森村誠一のおすすめ文庫小説6選!謎解きに挑戦しよう!

更新:2021.12.18

作家生活50年を迎えた大ベテラン作家・森村誠一は、日本を代表するミステリー作家の1人です。多くのジャンルの小説を生み出し、多数の受賞歴を持っています。そんな森村誠一の多彩な小説から、おすすめの6作品を紹介します。

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緻密な人間模様を描かせたらピカイチのベテラン作家・森村誠一

1933年埼玉県に生まれた森村誠一は、推理小説、時代小説など数多くの作品を手掛ける小説家です。1965年、32歳で『サラリーマン悪徳セミナー』を雪代敬太郎名義で出版し、作家デビューしました。

森村誠一は幼い頃から本の虫だったそうですが、作家になりたいという思いを強くしたのはホテル勤務時代で、目の前に文藝春秋の社屋ができたことや、梶山季之や阿川弘之など当時の流行作家が、森村の勤務するホテルを宿にして執筆していたことがきっかけなんだそう。

その後、1969年にホテルを舞台にした本格ミステリー『高層の死角』が江戸川乱歩賞を受賞、1970年に刊行した『新幹線殺人事件』がヒットしたことで、推理作家としての道が開けていきました。

1973年『腐蝕の構造』で日本推理作家協会賞を受賞、1974年 『空洞の怨恨』で小説現代ゴールデン読者賞、1976年 には大ヒットとなった『人間の証明』で角川小説賞など多くの受賞歴があります。

悪と人間の本性を描いた、歴史ミステリー

2011年に吉川英治文学賞を受賞した森村誠一の『悪道』は、元禄時代の江戸を舞台にした歴史ミステリー小説です。伊賀忍者の末裔である流英次郎をメインに、時の将軍・徳川綱吉と側近の柳沢吉保、さらに「影」として生きる1人の人物を巻き込んでストーリーが展開していきます。
 

著者
森村 誠一
出版日
2012-10-16

史実に少しだけ、しかし大胆な設定を加えるだけで、単なる歴史小説の枠に収まらない森村誠一の傑作が生まれました。

本作の主人公であり、秘密を知ってしまったがゆえに追われる忍、流英次郎がカッコいい忍者として描かれています。さながらアクションもののヒーローのようですが、そこが痛快でいいんです。

徳川綱吉の側用人である柳沢吉保を完全に悪として描いているため、英次郎と吉保の善悪の対比が物語のメリハリとなっています。それに加えて、秘密が徐々に明らかになっていく「謎解き」もちりばめたミステリー要素、行く先々で仲間ができたり、敵と戦ったりというRPG的な冒険要素が絡み合う重厚なストーリー展開はさすがです。

痛快なだけでなく、人間の本性についても深く切り込んでいて読み応えがあります。長編ですが、先の展開が気になってページをめくる手が止まらなくなるはずですよ。

歴史小説が好きな人はもちろん、あまり馴染みのない人にこそおすすめしたい森村誠一のミステリー小説です。隠された謎を解きながら、森村の世界に浸ってみてください。

腐った社会に鉄槌を! 立ち上がった老人たちの復讐劇

森村誠一にとって初となる新聞小説で、1989年、カッパ・ノベルスより刊行されたのち、文庫化されました。物語の主人公となるのは、大切な家族を暴力団に奪われた老人、旗本良介。彼とその仲間たちが復讐の為に暴力団に立ち向かっていくストーリーになっています。

著者
森村 誠一
出版日
2016-03-11

社会派ミステリー作家として名高い森村誠一ですが、本作はミステリーというより冒険活劇に近いでしょうか。社会の中で腫れ物扱いされている老人たちが、強大な組織に立ち向かっていく姿にシビれますよ。

不条理に家族を亡くした旗本良介が、ある女性と出会うところからストーリーが展開していきます。街を牛耳る暴力団組織との攻防戦が見どころの1つですが、亡き娘と同名の美しい女性と七十を超えた旗本との心の交流が描かれる冒頭部分も秀逸です。ホームドラマのようなほのぼのした雰囲気と、青春小説のような甘酸っぱい雰囲気が漂う心地よい時間が流れていて、この部分があるからこそ、のちの復讐劇が活きてくるのです。

さらに、実は旧陸軍で中隊長を務めていた旗本とその部下だった6人の「老人パワー」がすごいんです。物語の中で、だんだん若返ってるんじゃ?と思わせるほど、活き活きとした姿や行動力に、「自分もまだまだやれる」と励まされるはず。旧陸軍で活躍していた元軍人たち7人による社会への復讐劇はどのような結末を迎えるのか、目が離せません。

極寒の世界で巻き起こる、複雑な人間模様と殺人事件

北アルプスを舞台にした『恐怖の骨格』は、学生時代に山登りを楽しんでいたという森村誠一による本格山岳ミステリー小説。1973年に刊行された作品ですが、時代が流れても全く古さを感じさせない筆力はさすがのひと言です。
 

