数々の名作を生み出した作者。温かみのある絵と、強い人間ドラマ性を感じさせる作風で、多くのファンを魅了してきました。いつ見ても、どの絵を見ても震えがくる、彼のおすすめ漫画ランキングベスト5をご紹介します。
1939年、東京府(現在の東京都)出身の漫画家。
彼が漫画に関わるようになったのは16歳のころ。新聞で漫画家を募集しているのを見つけ、応募しました。
社長はプロの原稿や専門的な道具の使い方を彼に見せ、再度作品を執筆してくるよう言います。テストだと思いながらも執筆を続けたちばてつやですが、そこから17歳で描き上げた『復讐のせむし男』という貸本をそのまま出版してもらい、漫画家としてデビューを果たすのです。
少年漫画や青年漫画のイメージが強いためあまり知られていませんが、デビュー当初は少女漫画の名手とされ、後に少年漫画や青年漫画へと徐々に活動を広げていきました。
ちばてつやの作品の特徴は、登場人物の心理描写の素晴らしさ。たとえ言葉がなくとも、情景描写で読者に感じ取らせてしまう、想像させてしまうところに彼の凄さがあります。
今回はちばてつやの描いてきた名作をランキングで5作品ご紹介したいと思います。
第5位は、このランキングで唯一の少女漫画です。
絵画を学ぶためフランスへ渡ったきり、消息不明となってしまった父。そんな父の帰り待ち続ける、気高く健気な少女・ユカ。彼女の魅力に、最初は冷たかった村のガキ大将をはじめ、みんなが徐々に心を動かされてゆきます。どんな困難にもくじけない、そんなユカの人生を描いた物語となっています。
- 著者
- ちば てつや
- 出版日
この物語の見所は、やはりヒロインのユカの強さ、気高さです。自ら望んでいたものとは違う、子どもひとりで抗うこともできない辛く、苦しい、決して恵まれているとはいえない境遇におかれながらも、彼女はけっしてくじけません。
村に帰ってきたユカは、周囲の子どもたちから親のいない子として悪口を言われ罵られます。しかし、それでも鬱屈することなく自分らしく生き抜いていきます。思わず胸を打たれる彼女の気高さとひたむきさ、強さに周囲の人たちが惹きつけられてゆくように、読者もいつの間にか惹かれていることでしょう。
連載されていた当時は男子は強くあれ、といった風潮がある時代。ユカの前で男の子が涙するシーンは非常に斬新で、読者の心に新鮮な印象を残しました。ユカの生きた時代や背景を思いながら読むことで、より一層物語を深く感じられるでしょう。
2014年に『暴れん坊力士!!松太郎』のタイトルでアニメ化された作品です。
主人公は、長崎県のとある廃坑の街で生まれた坂口松太郎。中学を3年も留年し、すでに19歳。人並み外れた怪力を持ち、体格にも恵まれていた彼はやりたい放題の無法者です。
松太郎が一人前の力士へと成長してゆく様子や、相撲部屋の日常をとおして彼の人生を描いた清々しさを感じ、スカッと読める作品です。
- 著者
- ちば てつや
- 出版日
『のたり松太郎』は相撲の物語ではなく、坂口松太郎というひとりの人間の生きざまを描いている作品。作者のちばてつやも、松太郎が力士となり相撲をする漫画になったのはたまたまだったと語っています。松太郎の成長や、一喜一憂するさま、彼の人生がメインのストーリーなのです。
松太郎は粗暴でかなりの乱暴者ですが、意気地なしではありません。勝てないとわかっている格上の相手にも臆することなく挑んでゆきます。
主人公だけでなく登場する他のキャラクターにも、それぞれの人生があるのだと感じさせる描写や演出がなされています。そんなところも漫画でありながらどこかリアルに感じる、ちばてつやの作品の大きな魅力です。
松太郎という人間の人生を描いた、魅力的な物語に仕上がっています。
ちばてつやの戦争に対する思いが反映された作品です。
主人公は日本帝国軍の青年パイロット・滝城太郎。新しい戦法を編み出し、彼にしかできない操縦で敵を撃ち落とし、後に撃墜王となってゆきます。主人公を含めた若きパイロットたちが、自らの大切なものを守るため、戦争に身を投じてゆくストーリーです。
戦闘機が華々しく活躍しかっこよさを印象付けながらも、搭乗する人物たちの苦悩や葛藤も描くことで戦争の恐ろしさを感じさせる作品となっています。
- 著者
- ちば てつや
- 出版日
