「マンガトリガー」は目利きがキュレーションしたマンガを無料で読めるアプリですが、その中でも特におすすめのマンガをピックアップしてみました。
現在、年間1万点以上新しいマンガが出版されていますが、その多くは、短い期間で書店から姿を消してしまいます。消えてしまったものの中には、ヒット作品に負けないくらい面白い作品も多くあるのですが、そういった作品が日の目を見ることはあまりありません。
今回ご紹介する「マンガトリガー」は無料でマンガが読めるアプリです。特徴的なのは、1万冊以上マンガを読んでいる目利きが本当に面白いマンガだけを厳選していること。いうなれば「マンガのセレクトショップ」です。
アプリで読むにしろ本で買うにしろ、どれが面白いのかわからないからとりあえずランキング上位のものを買うなどになってしまいがちですが、「マンガトリガー」であれば、自分の好きなジャンルから直感で選ぶだけでも面白い作品に出会える確率が高いのです。
また、堀江貴文氏、東村アキコ氏、スピードワゴン小沢一敬氏、佐野ひなこ氏、藤田晋氏などのマンガ好きによるセレクションなどのオリジナルコンテンツも充実しています。
リリース時のタイトルは約60タイトルとのことですが、この記事ではその中から個人的に特におすすめの作品をご紹介したいと思います。
『トリガー』 構成比:正義50%、悪50%
【1話から面白い!】
国王制となった近未来の日本が舞台。犯罪件数を減らすために国王は射殺許可法を制定します。
射殺許可法とは、各都道府県から1名ずつ国王と脳波が近い人間を選び、拳銃を持たせ射殺を許可する法律。射殺を許可された人間をトリガーと言い、トリガーが悪と判断した場合、法律的に罪を犯しているわけでなくても射殺することができます。
射殺するほどの悪であるかどうかの判断はトリガーの主観にゆだねられるため、トリガーによって判断基準は異なるのです。高圧的なタクシー運転手を殺してしまうトリガーもいれば、訴えられてもおかしくないパワハラ上司を殺さないトリガーもいます。
それぞれのトリガーが悪を射殺するたびに、それを目撃する読者は自身の倫理観を試されることになるのです。
- 著者
- 板倉 俊之
- 出版日
- 2011-12-27
トリガーと悪の戦いやトリガーの内面の葛藤などもみどころではありますが、本作最大の魅力はシミュレーションものとして優れていることだと思います。トリガーからの視点だけでなく、トリガーに親族を殺された人の視点やトリガーとは無関係に見える人の視点を借りて、トリガーの存在する社会を立体的に描くことに成功しているのです。
どこからが殺すべき悪なのかという線引きに迷うトリガー、トリガーに親族を殺された人の悲しみなどは設定さえあれば割とベタに浮かび上がるストーリーかと思いますが、トリガーとは直接的に関係していない人にもトリガーが影響を及ぼしていることまでしっかりと描いているのが本作の非常に優れた点でしょう。
原作者は芸人のインパルス板倉です。芸人原作と言うと読む気がなくなる人もいるかと思います。私も特に芸人本が好きなわけではありません。ただ、本作は芸人とか関係なしに純粋に面白いマンガだと思いますし、芸人原作マンガとしてはオールタイムベストと言っても過言ではないくらいの作品だと思っています。
設定が非常に優れているので、1話から引き込まれる人も多いと思います。無料で読めますので、とりあえず1話だけでも読んでみてください。
『働きマン』 構成比:仕事90%、プライベート10%
【1話から面白い!】
主人公は28歳の若手女性編集者松方弘子。恋人とのデートと特ダネのどちらかを選べと言われたら迷わず特ダネを選ぶ働きマンです。
「あたしは仕事したな――って思って死にたい」というセリフに象徴されるように、松方の全力お仕事ライフを描いた作品になります。
基本1話完結で、メインとなる登場人物はエピソードごとに代わります。松方の同僚であることが多いですが、松方の恋人がメインの回や、松方が常連のマッサージ店のセラピストがメインの回もあり、それぞれの仕事観が描かれていくのです。
- 著者
- 安野 モヨコ
- 出版日
- 2004-11-22
なんと言っても本作の魅力は、懸命に働く人への応援歌となっているところでしょう。仕事はもちろんしんどいけれど、それでも仕事が好きという方は共感できるであろう名言が多く出てきます。
たとえば編集長の独白。
「いやー正直しんどいなー
上は部数伸ばして当たり前だっつーし
下からは好き勝手なこと言われてこっちの言うこと聞いてもらえず
じゃあなんで続けるかって?
