今やテレビで見ない日はないという大人気コメディアンである松本人志。実は彼の天才的な表現力はテレビのブラウン管からだけでは計り知れないのです。今回はそんな彼のおすすめ本5冊を集めました。
『遺書』は松本人志が30代前半の時に執筆した、主に笑いへの思いを語ったエッセイです。
「ババロア頭の君に告ぐ プロの仕事はこれじゃい」「センスとオツムがない奴に オレの笑いは理解できない」「反論も悪口も大歓迎する 正々堂々来てみやがれ」など様々な松本人志の心の思いがテーマとなり素直に語られています。
- 著者
- 松本 人志
- 出版日
読んでいると感じるのが興奮した闘牛士のような松本人志の荒々しさ。世間のすべてに噛みつくような、それでいて何かを切に懇願するような、そんなアンバランスな様子が伝わってきます。若かりし頃の彼の葛藤が文章にそのまま表れているようです。どれだけ書いても止まらない、不満と葛藤が笑いに包まれて怒号のように襲ってくる、そんな過酷な松本人志の文章の世界に読者はどんどん引き込まれて呑み込まれてしまうことでしょう。
しかしそんな嵐のような本書にも心休まる温かい記述があります。それは相方の浜田雅功について語ったこんな言葉。
「松ちゃんより浜ちゃんのほうが好きだと言われればムカつくが、浜ちゃん嫌いと言われてもムカつく。誰の誕生日も覚えていないオレだが、気持ち悪いが浜田の誕生日だけはなぜか覚えてしまっている。兄弟のようで、どっちが兄で、どっちが弟というものでもない。(中略) やはり一般人には理解できないものだと思うが。」(『遺書』より引用)
『遺書』という題名からも分かる松本人志の「これだけは伝えておきたい」という強い思い。ショッキングな題名ですが題名のインパクトに負けず内容もかなり読み応えのある斬新な内容になっています。30代前半の松本人志を知る人にはどこか懐かしい印象を、知らない若い世代にはどこか新鮮な印象を与えるのではないでしょうか。怒涛の文章を読み終えた後には爽快で痛快な読後感を味わえるはずです。
『松本坊主』は松本人志が幼少期からダウンタウンとして東京進出するまでの軌跡を自身の口で語ったエッセイです。本書を書いた当時35歳。若かりし彼が語るリアルで意外性に富んだ「松本人志」の魅力は多くのファンを楽しませることでしょう。
- 著者
- 松本 人志
- 出版日
松本人志が語った語り口をそのまま文章に起こして記されている本書。そのためまるで彼のバラエティ番組を観ているかのようなリラックスした感覚に陥ります。また、語られるエピソードや思いも非常に赤裸々です。家庭が貧しく不登校の時期があったこと。お笑いに影響を受けたテレビ番組として「トムとジェリー」を挙げたり、初めて付き合った女の子との馴れ初めを語ったり。いつも堂々と観客を笑いの渦に巻き込むダウンタウン松本人志の姿からはにわかに信じられないような「もうひとつの松本人志」がぎっしり詰まっています。
貧しさやシャイな青春時代、観客に全く受けなかった暗い時代の中で松本の大物性を証明する記述があります。
「僕、この世界に入って(中略)発表会みたいなところで漫才やった時から、今日の今の今まで自分が一番おもろいと、ずっと思ってますから。自分が一番やって、ずーっと。それは一回も疑ったことがないんですよ。」(『松本坊主』より引用)
貧しい不登校の少年松本人志がもつ「負の部分」。そんな少年時代から大人になるまで、お笑いに関してだけは絶対的な自信を持ち続けていた「正の部分」。自信の裏に潜んだ危うさのようなものも彼の魅力のひとつかもしれません。
知られざる松本人志の秘密を覗き見ているかのような本書。軽妙な語り口で語られる至極のエピソードの数々に一気読みしてしまうこと間違いなしです。松本人志の本を読んだことのない方はこの本から読み始めるのもおすすめです。
『放送室の裏』は『放送室』という松本人志と高須光聖がパーソナリティを務めるラジオ番組内で語られていた松本の青春時代を友人目線から語ったものです。高須が松本の同級生である友人数名にインタビューする形で展開されていくという、ファンにとってはコアな松本を知ることの出来る貴重な一冊となっています。
- 著者
- ["松本 人志", "高須 光聖"]
- 出版日
- 2003-07-26
登場するのは松本人志が小学生時代に最初にコンビを組んだ「伊東くん」、初めてダウンタウンがネタを披露した「和田くん」、松本に奇人と呼ばれる個性をもつ「藤井くん」。学生時代はただの「おもろい奴」だった松本人志が日本を代表するコメディアンに成長した今、同級生たちが明かす「自然体の松本人志」の姿は多くのファンを虜にすることでしょう。
ダウンタウンの松ちゃんと浜ちゃんが仲良くなったのは中学生の頃だそう。もともと松本人志は伊東くんとコンビを組んで同級生や先生たちを笑わせていました。しかしそんなある日ダウンタウン結成のきっかけとなるある事件が起きるのです――!
