多くの著名漫画家やアーティストにも影響を与え、奇才と評される漫画家、諸星大二郎。SFもの、伝奇もので数多くのヒット作を生み出しました。彼の描く不気味で不思議な世界を存分に堪能できる作品を、ランキング形式で5作品ご紹介します。
諸星大二郎が漫画雑誌COMの読者投稿コーナーに『硬貨を入れてからボタンを押してください』を投稿して佳作となったのは1970年のことでした。その年に執筆した『ジュン子・恐喝』で、諸星大二郎はデビュー、漫画家としての人生をスタートさせます。
諸星大二郎にとって初めての少年漫画作品である『生物都市』は、手塚賞で入選。同年からは週刊少年ジャンプで『妖怪ハンター』を連載し、本格的に漫画家としての活動を始めます。
手塚賞に入選した『生物都市』は非常に完成度が高く、無名の新人が描いたとは思えないと盗作を疑われた過去がある作品です。当時から、すでに奇才と呼ばれる片鱗は見えていたのでしょう。
諸星大二郎の作品の多くは、古い言い伝えや史実を題材として起用し、不可思議な異形の生物が登場し、それらの存在によって日常も、世界観も、価値観もすべてひっくりかえしてしまうような特徴を持ち、またそれが魅力でもあるのです。
日常に存在する不安を、自らの独特な発想で形にした、寓意的ともいえる作品を得意としています。かつて地球上を支配していた強大な力を持つ異形の者たちがよみがえってくるという、クトゥルー神話の影響も作品の随所に見受けられます。手塚治虫に、諸星大二郎の絵だけは真似できないと言わしめたこともある、まさに誰も真似できない、唯一無二の才能を持った人物なのです。
第5位の本作は、クローンや人体実験がテーマの短編が8編収録されています。中でも表題作の「夢みる機械」は映像化もされた有名な作品です。
- 著者
- 諸星 大二郎
- 出版日
2016年春の『世にも奇妙な物語』で放送されたストーリーの原作ということもあって、連載された時代を知らない世代でもこの話は知っているという方も多いかもしれませんね。いつもどことなく暗く、重たく、陰鬱ささえも感じる世界で起こる怪奇的な物語に、いつの間にか引き込まれてしまうことでしょう。
8作の短編の中からタイトルにある「夢見る機械」をご紹介します。
つまらない日常にどこか違和感のあった主人公の健二は、自分の母親をはじめ、人間だと思っていた人たちが皆ロボットだったと気づきます。そして知ることとなったユートピア配給会社の存在。なぜ皆ロボットに?そこでは一体なにが行われているのか……。
まだ機械やロボット、クローンが現実的と言えるほど発展していなかった時代に執筆されているにも関わらず、読み進めるうちにリアルに迫ってくる恐怖に襲われます。その恐怖は現代社会で危惧すべき問題となり、ある意味それによって完成された作品とも言えるものです。
近未来に対する警鐘ともとれるテーマの作品は増えていますが、「夢みる機械」が執筆されたのは1970年代。全く想像もつかない時代にこの作品を描き上げた諸星大二郎の先鋭的なセンスに感服せざるを得ません。ぜひ手に取って、このリアルな近未来に対する恐怖を感じてみてください。
少女向けホラー雑誌のネムキに不定期連載されている作品で、文化庁メディア芸術祭においてマンガ部門優秀用を受賞し、連続ドラマ化もされました。
- 著者
- 諸星 大二郎
- 出版日
架空の街、胃の頭町を舞台に、ふたりの主人公が周囲で起こる様々な怪奇現象に巻き込まれてゆくというストーリー。個性的すぎるキャラクターたちが織り成す、少女向けの不条理ホラーコメディとなっています。
美少女でありながら、妙に猟奇趣味があり、友人たちからは「神経が何本か抜けている」と言われている栞。古本屋の娘で、珍しい本のためなら危険もかえりみないメガネ少女、紙魚子。個性的なふたりは親友であり、この作品の主人公として様々な怪奇現象に巻き込まれてゆきます。
このふたり、最初の話では、生首を拾ってきてケロッとしている始末。ぶっとんだとも言えるキャラクター達が、この物語にいて重要なポイントであり、魅力でもあります。諸星大二郎の作品に多くみられる、クトゥル―神話を元ネタにした奇怪な生物が登場する非日常にぶっとんだ主人公たちも溶け込み、不思議でユーモラスな世界が作りだされています。
少女向け作品ですが、諸星大二郎の世界観を好きになった方なら男女関係問わず気軽に楽しめる作品でしょう。異形の生物たちが闊歩する非日常は、この世界にとって日常。そう思わせる主人公たちの溶け込み具合。現実と虚構の世界が入り混じった異世界で繰り広げられる、ホラーなのに笑える怪現象の起こる日々を楽しんでください。
第3位は『彼方よりー諸星大二郎自選短編集』。タイトル通り、諸星自身が選んだ短編作品を収録したベストコレクション的1冊。ラインナップは諸星大二郎の魅力の詰まった作品ばかりです。
- 著者
- 諸星 大二郎
- 出版日