…………
そりゃあアンタ
アレだよ
楽しいから!!」
(『働きマン』2巻より引用)
楽しいから懸命に働けるし、懸命に働くから楽しいんです。自分のやりたいこととやるべきことのバランスを取るのはもちろん重要だと思いますが、楽しいと思えない仕事を長期にわたって全力でやるのは難しいでしょう。
本作の登場人物は全員が全員「働きマン」というわけではありません。本作は「働きマン」であることを肯定もしませんし、松方のように死ぬ気で働けないことを否定もしません。ただ、主人公の松方がボロボロになりながらも、自分が好きだと思う仕事に全力で取り組んでいく姿に力をもらう読者も多いと思います。
名言、至言の多い本作ですが、中でも個人的に一番好きなのは19話に出てくる以下のモノローグ。
「仕事で失ったもの
それを想い泣いた夜
でも仕事に救われる朝もあるから」
(『働きマン』3巻より引用)
ボロボロになっても仕事を頑張れている人は、仕事に救われた朝を経験しているのではないでしょうか。
作者安野モヨコの体調不良や週刊誌の現状の厳しさにストーリーを作るのが困難になったことなどが理由で残念ながら休載されていますが、いちウェブメディア編集者としては、ウェブメディアを立ち上げる松方の物語なんていうのも面白いのではないかと思っています。
なにはともあれ、1話目から面白い作品ですので、未読の方は是非この機会に読んでみてください!
『東京トイボックス』 構成比:夢60%、現実40%
【2話まで読んで判断に迷った人は8話まで読むべし!】
秋葉原の弱小ゲーム制作会社スタジオG3の社長天川太陽は面白いゲームを作ることを優先し過ぎるあまり、経営をおろそかにしていました。
大手町の大企業に勤める優秀なキャリアウーマン月山星乃は、優秀過ぎるがゆえに上司の策略にはめられ、スタジオG3に出向することになりました。
面白いゲームを作ることを目指す天川は、経営を健全化しようとする月山と対立することになり……。
- 著者
- うめ
- 出版日
- 2007-09-22
ゲームを題材にしたマンガですが、仕事を題材にしたマンガとして読むこともできます。
「納期を守らせるのはあんたの仕事だ
だが オレの仕事はおもしろいゲームをつくること」
(『東京トイボックス』1巻より引用)
子どもみたいな理屈を展開し、勢いのまま押し切っていく天川。天川の熱量に強行突破される月山。物語が進むにつれて名コンビとなっていくふたりですが、初期はまったくかみ合っていませんでした。
理想を追い求める天川と現実を提示する月山はどちらも間違ってはいないでしょう。どちらに共感できるかという問題はあるかと思いますが、どちらも正しいことを言っています。
夢を追い求めないのであれば苦労してベンチャーをする意味はないし、利益が出なければ現実問題続けていくことはできません。
夢と現実というのは対立しがちなものですが、そのふたつがうまく組み合わさった時にこそ面白いものが生まれるのではないでしょうか。本作はそんなベンチャー企業の青春を描いた作品です。
1話、2話で面白いと感じた人はそのまま読んでください。ちょっと判断がつかないなと思った人は8話まで頑張って読んでください。本作が気に入った方は続編の『大東京トイボックス』もほぼ確実に楽しめるはずです。胸が熱くなるベンチャーマンガの傑作を是非。
『ギフト±』 構成比:臓器売買60%、ミステリー20%、エロ10%、グロ10%
【2話まで読むべし!】
主人公の女子高生鈴原環(すずはらたまき)は解体のプロフェッショナルです。解体と言ってもマグロなどの解体ではなく、人間の解体を専門としています。
環は大学生のタカシと組み、生きる価値がないと判断した犯罪者を生きたまま解体し、臓器移植を行っていましたが、彼らにチャイニーズマフィアや警察の手が迫り……。
