近藤聡乃は1980年生まれ、千葉県出身の女性漫画家です。芸術一家に育ったそうで、建築家の父と兄、デザインを学んでいた母のもとに生まれます。
テレビには興味を示さなかったそうで、その代わりに絵本や美術館によく連れて行かれたのだそう。その影響からか高校卒業後は多摩美術大学のグラフィック科に入学。
幼い子頃から絵を描いていた彼女はそこから少し作風が変化したようで、今までの妖しくどこか湿ったような雰囲気から、多少爽やかな様子をまとうようになったのだとか。
そんな近藤は在学中に青林工藝舎『アックス』に投稿した「小林加代子」でアックス新人賞奨励賞を取り、2000年に漫画家デビューしています。2002年には「電車かもしれない」でNHKデジタルスタジアム、アニメーション部門年間グランプリを獲得しました。
変化があったとはいえ、やはり近藤の作品の特徴は仄暗い雰囲気。日本的な顔立ちの少女たちがモノクロの画面で動き、言葉を発する様子はどこか現実とは違う空間にいるかのような錯覚を感じさせます。
そしてそのほかにも特徴としてあげられるのが、その少女たちに投影される性表現。思春期と思われる彼女たちが象徴的に、しかしあけすけともとれる性の描写を体現する様子は淫美で、何かメッセージ性を感じさせます。
また、そんな彼女の核を残したまま、読みやすい漫画表現に変化させた作品も広くおすすめ。その振り幅から彼女の表現の広さに唸らされます。
今回はそんな近藤のおすすめ作品をランキング形式で5冊ご紹介します!
子供の頃に感じた不思議な感覚を近藤が切り出し、そこはかと臭うエロティシズムとともに、犯し難い非日常の世界を白と黒で彩っている作品です。デビュー作なども収録されています。
- 著者
- 近藤 聡乃
- 出版日
大衆的な漫画には興味が全くわかなかったという近藤は、雑誌ガロに影響されて漫画を投稿したと言いますが、その影響を感じられる一冊が、この『はこにわ虫』です。
モノクロの画面に、彼女の記憶や想像が詰め込まれたような不思議な世界観、ノスタルジックな雰囲気とレトロな表現など、サブカルに傾倒しているのが伝わってきます。
そんな彼女のかけらを寄せ集めたような世界観からは、幼心にずっと心に秘めていた不思議や、口にする事の出来なかった疑問が思い出されます。率直で読者の共感を喚起する表現方法が彼女の魅力のひとつなのだということが感じられます。
近藤のイラストやアニメーションでは、よく虫と少女がモチーフにされますが、彼女の原点を集めた本作がその真骨頂とも言えるかもしれません。
近藤の原点が感じられる、荒削りな魅力が詰まった作品集です。
近藤の初エッセイ集です。アート作家のちょっと奇妙な怪奇現象などにつらつらと綴った57編のエッセイと、それすべてに挿画がついており、26ぺージの描き下ろし漫画も収録されています。
- 著者
- 近藤 聡乃
- 出版日
- 2012-06-06
『はこにわ虫』が子どもの頃、大人にぶつけても納得いく答えを得られなかった疑問をアーティスティックに描いているのだとしたら、こちらは同じことを表現しているものの、もっと広くの人に身近で読みやすく感じられるエッセイという形態が活きた一冊です。
しかしそんな雰囲気で始まりはするのですが、首元を冷たい手で触られてひやりとするような、奇妙な存在感と恐怖がひっそりとにじみ寄ってくる作品なのです。
あの時なんであんな事言ったんだろう?とか、どうしてあんなものあそこで見たの?見えるものじゃないよね?なんて感覚ありませんでしたか?
