わかっていても怖い、わからなくても怖い―おすすめのホラー小説【西田藍】

わかっていても怖い、わからなくても怖い―おすすめのホラー小説【西田藍】

更新:2021.12.18

私は、所謂、幽霊とか、そういう類のものは一切信じていない。心霊現象に分類される体験はしたことはあるけれど、それらは単なる金縛りだろうし、目の端に映る黒い影は、飛蚊症かなあと思う。でも、そういう不思議な、恐ろしい話を読むのは、大好きである。

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捉え所のない怪物たち

少なくとも、ただ本を読むという行為は、絶対に安全な遊びなはずだ。それなのにどうしてこんなに、ぞっとするのだろう。
著者
高原 英理
出版日
2017-03-17
この高原英理『怪談生活』は、少し変わった怪談集だ。

怪談集というより、随筆集といったほうが正確なのだが。著者が見聞きした怪奇な物語、江戸時代の実話とされる怪談奇談。因果応報の物語とは違う、不思議で、捉え所のない、そんな「怪談」たちが、集められている。
 
冒頭に、著者の小学生時代のエピソードがある。
教室のカーテンの裏などを指して、「おるよ(居るよ、の意)」というのが流行ったというのだ。何かがいるわけではないのは、皆わかっている。わかっていても、何だか厭な気がする。何がいるかは言わない。ただ「おるよ」と言う。

この厭な気持ちが、つい求めてしまう不快さの本質だろう。

ホラー+爽やかな青春

著者
綾辻 行人
出版日
2017-02-24
こちらはフィクション。
新本格、ミステリー、ホラー……ファン層の幅広さもその魅力を証明している著者の、未収録短編作品集である。テーマや掲載誌で収録したわけではないにも関わらず、このタイトルに相応しい、不思議で、捉え所のない、人間でない、何かが介在する物語たちが集まっている。
ぜひ、巻末の著作リストで、他の気になった作品も読んでみてほしい。
 
その中でも、今春、新生活を始めるにあたって、おすすめのホラー小説がこちら。 
著者
綾辻 行人
出版日
2011-11-25
主人公は中学生。転校先のクラスでは、いないものにされていた少女がいた。代々そのクラスには、「何か」があって……というあらすじだが、読むのが止まらなくなること請け合いだ。
 
ホラーは得意ではない、もう少し怖くないものを、という方には、綾辻行人『Anotherエピソード S』をおすすめしたい。どちらも爽やかな青春「も」てんこ盛りの作品だ。
著者
綾辻 行人
出版日
2016-06-18
現実は現実で確固たるものであるはずだ。でも、それを突き破って何者かが入り込んでしまう恐怖を克服することは難しい。暗闇が怖いのは、ただの動物としての本能だ。理性では分かっていても、やはり、暗闇は恐ろしい。

恐怖を好む理由

著者
戸田山 和久
出版日
2016-01-07
この本はタイトル通り、「なぜ人は恐怖を好むのか」、その問いに一つの答えを与えてくれる。面白いのが、本書で述べられる仮説は、「なぜ人は物語を好むのか」という問いにも答えを与えてくれるところだ。残酷な物語、実話、おぞましいニュース、残酷な絵、漫画、エロ、グロ、その他諸々の刺激を求める嗜好が「何故」生まれるのか、考えることができる。

殺人だらけのフィクションを好むからといって、殺人が好きなわけではない。凶悪犯罪のノンフィクションを好むからといって、凶悪犯罪を起こしたいわけではない。では人の脳は、なにをどう区別しているのか?
 
さて、心霊現象を信じていない私だが、金縛りに遭っているときは、怖がっている。頭で「これは金縛りだ、ただの睡眠障害だ」とわかっていても、恐怖感は消えないのだ。
わかっていても怖い、わからなくても怖い。
あなたはどの恐怖がお好みだろうか。

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