実は中学生になるまで読書が嫌いだった。漫画ばかり読んでいたし、小学校の朝の読書の時間では大きな本を広げてページを凝視しつつも、文字は読まずそのまま思考停止してただ15分が過ぎるのを待つこともしょっちゅうあった。でも中学高校時代に自分を変える沢山の本との出会いがあった。何冊か本を紹介した森絵都や、大好きな映画「パプリカ」の原作者である筒井康隆、そして誰より江國香織の本との出会いは私の「小説」の認識を大きく変えてくれた。
江國香織の繊細なタッチの文章や気だるげに時間が流れてゆく独特のストーリー展開は様々な年代の人々に愛されているけど、私は彼女の小説を、大人になりたくなくて時間が過ぎるのが憂鬱で仕方ない全ての女子中学生や女子高生に特に読んで欲しいと思う。大人になって縛るものが少なくなったりでもまた別のものに束縛されたりする生活もそんなに悪くないかなって思える。少しだけ大人の女性になるのが楽しみになる、読んでいるあいだだけでも。
今回は江國香織の小説のなかで、今までの連載で紹介していなかったもののうち特におすすめのものを紹介する。
「私はなにも信じてない。愛情も友情も、人も自分も信じていない。幸福も不幸も信じていない」
8年付き合った恋人と別れた梨果は、彼の新しい意中の人である不思議な女性の華子に押しかけられ、また彼に会えるかもしれないという不純な思いで彼女と二人の生活を始める。どうしようもなく歪なのにあたりまえみたいに淡々と描き出される登場人物たちの心の動きにつられそうになる。
正直この本は華子に関する描写がほかのどの部分より良くて、どうしようもない気持ちになった。華子みたいな子って本当にいて、自分もあんな風になりたいと思うのにどうしても真似できなくて悔しくさせられるような女の子。でも一番苦しいのもきっとそういう子で、それを悟られないようにするところがまた悔しい!!
江國さんには珍しく最後大きく展開が傾く作品。読んだあとしばらくぽかんとしてしまいました。華子コンプレックス。
「きっと、わたしもいつか夏に死ぬ」
忘れられない夏ってあるじゃないですか甘酸っぱい恋や青春の光とかそういう話してるんじゃなくて、一つくらいみんなきっとある、もっと何気ないこと。
「バニラアイスの木べらの味、ビニールプールのへりの感触、おはじきのたてる音、そしてすいかの匂い」裏表紙に書いてあるこの一行だけでもういくつもいくつも忘れかけていた夏たちが溢れて止まらない。(特にビニールプールのへりの感触!!!!)
そういう些細な何でもないようなことから、一生トラウマになりそうなこわい体験はどういうわけか、夏に集中してやってくるような気がする。毎年、蝉が鳴くと思い出す。
そういう誰かの夏の記憶を集めたような短編集。大人になればそんなこと、と思えるはずの痛みも、夏の古傷だといつまでも痛む。
最初の一編が普通に少し怖かったです。