本作は、理解出来ないあの頃の思いを思い出させてくれると同時に、どこか相容れないような彼女独特の感性が感じられます。作者と一緒にどこかこの世ではないような、それでいて懐かしくて共感もできる不思議な世界を除いてみませんか。
日常生活の中でふと、自分が誰だか判らなくなる……なんて不思議な感覚に陥る事ありませんか?果たして自分はこの名前の人物だったか、あの時の記憶にあるあの子が本当は自分なのではないか……。
そんな自意識の曖昧な境界、それを感じる感覚をそのまま抜き出して描いたような漫画です。彼女の初期のエッセイということもあり、ガロが好きな作家といこともあり、ある種特有のエグみと、若さゆえにの青臭さが混じり、近藤の独特さが濃厚に描かれています。
- 著者
- 近藤 聡乃
- 出版日
約10年間作品を一冊にまとめているので、途中で絵柄ががらりと変わっているのも特徴。デビュー頃のむっちりとしたエロティックな女の子、ガロ的な揺れた輪郭などから、徐々に洗練されていく様子が見て取れます。
あれ?こんなコート私のじゃない!私ってブランコから落ちて死んじゃったことない?なんて、作者の実体験かと思われる数々のエピソードに妄想がプラスされ、どんどん深みにはまっていく感覚に陥ります。
しかしなぜか共感をも覚える不思議。何でもないみたいに描かれてる描写がなぜか心に残り、読み終わったあと何度も反芻してしまうのです。近藤の魅力が詰まった作品集です。
近藤の初のコミックエッセイ集です。HPで公開されていたものを、一冊にまとめたものとなります。
NYに渡ってからの毎日の取り留めない出来事を、近藤らしい感覚で綴られた本作。2017年現在もウェブで続いていますので、ご興味ある方はそちらから試し読みしてみるのもいいかもしれません。
- 著者
- 近藤 聡乃
- 出版日
- 2015-04-25
本作の魅力はニューヨークという憧れる人も多いであろう街で、肩肘張らずに生きている近藤の様子です。こんな風に異国の片隅に溶け込めるなら、自分もどこか遠くに行ってみたい、暮らしてみたいと思わされます。
買ったブーツを履いて歩いてたら、何故か道行く人に褒められるなんてこと、ニューヨークだからあることではないでしょうか。しかもそのブーツは何度も褒められるのです。知らない人とも日常でこんなコミュニケーションがあるなんて素敵ですね。
このように日本にいたら出くわさないエピソードや、考えつかない出来事を見せられたと思えば、ニューヨークだろうと日本だろうと、所詮考える事は一緒だなぁということまで……。
特に納豆にかけるお金の100数十円をケチるのに、なぜかそれよりもずっと高い嗜好品にはポンとお金を出してしまう不思議などはとても身近です。しかしそれがニューヨークでの暮らしだというところが肝。作品からどこか遠い風を感じ、自分も普通に、だけど違う場所で生きてみたいと感じさせられるのです。
近藤の人柄、ニューヨークでの普通の暮らしがつらつらと語られるコミックエッセイです。
近藤の代表作であり、彼女の淡々とした雰囲気とエグいともとれるような個性がうまくマッチしているのが『A子さんの恋人』です。広く万人にじんわり響くラブストーリーとなっています。
A子はそろそろそばに誰かを置いておかなきゃという気持ちが湧き上がってきた29歳。その選択肢となる相手はふたり。彼女が選ぶのは、長い間音信不通だった彼なのか、なんだか心の広い海外の彼なのか、どちらなのでしょうか。
- 著者
- 近藤 聡乃
- 出版日
- 2015-06-15
近藤が恋をテーマに長期連載に挑んだ本作。これだけの設定を聞くとA子はモテる人物なのかと思われるかもしれませんが、彼女はいたって普通。別れられないということでだらだらと続いてしまった相手と現在の相手が混在してしまったというだけなのです。
そんな彼女だからこそ、女子あるあるや、上手く対応出来ない日常の些事の様子がとてもリアル。しかしダメだなぁと思っていてもだらーんとそのまま日常を送ってしまう様子に共感してしまいます。
彼女以外にも、狡猾でありながらも何か愛着がわくキャラや、憎しみを強くいやらしく描かないからイヤミや悪口がさらりとしていたり、読み手を疲れさせないあたりも近藤作品ならではの魅力です。
だらしなくて、それを嫌だなぁと思いながらも淡々と日々を送る様子には、自分のダメなところも認めてくれているような優しさがあります。ぬるま湯につかっているような、ちょっとダメな恋愛漫画をぜひご覧ください。
近藤聡乃に触れるには、ちょっとしたハードルを感じる人がいるかもしれません。ニューヨーク在住、サブカル、アングラ、アーティストなどなど。しかし読んでみると、田舎で子供の頃経験した子供ならではのバカっぽい経験を描いたり、鼻で笑っちゃうような小話なんかもあったりする、魅力的な作家なんです。是非ご覧ください。