独特の世界観を作り上げ、読者を物語の中へ惹き込む竹宮惠子作品。大学の学長となるほどの教養や技術を持つ彼女の作品は、細やかな設定や心理描写が特徴です。一度手に取れば惹き込まれること間違いなし!
竹宮惠子は徳島県出身の漫画家。約50年も漫画家として活動してきた漫画界の大御所です。漫画を描き続ける一方で、京都精華大学の学長も勤めています。漫画家では日本初の大学専任教員となった竹宮惠子。その技術と生き方は多くの人から尊敬を集めています。
5歳頃から単なるイラストではなく漫画を描き始めていた竹宮は、本屋に通い、様々なジャンルの漫画を選り好みせず読んでいました。中学生になり本格的に漫画を描き始めた竹宮は、『サイボーグ009』などで有名な石ノ森章太郎に憧れを持ちます。そのことがきっかけで同じ石ノ森ファンと同人誌を作るまでになったのです。
1967年、『ここのつの友情』という作品を雑誌「COM」に投稿。これが月例新人賞の佳作に入選し、若干17歳で漫画家デビューを果たします。さらに翌年『りんごの罪』という作品が「週刊マーガレット」の新人賞で佳作入選。一度大学に入学したもののもっと本格的に漫画が描きたいと決意し、1970年に大学を中退し上京。「週刊少女コミック」で『森の子トール』という作品で連載を始めました。
上京したものの思ったような作品が描けないというスランプに陥り体調を崩しましたが、なんとそこで休養するのではなく、さらにがむしゃらに漫画を描き続けることでこれを克服。1974年、『ファラオの墓』で人気が出ると、その後少年の同性愛を描いた『風と木の詩』、SF作品『地球へ…』などが次々ヒットし、一流漫画家への仲間入りを果たしました。
独特な着眼点を持ち、誰も思いつかないような設定や世界観を作り出す竹宮。その挑戦的な姿勢で、漫画界に大きな影響を与えています。独創性からくる物語は思わずのめりこんでしまうものばかり。そんな竹宮惠子作品をご紹介します!
舞台はイズァローン王国。魔物の住む樹海に囲まれたこの国には二人の王子がいます。前王の息子ルキシュと、現王の子ティオキアです。前王と現王は兄弟だったため、この二人のどちらかが王位を継承することとなります。
しかしここで揉め事が。実はイズァローン王国では、生まれたときに性別が決まっていません。両方の性別を持つプロトタイプという状態で生まれ、7~8歳までに自然に男女どちらかに成長していくのです。しかし、ティオキアはこの時期を迎えてもプロトタイプのままだったのです。
- 著者
- 竹宮 惠子
- 出版日
本来なら現王の子であるティオキアが継承する王位。しかし性別が決まらないため決定が下せません。二人の王子はいとことして幼少期は仲よく過ごしましたが、時期王位継承者はどちらになるのかと周りのそれぞれの派閥が対立ムード。お互いが気まずいまま成長していきます。
そして、ここから物語は一気にファンタジーの世界へ。古代文明に夢中になったティオキアが開けてしまったパンドラの箱……ティオキアは自身が魔王となる道を歩まざるを得なくなりました。そしてイズァローンの王となったルキシュ。
人と魔物の戦いが二人の王によって始まります。その決着まで、息つく間のない怒涛の展開。本当の強さとは何なのかを考えながら、遠く離れてしまった互いを思いつつも敵対せざるを得ない運命を受け入れる二人の物語です。
いかにも王子らしい風貌と強さをもつルキシュには父親がおらず、プロトタイプのためなのか弱腰で儚い雰囲気のティオキアには母親がいません。一人の女性を愛するタイプのルキシュと、愛される側のティオキア。色々な面で相反する二人ですが、どちらも民を守ることを一番に考える優しい王です。どちらが好き!と決めるのではなく、二人の比較をしながら読み進めてみるのをおすすめします。
全12巻で完結していますが、それぞれのページに込められた内容量が多く、一晩では読み終わらないかもしれません。しかし、舞台設定の面白さや細かく描き込まれた絵、登場人物たちの心理描写にハマってしまうこと間違いなしのイチオシ作品です!
