイメージがそのままに描かれており、彼女自身書いていて気持ちが悪くなったと語る場面もあります。しかし、そのことによってそもそも性というものは暴力的なものなのだと再認識することができるのです。そんな危険とも言えるものを内包した私たちはそれとどう向き合っていけばいいのでしょうか。「先生」美鈴の出す答えを追ってみませんか?
『先生の白い噓』については<衝撃漫画『先生の白い嘘』をネタバレ考察!現代の隠れた格差、生きづらさ>の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。