恋する31文字。現代短歌でつかのまの恋愛体験

恋する31文字。現代短歌でつかのまの恋愛体験

更新:2021.12.12

私が短歌の魅力に取り憑かれたのは、小学生の頃だと記憶している。初めて読んだのはもちろん「サラダ記念日」。衝撃的だった。あの頃分かったような気になっていた恋の歌も、今になって読み返すとまた違う意味を知る。ますます人肌恋しいこの季節、現代短歌でつかのまの恋愛体験をするのはどうだろう。きっと心にとどまって忘れられない「恋」が見つかるはずだ。

ブックカルテ リンク

「アクリルの白いコートを汚す雨 好きってそういう意味じゃなかった」

著者
野口 あや子
出版日
初めて彼女の短歌を目にした時、脳が揺れるという比喩が全く現実的な形容だと知った。瞼の裏にはっきりとその情景を描けるような、1枚1枚の絵画のような美しい歌。どこか懐かしく、切なく、そしてみずみずしく、タンスの奥に大切にしまっていた何かに名前をつけられたような気持ちになる。

「この煙草あくまであなたが吸ったのねその時口紅つけていたのね」

著者
佐藤 真由美
出版日
2005-10-20
女性的なアイロニーが痺れる。ストレートでいじらしい。私が最も愛した1冊と言っても過言ではないと思う。人は必ず人生のある一時期、誰かのことで頭がいっぱいになり、恋に身を焦がす以外何も出来なくなってしまうことがあるのだと思う。馬鹿な恋をしたことがない人なんているだろうか。この歌集を読む時、少女の顔から母の顔まで思い浮かんでは消える。そして私の恋のようにも思えてくるから不思議だ。それは誰もが心に乙女を飼っているからなのかもしれない。忘れられない恋がある女性に読んで欲しい一冊。

「ロッテリアのトイレでキスをするなんて たぶん絶対最初で最後」

著者
加藤 千恵
出版日
クラスメイトの恋愛話を聞いているような、こちらが恥ずかしくなるほどリアルな女子高生の言葉で綴れた短歌たち。息づかいまで聞こえるような、思春期の微妙な心の揺れが切なくもどかしい。

あの頃の甘酸っぱい気持ちが喉奥までせり上がってくるようで、自分が17歳の頃を思い出して、ああ私、一生あの頃に戻れないんだわ、なんて思わずエモい情感に浸ってしまう。

「このへんでねえキスしよう、目を開けて。わたしはことばでできてないから」

著者
尾崎朗子
出版日
肌を刺す痛みや熱、吸い込まれるような深い悲しみを感じる歌集。相手を意識することで、自分の個としての痛みが浮き彫りにされていく。希望と不安が同居する彼女の世界観に優しく満たされてほしい。

「片寄りて花びら池の面に腐るそんなふうでも愛したかった」

著者
東 直子
出版日
美しく個性的な言葉選び。聴覚的な描写や独特のリズム。読み進めるうち、はっと顔を上げると、自分はまんまと催眠術にかかっていたことに気づく。彼女と旅をしているような一冊。

「嫁さんになれよ」だなんて缶チューハイ二本で言ってしまっていいの

著者
俵 万智
出版日
まさに現代短歌の革命である。「この味がいいねと君が~」「寒いねと話しかければ~」などは誰もが一度は耳にしたことがあるだろう。何度読んでも素晴らしい。日常に溢れるたくさんの風景が、彼女の言葉でユーモラスに切り取られている。この本を読んだ小学生当時の私は、彼女の目で世界を見てみたいと思った。どれほど色鮮やかに輝いているのだろう。嫉妬してしまう。現代短歌に興味を持った方には、まず最初に読んでほしいと思う一冊だ。

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