舞台は19世紀末のフランス、ラコンブラード学院という男子校。絶世の美少年と評され、その美貌で周りを手のひらで転がす問題児であるジルベールと、貴族の父を持ち、まじめな性格のセルジュの恋物語です。
これだけ聞くと純粋な恋物語のように聞こえるかもしれません。しかし、実際はジルベールは学内にいる教師、生徒問わず大勢の愛人であり、オーギュという自身の叔父に心身ともに支配されている情緒不安定な状態。また、セルジュは両親を亡くしたばかりで、叔母に追い出される形で学園に来たのでした。
- 著者
- 竹宮 惠子
- 出版日
心に闇を抱えた二人は何度も衝突しながらも次第に互いを思いあうようになっていきますが、まるで洗脳されているかのようにオーギュに支配されていたジルベールは、当初セルジュに向き合うことができませんでした。しかしセルジュが真摯にジルベールを心配している優しさや、セルジュの弾く美しいピアノの音に惹かれていきます。
情欲や憎しみから逃れて二人で幸せになろうと駈け落ちをする二人。パリへ移りますが、誰からの援助もなく、また少年同士という状況で周りからの当たりも冷たい……愛しあう二人にさらに試練が降りかかります。そして訪れた衝撃の結末とは……。
大人に翻弄され苦しめられる若い少年二人が、愛のために足掻く。儚く美しい物語です。
現在はBL漫画が広く認められるようになりましたが、この作品が出版された1976年頃は、漫画で性的な表現が描かれることは希少でした。実際、竹宮が構想を始めてから出版されるまで、7年もの時間がかかったそうです。
しかし、それだけ時間をかけただけあって非常にディティールにこだわった作品となっています。作品の舞台は海外。当時は海外旅行なんて気軽にできるものではなく、海外の情報を手に入れることすら難しかったのです。しかし竹宮は、物語にリアリティを出すために細やかな取材や資料集めを行いました。
登場人物だけではなく、描かれている景色や背景など全てが美しい作品。また、BLといっても美少年が主役のため、BLが苦手な人でも入りやすい作品かと思います。もちろんBL好きにもオススメです!
数千年後の未来、科学は発展し、人類は気軽に宇宙に行き来できるようになりました。しかし、人口が増えすぎてこのままでは地球が滅びると判断。宇宙に出て、違う惑星で生きるようになります。主に子供を教育するための星と大人が働くための星に分けられました。
この未来では、生まれてから死ぬまで(学業、職業、結婚、出産など)の全てが「マザー」と呼ばれるコンピューターに管理されれます。人生の全てを「マザー」に任せることで、悩みもなく平和な世界を生きているのです。
- 著者
- 竹宮 惠子
- 出版日
しかし、妊娠や出産までも科学に管理される世界。その裏側では、「ミュウ」と呼ばれる突然変異種が誕生していました。ミュウは特殊な超能力を持つ代わりに、視覚や聴覚などに障害を持って産まれます。全人類が15歳のときに受ける「成人検査」では、それまでの記憶が消され「大人」として生きるための知識が植えつけられます。しかしその反面でミュウを発見し追放するという狩りも兼ねているのです。
主人公はジョミーとキースという二人の青年。それぞれ特殊な運命を持ち、紆余曲折がありジョミーはミュウ族のリーダーに、キースは人類のリーダーになります。そして出会う二人。地球に帰り人類と共存したいミュウと、ミュウを排除したい人類の争いが二人の代表者によって始まります。
壮大なスケールで描かれたこの作品は、アニメで映画化もされた人気作。連載が始まった1977年頃は現代ほどコンピューターも普及しておらず、現実感もなかったことでしょう。しかし現代では私達はコンピューターに囲まれています。検索サイトにキーワードを打ち込めば知りたい内容が表示され、さらにその履歴からコンピューターがオススメの製品などをお知らせしてくるようになっていますね。
それでもまだ私達には「今日は何を食べようか」「明日は何を着ようか」など選択の意思や自由がありますが、この作品のような未来にならないとは果たして言い切れるでしょうか。より「身近になってきたSF」、現代で読むからこそ興味深く、リアリティを感じられること間違いなし!ハラハラドキドキを楽しんでみませんか?
