本当に面白い「有名人が書いた本」
これらの本は、その有名人のファンの方からすると必須アイテムとなります。正直内容が悪くても、ある程度のセールスが見込めるので、出版社も発売に積極的です。

しかし、「有名人」はその世界において、一角の人物であるわけです。実際に困難を達成したその説得力やエピソードには、一般(この言葉が適切か分かりませんが)の作家先生には無い力があります。

もちろんすべてが良書ではないでしょう。なぜなら有名人作家は「ペンを取ることよりも、他に大事なことがある作家」です。文章を書くことにすべてのエネルギーを注いでいる専業作家と比べると、文章の質などは低いのかもしれません。

しかし、何かの世界で一流になっている人の言葉は独特の輝きを放っています。

玉石混合であることは否めない「タレント本」ですが、中には専業作家を凌ぐほどの良書があるのも事実です。
文章力だけに収まらない人間力がそうさせているのでしょう。

野村克也がO・Nよりも勝っている点

著者
野村 克也
出版日
野村克也監督の著作です。テスト生からプロ野球選手になり、一流の成績を残しながらも、当時のプロ野球の中心はO(王貞治)とN(長嶋茂雄)でした。

その中で、野村さんは新しい角度で野球を考え、実践してきました。僕は購入当初、「物の価値」についてずっと考えていました。「野村さんとO・Nの話が知れて、1,728円は安いよなぁ」と思った記憶があります。

「O・Nと切磋琢磨した人間のひとりとして、このプロ野球史上最高のスーパースターコンビについて何らかの記録を残しておくこと、ふたりがいかなるプレーヤーで,どのような存在であったのか,彼らは日本のプロ野球に何をもたらしたかといったことを、当時の状況もからめながら記しておくことは,プロ野球の歴史とともに生きてきた私の使命のひとつであり,義務ではないか……そう考えるようになった」

「長嶋と王はまさしく手本だった。ふたりは練習であっても,どんな試合であっても、いっさい手を抜かず、目いっぱいやる」

などO・Nを絶賛する野村さんですが、一方で

「選手としてはともかく,監督としては絶対にふたりには負けていない」

「O・Nは人を遺していないが,自分は多くの人材を遺した」

と、自分との比較で、勝っている点についても明言しているのが本書の面白い部分です。

野村さんは「後世の育成」について、自分の価値を見いだしている方だと思います。たくさんの著作を書かれているのも、その気持ちの表れでしょう。ちなみに、この本を僕はラジオでも何度か紹介しました。

最高の作詞の背景にあるもの

著者
TAKURO
出版日
国民的ロックバンドGLAYのリーダーTAKUROさんの著作。

もう10年以上前に書かれたもので、当時何度も繰り返し読んだ一冊です。タレント本の中にはプロのライターが代筆したものが多くありますが、この一冊はすべてTAKUROさんの言葉で書かれています。あれだけの詞を書かれているというだけあって、本業でない物書きでもワードセンスが光っています。

この本は僕の手元には残っていないのですが、

「自分はモーツァルトのような天才じゃないから最高の一曲を書くために1000曲書く。1000曲書けば一曲ぐらいはいいのができる」

「僕はTERUのように歌えないし、HISAHIやJIROのように弾けない。でも歌を作ることができる」

というくだりは脳裏に焼き付いています。

ロックバンドと言うと、破天荒なイメージがあります。しかし、国内ロック史最高の作家のバックボーンの軸は、誠実さであることが刻まれた一冊です。

クリエイターとしての密度

著者
小林 賢太郎
出版日
2014-09-10
小林賢太郎さんは「ラーメンズの人」なんですが、ここ数年は「信じられないほど凄いものを作る人」みたいになっている印象です。

文章の内容も凄まじいですが、「そもそもこの文章を書けることが凄い」という感想を抱いた本です。表現力や比喩などの文章力ではなく、クリエイターとしての密度がこの文章を生んでいるのだと感じました。

僕は元々、小林さんが大好きなので、冒頭に書いた「その有名人のファンの方からすると必須アイテム」の「ファン」にあたってしまう人間です。そのせいでこの本を客観的に書評することはできないのですが、僕がものを作るときの礎となっている一冊です。

「オリジナルの構想があって、それから現象を当てはめる。ゼロからつくってないというのは一発でわかります。表現を仕事として選ぶのであれば、そこはきちんと卒業して、オリジナルを生み出せるようにならなければなりません」

「なにかわからないことがあったら調べないでいったん想像してみる。正解不正解は関係ありません。たとえば、ジャムのフタが半開きになっていたら、誰が閉め忘れたか調べるのではなく、なぜジャムは逃げようとしたかを想像するんです。人間の頭の中には想像する力の源“想像筋”みたいなものがあって、僕はいつもそれを鍛えるようにしています」

「面白くて、美しくて、不思議であること。これが小林賢太郎が作品をつくるうえで大切にしていることです。『面白い』と『美しい』と『不思議』には境界線がない。『かっこいい』も『かわいい』も、『快感』も『恐怖』も、『美しい』も『酷い』も、『不思議』 も『わかりやすい』も、そして『笑い』も、みんなみんな『面白い』に入るのです。いろいろな『面白い』が何層にも重なった作品。これが小林賢太郎が目指しているエンターテインメントです」

などなど、強烈なフレーズが並びます。

僕がQOOLANDの歌を作るときに、大切にしているものや、注意しているものがいくつかあります。その中でも最も大きいウエイトを占めるのが「一貫性が無くても、整合性を感じること」です。

泣きながら「悲しい」と言うよりも、笑いながら「悲しい」と言った方が、「哀しさ」が伝わるときがあります。「悲しくて泣く」というアクションは一貫性があっても、「悲しいのに笑う」というレベルの「哀しさ」にはかないません。

メロディや歌詞、コードの使い方の随所にこの「一貫性の無い整合性」を散りばめています。

この感覚や表現を僕の100万倍うまくやっているクリエイターが小林賢太郎という人です。
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