- 著者
- ナガテ ユカ
- 出版日
- 2015-07-18
絶えず謎を提示し、キャラクターをピンチに追い込むことで、引きの強いエンタメ作品に仕上がっています。先が気になるエンタメとしての基本を抑えながら、テーマも明確に伝えてくるところは他のクライムものと一線を画している点でしょう。
かなりエッジの効いた作品になりますので、読む人を選ぶという面はあるかと思います。
民間人が勝手に人を殺してはいけないという意見もあるでしょうしその通りだと思いますが、たとえば、死刑囚の臓器を移植臓器として扱うというのであればどうでしょう。そもそも死刑制度に反対という人もいるでしょうが、自分にとって大切な人がドナーを待っているという状況であれば感情的には賛成という人もいるのではないでしょうか。
また、様々なファクトを示すことで、リアリティを増していることも本作の成功要因のひとつです。透析患者が30万人を突破し、年間で透析にかかる費用は1.5兆円かかっているというファクトから臓器移植の普及を政府が推進する可能性を示唆するなど、極めて真面目に臓器移植について描いています。単なるエログロクライムマンガではありません。
2017年3月現在、移植希望登録者は約14000人。対して、移植件数は2016年の1年間で338件です。圧倒的にドナーが不足しており、何らかのイノベーションが起こらない限り、状況は改善されないでしょう。本作が描かれた背景にはどうにもならない現実があります。
環による解体シーンは少々グロさがあるため、耐性のない方には厳しいかもしれませんが、グロイものでも大丈夫という方には是非とも読んでいただきたい作品です。
『中卒労働者から始める高校生活』 構成比:恋愛40%、コメディ20%、コンプレックス20%、社会課題15%、トラウマ5%
【4話まで読むべし!】
主人公の片桐真実(かたぎりまこと)は、母親が他界、父親は服役中という状況だったため、中学を卒業してすぐ工場で働いていました。
妹の真彩を不自由なく進学させようと奮闘していた真実でしたが、真彩は高校受験に失敗してしまいます。
そんな真彩が担任から提案されたのは通信制高校。週に1回の通学でも4年で卒業可能だと知り、真実も真彩と一緒に入学することになります。
シングルマザーや76歳のおじいちゃんなど、様々なタイプの人とクラスメイトになったふたりですが、その中でも、見るからに育ちのいいお嬢様の逢沢莉央が一際浮いていて……。
- 著者
- 佐々木ミノル
- 出版日
- 2013-05-29
「社会派ラブコメ」と書きましたが、肩ひじ張らず、普通のラブコメだと思って楽しめる作品です。通信制高校という舞台設定や様々な背景を持つキャラクターの生き方など、社会派な側面はもちろんありますが、重くなり過ぎずに純粋にラブコメマンガとして楽しめるというのが本作最大の美点でしょう。エンタメとしての面白さを確保して、テーマを自然に織り込むことに成功しています。
中卒、通信制高校といった設定以外はスタンダードな学園ラブコメなのですが、おそらくあえてスタンダードから外した表現を採用しているところもあります。たとえば、ラブコメ作品における見せ場のひとつ、告白シーンでは、溜めのコマが存在しません。通常、キャラクターの内面描写を盛り上がっていったり、何らかの伏線を張ったりして告白シーンを見せ場にするわけですが、本作は何の前触れもなくいきなり来ます。ほとんどの人は予想できないでしょう。賛否が分かれるところかもしれませんが、個人的には圧倒的に賛です。衝撃を受けました。
面白い学園ラブコメとしても、社会派マンガとしても是非とも読んでいただきたい作品です。