リズムマシンの狂気に踊らされる「ハウス・ミュージック」を知る6冊

リズムマシンの狂気に踊らされる「ハウス・ミュージック」を知る6冊

更新:2021.12.17

ディスコから派生し、ドラムマシンやシンセサイザーを盛り込んだダンス・ミュージックのいちジャンル「ハウス」。そのハウスミュージックの熱量を伝える書籍を6冊セレクト。

ブックカルテ リンク
1980年代後半、黒人かつゲイという二重のマイノリティが集まるパーティで、社会の重圧を跳ね除ける狂気を孕んだ数多くの楽曲が生まれた。それらの楽曲は、シカゴからニューヨークを経由してUK、そして世界へ拡散していく。今回、紹介する書籍の多くに共通することは、音楽とドラッグによる現場の狂乱。その熱量はシーンの初期から現在まで受け継がれ、いまも世界各地で新譜がリリースされ続けている。

マイノリティの溜まり場から生まれた「ハウス」

著者
メル シェレン
出版日
2006-09-22
ジャンルとしての「ハウス」はシカゴで成立したが、その前史としてニューヨークの「ガラージ」シーンがある。そのガラージからハウスに至るまでのDJ黎明期の歴史を切り取り、濃密に書き上げた訳書がコレだ。

孤児院で育ったデビット・マンキューソは、ニューヨークで「ロフト」という招待制のパーティを開き、黒人やヒスパニックなどマイノリティが集まる盛り場のシーンを作り上げた。「ガラージ」といわれるこのシーンはアンダーグラウンド文化の発祥の地となり、ラリー・レヴァンなどのレジェンドを生み、のちのハウス・ミュージックへと繋がっていく。著者のメル・シェレンは、ラリー・レヴァンの長年のパートナー(恋人)だった人物。ゲイバッシングなどの社会的な背景も含めつつ、初期のシーンを知るための絶好の一冊だ。

DJミックスの実験についても触れられていて、2枚の同じレコードを同時に使い再生時間を引き伸ばしたり、ヴォーカル入りの曲の途中でインストヴァージョンを挿入したりするテクニックもこの時期に生まれたことがわかる。巻末に日本人DJたちによるディスクガイドも付いている。もちろん下巻もあるのでお忘れなく。より深く知りたいのであれば、『ラヴ・セイヴス・ザ・デイ 究極のDJ/クラブ・カルチャー史』という書籍もある。

日本から見たニューヨーク・ハウス

著者
remix編集部
出版日
華やかなニューヨークハウスが日本で受け入れられて広まった。そのシーン全体を多角的に紹介した一冊。

まず重要なのは、当時の現場の写真がカラーで掲載されていること。現在はパーティレポートがメディアに掲載され、スマホが普及しているので個人撮影の写真もSNSで拡散され、さらにアフタームービーも出回る時代だが、当然ながら1980年代・1990年代にはそうはいかない。ましてや当時の「クラブ」は秘密の場所だった。生で体験するのが難しい現場の足跡から、ラリー・レヴァン、デビット・マンキューソなど主要DJへのインタビュー、くわえて日本の国内シーンまで俯瞰した論考などもあり、当時のハウスシーン全体を多角的にとらえている。

どうしても音楽系のディスクガイドはレコード紹介のみになりがちだが、本書は読者を楽しませる章立てによって人気を博し、1997年に初版、2002年には改訂版が発売された。初版の発売から20年を経た今でも、日本国内のハウスシーンに本書の影響は確実に続いている。

UK、アシッド・ハウスの狂乱

著者
ピーター・フック
出版日
2012-02-17
マンチェスター・サウンド発祥の地となったUKのクラブ「ハシエンダ」。その1980〜1997年の歴史を記した訳書。

当時のマンチェスターのシーンは、「ドラッグ漬け」を意味する「アシッド」という形容詞を冠され「アシッド・ハウス」と呼ばれた音が鳴り響く、狂ったほど享楽的なムーヴメントだったために「マッドチェスター」と称された。

本書の著者は元ニュー・オーダーのベーシスト、ピーター・フック。「ハシエンダ」のオーナーでもあった彼によって記された本書の内容は、クラブでのイリーガルな逸話の数々はもちろんのこと、なんと当時の会計報告書にまで及ぶ。

原著のサブタイトルが『How To Not A Run Club』ということで、金銭面含めクラブの運営はおすすめできないという、シニカルな笑いが全体に散りばめられた1冊。

ハウスの名盤を徹底的に網羅

著者
出版日
2006-06-27
本書に掲載されているのは、ハウス・ミュージックとその関連盤を含めた約2000枚の12インチシングル。ガラージ、シカゴからプログレッシブ、ディスコ・ダブ、2006年までのハウスのサブジャンルを網羅したディスクガイドだ。

現場感あふれる過渡期の名盤を押さえた網羅性に軸足をおいた編集。当時、リリース形式として定着したミックスCDの章立てがあるのもよい。刻々と変化するダンスミュージック・シーンだが、編集する側が、その時代ならではの枠組みを意識的に章立てして紹介するチャレンジ精神は、読者として勇気づけられる。ただ、どの盤も、すべて同じサイズで紹介されているので、どれが重要盤なのかわかりにくいのは難点。

2010年代のリリースも含む最新ディスクガイド

著者
西村公輝
出版日
2014-04-11
シカゴ、デトロイト、ディープハウスを中心に歴史を追って紹介する2014年のディスクガイド。

1974年のディスコバンドMFSBを皮切りに、世界初のハウス・ミュージックといわれるシカゴ・ハウスのジェシー・サンダーズ「On and On」を紹介。その華やかさゆえに1990年代に人気を得たニューヨーク・ハウスよりも、ジャンルが生まれた原点であるシカゴ・ハウスを軸足に、音楽性に基いて重要な盤を歴史順に紹介していく。

本書の著者はレコードショップで名バイヤーとして知られ、DJとしても活動をするDr.Nishimura。本書は彼が数十年レコードに触れ続けた軌跡でもあり、定点観測的な側面からも興味深い1冊だ。

ダンスミュージック史を描いたフレンチ風コミック

著者
David Blot & Mathias Cousin
出版日
2014-07-18
ディスコから始まり1990年台後半のハウスに至るまでを描いた、フランスから見たダンスミュージック・シーンの歴史をバンドデシネ化(フランスのマンガ)した1冊。

実名を出すと権利関係で問題が起きるためフィクショナルな物語として描かれているが、登場人物には元ネタがあり分かる人にはニヤリとする内容。ドラッグでの酩酊感など、文章では伝わりにくい部分をイラスト化しチャレンジしている。あえて室内を薄暗くすることで生まれるクラブ・ミュージックならではの幻想的な視覚体験とは違って、キャラクター化して物語化すると理解しやすい。絵柄などによって好みがあるので読み手によって好き嫌いが別れるだろうが、英語圏や日本国内の視点からは見えてこない世界が描かれているので、視野を広げたい人にもオススメの作品だ。

この記事が含まれる特集

  • 本と音楽

    バンドマンやソロ・アーティスト、民族楽器奏者や音楽雑誌編集者など音楽に関連するひとびとが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、写真集にビジネス書、自然科学書やスピリチュアル本も。幅広い本と出会えます。インタビューも。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る