「エレクトロニック・ミュージック」をジャンルごとに紹介した書籍群

「エレクトロニック・ミュージック」をジャンルごとに紹介した書籍群

更新:2021.12.17

クラブ・ミュージックのジャンルは多岐にわたる。今回は、これまで紹介してきたテクノ、ハウス以外のエレクトロニック・ミュージック・シーンと密接な関係をもつジャンルの書籍を紹介。なおブラック・ミュージック系は割愛した。

ブックカルテ リンク
電子楽器が生まれて数十年の間に多様性を帯び、さまざまなジャンルが生まれ今回紹介するものの他にも数多くある。ちなみに近年世界中を湧かせているEDMを取り扱った書籍は現状ない。書籍からでしか導き出せない、シーン全体を俯瞰するという試みは今後も続いてほしい。

UKから生まれた高速ブレイクビーツ

Junglist HANDBOOK

1996年08月29日
remix 1996年8月号増刊
アウトバーン
ジャングルからドラム&ベースに至るまでの高速ブレイクビーツを取り入れたダンスミュージックの系譜がわかる一冊。

ターンテーブルの回転数を間違ったまま再生したことから生まれたといわれる、高速ブレイクビーツの手法。トラックメイカーたちは、ブレイクビーツをサンプラーに取り込んで高速化、細かくカット&ペーストすることで従来のドラマーには叩けない複雑なリズムを作り上げ、その斬新なグルーヴが高揚感を煽った。

本書は1980年代末から活躍するGoldie、Fabio、Grooveriderなど、主要なアーティストたちによる貴重な証言を含んだインタビューを中心に、コラムと500枚のディスクガイドで構成。これを読めばジャングリストになれる! 綴込付録でステッカーがあるのも当時ならでは。ジャングルから派生したドラム&ベースをより深く知りたいのなら、『ドラムンベース―終わりなき物語』という訳書もある。

音からサイケデリックを体験

著者
出版日
テクノから派生したジャンルの中で、ヒッピーカルチャーと密接だったのがサイケデリック・トランス。

ドイツ発のシンセのきらびやかなメロディによってトランス感に導くジャーマントランスが、インドのリゾート地ゴアでヒッピーカルチャーに染まったゴアトランスとなり、そこから高揚感&サイケデリック感&トランス感を増したサイケデリックトランスへと変貌した。

1990年代初頭から始まったシーン全体の紹介はもちろんのこと、当時は毎週末開催されていた東京の代々木公園内で開催されていた野外レイヴの模様が記されていたり、ドラッグカルチャーを交えた精神世界的なコラムも盛り込まれ、多角的に文化を捉えている。世界中のレイヴを旅して回る『レイヴトラベラー』という旅行記も話題になり、地球規模のムーヴメントとして捉えられ、“自分探し”を煽る世相も相まって盛り上がった。

テクノロジーと音楽の関わりを紹介した一冊

著者
佐々木敦
出版日
2014-07-25
エイフェックスツインからオウテカまで個性を持ったアーティストを批評した、批評家の佐々木敦の前半の集大成的書籍。

2002年に刊行された『ex-music』の新編集版となる本書は、1990年代以降のテクノミュージックや電子音楽のなかでも、オウテカやエイフェックスツイン含め、テクノロジーの進化と共に生まれたミュージシャンを論じた書籍。1990年代のテクノのムーヴメントはダンスミュージックとしてだけでなく、ホームリスニングの電子音楽の歴史を更新。これらを批評して紹介することで国内のシーンに刺激を与えた。

同時期に出版された『ex-music〈L〉』では、ポスト・ロックの系譜についてまとめられている。

恍惚感へと招く華やかなメロディ

著者
出版日
華やかさで一世風靡したサイバートランスのみならず、トランス・シーン全体について俯瞰できる。

先述のサイケデリックトランスとは別のシーンを形成したジャンル、サイバートランス。音楽ジャンルとしての広義の“トランス”はこちらの方を指す場合が多い。派手なメロディと展開のわかりやすさなどからメジャーな音楽シーンに食い込んだ。

そのせいか商業主義的な印象が生まれ、コアなテクノリスナーから目の敵にされがちであった。が、本書では国内外のトップDJへのインタビューからディスクガイド、そしてファッションまで多角的に捉え、丁寧な作りで紹介している。こういった入門的な紹介本があったことで文化への理解が増し、シーンの巨大化へと繋がったはずだ。このシーンは、のちに2010年代のダンス・ミュージックの主流となるEDMの下地を作った。

鋭利なシンセ音が突き刺さる

著者
出版日
2013-05-31
エレクトロといってもエレクトロ・ヒップホップではなく、2000年代中盤に生まれたフレンチ・エレクトロを中心にしたシーンのディスクガイド。

「1997年のダフトパンクのアルバム『ホームワーク』を起点として、エレクトロの歴史を体系化した」というテーマで選出された400枚が掲載。隣接するジャンルのエレクトロクラッシュ、ディスコパンク、マッシュアップ、ニューレイヴに至るまでを紹介し、00年代中期の空気感の一部を追体験できる。

ダフトパンクがデビューした90年代には、フェスのヘッドライナーとなりグラミー賞を受賞するほど成長するとは誰も思わなかったはず。国内アーティストの80Kidzを大々的にフィーチャーしている点が著者との交友関係を感じてしまう。『ELECTRO BOOK 2010』という前作もあるが重複があるので、こちらでOK。

ズシンと来るベースライン

著者
出版日
2013-02-28
低音が強調されたベースライン、BPM140という今までにないテンポ感で統一されたシーンのダブステップ。

歴史を紐解けば、重低音を鳴らすスピーカー・サウンドシステムがその発展に寄与したレゲエから連なり、時を経てドラム&ベースからUKガラージへと進化する。そして極度にベースの鳴りを主眼に置いたダブステップというジャンルが生まれた。そのシーンをアーティスト・インタビューなどを交えながら、主要な名盤含めた600枚を紹介し、シーンを一望しようと試みた1冊。USのシーンも交えた『ベース・ミュージック ディスクガイド』も2014年に刊行されている。

ちなみに両方、筆者自身が関わった書籍。おかげで国内のフェスに携わるなどシーンに深く関わることになり、音楽との接し方が変わる希少な経験となった。
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