- 2004-11-01
新人とは思えない素晴らしい出来であったために、盗作なのではと疑惑が飛び交った『生物都市』を含めた10作品を収録した短編集。往年のファンから見ても納得のラインナップで、諸星大二郎の世界観を楽しめる作品です。
彼の持ち味、特徴、魅力がこれでもかと詰まった短編の収録された1冊となっていますが、初めて諸星大二郎作品を読む方には、もう一冊の短編集、『汝 神になれ 鬼になれ』を先に読んでから読むことをおすすめしたい作品でもあります。
『汝 神になれ 鬼になれ』は、『妖怪ハンター』や4位で紹介した『栞と紙魚子』などの作品から集められた、諸星大二郎の代表作が抑えられた短編集となっているので、初めて読んでもわかりやすく読みやすい作品です。『汝 神になれ 鬼になれ』で諸星大二郎の世界を知ってから『彼方よりー諸星大二郎自選短編集』を読むことで、より一層彼の作り出す歪んだ不可思議な世界観は楽しむことができるでしょう。
『彼方よりー諸星大二郎自選短編集』に収録されている手塚賞に入選した「生物都市」は、198X年に木星の衛星イオ帰還した宇宙船が謎の怪現象をもたらすというストーリーです。帰還した宇宙船の周囲から広がっていくのは、人間や動物たちが機械に次々溶け込んで融合しているという不気味な情景……。
拡大を進める怪現象、機械と融合していく描写はトラウマ級の衝撃と印象で脳裏に焼き付きます。それに反する主人公の少年の無邪気さと入り交じり、一言では説明できない不思議で異様な世界を生み出しています。
卓越した描写で描かれるカオスな世界。漫画と侮ることなかれ。ちょっとした短編SF小説を読んだような読了感が待っているはずです。読み終わったころには、諸星大二郎の世界が脳内にコラージュされているかのように焼き付いているでしょう。
ヤマトタケル伝説を中心に、古代日本の神話、遺跡、仏教、呪術やSF的な要素が盛り込まれた作品。主人公の少年が辿ることとなる、数奇な運命の物語です。
- 著者
- 諸星 大二郎
- 出版日
- 1996-11-01
中学生の少年、武が、自身の父の死の真相を知り、予想もしていなかった数奇な運命を辿ってゆくことになるというストーリー。しかし、これはあくまで物語の始まりでしかありません。どんどん複雑に入り組み、難解な謎に突き詰められてゆきます。一体次はどう展開するのか、謎の答えは?と先が気になって仕方がないほどに引き込まれること必至です。
非常に難解なテーマを起用し、神話や伝説、宗教や遺跡などの、表には見えない裏側に潜むものにスポットライトをあて、諸星大二郎独自の視点で神秘的な世界観を生み出しています。壮大なスケールで描かれる物語の、一口には説明できない入り組んだ難しいストーリーも魅力。読み進めていくうち、歴史や神話、伝承などに対する知識欲が刺激される作品です。
諸星大二郎独特の生暖かさのある絵のタッチで、より一層物語の不気味で暗い部分、怖さも引き立てられ、彼にしか出せない味を出しています。諸星大二郎の世界観を存分に堪能できる素晴らしい作品、登場人物たちとともに謎を追ってみてはいかがでしょうか?
諸星大二郎初の連載作品。新進気鋭の考古学者として名高い稗田礼二郎が、古墳や歴史の裏側に潜む謎にスポットライトをあて、解き明かしてゆくという物語です。
- 著者
- 諸星 大二郎
- 出版日
- 2005-11-18
もとK大の考古学教授にして、新進気鋭の考古学者として有名な稗田礼二郎は、不可思議な事例や奇怪な題材ばかりを研究していたために、学会からは異端扱いされていました。そんな稗田はフィールドワークとして日本各地を訪れ、その地に眠る歴史の裏側に隠された超次元的で超自然的な不思議を解き明かしてゆくうち、怪奇現象に巻き込まれてゆきます。
基本は1話完結でテンポよく展開してゆきますが、時折大きなテーマを複数話かけて進めることも。タイトルには妖怪というワードが入っていますが、妖怪らしい妖怪はほとんど出てくることはありません。出たとしても、稗田礼二郎はあくまでも、研究者です。捕獲する、退治するようなこともないのです。
どこか薄気味悪い雰囲気の漂う描写は、本来はリアルではないはずなのに、触れれば温度や質感を感じるのではないかと思うほどにリアル。思わず引き込まれてゆくことでしょう。怪奇作品好きならいきなりハマる、といっても過言ではありません。2位の『暗黒神話』にもある要素ですが、こちらも歴史や神秘的なその裏側をより深く知りたくなる、知識欲まで満たされてゆく作品です。
諸星大二郎作品なら、まずこれを読んでみるのがいいでしょう。
いかがでしたか?5作品紹介しましたが、どれもおすすめできる作品ばかりです。諸星大二郎にしか描くことのできない、読者を離さないストーリーと展開。いつの間にかハマってしまったファンはまさに、彼の作り出す不思議な世界の住人となってしまっているのかもしれませんね。