心理的な恐怖感を煽る題材を扱った小説、それがサイコホラー作品です。猟奇的な殺人や異常行動を描いたものが多く、グロテスクな描写もあってなかなか手を出せない人もいるかと思います。今回はそんなサイコホラー初心者におすすめしたい5作をご紹介します。
丘の上に建つ、一軒の古い屋敷。この屋敷では過去に幾度にも渡って凄惨な事件が起き、今は「幽霊屋敷」と呼ばれています。
殺し合った姉妹、自殺した少年、埋められた死体……それらはまだこの屋敷にいて、息をひそめて次の住人が来るのを待っているのです。
やがて、本物の幽霊屋敷を探す男が館を訪れます。
男はかつての住人たちの痕跡を辿り始め……。
- 著者
- 恩田 陸
- 出版日
- 2016-11-25
幽霊屋敷に入居する人々と彼らを襲う怪異の物語が、10の短編で語られる本書。
語り口は淡々としていながらどこか不思議な叙情に溢れているので、耽美な雰囲気も感じられます。懐かしさと寂しさの入り混じった文章は、ホラー小説でありながら柔らかな余韻を読み手に残します。
全ての短編が繋がり、やがてラストへと収束する、恩田陸の読ませ方にハマってしまうでしょう。ページ数も200ページ程度と軽めなので、サクサクと読み進めることができます。
ホラーが苦手な方は、人のいる電車の中や会社・学校で読むのも良いかも知れません。
そうすれば、今日も安心して我が家に帰ることができます。
そう、「私の家では何も起こらない」のだから。
ホラーやその他のジャンルで恩田陸の作品を読んでみたい方は、こちらの記事もおすすめです。
恩田陸おすすめ26選!代表作から最新作までジャンル別ランキング
『夜のピクニック』などで高い人気を博している恩田陸。彼女の作品は膨大な読書歴と実体験に基づいており、ジャンルは実に広範です。この記事では恩田陸の物語を、青春、ミステリーといったジャンルごとにランキング形式でおすすめしていきます。
『ぼくのメジャースプーン』『凍りのクジラ』など多数のヒット作を世に送り出し、映画『ツナグ』の原作者としても知られる辻村深月のデビュー作です。
高校3年の冬、大学受験を控えた8人の生徒たちが集まった校舎。なぜか他に誰の姿も見当たらず、携帯も繋がらず、時計は5時53分で止まったまま。
やがて自分たちが校舎に閉じ込められたことを知った8人は、恐怖の中で2ヶ月前に自殺した同級生のことを思い出します。しかし、その生徒の名前だけがどうしても思い出せず……。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2007-08-11
閉じ込められた焦燥感、迫りくる理不尽な謎、開かない扉。自分たちを校舎に閉じ込めたのは誰なのか。自殺した生徒の名前は?どうすれば元に戻れるのか?
上下巻というボリュームの中に様々な伏線が張り巡らされ、ラストには衝撃の真実が待っています。辻村深月が描く魅力的な登場人物たちも見どころのひとつです。
SF学園ものの側面を残しながら、ミステリーとして要所要所で仕掛けられたトリック……それを心地よく感じたら、きっと一気に読み進めてしまうでしょう。
誰からも信頼されるあの人が、もし猟奇的な裏の顔を隠していたら……。
主人公・古河は、柔らかな物腰と端麗な容姿で周囲から人気を集める産婦人科医。しかし、彼は多くの人間を監禁・殺害する猟奇殺人鬼の顔を隠し持っていました。
幼い頃に受けた虐待が原因で歪んだ心を育ててしまった古河は、自分が許せないと感じた人間を残忍な手段で次々と殺害していきます。
- 著者
- 大石 圭
- 出版日
私刑じみた行為に執着する古河の姿は、まさに「狂気」という言葉そのもの。現代社会の闇が凝縮されたようなストーリーは、より古河をリアルな存在へと押し上げます。
作者は『復讐執行人』『処刑列車』など、グロテスクな題材と描写でコアなファンの多い大石圭。大ヒットホラー映画『呪怨』のノベライズを手がけたことでも有名です。
ひとたびこの作品を読めば、周囲の人間にいらぬ疑心暗鬼を抱いてしまうかも知れません。
誰からも信頼されるその人は、本当に「いい人」ですか?
ハスミンこと蓮実聖司は、爽やかさとルックスで生徒だけでなく親たちからも慕われる英語教師。しかし彼は他人の感情に共感できないサイコパスであり、邪魔者は殺すことで排除するという異常な思考を持った殺人鬼でした。蓮実は自分に降りかかる問題を無感情に、時には残虐な方法で解決していきます。
高いIQとカリスマ性で人を操り、学園を支配するかのごとく暗躍する蓮実。
やがてその殺意は、彼の教え子たちにも向けられ……。
- 著者
- 貴志 祐介
- 出版日
- 2012-08-03
ある些細なミスが露呈するのを防ぐべく、蓮実はクラス全員の抹殺計画を企てます。生徒たちが学校に泊りがけで文化祭の準備をする夜、彼はクラスの生徒たちを一人ずつ手にかけていくのです。
自分には理解できない存在を恐怖の対象とするのならば、この蓮実聖司ほど恐ろしい人間はいないのではないでしょうか。蓮実が殺人をおこなう様子を淡々と綴った場面は、読み進めるうちに殺人者の手記を読んでいるような感覚さえ覚えます。
学校という閉鎖された空間に、殺人鬼を解き放ったら……そんな想像をして背筋が寒くなる、まさに人間が持つ狂気の片鱗を描いた一作です。
とある女性の死体が発見される場面から始まる本作。
ビニールシートを被せられ、口にフックをかけられてマンションに吊るされたその死体は、世間に激震をもたらします。そして現場には、犯人からの稚拙な犯行声明文が残されていました。
「きょう、かえるをつかまえたよ。」
犯人が捕まらないまま繰り返される殺人に、町は次第にパニックに陥っていきます。猟奇的な手口と犯行声明文の記述から、マスコミは犯人を「カエル男」と呼ぶようになりました。
古手川刑事はカエル男を捕まえるべく捜査を開始しますが、なかなか進展せず新たな犠牲者ばかりが増えていきます。パニックに陥った市民は、ついに外を出歩くことを危険視するように。そしてその怒りの矛先が警察にも向けられてしまいます。
果たして殺人鬼・カエル男の正体は?新人刑事・古手川が辿り着く真実とは?
- 著者
- 中山 七里
- 出版日
- 2011-02-04
2009年『さよならドビュッシー』で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、その作風から「どんでん返しの帝王」と呼ばれる中山七里の作品。
もちろんラストには、「どんでん返しの帝王」の名に恥じないトリックが幾重にも仕掛けられています。さらにサイコホラーとしてだけでなく、責任能力にまつわる刑法のあり方を問う本作は、社会派ミステリーとしての顔も持ち合わせています。
読んだ人の心の中に、真相を知った衝撃だけではない何かを残してくれるはずです。
サイコホラー作品は、読者に恐怖を与えると同時に、何か別の問題提起をしているものが多くあります。本当に恐ろしいのは、狂気を抱く人間の心なのか、それとも人間そのものなのか。考えながら読んでみるのも面白いかも知れません。