細部まで描写された背景やメカニックに加え、CGやトーンなどの技術を多用した独特な絵柄が印象的な作者。『封神演義』が大ヒットしたことで知られていますが、彼の独自の世界観で紡がれる物語は、ほかにも様々な人気作を生み出してきました。
「フジリュー」または「プティタキテュー」という愛称で呼ばれる彼は、独特の世界観が多くのファンから支持されている漫画家であり、イラストレーターです。
高校在学中から「実験」と称して漫画を投稿していたそうで、1990年に『ハメルンの笛吹き』という作品で手塚賞の佳作を取ったことをきっかけに漫画家を目指すようになります。そして翌年『WORLDS』で漫画家デビューしました。
中国の古典『封神演義』を題材に、同名作品を「週刊少年ジャンプ」で1996年より連載。大ヒットとなり、藤崎竜の代表作になりました。
10代の頃はシステムエンジニアを目指して専門学校へ通っていたそうで、初期の連載作である『PSYCHO+』をはじめ、情報処理やプログラミングの知識を盛り込んだ作品も多くあります。また、CGを多用したカラー絵などグラフィカルなキャラクターデザインが持ち味で、そういった部分もコンピューターを駆使して作品を作り上げる「理系漫画家」ならではの特長といえるでしょう。
しかし、デビュー初期の頃には髪の毛を1本1本描き込んだり、水彩画のようにカラーを塗るなど少年漫画らしからぬはかなげな印象の絵柄でしたので、見比べてみるとまた違った印象を与えるかもしれませんね。
自身のオリジナル作品はもとより、原作のある作品を漫画化したものも多く、小野不由美『屍鬼』、田中芳樹『銀河英雄伝説』などのコミカライズを手がけています。ただし、かなり換骨奪胎して「藤崎竜ワールド」になっている作品もありますので、原作ファンから「クラッシャー」の異名を取っているというのはご愛嬌です。
「週刊少年ジャンプ」にて、1992〜1993年に連載。藤崎竜にとっては、初の連載作品となります。生まれつき緑色の目と髪をもつ主人公の緑丸が、ふとしたきっかけから中古ゲームを手に入れますが、それが意図せず運命の歯車を回してしまうことに……という、王道のSF展開にラブコメ要素が詰まった人気作です。
- 著者
- 藤崎 竜
- 出版日
- 2008-05-16
まさに、フジリューワールド全開の本作。世界規模の壮大な物語展開がさすがです。ゲームをクリアするたびに超能力が強くなっていく、という設定も斬新。ゲームを小道具にすることでより親しみやすい内容に仕上がっている作品ではないでしょうか。ゲームを通じて女の子と仲良くなろうとする、緑丸のオクテな感じもいいんですよね。
しかし何といっても魅力的なのが、ヒロイン・水の森雪乃です。黒髪ストレート、容姿端麗、身体能力も高い雪乃は、「電脳少女」と異名を取るほどの凄腕ゲーマーで、でも少し天然という抜けたところも可愛いパーフェクトスペックの持ち主。
「染髪によって人間の体は自然じゃなくなるわ。つまり染髪料に人が負けたって事なの」
(『PSYCHO+』より引用)
と持論を展開するなど、多少思考が極端に思える部分もありますが、雪乃の心根のやさしさや思いやりに満ち、まっすぐ芯のとおった姿もしっかり描かれています。緑丸が恋してしまうのもの無理のないことですね。
そんなふたりの関係をスパイスに、ゲームを通じて緑丸が巻き込まれていく宿命の物語。壮大な世界観をぜひ満喫してください。
2004~2005年に「週刊少年ジャンプ」にて連載し、人間vs機械、それぞれの願いが絡み合う時空を超えたファンタジー漫画です。砂漠が一面に広がる世界「ワークワーク」を舞台に、「黒い血の人間」と機械との生存競争、さらに全能であるという「赤い血の神」をめぐる攻防など手に汗にぎるバトル展開も見どころです。
- 著者
- 藤崎 竜
- 出版日
- 2005-01-05
「黒い血の人間」って何ぞや?と思ったら、まず読んでみることをおすすめします。
機械から黒い血の人間を守る役目を持った「防人」と呼ばれる戦士・シオは、一途で素直な性格。亡き父の後を継いで防人になりますが、「おまえにはもっと生きてほしかったがな」と、死んでしまった父に心配されるような窮地に陥りながら、ワークワークのため、神様を守るために戦います。
彼は、少年漫画における王道の主人公像といえるのではないでしょうか。全話を通じてずっと一途で素直なところが、彼のいいところです。
また、そんな彼をとりまくキャラクターたちもそれぞれ魅力的です。突如、日本から連れてこられた松田こと「神様」は、争いを好まず心優しいところ、献身的に尽くすところが全話統一して魅力として描かれています。また「昨日の敵は今日の友」を体現しているレオは、素直になれない意地っ張りな性格がシオと対極に位置し、物語のいいアクセントになっています。
ほかにも参賢者であるヨキ、コト、キクも、それぞれが綿密なプロットに基づいてキャラ設定されています。ファンが「嫌いなキャラがいない」とする所以なのかもしれません。
時空を超えてくり広げられる、世界の始まりの物語。とりあえず、まずは読んでみてください。中盤でのどんでん返しが秀逸で、その作り込まれた作品の世界にハマってしまうこと間違いなしですよ。
「週刊ヤングジャンプ」にて、2013~2015年まで連載されたオカルト・ファンタジー。架空の日本の東北地方に存在する「カミツヨミド」を舞台に、人の世を脅かす怨霊と、それに立ち向かう退魔師との間で死闘がくり広げられます。壮絶な戦いの中にもクスッと笑える描写もあるのが藤崎竜らしいです。