この物語では、「天馬」と呼ばれる超能力者を有する血族が世界を支配しています。「天馬」の力は天候さえ操ることができ、世界の安定のために何代にも渡って継承され続けていました。この一族のもとでしか天馬は産まれないのです。
天馬の候補には「龍」と呼ばれる男性と「牡丹」と呼ばれる女性があがります。それぞれに役割を担いながらどちらか一人が「天馬」となって、もう片方も対となり都に住まわなければなりません。問題は、長い年月のせいで一族の血が薄まり、天馬候補となれるほどの能力者が生まれにくくなったことから始まりました。
- 著者
- 竹宮 惠子
- 出版日
- 2003-06-28
物語序盤、当時の「天馬」は龍の男性。牡丹として隣に居るのは「前・天馬」だった老婆。後継となる「天馬」が現われず焦った二人は、不老不死の人魚を使い、なんと「天馬」を作り出そうとします。生まれたのは男の子、つまり「龍」でした。
同時期、都の片隅でとある夫婦が子供を授かりました。夫婦は互いに知らなかったものの、実は「天馬」を生み出す一族だったのです。一族同士の婚姻は禁じられていたため、このままでは親子ともども処刑されてしまうと思った夫婦は、せめて子供だけでもと、唯一「天馬」の支配化にない国、チグルハン国に子を預けました。
これが本作の主人公、アルトジン。活発な女の子です。自分の出生を知らないことから、「天馬」一族の血を引き「牡丹」となる可能性を秘めていることも知らず、チグルハンで明るく暮らしています。
「牡丹」のアルトジンが清く強く育ったのに対し、人魚から「作られた」からなのか、邪悪な心を持つ「龍」に成長してしまった帝。本来なら力を合わせる「龍」と「牡丹」が敵対し、世界を巻き込む壮絶な戦いへとお話は進んでいくのです。
作りこまれた設定や話の内容は複雑に練り上げられており、一気に読んでしまいたい気持ちとじっくり読みたい気持ちの板ばさみ!窮屈な都と自由な草原チグルハン。作られた「龍」と愛された「牡丹」。 複雑に絡み合う人間関係は重厚なものですが、闘いのシーンはとにかく爽快です。
また、登場人物が魅力的!かっこよかったり可愛かったり面白かったりと色んなタイプがおり、必ず好きなキャラクターが見つかります!全24巻という超大作ですが、話の面白さも相まって全く飽きません!
時代は月旅行が一般的になった21世紀。主人公はダンという宇宙飛行士とニナという少女です。ダンはNASAに勤務する26歳。宇宙飛行士としてトップクラスの技術を持ち、その界隈で彼の名前を知らない者はいません。
ある日、火星に向かう途中にダンが操縦する宇宙の定期便(一般人も乗るもの)が爆発事故を起こします。救出作業も最後の一人となったとき、とある少女を自分の命に代えて助けようとしたダン。少女を助けたものの自分の命は絶望的……そのとき、薄れゆく意識の中で少女の声が聞こえます。
「ダン・マイルド、あなたのことが好きよ。私のことを忘れないで」(『私を月まで連れてって!』より引用)
- 著者
- 竹宮恵子
- 出版日
- 1995-06-17
気付くと救命艇の中にいたダン。どうして助かったのか分からないまま長期休暇に入りました。自宅に帰ったダンを待っていたのはニナという10歳の少女。彼女はダンの恋人になるためやってきたのでした。
17歳という歳の差から、ダンは最初ニナをあしらいます。しかし、ニナが実は超能力者だということ、前述の事故でダンを助けたのがニナだということが発覚。さらに、ニナに何か不思議な縁を感じたダンは徐々にニナの愛を受け入れ、二人は結ばれます。
この「縁」を描いたエピソードは必見!タイムスリップやタイムパラドックスという現象によるのですが、二人は互いが初恋の相手でした。17歳も離れているのになぜ?と思うかもしれません。しかしここがSFの面白いところ。運命とも呼べる二人の出会いがSFチックに描かれます。
両思いとなった二人ですが、物語はここからが面白い!仕事には優秀なのに子供っぽいダンと、普段は普通の少女ですがどこか大人びているニナという凸凹コンビがおりなす日常ドタバタコメディ。優秀なスーパー家政婦、お八重さんや意思を持ったコンピューターなど個性的なキャラクターがたくさん出てきて、おもしろおかしく読めること間違いなしです!
さらに、SF作品というとシリアスなものが多いですが、こちらは基本がコメディ。SF知識がない人も楽しみやすい作品となっています。SFならではのハプニングが次から次へと起こる、SFコメディの金字塔。是非一度手に取ってみてください!
ファンタジーに歴史にSF、そして恋愛……。1つにこだわらず、色々なジャンルを組み合わせることで斬新な世界観を作り上げる竹宮惠子。今まで読んだことのないような世界に出会えますよ!