はじめて聴く音楽のように
- 著者
- 吉本 ばなな
- 出版日
勧められた本を読むのはわくわくしたりするもの。勧めてくれたのが好きな人だったら、尚更わくわくする。
はじめて聴く音楽のように一冊の本を読む。
高校生の時に出会った一冊。
キッチンを愛する主人公のみかげが、友人の雄一と、そのお母さん(本当は父)との三人暮らしをはじめる。その生活とそれからの生活についてのはなし。
この本のポイントはみかげが出張先の定食屋で食べるカツ丼で、それをきっかけにカツ丼をすごく好きになって今も変わっていない。そしてこの本を私に貸してくれた彼のことを思い出す。
「木々や畑や山々のシルエットが切り絵のようにゆきすぎる。トラックがときおりすごい音で追いこしてゆき、しんと静まるその後で、アスファルトが月に光る」
カツ丼をきっかけに走り出すタクシーの中での描写は、
映画『アメリ』の終盤を思い出す。心の速度がはやまったような、スローモーションになったような、どちらか分からなくなる現象。
こんなとき、なにかが研ぎ澄まされたように素直になる。
こういった気持ちがつくる速度が私は好きなんだな。
自分にとっていま必要なことを、掴みにいくのは強さのいることで、覚悟もいることだけれど。カツ丼1杯、夜に見る夢ひとつ、紙切れ1枚、本一冊、それらが心のきっかけを生みだす。
不思議だ。キッチンを読むと更にそれを感じる。
人間やすべてのものは、なにかのきっかけを生む。
惑星は、いつもより私と近い場所にいる
- 著者
- 村上 春樹
- 出版日
- 2001-04-13
2年ほど前、雨が窓に当たる音のする図書館の閲覧室でこの本を読んでいた。周りはおじいさんばかりで、昼下がりのこの空間はなんか面白いなぁと感じていた。この本はこの図書館に来たときだけ読もう、と思いしおりを挟んで元の場所に戻しておいたのだが、それ以降その図書館に行ってないことに気づく。
先月、旅行の移動中に読む本を探していたら古本屋でこの本を見つけ「そういえば図書館のやつ、読みきれてないな」と思い出して、レジへすぐ向かった。
22歳の春、はじめて恋におちたすみれ。その相手のミュウも女性だ。そしてすみれに恋をしている小学校教師「ぼく」がギリシャへと運ばれていく話
イタリアでのトランジットまでの飛行機。
消灯しても何だか寝つけず、持ってきていたスプートニクの恋人を読みはじめる。読書のための灯りは、外の地平線にかかるかすかなオレンジ色だけだった。
話の中で偶然にもすみれがミラノからパリにいく描写があった。その彼女はいまの私と同い年。そして彼女はギリシャの島で消える。
そのすこし後、彼女は「惑星が気をきかせてずらっと一列に並んでくれたみたいに明確にすらすらと理解」をして日本にいる「ぼく」のところへ戻る。
私が乗っているのは動いていないようで進んでいる飛行機、向かっているのは愛してみたい場所、戻るのは愛を知った場所。ライカ犬はなにを思って宇宙を見ていただろう。惑星は、いつもより私と近い場所にいる。
おしぼりのせいか手からはイタリアの香りがした。