狂気、エロ、暴力、新興宗教など過激な内容を多く描く山本直樹。過激な描写に目がいきがちですが、その奥には普遍的なテーマも多く隠されています。ここでは、そんな山本直樹漫画の中でも特におすすめの6冊をランキング形式でご紹介します。
山本直樹は1960年に北海道で生まれました。狂気やエロスをテーマにした作品を多く描く漫画家で、その過激な描写は時として有害コミック指定を受けるなど問題視されるほどです。しかし新興宗教や家族など普遍的なテーマを合わせ持った作品も多く、高い評価を受けています。2010年には『レッド』で文化庁メディア芸術祭マンガ部門の優秀賞を受賞しました。
高校2年生の灰野勝彦は、所属するラグビー部でナンバーエイトを務め、同級生の新井玲子とはそれなりに良好な交際を続けています。玲子とは最後までセックスができないことが不満であるものの、生活自体にはそれなりに満足していました。
ところがある日、勝彦の通う高校に伊沢学という化学教師が赴任してきます。彼女は勝彦の兄・海彦の同級生でもあり、勝彦の家で下宿することになるのですが……。
- 著者
- 山本 直樹
- 出版日
過激な性描写で知られる山本ですが、この作品に関してはそこまで過激ではなく、性描写と同様に山本の特徴である「喪失感」のほうがより強く描かれています。どこか閉塞感の漂う田舎町を舞台に、主人公の勝彦を始め、彼女の玲子、教師の学の交流を中心に描かれるストーリーは、寂しくも美しい雰囲気を漂わせています。
主人公が高校生なので、未熟で初々しい思春期の想いが中心にはなります。けれど、そこに大人だからこそ感じる寂しさを抱えた学が入り込むことによって、ストーリーは奥深く流れていきます。勝彦たちと同世代が読んでももちろん共感を覚える箇所は多々ありますが、どちらかというと、大人になった人がかつての自分たちを思い出しながら読むことをおすすめしたい作品です。
高校の学園祭の日、灰野は屋上で九谷エリという女子生徒と出会います。屋上には天文部の部室があるのですが、九谷は天文部の部員だったのです。眼鏡をかけた九谷はいかにも優等生という感じですが、彼女は灰野に「ブルー」という謎の薬を渡し、セックスをしようと誘ってきます。それから、灰野は度々九谷と体を重ねるうちに彼女に好意を寄せるようになりますが、九谷は「ブルー」を持ってくる天文部OB達ともセックスをくり返していることを知り……。
- 著者
- 山本 直樹
- 出版日
- 2006-07-20
表題作である「BLUE」の他にも6篇の独立した作品が収録された短編集です。「BLUE」は、東京都から不健全図書指定をされてしまうほどセックス描写の多い作品ですが、刺激の少ない田舎の町で、何かを埋めるように性に溺れていく様子からは、山本の作品の特徴でもある喪失感が漂います。
怪しげな薬「ブルー」や、セックスをくり返す謎めいた九谷の存在が、一見物語を特異なものに見せてはいますが、主人公の灰野は決して特別でも特異でもない平凡な男子高校生です。九谷に対して抱いている気持ちはあるものの、ある意味で異物である九谷へもう一歩踏み込むことができない点などは、共感を覚える方も多いのではないでしょうか。
平凡な人間である灰野が最後に選ぶものはいったい何か。ぜひ手に取って確認してみてください。
海野一葉と海野諸葉は双子の姉妹。東京の大学に受かった一葉は上京することになりますが、大学に落ちた諸葉は地元に残ることになります。それまでお揃いだったロングヘアーもばっさりと切ってしまった諸葉に寂しさを覚える一葉ですが、諸葉はあっけらかんとした態度です。
そしていよいよ一葉の乗る飛行機が出ようとした時、東京にいるはずで一葉の婚約者である全田巽が2人の前に現れます。父親が倒れたという知らせを受けて戻ってきた巽は、そのまま大学も中退して地元で生活するようになってしまい……?
