鉛のように心に残る不気味な短編たち
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鉛のように心に残る不気味な短編たち

更新:2020.11.30 作成:2017.3.3

「いつまでも心に残る作品」って、誰の心にもありますよね。 一般的にそれは、感動的なものや衝撃的なものが多いと思います。 でも、心に残る作品というものは必ずしもそれだけじゃありません。

内田万里プロフィール画像
バンド「ふくろうず」Vo/Key
内田万里
ふくろうずのヴォーカル・キーボード。内田万里(Vo, Key)、石井竜太(Gt)、安西卓丸(Ba, Vo)で2007年にふくろうず結成。2011年6月、メジャーデビュー・アルバム『砂漠の流刑地』をリリース。2015 年1月から放送されたドラマ『ワカコ酒 Season2』のオープニングテーマにミニアルバム『ベイビーインブルー』収録曲「いま何時?」が使用され、メンバーもカメオ出演して話題に。 同月には恵比寿LIQUIDROOMにてツアーファイナルが大成功。2016年4月には東京・クラブeXにて、ワンマンライブ「ふくろうずの360 ゚ライブ ~死角の無いやつら~」を開催。同じく4月に大阪・Music Club JANUSにて自主企画「プリティーツーマン~春はあげぽよ、YO!YO!白くなりゆく!?~」で、ねごとと共演し会場を盛り上げた。 7月13日にリリースされた最新アルバム『だって、あたしたちエバーグリーン』は、2014年6月リリースの『マジックモーメント』以来となる作品。2017年1月からは3カ月連続企画ライブ、6月には東京・大阪で「さらば!プラネタ銀河ツアー」を開催した。9月6日には結成10周年の集大成となるニューアルバム『びゅーてぃふる』をリリース。12月24日、結成10周年を記念したライブ「ごめんね、ありがとライブ」をもって解散を発表した。 オフィシャルホームページ http://www.fukurouzu.com/
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うまく言葉にできないようなもの。とっても地味だったり話の筋が無茶苦茶だったり、なんとも言えないような不気味な物語が、自分でも気づかぬうちに鉛のように心に残ってしまうことってよくあります。

そして、そういったものは時としてどんな感動よりも深く心に刻まれることがあるんです。

ねむり

著者
村上 春樹
出版日
2010-11-30
「眠れなくなって十七日目」に突入してしまった不眠症の女性が主人公のお話です。

優しく真面目な夫がいる、育ちざかりの素直で可愛い息子がいる、経済的にも恵まれたステキな専業主婦ライフ。
そんな彼女の生活は、「不眠」によって突然狂い始めてしまいます。

とにかく、この話は主人公が不気味です。
だって17日も眠らずに生きることのできる人間なんかいる訳ないからです。
それなのに彼女は「不眠」になってからというもの具合が悪くなるどころか以前よりも生き生きとし始め、美しくなり、眠らなくなった時間を使ってチョコレートを食べたり、深夜のドライブに出かけたりと自分の時間を楽しみ始めます。
そんな彼女の姿がまた何とも不気味です。

この理解不能な不眠症が結局一体何を指しているのか、何かのメタファーなのか、わたしにはよく分かりませんでした。

でも、この異常な状態の彼女を通して、作者が何かを強く伝えたがっているのだけは、ひしひしと感じました。
読んでいて、辛くなるほどでした。
それは、人間の逃れようのない孤独とか、そういうものなんだろうとわたしは感じました。

離さない

著者
川上弘美
出版日
2001-10-01
ご近所付き合いのあった「エノモトさん」が人魚を連れて帰って来て以来、どうも様子がおかしい。不審に思った主人公は、エノモトさんと人魚を引き離そうと画策するうちに自分自身も人魚のトリコになってしまう。まるでミイラ取りがミイラになっちゃうような恐ろしいお話です。

ひとたび人魚をそばに置いてしまうと誰もがその魅力に取り憑かれ、次第に人魚のことしか考えられなくなり、最後は人魚に完全に依存してしまいます。

この世にたぶん人魚なんて、いません。
でも人間って淋しい時や辛い時は、何かに依存してしまうことって、ありますよね。
それは悪いことばかりではないかもしれません。
いや。やっぱり悪いことかもしれません。

心の隅で、「もしかして、わたし依存してる? やばいかも?」と思った時は、この小説を読み直し、客観的に自分をみつめなおせたら良いな、と思っています。

そんなこと、なるべくないといいなあ。

数人の人たちがやってきて

著者
フランツ・カフカ 著  平野 嘉彦 翻訳
出版日
2008-07-09
主人公(おそらく建築士)のもとに数人の旅人たちがやってきます。彼らは「自分たちのために都市を建設して欲しい」と主人公に頼みますが、主人公は事態がうまく飲み込めず、なんだか弱っていく、といったような不思議なお話です。

「都市」を作るにはあまりに旅人たちの数が少ないと感じた主人公は、「都市」ではなく「一軒家」を作ったほうが良いんじゃないか?と旅人たちに提案をします。
しかし、彼らは頑なに「都市」を作って欲しいと懇願し、「都市」でなければならない理由を主人公に説明するのですが、その説明が分かるようで分からないような説明のため、いよいよ主人公は疲れ果ててしまいます。

わたしがこの作品を初めて読んだのは高校生の時でした。
正直何のこっちゃ分かりませんでしたが、作者のフランツ・カフカって人は世界的に認められてる人なんだし、この話もきっとものすごく深い意味があるに違いないと信じ、何度か読み返してみた記憶があります。

残念ながら、大人になった今も作家の真の意図はよく分かりません。
でも、なんか、こういうことって、生きてると結構あるよね。むしろたくさんあるかもね。と大人になったわたしは思います。

そして久々に読み返して気付いたのですが、この作品はたった4ページしかない大変短い作品なのにも関わらず、やけに鮮明に登場人物たちの顔や表情、それらをとりまく風景が浮かんでくるのです。
それは、とても凄いことだと思いました。

心に残る作品というのは、登場人物たちの人間性や、その奥に潜む心の動き、細かな風景、場合によってはその場の匂いまでも感じることが出来るんだなあと改めて気づかされた作品でした。