松本人志の青春時代の様子や秘話が友人の口から語られるだけでなく、友人たちの抱いていた嫉妬や葛藤も率直に記されています。彼らのその屈折した感情が松本のスター性をより現実的なものにして、私たちの心に真っすぐ届いてくるのです。さらに松本のインタビューも掲載されているので多面的に彼の原点を知ることが出来ます。
もちろん「笑い」も存分に盛り込まれています。クスクス笑ったり、松本人志の天才性に驚いたり、同級生の思いに胸が打たれたり。読者の表情をくるくると操るのがとても上手い作品です。一度本を開いたらそのまま一気に読んでしまうでしょう。読み終えて本を閉じれば松本人志の面白さはさらに奥深いものに変わっているはずです。
『図鑑』は松本人志の初のイラスト集。見開きスタイルになっていて左側にイラストがあり、右側に解説が載せられています。類い稀なる独特の感性を持った彼の頭の中を覗き見ることが出来るような「松本人志図鑑」になっています。
- 著者
- 松本 人志
- 出版日
描かれている絵は一見頼りなさ気なタッチのシュールなもの。しかし目を凝らしてよく見てみると縮図やデッサンは非常にしっかりしており「計算された」柔らかいタッチであることが分かります。内容も「カニの腕まくり」「サラリーマン漬け」「仮面ライダー寿」「ウルトラの産みの母」などそのユニークな目の付け所が彼の表現力の才能を物語っている様です。
イラストも上手すぎることもなく下手すぎることもない。コメントも多くを決して語ってはいないが、しっかりとその絵を面白く読者に伝える役割を果たしている。なんともさじ加減が絶妙です。そのシンプルの極みたるもの、毎回毎回読むたびに違った印象を読み手に与えるので、まるで多くの意味を含蓄した哲学書のようにも思えます。
まるで田んぼに嵌った足のように一度覗いたらなかなか抜けられない松本人志の世界。頭を空っぽにしてひたすら湧き出る笑いに身を任せるのも良し。はたまた深読みして彼のイラストの真理に触れようと試みるのも良し。いろいろな楽しみ方が出来る一冊です。松本人志が時間も発言内容も限られたテレビの世界でどうしてあんなにも人を笑わせることが出来るのか、その答えを知りたい人にぜひ読んでもらいたい一冊です。松本人志の頭の中の図鑑を覗いたらその答えが少しだけ見えてくるかも知れません。
『プレイ坊主――松本人志の人生相談』は松本人志の「週刊プレイボーイ」での人気人生相談連載を一冊の本にまとめたものです。雑誌に載っていない内容も掲載されており、性の悩みから社会問題まで独特の切り口で解決してしまう気軽に読める内容になっています。
- 著者
- 松本 人志
- 出版日
松本人志のすべての本に対して言えることですが、彼の書く文章はテンポが軽快です。リズムよく文章を読んでいたと思ったら意表を突かれて笑ってしまうこともしばしば。深刻な読者の悩みも彼の超越した発信力かかれば「笑い」に変わってしまう所も大きな見どころだと言えるでしょう。
お悩みの内容は死について、性について、時事問題、ひよこの話など実にさまざま。一般人からの相談だけでなく巻末には芸能人からの悩みも寄せられています。どの回答も松本人志にしか出来ないようなユニークかつ物事の核心をついたものばかりです。特に日本の社会を鋭く指摘していたのが「死」についての回答。
「死ぬというのは最大の悪で、マスコミも、もっと『しんだらアカン』と言わないと、でも、メディアは死んだ人間にはなぜか甘いんですね。」(『プレイ坊主――松本人志の人生相談』より引用)
社会についてもマスコミについてもしっかりと観察しているのが分かります。自由自在に語られる回答の数々ですが、こうした物事への的確さが本書の読者への信頼を支えるものとなっているのかも知れません。
自宅でリラックスしている時などに娯楽感覚で読んでみるのがおすすめです。クスクス笑えて時にじっと考えさせられる。そんな至極のリラックスタイムを松本人志の言葉が与えてくれること間違いなしです。
今回は『遺書』を初めとした松本人志のおすすめ本5冊をご紹介しました。何度読み返しても味のある世界観。どうぞご自身の目で確かめてみてください。