- 著者
- 藤崎 竜
- 出版日
- 2013-12-19
歴史×怨霊×神話×ファンタジーとくれば、フジリュー的日本霊異記と言っても過言ではないでしょう。
幼なじみを守るために怨霊と戦う主人公・サルタヒコは、その戦いのさなかに体の大半がメカになってしまいますが、それを厭わず、幼馴染のアメ姫を守るために怨霊と戦い続けます。
藤崎竜の描く主人公に共通して見受けられるのが、自己犠牲の肯定です。目的のために邁進する一途な性格のキャラクターが多く、主人公なのに「死んでしまうのでは?」という危うさを兼ね備えています。それが、応援したくなる要素の1つだからフジリューはずるい。
しかし、今作において最も自己犠牲の精神が際立ったのは、アメ姫をおいて他にいないでしょう。お力と呼ばれるパワーで怨霊を浄化するアメ姫は、その使命のため命を削ってしまいます。なのに「みなさまのお役に立てることこそはアメの幸せ」と言ってしまえるその純真さ。彼女の清らかさを守りたいと思うサルタヒコの気持ちがよく分かります。
人に有益な怨霊が住む「カミツヨミド」と、人間を殺そうとする怨霊が住む「トヲツカムナビ」。2つの勢力の戦いを軸に話が展開されていくのですが、登場人物がそれぞれ個性豊かなのも魅力の1つです。
特に、ともに戦うことになるニギと咲夜のふたりは、物語に抜群のスパイスを振り掛けてくれています。さらに、世阿弥やワタ、タケミカヅチといった脇を固めるキャラクターそれぞれに詳細な設定を設け、システマチックに動かしているところが、キャラ作りの巧みな藤崎竜らしいですね。
彼お得意のSFに、オカルト要素を取り入れて生み出された作品。世の中から隔離された世界=かくりよ(幽界)と聞いてピンときた人は、きっと物語の虜になるはずです。
「週刊ヤングジャンプ」で2015年から連載がスタートしました。田中芳樹による人気小説『銀河英雄伝説』のコミカライズです。
皇帝を戴く「銀河帝国」と、それに異を唱える「自由惑星同盟」に2分された銀河系を舞台に、ふたりの主人公・ラインハルト・フォン・ローエングラムと、ヤン・ウェンリーとの頭脳戦を軸に描くスペースオペラ。
原作は累計発行部数1500万部を超えるベストセラーなので、知っている人も多いのではないでしょうか。
- 著者
- 藤崎 竜
- 出版日
- 2016-02-19
外伝で触れられている、ラインハルトとキルヒアイスの出会いから物語が始まる、という構成がニクイです。原作本編ではすでに大人な彼らですが、子ども時代がなかったわけではありません。むしろ、その成長過程に、ラインハルトが「常勝の天才」と呼ばれるようになる理由が垣間見えるわけです。
出会いを始まりに、小説のストーリーに沿った時系列で進んでいく構成なので、原作を未読の人にもわかりやすいのではないでしょうか。
もともとの小説が後世の歴史家による記述という体裁を取っていますので、説明的な部分がやや多いです。しかし登場人物の「そこに生きている」躍動感が強く出ているので、キャラクターたちの魅力に惹きこまれて、あっという間に読み終えてしまいます。ヤンの初登場シーンなどは、後姿だけなのにオーラが出てますよ!必見です!
藤崎竜独自のコミカルな表現をプラスしたり、取扱いの小さなキャラクターに着目したり、原作ファンならずともクスリとしてしまう描写もちりばめられていますので、飽きることなく読み進められるはずです。
英雄たちの熱き戦いの果てに見える世界を、作者独自の視点で描き出す『銀河英雄伝説』。英雄たちの生きざまに括目してください。
1996年~2000年に「週刊少年ジャンプ」で連載され、大ヒット。1999年にはアニメ化も果たしました。中国古典である『封神演義』をベースに、人間界、仙人界、神界を巻き込んで、壮絶な「封神計画」が実行されるまでを描いています。
- 著者
- 藤崎 竜
- 出版日
- 2005-07-04
彼の作品のなかでも最もファンが多く、1度は耳にしたことがあるのでは?と思わせる、言わずと知れた代表作です。
特筆すべきは、やはり魅力的な登場人物でしょう。主人公である太公望は、日がな釣りをして過ごし、修行をサボっている怠け者道士のよう。しかし実は崑崙イチの策士で実力者、だけどおじいちゃん。この設定だけを聞いてもワクワクしますよね。
最恐と名高いヒロイン妲己や、崑崙山の仙道たちを束ねる崑崙十二仙の面々、殷の紂王、周の道士など、とにかくたくさんの人物が登場しますが、どれとして似たようなキャラクターが存在しないところも藤崎竜のすごいところです。キャラの書き分けについては天下一品ですね。
さらに、話の構成も素晴らしい。特にラストへと向かっていくにつれ、地球規模の壮大な展開になっていくところなどは目を見張るばかりです。そうきたか!と目から鱗の展開。古代中国の歴史も古典作品もSFへと進化させてしまう、ファンタジスタ藤崎竜の真骨頂といえるでしょう。
中国史が好きな人はもちろん、そうでない人も笑って楽しめる一冊。ひとまず読んでみてほしい。そして読めば止まらなくなること必至の名作ですよ。
まだまだ紹介しきれない、多くの読み切りや連載に名作の多い藤崎竜。彼が紡ぎ出す緻密な人物描写や繊細な筆致は読み手を彼独自の世界へ誘います。独創的に過ぎるきらいもありますが、読めば読むほど味がある、スルメのような作品たちをぜひ味わってみてください。