UK、アシッド・ハウスの狂乱
マンチェスター・サウンド発祥の地となったUKのクラブ「ハシエンダ」。その1980〜1997年の歴史を記した訳書。
当時のマンチェスターのシーンは、「ドラッグ漬け」を意味する「アシッド」という形容詞を冠され「アシッド・ハウス」と呼ばれた音が鳴り響く、狂ったほど享楽的なムーヴメントだったために「マッドチェスター」と称された。
本書の著者は元ニュー・オーダーのベーシスト、ピーター・フック。「ハシエンダ」のオーナーでもあった彼によって記された本書の内容は、クラブでのイリーガルな逸話の数々はもちろんのこと、なんと当時の会計報告書にまで及ぶ。
原著のサブタイトルが『How To Not A Run Club』ということで、金銭面含めクラブの運営はおすすめできないという、シニカルな笑いが全体に散りばめられた1冊。
ハウスの名盤を徹底的に網羅
本書に掲載されているのは、ハウス・ミュージックとその関連盤を含めた約2000枚の12インチシングル。ガラージ、シカゴからプログレッシブ、ディスコ・ダブ、2006年までのハウスのサブジャンルを網羅したディスクガイドだ。
現場感あふれる過渡期の名盤を押さえた網羅性に軸足をおいた編集。当時、リリース形式として定着したミックスCDの章立てがあるのもよい。刻々と変化するダンスミュージック・シーンだが、編集する側が、その時代ならではの枠組みを意識的に章立てして紹介するチャレンジ精神は、読者として勇気づけられる。ただ、どの盤も、すべて同じサイズで紹介されているので、どれが重要盤なのかわかりにくいのは難点。
2010年代のリリースも含む最新ディスクガイド
シカゴ、デトロイト、ディープハウスを中心に歴史を追って紹介する2014年のディスクガイド。
1974年のディスコバンドMFSBを皮切りに、世界初のハウス・ミュージックといわれるシカゴ・ハウスのジェシー・サンダーズ「On and On」を紹介。その華やかさゆえに1990年代に人気を得たニューヨーク・ハウスよりも、ジャンルが生まれた原点であるシカゴ・ハウスを軸足に、音楽性に基いて重要な盤を歴史順に紹介していく。
本書の著者はレコードショップで名バイヤーとして知られ、DJとしても活動をするDr.Nishimura。本書は彼が数十年レコードに触れ続けた軌跡でもあり、定点観測的な側面からも興味深い1冊だ。