人生は夜間飛行だ。 基地との交信が途絶えれば方向を見失い予測不能の嵐になす術もない。 だが、それを自由と勘違いして自ら交信断絶を選ぶ者もある。 集団をつくれば不安と共に自由は消える。 そして集団同士が交信能力を失う時、暴力が召喚される。 交信(=言葉)の力が試されているのが現代である。
- 著者
- サン=テグジュペリ
- 出版日
- 1956-02-22
素敵な表紙だと思ったら宮崎駿だった。
「星の王子様」のサン=テグジュペリ作、南米を舞台に郵便飛行機事業に命を賭ける男たちの物語。
飛行士は新婚の妻を残して危険な夜間飛行に向かう。彼は残した妻の愛と不安を理解できない。
基地を統括するリヴィエールは飛行士たちへの愛情を隠し、過剰に冷徹な態度を取る。
彼らにとって大切なのはミッションだけだ。
予測不能な大嵐との戦いの一夜が始まる。
- 著者
- 新美 南吉
- 出版日
「にんげんって、ほんとにおそろしいものなんだよ。」
母ぎつねは子ぎつねに言い含め、手袋代の白銅貨を渡す。
でも、子ぎつねは間違えて・・・。
新実南吉は「生けるものおたがいの、しかし生存所属を異にしたものの、たましいの流通共鳴」を追い求めた。
だが、この物語で「流通共鳴」したのは「たましい」ではなく「貨幣」だったと、経済学者は指摘する。
言語の替りに貨幣が人間と狐の交信を仲介して暴力を押さえたのだと。
「星の王子様」の狐は言う。「友達を買うことはできない。」
でも、ほんの少しのお金が「敵」を防ぐことはできるのではないか?
- 著者
- レアード・ハント
- 出版日
- 2015-10-07
柴田元幸はOneを「鬼」と訳した。
南北戦争期のアメリカ・ケンタッキー州を舞台にした小説。
少女が嫁いだ男は冷血漢でサディストだが歌声は美しかった。
時を経て暴力の被害者が加害者に立場を変える。
酷烈な事件を少女たちは淡々と語る。
少女たちの交信は暴力で途絶えるが、紫色の糸が残る。
はたして交信は再会するのか?
シェークスピア「嵐」を基調に展開する自由と尊厳の物語。
- 著者
- 美智子
- 出版日
- 2009-04-10
1998年、美智子皇后は「子供時代の読書の思い出」というテーマで講演された。
不思議なほど透明な日本語に出会う。
「読書は人生の全てが、決して単純でないことを教えてくれました。」
「生きている限り、避けることのできない多くの悲しみに対し、ある時期から子供に備えさせなければいけないという思いがあったのでしょうか。」
人は自分と周囲との間、そして自分と自分自身の間にも、一つ一つ橋をかけて生きる。
本はその営為をそっと助けてくれる。
遠慮がちに、しかし力強く本を読むことの重要性を訴えかける。
他者との橋(交信)が無ければ自分自身との橋(交信)も無い。逆も同じ。本は仮の「他者」と「自己」になってくれる不思議な存在なのだろうか。
暴力に始まり暴力に終わった2015年。
そして、2016年も暴力で始まってしまった。
我々に言葉の力は残っているのだろうか?
「人間は交信可能。ただし、貨幣と暴力を介して。」
そんな結論はゴメンだ。
少しだけだが、静かで力強いコミュニケーションの渦が広がる予感はある。