著者
森村 誠一
出版日
2008-10-10

冬山という存在は、それだけで閉ざされた密室です。本作では、そんな冬の北アルプスを舞台に山の恐ろしさと人間の本性の恐ろしさを描き出しています。

紀尾井グループのトップである椎名禎介の財産をめぐる骨肉の争い、というシンプルな設定を軸に、美しい山の情景と男女の愛憎劇が絡み合うストーリーは読み応えたっぷりです。人間の感情の機微を丁寧に描いているところが森村誠一らしい作品と言えるでしょう。殺人事件を取り扱っていますが、冒険小説のようなスリリングな高揚感も感じられます。

ミステリー小説としても山岳小説としても、1冊で2つの内容を楽しめるお得な本作、おすすめですよ。

人間の天敵は、いったい何なのか?を問う短編集

『人間の天敵』は森村誠一の4つの短編をまとめた作品です。表題作「人間の天敵」をはじめ、レストランオーナーと元従業員の争いを描いた「ラストシーン」、猫の死から次第に凄惨な事件が表沙汰になっていく「殺人のフェロモン」、旅先での一時の恋が事件につながる「複眼の凶像」など、すべての物語で保身から生まれる哀しさを鋭く描き出しています。

著者
森村 誠一
出版日
2008-05-09

全編にわたって、組織と個人との関わり合いをモチーフに、本来争うべきではない人間同士が作り上げてきた社会からの救いが描かれています。競争社会において、保身を貫くことの美醜を問いながら、「人間」の無明の闇を晴らしていく意欲作です。

4編それぞれに異なる人物が登場しますが、すべての話に登場する笹野という脇役の存在感が秀逸です。段々と人物像が固まってくると愛着もわきます。彼が脇に登場することが、物語の良いアクセントになっていますので注目ですよ。

気軽に本格ミステリを堪能できるので、森村誠一作品を未読の人は、この短編集から始めてみてはいかがでしょうか。

自分が人間であることを、どうやって証明しますか?

『人間の証明』は、森村誠一の代表作である長編推理小説です。「棟居刑事」シリーズの主人公である棟居弘一郎が初登場した作品でもあります。本作を原作としたテレビドラマ、映画も制作されており、角川小説賞受賞に輝いた森村誠一の傑作です。
 

著者
森村 誠一
出版日
2004-05-15

ある黒人男性・ジョニーの殺人事件からストーリーが始まります。何の目的でアメリカから日本へやってきたのか……、ジョニーを殺害したのは誰なのか、事件の真相はやがて衝撃の事実へと繋がっていきます。

執筆からかなりの年数が経過していますが、色あせることなく読むことのできる森村誠一の傑作推理小説の1つです。日本とアメリカを舞台にした、壮大なスケールの本格ミステリですが、登場人物たちの心の奥底にある闇や人間としての本性、バックボーンが浮き彫りにされていくにつれて、事件の真相も明らかになっていく様が圧倒的な筆力で描かれています。

過去のある事件をきっかけに人間を信用しなくなった棟居刑事のキャラクターも、物語を語るにおいては外せない要素の1つとなっています。人間を恨んでいるからこそ、犯人逮捕への執念や犯人への憎しみは人一倍強い棟居刑事が、わずかな手がかりから犯人に近づいていく緊迫したシーンも見どころです。

横溝正史をして「これはひとつの雄大な交響楽的な小説なのだ」と言わしめた物語は、一読の価値ありですよ。

森村誠一が描く新選組

新選組の中心人物である近藤勇、土方歳三、沖田総司の幼少期から始まり、新選組の興亡が描かれています。

森村誠一の『新選組』の特徴は美談では終わらないというところです。誰かを美化するということはなく、新選組の行動などについても客観的に書かれています。新選組について書かれている本はたくさんありますが、ここまで客観的に新選組を描いている本は他にありません。

また、新選組に関するエピソードを丁寧に描きながら、幕末の動乱を駆け抜けた新選組の人間関係やそれを取り巻く人たちの心情が巧みに描かれています。それと同時に新選組の周りがどのように動いていたのかということも描かれているので、時代の動きも同時に知ることが出来るようになっているのがこの作品の特徴です。

著者
森村 誠一
出版日
2003-10-01

上巻と下巻に分かれており、上巻は武田観柳斎の暗殺まで、下巻は函館戦争までの話が描かれています。

戦いの描写はリアリティがあり、中には生々しすぎて少し引いてしまうような表現もあります。そのような表現が苦手な方にはあまりおすすめすることはできません。しかし、文章は難しすぎるということはなく、幕末の出来事や新選組について客観的な状況を知りたいと考えている人には読みやすい作品になっています。

本格的な謎解きはもちろん、人間の心模様や本質をえぐるように描き出すのが森村誠一の小説の特長です。今回おすすめした5作のほかにも、膨大な数の著書がありますのできっとお気に入りの1冊が見つかるはずですよ。

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