テクノロジーと音楽の関わりを紹介した一冊
エイフェックスツインからオウテカまで個性を持ったアーティストを批評した、批評家の佐々木敦の前半の集大成的書籍。
2002年に刊行された『ex-music』の新編集版となる本書は、1990年代以降のテクノミュージックや電子音楽のなかでも、オウテカやエイフェックスツイン含め、テクノロジーの進化と共に生まれたミュージシャンを論じた書籍。1990年代のテクノのムーヴメントはダンスミュージックとしてだけでなく、ホームリスニングの電子音楽の歴史を更新。これらを批評して紹介することで国内のシーンに刺激を与えた。
同時期に出版された『ex-music〈L〉』では、ポスト・ロックの系譜についてまとめられている。
恍惚感へと招く華やかなメロディ
華やかさで一世風靡したサイバートランスのみならず、トランス・シーン全体について俯瞰できる。
先述のサイケデリックトランスとは別のシーンを形成したジャンル、サイバートランス。音楽ジャンルとしての広義の“トランス”はこちらの方を指す場合が多い。派手なメロディと展開のわかりやすさなどからメジャーな音楽シーンに食い込んだ。
そのせいか商業主義的な印象が生まれ、コアなテクノリスナーから目の敵にされがちであった。が、本書では国内外のトップDJへのインタビューからディスクガイド、そしてファッションまで多角的に捉え、丁寧な作りで紹介している。こういった入門的な紹介本があったことで文化への理解が増し、シーンの巨大化へと繋がったはずだ。このシーンは、のちに2010年代のダンス・ミュージックの主流となるEDMの下地を作った。
鋭利なシンセ音が突き刺さる
エレクトロといってもエレクトロ・ヒップホップではなく、2000年代中盤に生まれたフレンチ・エレクトロを中心にしたシーンのディスクガイド。
「1997年のダフトパンクのアルバム『ホームワーク』を起点として、エレクトロの歴史を体系化した」というテーマで選出された400枚が掲載。隣接するジャンルのエレクトロクラッシュ、ディスコパンク、マッシュアップ、ニューレイヴに至るまでを紹介し、00年代中期の空気感の一部を追体験できる。
ダフトパンクがデビューした90年代には、フェスのヘッドライナーとなりグラミー賞を受賞するほど成長するとは誰も思わなかったはず。国内アーティストの80Kidzを大々的にフィーチャーしている点が著者との交友関係を感じてしまう。『ELECTRO BOOK 2010』という前作もあるが重複があるので、こちらでOK。