- 著者
- 山本 直樹
- 出版日
一葉と諸葉、それに年上の巽は幼馴染の3人組で、そのうち一葉と巽がカップルです。表面上は仲良しな3人組に見えますが、巽の父親が倒れたことをきっかけに、一葉は東京で、巽と諸葉が地元で暮らすようになったことで、その関係はだんだんと崩れていってしまいます。
双子の姉妹と、彼女達に振り回される巽の三角関係がメインのラブコメ作品ですが、ストーリーが進むにつれて、諸葉に好意を寄せている教師なども登場し、人間関係はさらに複雑になっていきます。また山本作品の特徴であるエロティックな部分も、ラブコメらしいコミカルな雰囲気のまま描かれているので、生々し過ぎることもなく最後まで笑いながら読むことができるでしょう。
双子姉妹と巽が迎えるラストをお楽しみください。
1969年、学生組織である全学生共闘会議(全共闘)と新左翼の学生は東大安田講堂を占拠しますが、警視庁の機動隊と衝突、封鎖が解除されました。そのことをきっかけに、全共闘は勢いを失います。
同じ頃、青森では学生のストライキが機動隊によって解除され、また羽田空港では革命者連盟を名乗る若者達が外相の乗ったジャンボジェットの前に飛びこみ、火炎瓶を投げつけていました。
革命に意味はないという考えが普通になって行く中、それでも革命を目指す若者達の行く先とは……。
- 著者
- 山本 直樹
- 出版日
- 2007-09-21
革命を目指した複数の若者達を描いた青春偶像劇で、フィクションを銘打ってはいるものの、事実を忠実に描いている箇所は多く、半ノンフィクションといっても良い内容になっています。2010年には、文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞しました。
理想を掲げ、革命にとりつかれ、だんだんと暴力がエスカレートしていく若者達の姿を、淡々と静かに描き出していく本作。流賊主義や毛沢東思想など、馴染みのない言葉が多用されているため読みにくさを感じる人も多いかもしれません。しかしそれらの言葉を含め、いわゆる団塊世代が青春を過ごした時代をリアルに感じることができる漫画です。
特別でもない普通の学生が、思想や思考に溺れ狂気に満ちていく様は、静かでありながら衝撃的です。当時のことを知りたい方にはもちろん非常におすすめですし、人間というものの思考に興味のある方にとっても、現代社会にも通じる何かを感じることができる作品です。
乾いた砂漠のような町に、制服を着た1人の少女がやってきます。何もわからないままひたすら歩き続けてきた少女が出会ったのは「ニシ」と「ヒガシ」という男2人でした。少女は2人の名前に合わせて、自分のことを「ミナミ」と呼ぶように言います。
一方、ミナミは街で、街を作ったのではないかと噂されている謎の男リアルマン、お笑い芸人のアイとマコトなど、様々な人物と出会います。果たしてそこは、ミナミにとっての「安住の地」となるのでしょうか……。
- 著者
- 山本 直樹
- 出版日
舞台がどこで、いったいどういう世界なのか。詳しいことは何もわからないまま、独特な雰囲気で物語は進んでいきます。物語の冒頭でミナミは、「私はずっと歩いていた。歩きながらいろいろなことを考えようとしていた。なんでいつまでも歩いているのか? いったい何日歩いているのか? いくら考えても思い出せなかった*」と言っています。(*『安住の地』より引用)
不思議な世界観に、最初は入り込みにくいと思う方もいるかもしれません。けれど、何もわからないミナミの視点を追いかけるうち、読者も少しずつ物語の中へと引き込まれていくでしょう。山本の作品らしく性描写も多くありますが、それすらもどこか乾いているように思えます。
独特な世界観ではありますが比較的読みやすい内容なので、山本作品初心者にもおすすめできる1冊です。
ある孤島にそれぞれ議長、オペレーターと呼ばれる男が2人、それに副議長と呼ばれる女が1人、僅かな物資と自分達で調達した食料でひっそりと暮らしています。顔文字のようなマークが描かれたTシャツを着ている3人は、「ニコニコ人生センター」という団体に所属しており、この島で「修行」をしているのです。
しかし元々僅かだった物資は次第に少なくなり、3人は閉鎖された中で抱えきれない衝動と戦いながら暴走していきます。そして……。
- 著者
- 山本直樹
- 出版日
- 2012-05-30
オウム真理教の事件や、連合赤軍関連の書籍にヒントを得たという本作で描かれているのは、一見すると社会の息苦しさから解放され、穏やかに自給自足を営んでいるように見える男女が、閉ざされた島の中で次第に暴走し壊れていく様子です。それは恐ろしくも気味悪くも感じられることでしょう。
しかしその壊れていく様子にどこかリアリティを覚えるのは、この閉鎖空間が身近なものでもあるからでしょう。閉鎖空間とは何も孤島に限らず、学校、家庭、職場など身近なところにもあります。宗教や崩壊、観念、思想などのキーワードが気になる方は、一度手に取ってみるとよい漫画です。
いかがでしたか? 独特な世界観が特徴の山本直樹の作品は、好みもわかれるでしょう。しかし一度ハマってしまうと何作品でも読んでしまいたくなる魅力に満ちています。少しでも、気になる点があった方は、自分に合うかどうかまずは試してみるところから始めてはいかがでしょうか。