「いつも少し取り分がすくない方にいる」主人公を描いた『先生の白い嘘』。女子同士の複雑な上下関係や男女格差について考えた社会派な作品です。今回はそんな本作の魅力をご紹介!ネタバレを含みますので、ご注意ください。
- 著者
- 鳥飼 茜
- 出版日
- 2014-02-21
主人公の美鈴は高校の教師として働く24歳。生真面目で彼氏もおらず、友達と呼べる人もほとんどいません。そんな彼女は自分を「いつも少し取り分がすくない方にいる」と考えています。
「人間を2つに分けたとして
必ずどちらかが少しだけ取り分が多い と 私は感じている
おおらかと神経質と お金持ちと中流以下と 「ふたえまぶた」と「ひとえまぶた」と
「男と 女と」
そんな彼女は今日、「少し多い方」の友人美奈子と待ち合わせをしています。10分遅れると連絡してきた彼女は25分後に現れ、彼氏の早藤を連れてきます。そして美奈子は彼女に結婚報告をするのです。
「なんか……ゴメンね?」
結婚報告に謝罪がつくことに違和感を覚える美鈴ですが、笑ってごまかします。彼女は「違和感はいつも曖昧な苦笑いでやり過ごして」きた人間なのです。
美鈴は美奈子といる時はいつも微妙な不快感を抱えながらもその気持ちをない事にしてきたのです。女子同士の微妙なマウンティングの様子は見ていてぞわぞわしてしまいます。
いつからこんなに問題をなかったことにするようになってしまったのだろうと美鈴が考えると、早藤という存在に行き着きます……。
- 著者
- 鳥飼 茜
- 出版日
- 2014-09-22
婚約が決まったあとも美鈴の学校に乗り込んできて彼女を無理やり呼び出す最低男・早藤。嫌がる美鈴の体を無理やり開き、挙げ句の果てに彼女の陰部を写真に撮ります。
ふたりの関係が始まったのは学生時代に遡るもの。4年前まだ大学生だった美鈴はマンションに引っ越した美奈子の荷ほどきを手伝うためにやってきます。そこにやってきたのは当時すでに美奈子と付き合っていた早藤。
美奈子が意識させるようなことを言ったせいで、美鈴は早藤と目があって顔を赤くしてしまいます。それを見た早藤はタバコを買い忘れたから買ってきてほしいと美奈子に頼みました。そしてふたりきりになると妙な雰囲気を出してくるのです。
「さっきから俺らのことじと〜〜〜って見てたっしょ
アンタみたいな潔ペキっぽい女に限って頭ん中やらしいことでいっぱいなんだってば
頭でバカにしながらメチャメチャ羨ましがってんだろ?」
「違…ごめ…ごめんなさい私何か嫌な事言」
「うん じゃパンツ脱ごっかあ」
「え?何言って…」
「だーからさっさとやってやるからパンツ」(会話文中略あり)
そう言って鼻息荒く近づいてくる早藤に顔を捕まれ、美鈴は「誰か たすけ」と声を出したところですべてを諦めます。
早藤に犯されている時に聞こえたのは自分の心と心を縫う糸が千切れていく音でした。プチプチと音を立て、美鈴の心はちぎれていきます。そして事が終わったあと、彼女はこう考えるのです。
「私が声をあげることをしなかったのは ある可能性に気づいたから
すべて私の すべて女の自分のせいという可能性
生きてるだけでこんな目に遭う 私が女のせいで
女が 女というせいで」
ある日、美鈴は不倫したという噂がたって問題になった生徒・新妻の面談をすることになります。しかし噂をまったく否定しようとしない新妻。早藤に撮られた写真のことが気になって余裕がない美鈴は手っ取り早く解決しようと彼についこう言ってしまいます。
「新妻君が誰かと不倫したなんて本当でも嘘でもどっちでもいい
これは利害なの!わかる?
あんたの本当の話なんか思うほど誰も聞く耳もってないの」(中略あり)
言い終わってからやりすぎたと慌てる美鈴に新妻は笑います。彼は本音をさらけた彼女に「本当の話」をすると言いました。
実は不倫の噂は本当で、彼はバイト先の社長の妻に誘われるままにホテルに行ったものの、直前になってある恐怖に襲われたと言います。
「あの日どこまでが俺の『そうしたかった事』なのか
わかんないんです…今も
俺 なんかその空気にのまれるって思って のまれたら終わりだって気がして
フタしたんです怖いって気持ちに
そしたら段々…途中から俺わかんなくなっちゃったんです
違うし 嫌だって思ったのに もしかしてこれは自分の意志なのかなあ?って
確かに怖いって逃げたいって思ったのに
逃げないでそこに居続けたのはなんで?って」(中略あり)
それを聞いて早藤との情事や過去のレイプを思い出す美鈴。彼女は自分と違って色々な意味で力のある「男性」という存在の新妻が自分と同じような気持ちを語ることに、表面上は静かに、しかし内面はぐちゃぐちゃになりながら怒っています。
美鈴は新妻に「…みとめない」と吐き捨て、彼に今までの不満を全てぶつけるような言葉をこぼし始め……。
- 著者
- 鳥飼 茜
- 出版日
- 2015-03-23
今回ネタバレを含んでご紹介してしまいましたが、まだまだ登場人物たちは心にクる言葉を読者に投げかけてきます。それは本当は中略してお伝えするのももったいないほどのものばかりです。
ぜひ作品で作者・鳥飼茜の問題提起に耳を傾けてみてください。人間関係の隠れた格差への認識、あるものをなかったかのようにごまかす風潮に対してもう一度自分で考えたくなる名作です。
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