この作品が連載されて人気を博していた1960年頃、戦争を扱った作品のブームがありました。多くの作品は、戦う軍人は勇ましく、戦闘機も非常にかっこよいものとして描かれており、『紫電改のタカ』も連載が始まった当初はそういった作品と同じように描かれていたました。
しかし徐々に疑問が積もっていくように感じたちばてつやは、中盤以降に自身の戦争への思いを込めた作品として描き上げています。
主人公を含めた登場人物たちの美しく純粋な心は、どれだけの苦悩や葛藤を抱えていたのでしょうか。それぞれに国を思い、故郷を思い、家族を思い、散っていった彼らの姿からは、ちばてつや作品らしい強い人間ドラマを感じさせます。
戦争を背景に、自分にとって本当に大切なものを考えなおすきっかけとなってくれる作品。1度手に取ってみてはいかがでしょうか。
作者自身の満州からの引き上げ体験からインスピレーションを得て、描かれた作品です。
ダム建設によって両親も家も無くし、国から莫大な補償金を受け取った主人公の立太。村の大人たちは、立太に付け込もうと寄ってきます。嫌気がさした立太は村から逃げ出しますが、途中で崖から転落。なんとか助かったものの記憶を無くし、犯罪にも手を染める危険人物となってゆきます。
人間の欲や醜さを描き、世間に大きな衝撃を与えた作品です。
- 著者
- ちば てつや
- 出版日
題材に人間の欲や醜さを取り上げ、衝撃的な展開、結末を辿る『餓鬼』。
ちばてつやは、自身が満州から引き揚げる際に、人間の本性を見たと語っています。醜く、汚く、よごれた欲の塊を見た彼は、それを生々しいまでにこの作品で表現し、描きました。
欲にまみれた醜い大人たち、それに触れ過ぎてしまった立太。危険人物へと成長してしまった立太だけでなく、彼が戻って来たときの村の様子と村人たちの姿も、見るも無残に変わり果ててしまっています。お金にとり憑かれた大人たちのなれの果てを表現した描写は、衝撃的なものです。
立太は記憶を無くしながらも助かりますが、成長した彼の姿はちばてつやの代表作ともいわれる『あしたのジョー』のボクシングを始める前のジョーにそっくりなのです。立太は、ボクシングに出会えなかったジョーなのではないか、という解釈もできるかもしれません。
尽きることのない人間の欲望。この作品の衝撃は1度受けたら忘れられない、それほど印象深いものとなっています。
第1位は、もちろん彼の代表作。言わずと知れた名作はアニメ化だけに止まらず、実写映画化、舞台化までされています。
主人公は東京のドヤ街に現れた青年・矢吹丈。最初はただの無法者だったジョーが、丹下段平という人間に出会い、一流のボクサーへと成長していくストーリーです。
少年院で出会った、後の因縁のライバル・力石徹を始め、数々の強敵を相手に一流のプロボクサーとして成長していくジョーのボクシング人生を描いた名作は、ちばてつやの名を全国に知らしめることとなる代表作となりました。
- 著者
- ちば てつや
- 出版日
- 2000-06-01
ジョーの挫折や絶望、反対に希望や幸せ、まさに人生が詰まっている『あしたのジョー』は年月を経ても変わらず愛され続けています。
社会からは逸脱したアウトロー的な人物像のジョーが、人生をかけたいと思えたボクシングというスポーツ。そして、それを教えてくれた丹下段平という人間に出会うことによって、ジョーは新しい人生を歩み始めます。彼の生きざまは、読者を本気で熱くさせたことでしょう。己の拳一つでどん底から這い上がっていく姿は眩しく、鮮烈に、目に焼き付きます。
漫画史に残るラスト1ページは、原作者の高森朝雄(梶原一騎の別名)をして「これが正解だ」と言わしめたと語られています。
心を揺さぶられるストーリーは時代の象徴ともされ、多くのファンの人生に影響を与えました。
『あしたのジョー』が気になる方には、名言を集めた<『あしたのジョー』登場人物10人の名言を徹底紹介!名作漫画を最後まで解説>の記事もおすすめです。こちらもあわせてご覧ください。
連載開始から色あせることなく語り継がれる、ちばてつやの作品の数々。それはどれも、1度は手に取ってみたくなるものばかりです。これから読んでみたいと思っている方、どれから読むか迷っている方にとって、このランキングが参考になればと思います。